2012.05.30
記念式典には多くのとびラー候補生(以下:とびコーさん)も参加し、寄贈のセレモニーが終わると屏風をじっくりと鑑賞しました。ガラスケースなどに入れることなく、これほど間近で鑑賞できるのは、複製品ならではの利点。本物の作品は劣化を防ぐ為に環境の良いところで保存しつつも、その作品のもつ魅力をよりリアルに体感できるのがこの高精細複製品の素晴らしさであり、「綴プロジェクト」(文化財未来継承プロジェクト)のコンセプトとのこと。弱視の方が至近距離で鑑賞したり、日常の生活空間で屏風の光を体験したりも出来ます。今後、寄贈頂いた2双の屏風をどの様に活かして行くのか、とびコーさんも真剣に考えを巡らしながら鑑賞していた様子でした。
会場内では、寄贈作品の展示に加え、高精細複製品をつくる技術についての展示も行われていました。キヤノンのカメラとプリンターを使いながら、高画質の撮影と、被写体と全く同じ色でプリントアウトを行うカラー出力の技術の実演を見学させて頂きました。プリントアウトに使われる紙は、屏風に使われている和紙の印象を保ちながらも、インクジェットプリンターの色彩表現を引き出せる様に研究されたもの。徹底したこだわりが伺えます。
続いて、プリントアウトされた絵に本物の金箔を打つ実演も行われました。真新しい金箔を、経年変化で古びた風合いにみせるなど、熟練した匠だからそこの技が屏風の複製に活かされていました。まさに、最先端の技術と代々伝受け継がれた匠の技のコラボレーションの瞬間でした。
2012.05.27
鑑賞のコツがつかめたら、とびコーさんと参加者のみなさんが3人1組ほどの小グループにわかれて、お気に入りの絵を探します。「公募展ベストセレクション美術 2012」は数ある公募団体のなかでも特に精力的に活動をしている27団体を取り上げ、かつ各団体の中で推薦を受けた作家のみが展示をしている、いわば公募団体オールスターズの展覧会。日本画、油画、水彩、工芸、彫刻と多彩な表現が展示室内にあふれています。
とびコーさんといろいろ相談をしながら、お気に入りの絵を2点決めてじっくりと鑑賞します。とびコーさんも楽しそうです。
お気に入りの絵がみつかったら、アートスタディルームに集まって、作品カードでお気に入りの絵を発表します。いろいろな絵がテーブルの上に並びました。
発表のあとは、各自お気に入りの絵の中にある色を絵の具を混ぜてつくります。その絵の中にある印象的な色に近づけるように、丁寧に色を混ぜ合わせます。1点の絵から5色の色をつくります。出来た色は1色ずつ帯状の紙に丁寧に塗ってゆきます。
いよいよ出来た色のピースを使って色見本帳をつくります。スケッチブックにお気に入りの絵を貼り、その隣に、お気に入りの絵をもとにつくった色のピースを貼ってゆきます。絵から取り出された色たちが再構成されて、また違った味わいが出ています。手を動かしながら色を考えたり、色の配置を並べ替えながら、隣り合った色と色の影響を体験したりすることで、よりお気に入りの絵を深く感じることができたのではないでしょうか。
みなさんそれぞれの色見本帳ができました。色見本帳もさることながら、あまった色のピースが入ったバットの中もなかなか奇麗です。
そこで最後は、あまった色のピースをお互いで交換し合いました。交換した色のピースはお土産としてお持ち帰り頂きました。たくさんの人がお気に入りの絵の中から取り出した色のかけらを拾い集めて、スケッチブックの上でまたちがった絵ができたら素敵ですね。今回の絵の具は、ターナー色彩(株)さまからご提供いただきました。ありがとうございました!(伊藤)
2012.05.26
前回の「とびラーのコミュニケーションデザインを考える」で、浮上した「とびら楽団」がついに活動を開始しました。呼びかけに答えてくれた方々は何と20名。すごい!サックスにコントラバス、ウクレレまでいます。第4回基礎講座のあと、初練習となりました。天気もよかったので、目の前の上野公園で演奏してきました。初見でみなさん演奏できるのが凄いと思いました。NHKみんなのうた「メトロポリタン美術館」が当面の課題曲です(笑)。何せ、都美は東京メトロポリンタンミュージアムですので。練習中に、犬を散歩していたお婆さんから声をかけられたり、考えてみれば、とびラー初の地域活動でした。アートコミュニケータに音楽は必要ですね。とびら楽団は、曲を演奏する人たちだけでなく、とびらプロジェクトに関わる皆さん全ての心を音楽で動かして行けるような、そんな楽団になればと願っております。さらに、こうしたエネルギーが美術館と地域や社会をつなぐ原動力になるのではと、すごく期待しています。(伊藤)
2012.05.26
第四回目の基礎講座は「学びの環境づくりを考える」。午前中の講師は、東京都美術館学芸員でアートコミュニケーション事業担当係長の稲庭彩和子さんと、損保ジャパン東郷青児美術館顧問の小口弘史さん。まずは、稲庭さんから、美術館に訪れる人々と作品をつなげることについて、学芸員になる前のご自身の体験談や、学芸員としてこれまで取り組まれてきたことなどをレクチャーして頂きました。美術館を単なる文化を学び知る場と捉えるのではなく、自らと対話する空間とすることの提案と実践を目的として、神奈川県立近代美術館で実施された「鑑賞鎌倉のたてる像たち」(中学生が絵画の鑑賞を通して思考を巡らす短編ドキュメンタリー)の映像などもご紹介頂きました。
引き続いて午前中の後半は、小口さんによるレクチャー。東郷青児美術館を中心とした新宿区での鑑賞教育の実践経験をもとに、美術館を利用した鑑賞教育を学校教育の中に取り入れる運用面での難しさ(授業時間内で学校と美術館とを往来することや学外授業の安全管理など)をご指摘頂きながらも、学校連携のプログラムについてとびらプロジェクトに期待する効果などをお話頂きました。また、東郷青児美術館で実施されていた対話による鑑賞教育の内容にも触れ、一般的な鑑賞方法と対話による環境方法との比較などを伺うことが出来ました。
午後の基礎講座の講師は稲庭さんと、同じく東京都美術館学芸員の武内厚子さん。早速、対話型鑑賞教育の実践に入りました。まずは、本物の作品をじっくり一人で鑑賞するところからスタートです。全員が展示室に移動して、気になった作品をじっくり鑑賞し、各々感想をメモしてゆきました。
対話による鑑賞方は、まず、各自がじっくり作品を鑑賞するところからはじまります。各自が感想をまとめたら、特にお気に入りの1点を選んでアートスタディルームに戻ります。
アートスタディルームに戻ってからは、稲庭さんの指示のもと、各自特に気になった作品について作品カードを使いながら、他のとびラー候補生と作品の感想を共有しました。
自分がその作品をどの様に感じたのか、みえたのかを説明することで、周囲の理解も深まり、これまでとは違った絵の見え方に気付くことができました。また、こうした時、作品の感想を話す側だけでなく、感想を聞く側の「きき方」がお互いの理解を深める上でとても大切になりますが、さすがとびラー候補生、2回目の基礎講座「きく力」の成果が随所に現れている様に感じました。
最後は武内さんによるVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)の実践。実践講座にてとびラーがマスターしなければならない対話による鑑賞方のファシリテーションです。VTSでは、作品を鑑賞する際に、美術史の知識を必要としません。その代わりに、ファシリテータが複数の鑑賞者のそれぞれ違った感想や発見をいくつも引き出しながら、作品から紡ぎだされる鑑賞者の多様な声を丁寧に整理し、重ねてゆくことによって、作品への理解を統一的なものとせずに、個々人の中で深めて行く方向へと導きます。非常にファシリテータの経験値と力量が必要となりますが、きっととびラー候補生のみなさんなら大丈夫でしょう!とびラー候補生も日々成長しています。(伊藤)
2012.05.20
2012.05.19
隔週で行われている基礎講座の間の週の金土日は、ゆるやかに刺激的な活動をつくるための研究会の日(通称とびラボ)です。5月19日(土)に行われたとびラボは学芸員の稲庭彩和子さんを中心に「綴プロジェクト」について考える会でした。「綴プロジェクト」とは、キヤノンから寄贈頂くことを予定している高精細複製品の6曲1双の屏風2双を使ったプロジェクトです。<「桜図屏風:さくらずびょうぶ」(伝俵屋宗達筆)、「群鶴図屏風:ぐんかくずびょうぶ」(尾形光琳筆)の高精細複製品>複製品といってもキヤノンの技術をつくした一品で、金箔は本物、貴重な資料です。「綴プロジェクト」では、この屏風を使ってどんなことができるか、現在とびラー候補生ともども考えを巡らせています。本物と違って、ガラスケースにいれて鑑賞する必要はなく、弱視の方により近距離で鑑賞頂くこともできます。また、展示室ではなく、例えばロウソクの明かりで屏風をみるなど、日常の生活空間の中で屏風の存在を感じる試みも可能です。「綴プロジェクト」面白くなりそうです。(伊藤)
2012.05.12
基礎講座もついに3回目。午前中の講師は学芸員の佐々木秀彦さん。「都美はコレクションではなく、コネクションで勝負する」「欧米の美術館を手本にするだけでは通用しない、日本なりの美術館の在り方を考えなければならない」など、都美の学芸員の視点ならではの、熱く、率直なお話を伺うことができました。
レクチャーの後は、美術館のバックヤードツアー。ちょうど公募展の搬入が行われており、普段は見る事の出来ない舞台裏を見学させて頂きました。
午後は日比野克彦さんによる「アートプロジェクトの記録・調査・アーカイブ」と題した講座が行われました。前半は日比野さんが現在取り組まれている「種は船」プロジェクトに関連して行われるアーカイブプロジェクト「船は種」を題材に、アートプロジェクトを記録する上で、埋没しがちな参加者個々人の体験や記憶を浮かび上がらせることの重要性についてお話頂きました。
撮影を終了した後は再度アートスタディルームに戻り、日比野さんのファシリテートのもと、とびラー候補生が各自撮影した写真から想起される言葉を紡ぎだして行きました。写真は自身の体験や記憶に向き合うきっかけであり、なおかつ自分以外の人と体験や記憶を共有する入り口にもなりました。プロジェクトを進める上では、全体の足並みをそろえて歩むことが大事です。しかし、共通の体験をしたとしても、感じ方や考え方などその受け止め方は、人それぞれ。そのそれぞれ違った多様な受け止め方を声にして、価値あるものとするからこそ、プロジェクトにさらなる広がりが生まれるのだと感じました。(伊藤)
2012.04.28
数分間、一生懸命話すAさん、うわのそらできくことに徹するBさん。すると、Aさんはどんどん話せなくなっていきます。聞いてくれていない人を前に一生懸命話をすることは、時間がこれほど長く感じるものなのかと実感します。いつも話をする側(情報を発信する側)にアドバンテージが有る様に感じていたことが、この体験を通して、実はきく側(情報をうけとめる側)の振る舞いが、話をする側に大きな影響を与えていることに気付かされます。
この体験について少人数グループで意見交換をしながら、感じたことや考えたことなどを共有しました。こうした小さなグループワークをメンバーを代えながらいくつも実践してゆきました。とびラー候補生同士、まだはじめて会話する相手も多い中での4時間に渡る基礎講座は、同期生を知るよい機会になったのではないでしょうか。コミュニケーションを深めることの出来る「きく力」はまさにアートコミュニケータにとって重要な力。相手の話をキチンと引き出し受け止め、共有して行ける関係がつくれれば、とびらプロジェクトはますますクリエイティブな場となることでしょう。(伊藤)
2012.04.22
初回基礎講座や、リニューアル開館記念式典などを無事に乗り越え、とびらプロジェクトも少しずつ波に乗ってきました。4月22日の「とびラボ」では、東京藝術大学 先端芸術表現科の博士課程に在籍している佐藤悠君に講師として来て頂き、ワークショップを通してとびラー候補生同士の交流が行われました。佐藤悠君のワークショップは、「いちまいばなし」→「いちまいはた」→「いちまいがたり」とワークショップ連鎖の3段組。3時間の長丁場でしたが、さすがはとびラー候補生たち、なかなかの仕上がりです。
この「とびラボ」とは、90名を超えるの大所帯のとびらプロジェクトでは、なかなかとびラー候補生同士がゆっくり話しあう時間がつくれません。そこで、よりとびラー候補生同士が深く知り合えるために、自由にとびラー候補生同士が使える「時間」と「場所」をつくりました。
4月〜6月までのとびラボは、基礎講座の無い週の週末(金土日)の午後に、アートスタディールームやプロジェクトルームを解放しています。いつ来ていつ帰っても自由。ふらっと来ると誰かがいて、お話するもよし、展示を一緒にみるもよし。自由なコミュニケーションの場として利用して頂き、とびラー同士のネットワークをつくっていただければと思います。アートコミュニケータなので、まずは一番身近な同期生同士のコミニュケーションからスタートです。(伊藤)
2012.04.16
東京都美術館リニューアル記念式典が執り行われました。受付には記念式典のスタッフの方々とともにとびラー候補生も並び立ち、お集り頂いたみなさまにアートコネクター(詳細は2012.04.14の記事をご参照ください)をお配りさせて頂きました。
とびラー候補生によって、お一人お一人の首にアートコネクターがかけられました。少し照れくさそうにされていた方もいましたが、みなさん快くかけてくださいました。
式典や式典後のパーティーにも、みなさんそろってアートコネクターをかけて参加を頂きました。同じものを身につけ場を共有することで生まれるコミュニケーションは、華やかさのなかにも落ち着きがあり、とても心地よい時間を演出してくれました。
パーティーでは日比野克彦氏からアートコネクターの説明と、これからのとびらプロジェクトの活動についてお話を頂きました。さらに、とびラー候補生もバケツをもって登場。中には、追加のレアもの缶バッチが4種類入っています。
とびラー候補生がレアもの缶バッチの入ったバケツを持って、みなさんのもとに配りに廻ると大盛況。缶バッチをもとにたくさんの会話が生まれました。