東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

基礎講座4回目「学びの環境づくりを考える」

2012.05.26

第四回目の基礎講座は「学びの環境づくりを考える」。午前中の講師は、東京都美術館学芸員でアートコミュニケーション事業担当係長の稲庭彩和子さんと、損保ジャパン東郷青児美術館顧問の小口弘史さん。まずは、稲庭さんから、美術館に訪れる人々と作品をつなげることについて、学芸員になる前のご自身の体験談や、学芸員としてこれまで取り組まれてきたことなどをレクチャーして頂きました。美術館を単なる文化を学び知る場と捉えるのではなく、自らと対話する空間とすることの提案と実践を目的として、神奈川県立近代美術館で実施された「鑑賞鎌倉のたてる像たち」(中学生が絵画の鑑賞を通して思考を巡らす短編ドキュメンタリー)の映像などもご紹介頂きました。

 

引き続いて午前中の後半は、小口さんによるレクチャー。東郷青児美術館を中心とした新宿区での鑑賞教育の実践経験をもとに、美術館を利用した鑑賞教育を学校教育の中に取り入れる運用面での難しさ(授業時間内で学校と美術館とを往来することや学外授業の安全管理など)をご指摘頂きながらも、学校連携のプログラムについてとびらプロジェクトに期待する効果などをお話頂きました。また、東郷青児美術館で実施されていた対話による鑑賞教育の内容にも触れ、一般的な鑑賞方法と対話による環境方法との比較などを伺うことが出来ました。

 

午後の基礎講座の講師は稲庭さんと、同じく東京都美術館学芸員の武内厚子さん。早速、対話型鑑賞教育の実践に入りました。まずは、本物の作品をじっくり一人で鑑賞するところからスタートです。全員が展示室に移動して、気になった作品をじっくり鑑賞し、各々感想をメモしてゆきました。

 

対話による鑑賞方は、まず、各自がじっくり作品を鑑賞するところからはじまります。各自が感想をまとめたら、特にお気に入りの1点を選んでアートスタディルームに戻ります。

 

アートスタディルームに戻ってからは、稲庭さんの指示のもと、各自特に気になった作品について作品カードを使いながら、他のとびラー候補生と作品の感想を共有しました。

 

自分がその作品をどの様に感じたのか、みえたのかを説明することで、周囲の理解も深まり、これまでとは違った絵の見え方に気付くことができました。また、こうした時、作品の感想を話す側だけでなく、感想を聞く側の「きき方」がお互いの理解を深める上でとても大切になりますが、さすがとびラー候補生、2回目の基礎講座「きく力」の成果が随所に現れている様に感じました。

 

最後は武内さんによるVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)の実践。実践講座にてとびラーがマスターしなければならない対話による鑑賞方のファシリテーションです。VTSでは、作品を鑑賞する際に、美術史の知識を必要としません。その代わりに、ファシリテータが複数の鑑賞者のそれぞれ違った感想や発見をいくつも引き出しながら、作品から紡ぎだされる鑑賞者の多様な声を丁寧に整理し、重ねてゆくことによって、作品への理解を統一的なものとせずに、個々人の中で深めて行く方向へと導きます。非常にファシリテータの経験値と力量が必要となりますが、きっととびラー候補生のみなさんなら大丈夫でしょう!とびラー候補生も日々成長しています。(伊藤)

とびラボ:とびラーのコミュニケーションデザインを考える

2012.05.20

5月20日(日)のとびラボは僕(伊藤達矢)の呼びかけによる「とびラーのコミュニケーションデザインを考える」でした。どうしたら、もっととびラー候補生とスタッフ含め100人以上の大所帯のコミュニケーションをスムーズにできるか、とびラー候補生にとって都美がさらに刺激的な場になるためにはどうしたら良いかを主題にミーティングを行いました。そこで、僭越ながら僕から一つ提案させて頂いたのが「とびら楽団」の設立です。きっとこれだけいれば、楽器が出来る人が必ずいるのではないかと思い、呼びかけをさせて頂きました。早速ご賛同いただき、一気に設立の運びとなりました。とびら楽団は、曲を演奏する人たちだけでなく、とびらプロジェクトに関わる皆さん全ての心を音楽で動かして行けるような、そんな楽団になればなと願っております。その他にも、メールやブログなどの情報共有の方法から、「基礎講座が終わってしまうととびラー候補生が全員でそろう場所がない。是非定期的に全員でそろう場をつくりたい」などの具体的なご意見が出た他、アートスタディルームの壁を使って、共通の話題に付せんでコメントを足して行くアナログなコミュニケーションも進めてはどうかなどたくさん意見が交わされました。基礎講座も前半戦を過ぎました。とびラー候補生にとっての基礎は知識だけでなく、横のネットワークも大事な基礎になるのです。(伊藤)

とびラボ:「綴プロジェクト」ミーティング

2012.05.19

隔週で行われている基礎講座の間の週の金土日は、ゆるやかに刺激的な活動をつくるための研究会の日(通称とびラボ)です。5月19日(土)に行われたとびラボは学芸員の稲庭彩和子さんを中心に「綴プロジェクト」について考える会でした。「綴プロジェクト」とは、キヤノンから寄贈頂くことを予定している高精細複製品の6曲1双の屏風2双を使ったプロジェクトです。<「桜図屏風:さくらずびょうぶ」(伝俵屋宗達筆)、「群鶴図屏風:ぐんかくずびょうぶ」(尾形光琳筆)の高精細複製品>複製品といってもキヤノンの技術をつくした一品で、金箔は本物、貴重な資料です。「綴プロジェクト」では、この屏風を使ってどんなことができるか、現在とびラー候補生ともども考えを巡らせています。本物と違って、ガラスケースにいれて鑑賞する必要はなく、弱視の方により近距離で鑑賞頂くこともできます。また、展示室ではなく、例えばロウソクの明かりで屏風をみるなど、日常の生活空間の中で屏風の存在を感じる試みも可能です。「綴プロジェクト」面白くなりそうです。(伊藤)

基礎講座3回目「あさっての美術館を考える」

2012.05.12

基礎講座もついに3回目。午前中の講師は学芸員の佐々木秀彦さん。「都美はコレクションではなく、コネクションで勝負する」「欧米の美術館を手本にするだけでは通用しない、日本なりの美術館の在り方を考えなければならない」など、都美の学芸員の視点ならではの、熱く、率直なお話を伺うことができました。

 

レクチャーの後は、美術館のバックヤードツアー。ちょうど公募展の搬入が行われており、普段は見る事の出来ない舞台裏を見学させて頂きました。

 

午後は日比野克彦さんによる「アートプロジェクトの記録・調査・アーカイブ」と題した講座が行われました。前半は日比野さんが現在取り組まれている「種は船」プロジェクトに関連して行われるアーカイブプロジェクト「船は種」を題材に、アートプロジェクトを記録する上で、埋没しがちな参加者個々人の体験や記憶を浮かび上がらせることの重要性についてお話頂きました。

 

後半はレクチャーを踏まえて、個人的体験や記憶を掘り起こす手法を体験するワークショップが行われました。日比野さんからの出題は「他人と同じにならない、普通の風景」を携帯カメラを使って撮影し、一枚の写真をもとに、そこから思い起こされる体験や記憶を他者との対話によって言葉にしてゆくこと。さっそく外に出て、美術館のいたるところで撮影がはじめられました。

撮影を終了した後は再度アートスタディルームに戻り、日比野さんのファシリテートのもと、とびラー候補生が各自撮影した写真から想起される言葉を紡ぎだして行きました。写真は自身の体験や記憶に向き合うきっかけであり、なおかつ自分以外の人と体験や記憶を共有する入り口にもなりました。プロジェクトを進める上では、全体の足並みをそろえて歩むことが大事です。しかし、共通の体験をしたとしても、感じ方や考え方などその受け止め方は、人それぞれ。そのそれぞれ違った多様な受け止め方を声にして、価値あるものとするからこそ、プロジェクトにさらなる広がりが生まれるのだと感じました。(伊藤)

基礎講座2回目は「きく力」

2012.04.28

2回目の基礎講座の講師は西村佳哲さん。基礎講座のタイトルは「きく力」でした。
ご用意頂いたメニューは以下。
・話を〈きかない〉とはどういうことか?
・話を〈きく〉とは? また、それによって生まれるものは?
・これからの「とびらプロジェクト」にむけて(まとめ)
まずは、とびラー候補生が2人組のグループを編成し、Aさん役、Bさん役に分かれます。

次に、西村さんからAさんBさんそれぞれがに指示が出されますが、AさんBさんともにお互いに出された指示の内容は知りません。Aさんには「最近うれしかったことを、なるべく気持ちを込めてBさんに伝えて下さい。」と指示が出ます。そしてBさんにはAさんに内緒で画面に表示されている指示が出されました。

数分間、一生懸命話すAさん、うわのそらできくことに徹するBさん。すると、Aさんはどんどん話せなくなっていきます。聞いてくれていない人を前に一生懸命話をすることは、時間がこれほど長く感じるものなのかと実感します。いつも話をする側(情報を発信する側)にアドバンテージが有る様に感じていたことが、この体験を通して、実はきく側(情報をうけとめる側)の振る舞いが、話をする側に大きな影響を与えていることに気付かされます。

この体験について少人数グループで意見交換をしながら、感じたことや考えたことなどを共有しました。こうした小さなグループワークをメンバーを代えながらいくつも実践してゆきました。とびラー候補生同士、まだはじめて会話する相手も多い中での4時間に渡る基礎講座は、同期生を知るよい機会になったのではないでしょうか。コミュニケーションを深めることの出来る「きく力」はまさにアートコミュニケータにとって重要な力。相手の話をキチンと引き出し受け止め、共有して行ける関係がつくれれば、とびらプロジェクトはますますクリエイティブな場となることでしょう。(伊藤)

佐藤悠の一枚話

2012.04.22

初回基礎講座や、リニューアル開館記念式典などを無事に乗り越え、とびらプロジェクトも少しずつ波に乗ってきました。4月22日の「とびラボ」では、東京藝術大学 先端芸術表現科の博士課程に在籍している佐藤悠君に講師として来て頂き、ワークショップを通してとびラー候補生同士の交流が行われました。佐藤悠君のワークショップは、「いちまいばなし」→「いちまいはた」→「いちまいがたり」とワークショップ連鎖の3段組。3時間の長丁場でしたが、さすがはとびラー候補生たち、なかなかの仕上がりです。

この「とびラボ」とは、90名を超えるの大所帯のとびらプロジェクトでは、なかなかとびラー候補生同士がゆっくり話しあう時間がつくれません。そこで、よりとびラー候補生同士が深く知り合えるために、自由にとびラー候補生同士が使える「時間」と「場所」をつくりました。

4月〜6月までのとびラボは、基礎講座の無い週の週末(金土日)の午後に、アートスタディールームやプロジェクトルームを解放しています。いつ来ていつ帰っても自由。ふらっと来ると誰かがいて、お話するもよし、展示を一緒にみるもよし。自由なコミュニケーションの場として利用して頂き、とびラー同士のネットワークをつくっていただければと思います。アートコミュニケータなので、まずは一番身近な同期生同士のコミニュケーションからスタートです。(伊藤)

東京都美術館リニューアル記念式典(アートコネクタ)

2012.04.16

東京都美術館リニューアル記念式典が執り行われました。受付には記念式典のスタッフの方々とともにとびラー候補生も並び立ち、お集り頂いたみなさまにアートコネクター(詳細は2012.04.14の記事をご参照ください)をお配りさせて頂きました。

とびラー候補生によって、お一人お一人の首にアートコネクターがかけられました。少し照れくさそうにされていた方もいましたが、みなさん快くかけてくださいました。

式典や式典後のパーティーにも、みなさんそろってアートコネクターをかけて参加を頂きました。同じものを身につけ場を共有することで生まれるコミュニケーションは、華やかさのなかにも落ち着きがあり、とても心地よい時間を演出してくれました。

パーティーでは日比野克彦氏からアートコネクターの説明と、これからのとびらプロジェクトの活動についてお話を頂きました。さらに、とびラー候補生もバケツをもって登場。中には、追加のレアもの缶バッチが4種類入っています。

とびラー候補生がレアもの缶バッチの入ったバケツを持って、みなさんのもとに配りに廻ると大盛況。缶バッチをもとにたくさんの会話が生まれました。

記念式典が終了してプロジェクトルームで日比野克彦氏と簡単な反省会。少しの工夫でちょっとした意識の変化が起こり、大きなコミュニケーションを生む貴重な体験ができました。
とびラーのみなさん、最初の大仕事大変お疲れさまでした。(伊藤)

基礎講座1回目が開催されました

2012.04.14

とびらプロジェクトの第1回目の基礎講座が開催されました。とびラー候補生にとっては、初の顔合わせとなりました。午前中はオリエンテーション。スタッフの自己紹介や年間スケジュールの確認などが行われました。

午後は、東京都美術館リニューアル記念式典にて行われる日比野克彦氏のプログラム「アートコネクター」の準備です。「アートコネクター」とは、新しい東京都美術館が力を入れるアート・コミュニケーション事業の理念、「アートを介したコミュニケーションの促進」にちなんだワークショップです。都美の歴史や活動にちなんだ缶バッチをアーティストの日比野克彦氏がデザインし、とびラー候補生が一丸となって缶バッチ付きのネームホルダーに仕上げます。

厳しい完成チェックをとびラー候補生同士で行い、500本のアートコネクターが無事に完成しました。
リニューアル記念式典にお集り頂く全てのみなさまにこのアートコネクターを着けて頂くことで、場に一体感が生まれ、美術館(新たな価値観が創造される現場)ならではの賑わいを醸し出し、皆様にコミュニケーションが生まれることを期待しております。(伊藤)


「とびらプロジェクト」フォーラム2012

2012.02.19

「未来を作る対話をしよう 美術館・まち・大学 ~アートコミュニケータとコミュニティーデザイン~」と題して「とびらプロジェクト」のフォーラムが開催されました。260席の会場が満席となりました。ご来場頂いたみなさま誠にありがとうございました。当初180席の会場をご用意しておりましたが、参加希望者多数のため、より多くのみなさまにご参加頂けるように、規模の大きい会場に移動し、さらに仮設の椅子を置くなどの対応をさせて頂きました。しかしながら、キャンセル待ちや定員締め切り後のお断りなど、全てのみなさまのご要望にお答えしきれませんでしたこと、深くお詫び致します。

当日は天候にも恵まれ、スタッフ一同ほっと致しました。
さい先のよいスタートを切れたことを嬉しく思っております。

美術館の持つエネルギーと人をつなぐのが「とびラー」のお仕事です。つなげ方は様々。障がい者の鑑賞ツアーのサポートや鑑賞教育の実践、アーティストと行うワークショップ。それに、これまでどこの美術館でも無かった試みや、学芸員だけではやりたくてもできなかったお仕事を実現させて行くことなど。しかし、それには特別な経験や知識が必要だと思われるかもしれません。いいえ、とびらプロジェクトが必要としているのは、少数の美術のプロフェッショナルではありません。幅広い年齢層や経験を持つ、意欲のある方々を必要としています。価値観の違う方々が集まり、共に考え、活動を行うことに、このプロジェクトの意味があります。美術館のお手伝いをするボランティアでも、何かを教えてもらえるスクールでもなく、主体的に考え、他者と共有し、働くのがこの「とびらプロジェクト」です。

写真はアーティストの日比野克彦さん。4名の講師に各々の視点で「とびらプロジェクト」についての考えや思いを語って頂きました。視点はそれぞれ、トークの内容は動画をぜひご覧下さい。

最後は全員でディスカッション。会場からの鋭い質問にも何とか答えさせて頂きました。「とびらプロジェクト」は、まだ生まれたばかりのプロジェクトで、都美と芸大の両親もそれぞれの理想はありながらも、どんな風に育つか、育てて良いか試行錯誤の最中です。これまでには無かった初めての試みなので、これから選出される「とびラー」の個性を大事にし、よく話し合いながら、プロジェクトを上手に成長させて行きたいと思います。

会場外の廊下には、フォーラム最中に参加者のみなさまに書いて頂いた、感想、質問、記憶に残ったキーワードなどを窓ガラスに張り出させて頂きました。キャンセル待ちのみなさまには、時間を縮小してではありますが「とびらプロジェクト」への参加説明会をフォーラムの後に設定させて頂きました。フォーラムに参加されたみなさまが残されていった感想、質問、キーワードは、第二部のみなさまのヒントになったのではないかと思います。
現在、とびらブロジェクトの応募が連日、都美にたくさん届いております。できるだけ多くのみなさまのご希望に添える様に努力して参りますので、みなさまのご応募お待ちしております!(伊藤)

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