東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

「半透明ー完全に透明でも完全に閉ざされてもいない領域」藝大生インタビュー2025|GAP 修士2年・Stiniguta Melanie(スティニグタ・メラニー)さん

2026.01.18

JR常磐線 取手駅からバスで15分ほどのところにある広大な東京藝術大学(以下、藝大)取手キャンパス。インタビューを行なった11月下旬は並木道の紅葉が美しく、青空の広がる穏やかな温かい日でした。大学構内で飼育されているヤギ達がのどかに草を喰むのを見ながら待っていると、藝大大学院であるGlobal Art Practice(グローバルアートプラクティス、以下GAP)の修士課程2年生のStiniguta Melanieさん(以下Melanieさん)が迎えにきてくださり、GAP生のスタジオにご案内いただきました。
(以下のインタビューは英語で行われ、取材したとびラーで翻訳・編集しました)

– まず、Melanieさんご自身についてお聞かせください。


私はブルガリア人の母とルーマニア人の父の下、オランダで生まれ、様々な文化や言語に囲まれて育ちました。オランダで通った大学もインターナショナルスクールで、クラスメートは世界中から集まっていました。それが私の作品に確実に影響を与えていますし、もちろん今、海外で生活していることも影響しています。


オランダの大学ではFine Art(ファインアート、美術系学科)を専攻として学びました。もともとは油絵を描いていましたが、大学1年の終わりにはコンセプチュアルな作品作りに転向しました。そして、大学3年生の時、交換留学で名古屋で学ぶ機会があり、それがきっかけで日本のアート分野に興味を持つようになりました。名古屋では油絵、日本画や陶芸について学んだのですが、素材や実践に重点を置いていてとても新鮮な経験でした。特に日本画では、自分で顔料を作ったり紙を漉いたりする方法も学んだのですが、芸術の背景にあるコンセプトやアイデアに重点を置いて学ぶオランダの大学では絶対にやらないことでした。


こうして私は西洋の概念的な部分と東洋の実践的な部分、両方の良さを知ることができました。そして、日本でも概念的な部分をもっと探求したいと思い始めた頃、GAPを見つけました。世界中から集まる人々と交流し、アートに対する考えや見解を共有できるこのプログラムは完璧だと思いました。実際、GAPには日本人で留学経験のある人もいれば、セーシェル、香港、中国、韓国出身の学生もいます。こうした文化的背景の違いだけでなく、ダンサーやパフォーマーもいれば、デジタル分野で活動する人やキュレーターもいるなど芸術的背景の点でも多様性が高いですし、皆さんは本当に親切で、先生方やアシスタントの方々も、とても協力的で優しいです。


ここに来るためのお金を貯めるのに本当に頑張りました。オランダの病院で3年間栄養士をし、並行して画廊で働いたり、高校生にコンセプチャル・アートを教えたり、シンクロナイズドスイミングのコーチをしたり。実際に来られるかどうかわからなかったけど、チャンスに賭けてがんばり、希望が叶いました。


ただ、朝から晩まで忙しく働いていたので、留学前に日本語を勉強する時間がありませんでした。日本にいながらも日本語が話せないことに罪悪感を抱いていましたが、同時に、言葉が通じない場所にいるのは非常に興味深い経験でもあります。言葉が通じなければ、人はコミュニケーションを取るために別の方法を見つけなければならないからです。私の作品の多くはそこからインスピレーションを得ています。

– GAPに入られてからの作品について教えてください。

日本に来てから生まれた問い ” Is it everything you wanted?(それがあなたが望むすべてですか?)” を半透明の紙に印刷して透明なフレームに挟み、藝大キャンパスの建物内の色々な場所に置きました。もともとは個人的な実験として始めたんです。この作品は実際には複数のレイヤーで構成されています。テキストの各行は重なった紙によって徐々に覆われていき、下の行にいくほど半透明性が低くなり、読み取りにくくなっています。そのため「Is it」 の部分が最もはっきりと見え、「wanted?」 に近づくにつれて不明瞭になります。これは、何かを強く望んで手を伸ばすほど、その対象がかえって遠ざかっていくように感じられる感覚を表現しています。


”半透明”という概念にもとても興味がありました。自分を共有することはできるけれど、全てをさらけ出す必要はない。完全に透明ではなく、透けて見える状態は、ある意味で自分自身を正直に表現する方法として、共感できる概念だったんです。

そして、GAPのある建物の照明がとても素敵だと気づき、そこからインスピレーションを得て、問いを挟んだフレームを、毎週違う場所に移動させました。見る場所や見る時間によって問いの持つ意味が変わったり、暗くなると文字はほとんど見えなくなるので、読めなかったりもします。

私が創作で最も重視しているのは、観る人が作品に参加する余地を残すことです。私はオランダの大学に入学した時点では油絵画家を目指していたのですが、大学1年生の時に行き詰まってしまい、絵を描けなくなってしまいました。その時、先生が「君は絵に近づきすぎている、作品と観る人の間にスペースを設けなくてはいけない」とおっしゃったんです。これが自分にとって大きな転機になりました。それ以降、私自身の経験や思考、感情を取り入れて作品を作りつつも、それを見た人がその人独自の物語を構築できる形で提示する。これを大切にしています。

あちこちにフレームを移動することを続ける中で、予想外のフィードバックをもらいました。私の作品だと気づいた人たちがご自身の考えた答えをテキストメッセージで私に送ってきてくれたんです。この作品から生まれた幸運なアクシデントでした。

私は問いを投げかけるけど、見た人は頭の中で答えるだけで、私には決してわからないものだと思っていました。それが、答えが返ってきたんです。これがすごく楽しかったので、この経験をもとに、昨年の取手藝祭(取手キャンパスで行われる学祭)では他の問いも制作してキャンパス内にあちこち配置しました。また、自分の考えや感情について匿名で回答を書けるスペースを設けました。投稿する箱はプラスチックの透明な箱で、封筒は半透明なので中身が透けて見えたりもします。たくさんの人が投函してくれました。

作業スペースに保管されている取手藝祭で展示した作品を見せてくれました

– 1月に行われる藝大の卒業・修了作品展(以下、修了展)では、どのような作品を予定しているのですか?


修了展では、体験型の展示を考えています。以前、藝大の教職員や学生の方々に私の作品を体験してもらって、直接フィードバックをもらうワークショップ形式の展示をしたのですが、それを発展させた作品を予定しています。そのワークショップをぜひ体験してみてください。


まずは、壁に貼られた12枚の写真をみてください。
次に、字幕のような英語の短文を印刷した透明のシートをお渡ししますので、書かれた言葉を読んで、選んだ写真の上に一枚ずつ重ねてください。
学内で試した時には、写真の上に短文のシートを重ねた後に、感じたことを話してもらったりしました。
次は、英語の書かれたシートを外し、同じ写真の上に、日本語で書かれた短文が印刷された透明のシートを重ねてください。同じ写真でも、英語の言葉のシートを重ねる時と日本語のシートを重ねる時では違う味わいがあると思います。

– 実際にやってみると、写真だけみるのと言葉を組み合わせるのとでは、違った見え方がしますね。

言葉が重なることで、自分の過去の記憶や感情が浮かび上がってきました。そして他の人が組み合わせた結果も味わい深いですし、英語と日本語という言葉の違いでも感じ方が違うのが面白いですね。

最後は、写真の上に、ブルガリア語やオランダ語で書いた短文を印刷した透明のシートを重ねてください。私にはわかるけれど周さんや加藤さんにはわからないという状態です。私は日本語がわからないので、お二人には私が日本語と写真の組み合わせを見ている時に感じていることと同じことを体感していただくことになります。

日本語、英語、ブルガリア語、オランダ語など、色々な言語が透明シートに印刷されている

– この作品はどのように着想したんですか?


取手藝祭の後も、文字や短文などのテキストや言語を使った作品を創作したいと思っていました。担当の先生が「日本にいるんだから日本語でやってみたら?」と提案してくれたんです。最初は乗り気ではありませんでした。最初の作品で使った問いは、私自身の正直な感情から生まれたものだったので、英語で書くのが自然だったからです。


でも、先生の提案を受け、日本語で作品を作ったらどうなるか、どんな結果になるだろうかと考え始めました。広告や看板など、道を歩けば私の周りには、様々な日本語が溢れているけれど、私には理解できない。だから、私が見るのとそれを見て理解できる日本の人とは違った経験をしているわけです。それを作品に取り込むことにしました。また、画像を見て感じることに文字や短文などのテキストがどう影響するかを知りたかったんです。こうしてこの作品が生まれました。

先程述べたようにワークショップを実施したのですが、 ワークショップ体験者の反応そのものがとても良く、強い印象を残すものであり、 そして、美術館では来館者が積極的に関わったり触ってもいい作品の展示はとても珍しいので、 そういう場所で来館者がこの作品にどう関わるのかを知りたくなりました。

修了展では、私自身が常に作品のそばにいて来場者と対話することができないため、 基本的な形式はそのままに「説明用の動画」を用意するなどの小さな工夫を加え、説明がなくても来場者が自分自身で作品を体験できる形へと発展させることにしました。

– 使用される写真やテキストはどのように選んでいるんですか。


写真は、この作品のために撮ったものではなく、自分のスマホの写真アルバムから選んだものです。日本、オランダ、ブルガリアなどいろんな場所で撮ったもので、私が見た世界のスナップショットです。使用したテキストの多くは、友達から送られてきたメッセージや友達との会話そのものです。私の日常のあらゆる要素をすくいとって作った作品は、自分自身を深く投影した極めて個人的なものです。一方で、観る人が、写真の上に短文の書かれたシートを選んで重ね合わせ、味わうことで、その人の中にある心象風景が浮かび上がる。つまり、作品としては誰でも参加できる非常にオープンなものです。

Melanieさんのアトリエでの展示風景

– キャンパス外での日本での日常的な生活はどうですか?


GAPに入学してからずっと亀有に住んでいますが、ここに住んで本当に良かったと思っています。ちょっと郊外で、静かだし、いろんな年齢層の人を見かけます。それが本当に楽しいんです。


日本人であろうとなかろうと、素晴らしい友人や人々がいて、小さなアパートに住み、行きつけのお店もあり、日本語で人と話せなくても、日常はとても平和で居心地がいいのです。そして、理解や繋がりが変に欠けているという感覚と、非常に多くの繋がりや理解があるという感覚が混ざり合っていて、私の作品と似ています。言葉は時に強すぎる力を持つから、言語を超えた繋がりがあるのは素晴らしいことだと思います。日常は常に創作の源です。日本に来て環境も経験も変わったので、私の作品では言語の要素がより顕著になりました。

– Melanieさんはコミュニケーションに関心があるように感じましたが、オランダにいる時からそうだったんですか?


そうですね。オランダにいる時は、言葉を話すことには困りませんでしたので、人とのコミュニケーションでは、その人がどれほど正直で、率直で、オープンで、他の人と共有しようとしているかに焦点を当てていました。


それが「半透明」というコンセプトの起源です。私はオープンであることや他の人と共有することが好きですが、時にそれは無防備で怖いことでもあります。だから、私はあらゆる状況で自分自身を守るために半透明な中間領域を創り出そうとしているんです。完全に透明である必要もなければ、完全に閉ざされる必要もない。その間の微妙なバランスを探しています。


そして、日本に来てからは、言葉の意味よりもむしろ言語そのものへと焦点が移りました。最初に名古屋に来た時、自分の言葉が理解されない場所、あるいは他人の言葉を理解できない場所に居ることが奇妙だけれど、むしろ楽しいと気づいたんです。

– すべてが繋がっているように聞こえますね。


ええ、まさにその通りです。私にとっては、ただ自分の人生を生きているだけですから。


私の作品は、まず頭の中に浮かんだ言葉や文章から始まることが多く、最後にビジュアルが浮かび上がるんです。こういう自然に湧き上がる創作プロセスを大事にしています。学校という環境では難しいこともあるけれど、無理にテーマや作品に落とし込むのではなく、頭の中で考えたり、体験に多くの時間を費やして、それが一気に溢れ出るから、私は大抵、土壇場で作業するんです。

– ここから修了展に向けての準備は大変ですか?


言葉や写真選びもここから最終的なものに仕上げて行きますし、展示で使う備品も手作りします。最終試験も近々あるのでやることがたくさんです。通常の美術展は、作品を見るだけですが、今回は来館者に直接体験をしてもらえるのをとても楽しみにしています。ぜひ会場にいらしてくださいね。

インタビューを終えて

Melanieさんにとって、コミュニケーションが重要なキーワードであり、ご本人の中の正解を表現するというよりも、参加者との間に生まれる偶然性をアートとして表現していらっしゃるようです。そして、言葉が通じないという一見ネガティブに見える経験すらも楽しみ、創作活動の起点にするという話も大変興味深かったです。最終的な作品を体験するのが楽しみです。

取材/翻訳/執筆 周思敏、加藤めぐみ(アートコミュニケータ「とびラー」)
写真/校正 西見涼香

周思敏:14期とびラー、中国出身、日本在住13年目。言語とコミュニケーションに強い関心を持っているので、Melanieさんの作品に共感しました。


加藤めぐみ:14期とびラー、プロジェクトマネジメントが大好きな会社員。アートを媒介として人同士が関係性を深めたり、コミュニティが形成されることに関心を持ちとびラーに参加しています。

「身近なランドマークを描きたい」藝大生インタビュー2025|日本画専攻 学部4年・竹石楓さん

2026.01.17

11月下旬の晴れた朝、金色に輝く銀杏の木々を眺めつつ上野公園を抜けて、東京藝術大学(以下、藝大)上野キャンパスを訪れた。絵画棟に入るとドアの前に靴が並んだアトリエが続いている。私たちも靴を脱いでアトリエに入ると、大人の背丈ほどもある大きな作品の前で、竹石さんがにこやかに出迎えてくれた。

 

1. 卒業制作のこと

– 卒業制作はどんな作品ですか。

私が暮らしている池袋の情景を描いた作品です。6年前に上京してから2年間池袋の予備校に通っていて、現在も池袋の近くに住んでいます。卒業制作は身近な題材を選びたいと思って通学路で探していたときに、この案内掲示板と信号と街灯と電柱を兼ね備えた、住んでいる街の身近にある構造物を見つけました。これは形も面白いし、かといって池袋の象徴というわけでもなく、ただ機能としてそこにある佇まいもいいなと思って、作品主題として選びました。作品サイズは150号です。


150号(たて約180cm×よこ約220cm)の大作

– とても大きな作品ですね!制作プロセスを教えてください。

4年生の夏頃から題材を探し始めて、見つけた題材の写真を撮りためておき、「小下図」を描きながら絵の構想を練りました。「小下図」では、風景を色んな角度から描いたり、主題とする構造物をアップで描いたりして、画面の中の構図を考えます。構図を決める時はスケッチした建物や人物をバランスを考えながら配置していって、風景を再構築します。同時に、画面の配色も決めていきます。この作品では、空の色を私の好きな青緑にすると最初に決めて、そこからどんな色彩の絵にしていくかを考えました。


小下図


スケッチや写真

「小下図」で構想を固めたら、作品と同じ大きさの紙に正確に形を描き込んでいく「大下図」を描きます。それが終わったら、「大下図」を本番の和紙に転写します。木製パネルにまず脂止めのための薄手の和紙を貼って土台とし、その上に厚手の和紙を貼り、カーボン紙を挟んでさらに「大下図」を重ね、正確になぞります。この「大下図」を写し取った和紙に着色して、本番の完成作品「本画」にしていきます。この作品では、画面全体にグレーの下地を塗ってから「大下図」を転写しました。


作品の裏に貼ってあるのが「大下図」

色を入れ始めたのは11月頃で、それから1ヶ月経った現在はまだ30%くらいの完成度です。このあとは、主題である街灯をくっきり浮かび上がらせるために、背景の建物に薄いベージュ色をかけて潰します。「潰す」とはいったん描いた部分に上塗りすることです。このように「描く」→「潰す」を繰り返して色を重ねて描くのが、現代日本画のベーシックな技法です。


色を重ねて「潰す」

完成形は、空の部分の青緑色を主軸とする色合いの絵になる予定です。青緑色を主軸に選んだのは、私の好きな色であり、青緑の空が現実とも非現実とも感じられるところが面白いからです。卒業制作の提出締切が1月初めなので、構想から半年、色を入れ始めてから約3か月かけて仕上げていきます。


完成イメージの「青緑色の空」

– どんな材料や技法で描いているのですか。

これが、私が使っている日本画の絵の具、皿、筆です。


絵の具は、色材と水と膠(にかわ)が混ざった状態になっています。膠を水でふやかして電熱器で温めて溶かし、粉末状の色材と水を混ぜて絵の具を作ります。色材は石や土やガラスなどからできており、自然素材もあれば人工的に造られた素材もあります。粒子の大きさも粗いものから細かいものまであります。細かい粒子の絵の具で滑らかな質感を出すこともできますし、粗い粒子の絵の具でざらざらした質感を出すこともできます。また水や膠の量を調節することで、薄めた絵の具、とろっとした濃い絵の具など、自分の欲しい絵の具を作ることができます。

色材と水と膠を混ぜる

画面に色を載せる方法には、皿で絵の具を混ぜる、画面上で絵の具を混ぜる、絵の具を何層も塗り重ねる、水やお湯をつけた刷毛で上層の絵の具を剥がして下地の色を見せる、など多様なやり方があります。絵を描く道具も、柔らかい筆、硬い筆、刷毛、たわしなど様々なものを使います。例えば、私は油絵用の硬い豚毛筆を使って画面から絵の具を剥がしたりもします。

絵の具を塗ってから乾かして色を固着させるのに2〜3日かかるので、画面に色を重ねていくのは時間がかかります。絵の具を塗った上から薄めた膠を塗って表面を固めることで、絵の具を固着させる方法もあります。

このように、絵の具、膠、筆の組み合わせによって多様な技法を駆使して描くのが、現代日本画の特徴です。

– 竹石さんの作品は平面なのに奥行きを感じますね。

日本画は、どう奥行きを作っていくか?を常に意識しています。もともと日本の美術では白い背景に黒い墨の線で描いていたので、白背景に奥行きを出すために「近くのものを濃く描いて、遠くのものを薄く描いて白い背景に溶け込ませる」、「近くのものを太い線で描き、遠くのものを細い線で描く」といった遠近感の出し方が編み出されました。現代は絵の具の色数が増え、白背景ではない絵も描けるようになりましたが、こうした技法は今も受け継がれています。この作品も、特に意識したわけではありませんが、伝統的な奥行きの作り方を用いています。

– 制作していて楽しいところ、苦労したところは。

作品のアイデア出しが楽しいです。自分がワクワクできるアイデアで描き始めたいので、完成したら絶対良い作品になると確信できるものを描くようにしています。頭の中にあるイメージを自分で描き上げなければいけないところは苦しくもあるけれど、自分のイメージに近づいていく過程は楽しいです。

実際に作品を描いていく中で、下図で決めた色を思い通りに表現できないなど、最初の構想どおりにいかないこともあります。もしかしたら、この作品も完成形は違う色になっているかもしれません。

– 竹石さんが作品づくりで大切にしていることは何でしょう。

私は、自分がよいと感じたものを、自分が好きな色で、自分がワクワクするように描くこと、そして、私の絵を見た人が、作品を媒体として、描いた主題とつながるような絵を描くことを大切にしています。

 

卒業制作は、私の好きな身近な風景を好きな色で描いて、見る人が「あっ!ここ通ったことある。こんなふうに絵にするのか」と、絵を通して風景とのつながりを感じる作品にしたいです。

– この作品を鑑賞する人に、どんなところを見てもらいたいですか。

まずは、見た人が「池袋だな」と気づいてほしい、そして描いた風景を思い起こしてほしいです。それから、この色いいなと私の作家性にも共感してもらえたら嬉しいです。

2. 美術の道へ進んだきっかけ

– どんな子ども時代でしたか。

私は新潟で生まれ育ち、子どもの頃はイラストやアニメを描くのが好きでした。母が美術好きで、家には母の好きな山口晃さんや会田誠さんなどの画集があり、子どもの頃からアートに触れる機会はあったと思います。

– 美術の道へ進んだきっかけは。

中学生の時にモネの展覧会を見に行って、モネの絵は「近くで見ると何だか分からないけれど遠くから見ると分かる」ところが面白い!と思いました。それまで好きだったイラストは描き方に型があると思っていたけれど、絵画ならば自分が感じたことをもっと自由に表現できると感じました。モネの絵を見て、自分の思いや感じたことを直球で表現できる絵画をやろうと思ったのが、美術の道に進んだきっかけです。


高校では美術部に入って油絵を描いていて、藝大の油絵科に進学した先輩から話を聞いて私も藝大に行きたい!と思い、藝大を目指すことにしました。

– なぜ日本画を選んだのですか。

高校生の時にファインアートをやると決めて、油絵か日本画か迷った末、やったことがないし面白そう!と思って日本画を選びました。藝大の日本画専攻の入試はデッサンと水彩画で、私は水彩画をリアルに描くことが得意だったので、日本画の経験がなくても目指すことができました。

3. 東京藝術大学の学生生活

– 日本画専攻について教えてください。

日本画専攻は、1学年に25人の学生がいて、各学年に2人の指導教授がいます。1年生から3年生前半までは、人物、風景、建造物などの指定課題を描きます。3年生後半からは自由課題となり、自分が描きたいものを自由に選んで描きます。

– 竹石さんの最近の1日はどんな感じですか。

毎日、10時頃にアトリエに来ます。早く来た人がお湯の準備をして、膠を溶かして、パネルを寝かせて描き始め、17時から20時頃まで描き続けて、最後に火の元を消して帰ります。

描く時は、絵の具が垂れてしまうのでパネルを平置きします。見え方を確認するときは立てる必要があるので、寝かせて描いて、立てて確認し、また寝かせて描くという繰り返しです。卒業制作は大きな作品なので、アトリエの仲間と協力してパネルを動かしながら制作しています。

– 4年間を振り返ってみていかがですか。

現代日本画は、主題や技法の自由度が高く、日本画の絵の具で描けば何を描いても日本画とみなされます。こうした、画材に依拠して日本画が定義される現状に対して、私はこの4年間「日本画って何だろう?」という問いにずっと向き合ってきました。

藝大の日本画では、材料や技法の研究が重視されており、指導では「どう描くか」が中心です。高校から大学入学当初の私は「何を、なぜ描くのか」へのこだわりが強く、なかなか筆が進まなかったのですが、日本画を学ぶうちに「どう描くか」も大切なのだと気づいて、それからは絵を描きやすくなりました。「どう描くか」の大切さに気づけたことは、藝大で得た大きな学びです。

現代はアートのコンセプトが大事だと言われますが、その時代にあって「どう描くか」にこだわり続けているのが日本画というジャンルです。「どう描くか」を追求することが作家性につながり評価されるのは、現代における日本画の価値だと思います。

4. 今後の展望

– 卒業後の進路は。


大学院に進学して日本画の制作と理論研究の両方をやっていくつもりです。「日本画とは何か?」という問題意識から、大学院では、現代社会における日本画のあり方を探究したいです。例えば、戦時中は、横山大観が富士山を描いて戦意高揚を図るなど、戦争画として日本画が描かれた歴史があります。私はこうした日本画の社会的文脈を研究し、現代の日本画の立ち位置とは何か?を明らかにしたいです。並行して、作品の制作も続けます。

– これから作りたい作品や将来の夢を聞かせてください。

公共空間に置かれる作品を作りたいです。私の作品を中心に地域のコミュニティができるような、身近なランドマークのような作品を作りたいです。

私は、みんなが見て共有している形やイメージに関心があって、日本といえば富士山のようにランドマークとなるイメージに面白さを感じます。だから、夢としては、池袋を描いたこの卒業制作が、豊島区役所に飾られたら嬉しいです。区役所を訪れる人がこの絵を見て「西口のあそこだね」と会話するなど、私の作品が地域の人々に共有されるランドマークのようなものになったらいいな、と思います。

また、私は美術教育に関心があって、教員免許と学芸員資格を取得する予定なので、将来は学校の美術教育や美術館の教育普及などに携わりたいと考えています。


5. インタビューを終えて

竹石さんの「何を、なぜ、どう描くのか」を大切にする思いと「日本画とは何か?」を問い続ける真摯な姿勢に心を打たれた。身近なランドマークとなる作品を描きたいと語る竹石さんの卒業制作が、これからどう進化するのか、卒業・修了作品展で完成した作品と出会うのがとても楽しみだ。


取材:木原裕子、前田浩一、矢吹美樹(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆:木原裕子
写真:神道朝子(とびらプロジェクト アシスタント)

2025建築実践講⑥|第6回建築実践講座|建築を鑑賞する -見る・考える・繋がる-

2025.12.24


第6回建築実践講座|建築を鑑賞する -見る・考える・繋がる-

日時|2025年12月6日(土) 14:00〜16:00
会場|東京都美術館 講堂
講師|頴原澄子(千葉大学大学院 教授)


「建築を鑑賞する」をテーマに第6回 建築実践講座を行いました。
身近な建物を見て、その魅力や背景を知り、大切に保存していくことについて、頴原澄子さんにお話を伺いました。

 

建築家の思いや建物の価値を伝えるために作られたガイドブックや、年齢を問わず楽しめる工夫などが紹介されました。
さらに、実際に建物を守るための活動の話もあり、建物を「残す」だけでなく、「知ってもらい、感じてもらう」ことの大切さを実感しました。

 

 

普段は何気なく見ている建物も、少し立ち止まって観察してみることで、新しい発見や愛着が生まれると気がつくことができた講座でした。

 

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)

 

【とびラボ活動報告】ゴッホをめぐるボウケンラボ

2025.12.21

 

東京都美術館では2025年9月12日(金)~12月21日(日)に特別展「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(以下、ゴッホ展)が開催されました。これにあわせて、とびラボ活動「ゴッホをめぐるボウケン」を行いました。活動はゴッホ展閉幕までの間、全5回行いました。

 

  • ゴッホをめぐるボウケンとは?

実は、ゴッホ展の前の特別展「ミロ展」から「ボウケンラボ」は誕生しました。東京都美術館でさまざまな特別展が行われる中、その作家や背景についてもっと知りたいと思いながらも、ひとりでは調べきれないまま展覧会が終わってしまうことを残念に感じていました。

そこで立ち上げたのがこのラボ「〇〇をめぐるボウケン」です。 とびラー同士、自分自身の興味関心を自由に調べ、シェアし合い、それぞれの興味関心の冒険が拡がる、そんなラボを目指しました。

 


第1回目のラボ参加とびラー

・・

 

  • ラボの進め方

 1.今日の興味関心を付箋へ書き出し&分類

まず、ゴッホ展をめぐる「今日の興味関心」を数分間で各自付箋に書き出し、書いた内容についてひとりずつ付箋を出しながらシェアします。「あ、それ、私も同じことを書きました!」と声が上がることも。似た内容の付箋をまとめながらシェアしていきます。


付箋を分類してみます

この日は「ゴッホの作品」「ゴッホの人間関係」「ゴッホという人」に分類できる付箋が出てきました。


ゴッホの作品についての付箋


ゴッホの人間関係についての付箋


ゴッホという人についての付箋

 

2.各自30分の調査タイム

ここからは、30分の時間で各自気になることを調査してまとめます。Webで検索するもよし、図録や関連書籍を読むもよし、各々のスタイルで調査&まとめを行います。特別展に関する書籍が多数ある美術情報室に行って調べるメンバーもいます。調べている間は、皆無言で黙々と調査します。

 


それぞれ調べながらアウトプットしていきます

 

3.シェアタイム

30分の各自調査タイムの後は、シェアタイムです。順番に調査内容をシェアします。とびラー同士も感想を伝え、気づいたこともシェアしてコミュニケーションしながら進めます。 他のとびラーが調べたことを聞いていると、自分では思いもつかなかったテーマや視点の調査内容やまとめ方に「へぇ~。」「そうだったんだ~。」「なるほど~。」と新たな気づきがあり、「ということは、これはどうだったんだろう?」などと、さらにまた興味関心が芋づる式に掘り起こされてきます。まさに「ゴッホをめぐる知的好奇心を深めてゆくボウケン」が繰り広げられていきます。


ある日のそれぞれの調査内容


ゴッホの家族を調べる


ゴッホのひまわりを探せ!

 

このように、①今日の興味関心を付箋に出す ②各自30分の調査 ③調査内容をシェア という流れで進めるこのとびラボは、ゴッホ展の開催期間中に複数回行われており、何度も参加するとびラーもいれば単発で参加するとびラーもいます。一度だけの参加でも全く問題なく気軽に「ボウケン」できるのも魅力の一つです。

 

 

 

 

  • 振り返り

全5回のボウケンをした今回の「ゴッホをめぐるボウケン」。ゴッホ展閉幕の12月21日に最後の「ボウケン」と解散会を行い、ラボ全体の振り返りを行いました。

メンバーからは、「それぞれの気になるテーマを共有できたのがよかった」「自分では気づけなかったトピックに出会えた」「調査テーマが決められていない自由さが心地よかった」といった声が上がりました。時間制限を設けた30分の調査タイムも、集中して取り組める心地よい緊張感が生まれ、短時間でも多くの発見につながり、共有にちょうどよい分量で進められたのが好評でした。また、宿題のように持ち帰るのではなく“その場で調べる”スタイルは、負担感がなく気軽に参加できるうえ、とびラー同士のリアルな会話の中で興味が広がり、その日の関心をすぐに深掘りできる点が魅力でした。「すご〜く楽しかった!」という声も多数あり、生き生きとした知的交流の喜びがその言葉に現れていました。

 

このラボを行って、とびラーの様々な視点でのゴッホ展をめぐるあれこれを今までよりも少し理解することができた気がします。ゴッホについては炎の画家、狂気の画家という表現も聞きますが、そうではないゴッホや、家族や交友関係の中の姿を知ることができ、ゴッホを以前よりも身近に感じることができました。

同時に、絵画への真摯な探究心や学び続ける姿勢にも触れ、あらためて多くの作品を残したゴッホと、その歩みを支えた家族に感謝の思いを抱きました。ゴッホ展というきっかけから生まれた「ボウケン」は、これからもいろいろな展覧会をめぐって続いていくかもしれません。次の「ボウケン」も楽しみです。

 


執筆者:寺岡久美子(13期とびラー)

情報通信系の企業で働いています。企業内ボランティア活動として、カウンセリングやメンター、社内認定講師も担当しています。とびラーになってから、アートが自分自身にぐっと身近に感じられるようになり、忙しい人たちにもアートに触れられる機会をつくりたいと思うようになりました。これからは「企業×アート」でできることを考えてみたいと思っています。好きな村上春樹さんの小説『羊をめぐる冒険』からラボ名を拝借しました。

2025鑑賞実践講座⑦|作品えらび・作品のシークエンス

2025.12.16

 

 


 

第7回 鑑賞実践講座|作品えらび・作品のシークエンス

日時|12月16日(火)10:00〜15:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA))

 


 


12月16日(火)、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオにて、第7回鑑賞実践講座「作品えらび・作品のシークエンス」を開催しました。講師は三ツ木紀英さん(NPO法人 芸術資源開発機構)です。

 

これまでの鑑賞実践講座では、VTSの考え方やファシリテーションの基礎、展示室での場づくり、事前準備、そして実践をふりかえる方法について学んできました。第7回は、それらをふまえたうえで、鑑賞プログラムの質を大きく左右する「作品えらび」と「作品のシークエンス」について考える回として位置づけられました。

 

とびラーがファシリテータとして関わる鑑賞プログラムでは、プログラム参加者と鑑賞する作品をとびラーが自由に作品を選べる場面ばかりではありません。展示室内での人数の偏りを防ぐため、プログラム担当者からあらかじめ2作品程度のシークエンスが指定されることが多くあります。とびラーには、その与えられた作品の組み合わせをどのように読み解き、対象となる鑑賞者にとって意味のある鑑賞体験として立ち上がらせていくかが、ファシリテーションの技量として求められます。

 

 

講座の前半では、三ツ木さんから、美的発達段階の考え方と、それを作品理解や鑑賞プログラムの設計にどう生かすかについてレクチャーがありました。鑑賞者は年齢や経験、背景によって、作品のどこに注目し、どのような言葉を紡ぎやすいかが異なります。作品えらびとは、「良い作品」を選ぶことではなく、鑑賞者の状態や文脈に応じて、どのような出会いをつくるかを考える行為であることが共有されました。

 

 

続いて、2作品のシークエンスを題材にしたワークに取り組みました。とびラーは、指定された2作品について、それぞれの特徴だけでなく、「なぜこの順番なのか」「この組み合わせによって、どのような見方の変化や思考の広がりが生まれうるのか」を読み解いていきます。作品単体ではなく、作品と作品のあいだに生まれる関係性に目を向けることで、展覧会全体の表す鑑賞のストーリーをも構想する視点を養いました。

 

ワークの中では、対象者を具体的に想定することで、どのような問いから対話を始めるのが有効かについても考えることができました。作品のシークエンスを読み解くことは、鑑賞者の背景や美的発達段階を想像し、鑑賞の場全体をデザインすることにつながっていきます。

 

 

後半では、鑑賞者を迎えるファシリテータとして、与えられたシークエンスの中で自分がどのように場をひらいていくかを具体的に考えました。第4回・第5回で学んだ展示室での場づくりや事前準備、第6回で共有したふりかえりの視点とも結びつけながら、実践につながるイメージを膨らませていきました。

 

 

第7回は、「作品を選ぶこと」また、「与えられた作品やシークエンスをどう読み解き、鑑賞の場として立ち上げるか」を考える回となりました。とびラー1人1人が、作品と鑑賞者、そして場の関係をつなぎ直しながら、鑑賞体験をデザインしていくための重要なステップとなりました。

 

次回はいよいよ1年間の学びをふりかえる回となります。これまで積み重ねてきた講座・実践・ふりかえりをあらためて見つめ直し、とびラーとしてのこれからの鑑賞のあり方を考えていきます。

 

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)

【とびラボ活動報告】『とびラーとあそんだり、みたり』

2025.12.04

とびラー12期・柴田麻記です。私は社会人として働く時間を経て、今は高校生と小学生を育てる親として日々過ごしています。自身の役割や視点が変わる中で美術館との距離感も変化しました。また、とびラーとしての時間を送ることで物事の捉え方が広がりました。

そんな私が参加したとびラボ『とびラーとあそんだり、みたり』は、昆虫が成長するように、形態を変えながら続いてきたラボです。

 

 

 

『とびラーと〇〇(仮)』としてスタート

 

このとびラボの前身となったのは、『とびラーと◯◯(仮)』というとびラボでした。

当初は、「とびラーが“ただいる”だけで、来館者の心が少し軽くなるといいな」という思いを持ち寄ったとびラーが集まったことが始まりです。

 

そのとびラボのミーティングでは、
・東京都美術館にとびラーが存在する意味とは何か

・美術館に気兼ねなく来てもらうとはどういうことか

・とびラーができることは何か?

といった問いを、話し合いを通して考えていきました。

 

とびラボ名を「〇〇(仮)」としたことで、来館する対象を限定することなく、様々な人を想定しながら考えることができました。

 

たとえば、

・学校に足が向かない子どもを、美術館に誘ってみようかなと思ったとき、誰かいてくれるといいな

・『障害のある方のための特別鑑賞会』の日ではないけど、とびラーと一緒に触図(しょくず・作品の構図やモチーフを凹凸のある線や点で立体的に表わした図版)を触りながら作品を見られたらいいな」

といった場面で、とびラーが“ただいる”ことはできないか、という想定が挙げられました。

とびラーが常駐することは難しくても、『とびラーWeek』のような期間を設けられたらいいのでは、というアイデアも生まれました。

 

 

『とびラーとあそんだり、みたり』  へ

 

さらに話し合いを進める中で、子どもにとって親でも教師でもない「とびラー」という第三者の存在が、親子で美術館に来る際のハードルを下げるのではないか、という視点が浮かび上がりました。

親子で美術館に行くと、親は子どもを気にかけるあまり落ち着かなかったり、子どもは興味のままに動いたことで注意されてしまい、結果としてどちらも楽しめない…。

そんな経験を持つとびラー自身の問題意識も、このとびラボの背景にありました。

 

そこで、『とびラーと◯◯(仮)』を一度解散し、「あそんだり、みたり」という言葉を〇〇の部分に据えて『とびラーとあそんだり、みたり』として新たにスタートしました。

 

『とびラーとあそんだり、みたり』は、とびラーが間に立つことで場の空気が少しゆるみ、親も子もそれぞれのペースで美術館を楽しむ時間を作りたい、という思いから始まりました。

親子で美術館に来ることに敷居の高さを感じている人に、作品鑑賞だけでない美術館の楽しさを知ってもらい、「もう一度美術館へ来てみようかな」という気持ちををそっと後押しする。

その方向性が少しずつかたちづくられていきました。

 

 

既存のプログラムとの違いを考える

 

検討を進める中で、とびらプロジェクトと連動するプロジェクト「Museum Start あいうえの」のファミリープログラムや、学校プログラムと、私たちが検討しているアイデアの違いは何か、という問いも持ち上がりました。

 

子どもたちのミュージアムスタートを応援する、「Museum Start あいうえの」のプログラムで美術館デビューする子どもたちは確かに増えています。その参加者のうち、再訪している子どもや親子はどれくらいいるのだろうか。

このラボの取り組みで再訪につなげられるといいな…。

 

また、「親子で美術館に来ることの敷居の高さ」を和らげるプログラムとは、どんな内容がふさわしいのだろうか。

 

また反対に、「Museum Start あいうえの」ホームページを見て関心は持つけれど、プログラムへの参加までには至らない人たちに、どうすれば「美術館は気軽に楽しめる場所だ」というメッセージや情報を届けられるのか。

これらの問いは、現時点では明確な答えに至っておらず、ラボが問い続けている課題です。

 

美術館で「あそぶ」”とは?

 

このラボでは「あそぶ」という言葉についても時間をかけて考えました。

何をするか決める前に、そもそも「美術館であそぶ」とはどういう状態なのか。「あそぶ」「あそび」という言葉から、それぞれのとびラーが思い浮かべる感覚や経験を出し合いました。

 

一見すると掘り下げる必要がなさそうなことも、あらためて見つめ直し言葉にしていきました。そうすることで美術館で何をして、どう過ごしてほしいのかが見えてきました。

 

 

自分の気に入った野外彫刻を写真に撮る。

館内を探検する。

あるいは、ゆっくりお茶を飲んで過ごす。

 

美術館は、自分のペースで関われ、意味づけを急がず、ただそこにいられる場所。

このとびラボでいう「あそぶ」とは、そうした過ごし方の状態をひらくための言葉として、ラボに参加するとびラーの間で共有されていきました。

 

「みる」方法はひとつじゃない

 

もう一方の「みる」については、せっかく美術館に来たのだから、展示室の作品とも出会ってほしい、という思いがとびラーに共通してありました。

とびラーと一緒のときだけでなく、プログラム参加後に親子だけで、再び美術館を訪れた際にも活かせる「展示室での過ごし方」を考えたい。

そこで、とびラー自身が子どもと美術館に行く際にしてきた工夫を出し合ったり、「あいうえの」の学校プログラムやファミリープログラムを振り返ったりしました。

話し合いの中で見えてきたのは、「展示の全部を全力で見なくても、作品は楽しめる」という考え方でした。そのような時間のあり方を、私たちなりの“みかた”と位置づけました。

 

 

プログラム実施を見据えた検討と、その先へ

 

親子でのお出かけ先として、敷居が高く感じられがちな美術館。

展示を見ることに限定しない過ごし方を提示し、親子それぞれが安心して「みる」時間をもてるようにしたい。

願わくば、それが次の親子での来館につながってほしい。そんな、少し欲張りなラボとなりました。

 

話し合いの結果、学校プログラムに参加した子どもが、次は親子で美術館に再訪して楽しむという流れを想定したプログラムを企画しました。

しかし、対象者へのアプローチ方法を検討する過程で行き詰まり、今年度中にプログラムの実施には至りませんでした。

 

一般の方に参加してもらうプログラムを立案し、実施するまでには十分な時間が必要であること。特に、対象とする参加者をどう見つけ、どう案内するかの難しさを、とびラボとして実感しました。

 

また、同じような関心を持って集まりながら「あそび」ひとつ取り上げても、とびラーそれぞれの考え方や想定の違いがありました。その違いに気づき合い、実現に向けて考えられたことは、このとびラボでの収穫となりました。

 

 

もう一段階、変化したラボへ

 

プログラム実施には至りませんでしたが、スタッフも加わりながら話し合いを重ねる中で、とびラボはさらに形を変えています。

 

『とびラーとあそんだり、みたり』は解散し、現在は、『とびラーが考える美術館を楽しむためのガイドづくり(仮)』というとびラボを新しく立ち上げました。

・展示室以外の美術館の過ごし方

・作品を見るためのヒント

をまとめたガイドブックをつくるラボです。

 

 

昆虫が脱皮を繰り返しながら姿を変えるように、私たちのアイデアも、いくつものとびラボを通して成長し続けています。

 

 


 

執筆:柴田麻記(12期とびラー)

以前は、テレビ番組を制作していました。現在は、愉快な高校生と小学生と過ごす主婦。私のいちばん身近なコミュニティは家族です。とびラーで得た視点を日々の暮らしの中でこっそり試す実験中。実験範囲をじわりと広げているところです。

【開催報告】11月の「とびラーによる建築ツアー」

2025.12.01

日時  |2025年11月15日(土)
場所  |東京都美術館

参加者(事前申込)35名、とびラー16名

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

澄んだ青空が広がる秋晴れの中、2025年度 第4回目の「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。

参加者と会話をしながら、一緒に東京都美術館の魅力を共有して楽しんでいる姿が印象的でした。

この建築ツアーは、決まったコースはなく、それぞれのとびラーが考えたオリジナルのツアーです。

ガイドごとに、違ったツアーを体験することができます。
東京都美術館の魅力や新たな発見をしていただけたら嬉しいです。
……
次回の開催は1月24日(土)を予定しています。
みなさんのご参加を心より楽しみにしています。
*「とびラーによる建築ツアー」は、原則として、奇数月(5月、7月、9月、11月、1月、3月)の第3土曜日に開催しています。
詳細、お申し込みはこちらから。
(とびらプロジェクトコーディネータ 大東美穂)

2025鑑賞実践講座⑥|ファシリテーションのふりかえり

2025.11.24

 

 


 


第6回 鑑賞実践講座|ファシリテーションのふりかえり

日時|11月24日(月・休)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|越川さくら(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手、とびらプロジェクトコーディネータ)

 



鑑賞実践講座では、講座で学ぶこと、実践の場に立つこと、そしてそれを振り返ることを循環させることで、とびラーのファシリテーション力が育っていきます。

 

とびラーがファシリテータを担当する現場は多岐にわたります。東京都美術館で開催される毎回テーマの変わる特別展や企画展、東京藝術大学大学美術館の作品や展覧会でのプログラム。また、対象者も「Museum Start あいうえの」に参加する子どもたちから、「Creative Ageing ずっとび」に参加する高齢者まで、非常に幅広い層にわたっています。

 

第6回は、こうしたさまざまな現場で実践を行ってきたとびラーが、どの実践に参加していても、自分自身でふりかえりを行い、スキルアップを目指していける方法を共有する回として位置づけられました。

 

 

10月13日(月・祝)、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオを会場に、第6回鑑賞実践講座「ファシリテーションのふりかえり」を開催しました。講師は、鑑賞実践講座担当コーディネータの越川さくらです。

 

とびらプロジェクトでは、講座に参加しているすべてのとびラーが、同じ実践の場に立てるわけではありません。スペシャル・マンデーをはじめ、さまざまな鑑賞プログラムがあるなかで、とびラーはそれぞれ異なる実践の場に関わっています。だからこそ、第6回では「どの実践に出ていても使えるふりかえりの方法」を身につけることを大切にしました。

 

 

講座の冒頭では、「とびラーのファシリテーション力は、講座・実践・ふりかえりを行き来しながら育っていく」という考え方を、あらためて共有しました。特に、ふりかえりを客観的な視点で行うことが、ファシリテーション力の向上に欠かせない要素であることを、とびラーといっしょに確認しました。

 

 

 

 

客観的な視点に立って自分のファシリテーションをふりかえる具体的な方法として、「録音して、きく」という手法に取り組みました。とびラーは4人組になり、小さな作品画像を用いてVTSを行い、ファシリテータ役になった際のやり取りを録音し、実施後すぐに聞き返します。

 

 

 

 

録音を聞き返す際には、いくつかの視点を示しました。鑑賞者の言葉を丁寧に聞き、作品のどこに、どのように注目して話しているのかを捉えること。次に、ファシリテータとしての自分の言葉を聞き、鑑賞者の意図に沿って聞けていたかを確認すること。さらに、実際には行わなかった別のはたらきかけの可能性についても考えました。講座2・3年目で実践経験が多いとびラーには、対話全体の流れや、事前の作品研究との関係性まで含めて分析する視点も意識してもらいました。

 

 

その後、グループでのシェアを行い、録音を聞いて気づいたことを付箋に書き出し、共有しました。

 

 

 

第6回は、「どの実践でも、とびラー自身が成長していくためのふりかえりの方法」を共有する回となりました。録音を使って客観的にふりかえることで、自分のファシリテーションを見つめ直し、次の実践につなげていくことができます。12月のスペシャル・マンデーでは、各自がこの方法を使ってふりかえりを行い、講師やコーチによる見取りやフィードバックも予定されています。

 

講座・実践・ふりかえりを行き来しながら、とびラー、スタッフみんなで、とびラーのファシリテーション力を育てていきたいと思います。

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)

2025アクセス実践講座⑦|キッズドア「子供の貧困」とは

2025.11.03

 


日時|2025年11月2日(日)13:30〜16:30
場所|東京藝術大学 第一講義室
講師|松見幸太郎(認定NPO法⼈キッズドア、執行役員NPO法⼈キッズドア基金 代表理事)


認定NPO法人キッズドアの松見幸太郎さんをお招きして、貧困家庭にある子供の経済状況とその影響についてお話しを伺いしました。認定NPO法人キッズドアは「すべての子どもが夢と希望をもてる社会へ」と2007年に設立された団体で、貧困に苦しむ日本の子どもたちの社会へのドアを開けるべく、多くの大学生・社会人ボランティアと共に、子どもの教育支援に特化した活動を展開しています。

 

 

とびラーの実践の中には、すべての子どもたちのミュージアムデビューを応援する「Museum Start あいうえの」ダイバーシティプログラムで、これまでにも認定NPO法人キッズドアさんと連携して東京藝術大学の卒業修了制作展を鑑賞するプログラムを複数年開催してきました。学習会に参加する子供達の中には楽しみにしてくれている人もいるようです。プログラム参加者の中には美術大学への受験を考え進学する人も出てきています。今年もどんな子ども達が参加し、藝大生とのコミュニケーションが生まれるのか楽しみです。

 

講座の中では、活動の理念からはじまり、昨今の物価高騰による影響も直接受けている状況を伺いました。
食費が嵩むことで必然的にそのほかにかけるお金は少なくなります。日本では、子どもの9人に1人が相対的貧困状態にあるとのこと。現場での子どもたちの状況や、学習支援の活動で将来につながった子どもたちのエピソードも合わせてご紹介がありました。


キッズドアの活動には子どもとその家族への支援活動だけでなく、貧困の社会的な状況を独自に調査し、数値やグラフで社会的に必要な理解を伝える活動もしており、実際の現場と客観的に外部へ伝える姿勢が大変参考になりました。データをとおして政策への提言も行い官民両方に対して支援の輪を広げる取り組みにも力を入れています。

お話を受けて、とびラーの講座後の振り返りでは

 

「親の貧困から子どもの貧困への連鎖を断ち切るための方法として学習支援を挙げられていたが、小さなことでもそれ以外で自分にできることは何があるかと考えさせられた。」

 

「子どもたちの学力につながる文化的資本については、美術館やとびラーにできることがそれなりにあると勇気づけられました。気軽に子どもたちが利用できるプログラムができないかなということも考えてみたいです。」という声がありました。

 

 

講座の後半では、4月から2回開催された「障害のある方のための特別鑑賞会」について考える時間をもちました。東京都美術館で開催される特別展の休室日に開催されるこの取り組みにとびラーはアートコミュニケータとして来館者を迎えています。とびラーにとって実践の場となっています。今年は5月と10月に2会開催されているため、3〜5名のグループになってそれぞれのこれまで「障害のある方のための特別鑑賞会」での経験を共有する時間をとりました。

 

「サポートが必要な部分はサポートするけど、する・されるの関係ではなく会話や鑑賞の時間はフラットな関係であることで、お互い心地よい時間を過ごせるのだなと思いました。その為には、設備や建物、展示のことを普段からよく観察して知っておくこと、自分がいっぱいいっぱいにならないような準備をして余白を作っておくことが必要そうだなと思いました。」

 

という鑑賞会にむけた準備についての話や、「5人で話し合いましたが、3人が参加しておりそれぞれの場所での活動を報告し合いました。まだ参加していなかった方からも次が楽しみ、という言葉がありました。

 

というとびラーからのコメントもあり、次回2月の障害のある方のための特別鑑賞会に向けて、まだ参加していないとびラーにとっても情報交換の機会となりました。

 

(とびらプロジェクト マネージャー  小牟田 悠介)

2025建築実践講座④|「とびラーと見つけよう!東京都美術館のみどころポイント」の準備

2025.11.02


第4回建築実践講座|「とびラーと見つけよう!東京都美術館のみどころポイント」の準備

日時|2025年11月1日(土) 14:00〜17:00
会場|東京都美術館 ASR


オープンレクチャーvol.16「みんなのけんちく〜みる・知るからはじめよう〜」で行う、関連プログラムの「とびラーと見つけよう!東京都美術館のみどころポイント」の準備を行いました。
このプログラムでは、とびラーが3人1組になり東京都美術館のみどころポイントを参加者に紹介します。

 

今回のオープンレクチャーでは、東京都美術館の建築家である前川國男や建物の特徴について知ることや、建物を主体的に学び鑑賞することを目的としています。
登壇者や関連プログラムの目的である、建築を楽しく見て話すことについてお話したら、いよいよプログラムの準備を始めます。

 

 

東京都美術館の打ち込みタイルや野外彫刻など様々な「みどころポイント」をどのように説明するかグループごとに相談して決めていきます。
実際に足を運んで、打ち込みタイルを触ってみたり天井を見上げてみたり・・・。

 

 

説明する内容が決まったら、とびラー同士でお互いに紹介しあいフィードバックをします。

 

 

当日に向けて、グループごとに準備をして参加者を迎える準備をします。
東京都美術館をよく見て、知る時間になりました。

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)

 

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