2016.06.04
【美術館探訪の愉しさ】
私は、アート・コミュニケータ(通称:とびラー)になってから美術館の建物自体にみどころがいっぱいあることを知りました。東京都美術館(以下、トビカン)は、日本のモダニズム建築の巨匠・前川國男氏の設計です。壁、階段、照明、家具などあちこちにこだわりがあって、散策しながら一つひとつ見つけていくと、これまでは何とはなしに眺めていたトビカンをめぐる景色が、ぐっと生き生きとみえるようになりました。
トビカンに展覧会をみに来てくださる皆さんにも、トビカン探訪の愉しさを味わってもらえたら、という思いから、とびラーたちでトビカン散策をテーマとしたワークショップを企画しました。トビカン周りや館内を小グループで写真を撮りながら歩き、撮った写真を共有しながらティータイムを過ごすというものです。
先日、第一回目を多摩大学の2~3年生の学生さん22名の参加で開催しました。その様子を写真でレポートします。
2016.05.28
第4回目となる基礎講座のテーマは、プログラムを進めるにあたって、とびらプロジェクトの活動が大事にしている「きく力」です。毎年このテーマでの講座を同じ時期に設けていますが、新とびラーはもちろん、先輩とびラーも講座に加わり何度も反復して「きく力」を身につけていきます。講師は、とびらプロジェクトアドバイザーの西村桂哲さんです。
冒頭に西村さんからご自身の仕事についての紹介がありました。
30歳ぐらいからフリーになり、人へ自分の仕事を伝える事がとても大変になってきた。
31歳で大学で教える機会があり肩書きがついたことで便利になった。
「つくる・書く・教える」と言って来たが、更新しなくてはならない時期に入ったそうです。
現在は、2年程前から四国の神山町へ主たる拠点を写し、東京・四国・出張先の3拠点を巡っていらっしゃいます。去年ぐらいから、まちの仕事を手伝うようになってきているそうです。
川沿いにある昔の中学校の寄宿舎集合住宅にしようというプランがあがっており、開発プロジェクトのとりまとめを西村さんが行われています。
「まちを将来世代につなぐ」ということが大きなテーマ。
昔の日本の家には縁側という機能があった。ふらりと立ち寄れる、作業場など、コミュニケーションが生まれる場であった。アメリカのピクサー社では、トイレのある共有部を中心に、クリエイティブチームと製作・企画チームが2つに分かれている。偶発的なコミュニケーションが生まれやすくなるように配置されている。
1960年代のドイツのセントラルベヒーア社の建物では、中に吹き抜けがあることで、下の階の人たちが働いている様子が分かる。アメリカのヴィレッジホームズでは車道に向かって家が建っていて、家と家の間が正面になって遊歩道や庭がある。なので色々な人が自分たちの庭を抜けて行く。果実が意図的に植わっていて、果物の種類によっても会話が生まれやすくなる。果物でケーキやジャムを作ったり、、面倒くさい。価値があることは面倒くさい。
田舎の待ちは都会化が進んでいて、風景が荒れて行く。そんな待ちには神山の集合住宅はしたくないと西村さんは仰います。今設計していて、2年後に完成予定だそうです。
違うもの同士が集う事で、新しい事が生まれやすい作り方という観点で今日の基礎講座が始まります。
講座の途中には、シェア(3人組になって話す)する時間が多く持たれます。西村さんの話をお互いがどのように聞き、理解をしているか、知る時間です。
西村さんの知り合いのピアニストの方曰く、ピアニストにとって最も重要なことは「聞く力」だそうです。演奏能力は大事だが、それ以前に聞く力が大事。聞く力の解像度が低いと、自分の出している音について簡単になってしまいます。これは絵画にも通じることです。
西村さんが美大で教え始められた頃は、アウトプットの技術ばかりがカリキュラム化されていて、インプットは学生に委ねられいました。
何も食べていないと出ないのと一緒で、その人が世界をどのように世界を感じ取っているか、インプットの解像度高さがアウトプットの質の可能性をつくる、と西村さんは仰います。
ここから発信能力より受信能力、「きく」力の具体的なワークに入っていきます。
基本は2組になり、西村さんから出される約束に基づいて話し合いをします。
――――――――――――――――――――――――――――――
(準備)
2組をつくる
↓
ペア同士で向かい合う。AさんとBさんを決める。
↓
Aさんだけにある指示を出される。Bさんは目を閉じている
(質問)
1-A
あたなたは話し手です。あなたの「最近うれしかったこと」を、できるだけ詳しく、あなたの気持ちを込めて、相手に伝えてください(時間は1分半)
1-B
あなたは、聞き手です。
相手があなたに「最近うれしかったこと」について話しかけてきますが、うわのそらで聞いたり、あるいは一切相手を無視しつづけてください。
1分半ワークをする→終了
↓
自分が感じた事をメモしておく。
(質問)
2-A
あなたは、聞き手です。
相手は話しかけてきますが、あなたは、相手の話しが途中でも、自分の話したいことなどを話して、
相手の話しの腰を折ったり、話しを横取りしてください。
2-B
あなたは、話し手です。
自分が今話し手みたいテーマをひとつ考えてください。そのことについて、できる限り詳しく、あなたの気持ちを込めて、相手に伝えてください(時間は1分半)
自分が感じた事をメモしておく。
↓
2人で振り返る(苦労話にはしない、ポイントは聞き方がどんな作用を及ぼすか)
↓
同じペアでやらないほうが良いので、解散。ペアをつくる。
(質問)
3-A
あたなは、話し手です。
「最近、腹が立ったこと」について、できる限り詳しく、あなたの気持ちを込めて、相手に伝えてください。(時間は1分半)
3-B
あなたは、聞き手です。
相手は「最近、腹が立ったこと」について話しかけてきますが、ここでは、どんな些細なことでもいいので、
相手の話しを否定してください。
メモを取る。
(質問)
4-A
あなたは、聞き手です。
相手が「最近困っていること」について話しかけてきます。あなたは、多少脈絡がなくてもいいので、できるだけたくさんの安易な解決策を相手に示してください。
4-B
あなたは、話し手です。
「最近ちょっと困っていること」について、できる限り詳しく、あなたの気持ちを込めて、相手に伝えてください(時間は1分半)
(終わり)
———―――――――――――――――――――――――――――
話が出来るのは、聞いてくれているからです。
会話がうまく進まない時の原因としては4つのことが挙げられます。
・無視
・横取り
・否定
・先回り(介入)
ここまでのワークでは以下のことについて知って欲しかったと西村さんは仰います。
・聞く側が力を持っている
・話が成長しやすい環境条件がある
・関心が力になる
・考えると、きかなく(きけなく)なる
どんなプロジェクトにも、誰かに小さな気づきや違和感、喜びを話をすることから始まる。
アップルコンピューターもジョブスの話を聞く人がいたから生まれた。
お互いに気づきがあり、話せることはとてもクリエイティブだし、とびらプロジェクトもそんな環境であってほしいと西村さんは続けます。
次のテーマは、西村さんが30歳の時にインタビューの仕事をしたきっかけから生まれたものです。
人は「事柄」には食いつきがいい。しかし、それは話の本体ではありません。
「事柄」に関心を持つと、人に関心を持っている状態ではなくなる。過去の話に関心を持ってる状態になる。
「気持ち」に関心を持つと、必然的に質問が湧いてくる。それは内容、思考である。
インタビューしながら気付いたのは、どんなに面白そうな話でも、つまらなくなっていっていく。
「事柄」として受け止めると、本人との距離が生まれてしまうからです。
西村さんは、自分でやりたいと思ったことよりも人から振られた仕事をすることが多いそうです。一生懸命やると、エポックになる。どんな話をしている時に、笑っているか、力が入っているかは、周りの人の方が知っている。
はなしの「関心」をどこに向けるか?思考に向けるかは知的に理解していく。
「事柄」「気持ち」どちらかに関心を持つかで大きく変化していきます。
次のワークに入ります。
「話し手:とびらプロジェクトと自分について、最近気になっていることを」を話す
「聞き手:話の内容より、そのことに関する相手の気持ちや感覚に関心を持って、意識を向ける」
*ルール
うまく話せなくていい
沈黙を気にしない
自分の「いま」の気持ちを味わいながら
話し終わった後に、振り返りを3人でします。この時に注意するのは話の続きにならないようにすること。
確認したいことは、聞き手は内容ではなく、気持ちや感覚に関心を持ち続けることができたか。
話し手は、自分にとってどうな経験だったか。
聞くということはどういうことか?
漢字にすると、「聞く 聴く 訊く きく 効く 利く」
ここまでのことを受けて次のワークに入ります。
「話し手:とびらプロジェクトについて最近心が動いたことを」
「聞き手:話の内容より、頭で知的に理解するのではなく味わってみる。一緒に感じてみようとする」
話し終わった後に、再度振り返りをします。
どんな体験が生まれたか?何か変化はあったか?に注意しながら、その場の状況を振り返ります。
続いて、コーチングの世界では有名な岸さんという方にPTAの会にお呼びした時の話です。
小さな子供と一緒に住宅地を散歩していた人がいて、ある路地を抜けると市道がありそこは公園まで近道となっている。しかしその近道に大きな犬が道を塞いでいました。とたんに固まってしまた子供。 そんな状況の時にこどもにどんな声をかけるか?
西村さんの答えは「怖い?」と聞くでした。
その理由は、子供はまだ、一言も怖いと言っていないし、子供は固まっただけだからです。
怖がっていると思っているのは、こちらの一歩的な判断だからです。
それだけではコミュニケーションにはなりません。
岸さんの最初の一言は「どうしたの?」ということでした。
子供が「怖い」と言って、岸さんは、「それだけ?」と聞いたそうです。
これは、人間の中に一種類の感情しかないということはない。ということを示しています。
相手の話を自分の枠組みにおさめない、ということ。
「怖くないよ」という人は、相手の枠組みで自分お言葉を話している。
本当に相手に関心を持つのであれば、勝手に想像して話を聞くのでは無い。
ひとの中にある感情は一種類とは限らない、ということを岸さんから知った。
怖い、関心を持ち続けるのであれば持続的に行かなければならない
理解するのを待つ。相手の表現に気づくのが大切だと西村さんは言います。
ここまでの話を受けて、最後のワークです。
「話し手:とびらプロジェクトと自分について、最近気になっていることを」
「きき手:自分の枠組みにおさめず、相手の中にあるものに、最大の関心を持ち続けてみる
今回の講座では、発信能力よりも受信能力に力点を置かれました。
声だけでなく、全身的な経験に気を払い、相手のことを感知し、感じ取ること。
これは美術館の来館者に対しても通ずることです。
とびらプロジェクトにとって共有し、大切にすべきお話を西村さんからしていただきました。
プログラム時でなくても日常から気をつけていきたい内容でした。
(東京藝術大学美術学部特任研究員・奥村圭二郎)
2016.05.15
5月15日。5月晴れの爽やかな日曜日にとびラー主催、1日限りの「若冲らうんじ」をオープンしました!連日大人気の若冲展。展覧会を観に来られた方に“ゆっくり“楽しく”過ごして、改めてじっくりと若冲の作品と向き合ってもらいたい。そんな思いを込めて様々な角度から若冲の作品が「体感できる」と、とびラーが企画したプログラムを6つご用意しました。
目印はとびラーが作ったカラフルなビジュアル。
2016.05.14
今回は「作品を鑑賞すること」について考える講座です。午前中にアートスタディールームで3つの映像を見て話し合い考え、午後には実際に東京都美術館の展示室で、対話による鑑賞を体験しました。
講師をつとめるのは、東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション担当係長の稲庭彩和子さん。
2016.04.30
第二回基礎講座のテーマは「社会装置としてのミュージアムの役割とは何か、そこでのとびラーの役割とは何か」でした。今回の講座は、「Museum Start あいうえの」のミュージアム・スタート・パックを持って上野公園のミュージアムをめぐる午前の部と、文化施設の役割とは何か、アート・コミュニケータの役割と実践とは何かを、講師のトーク・セッションを通じて考える午後の部で構成されました。講師は東京藝術大学教授の日比野克彦さん、アーツカウンシル東京の森司さん、そして、東京都美術館の稲庭彩和子さんです。
講座がはじまるとまず稲庭さんから、「Museum Startあいうえの」のティーンズ学芸員(→活動の様子はこちら)の様子が動画で紹介されました。アート・コミュニケータや学芸員との対話を通じて作品を鑑賞し、感じたこと、考えたことを文字と声に起こして、オーディオガイドで発信するプログラムです。ティーンズの動画から、自分の目で見て考えるとは一体どんなことなのかを学んだら、さっそく東京国立博物館、国立西洋美術館のそれぞれに向かう2つのグループに分かれて、自分のお気に入りの作品を探す冒険へと出発です。
こちらのグループは、国立西洋美術館へと向かいました。
2016.04.30
4月30日(土)、「藝大ガイドツアー〜春らんまん編」を開催しました。
校内の建築、植栽、彫刻を1時間程かけてじっくりご案内。ガイドは3年の任期を満了したとびラーたちが立ち上げた「アート・コミュニケータ東京」のメンバーと、とびラーが務めました。
■受付
当日は、美しい新緑に木漏れ日が射す、春うららかな気持ちの良いお天気。ツアー開始15分前の受付時間になると、メンバーの呼び掛けに合わせて、お客さまがぞくぞくとお集りくださり、午前の部、午後の部で計57名の事前にお申し込み頂いた、全てのお客さまにご参加頂きました。
メンバーのオリジナル製作によるカードを持ってお出迎え〜受付。
2016.04.16
2016.03.27
3月27日(日)東京都美術館のMUSEUM TERRACEにて、とびらプロジェクト5回目のオープンレクチャー「上野で語る。100人で語る。文化の杜の未来。」が開催されました。
様々な文化施設が集まる上野公園。美術館や博物館、動物園や図書館、音楽ホール、大学など、日本の多様な知と財産が集まる場所です。今回は上野公園を「文化の杜」として育てていくために、多様な人々がフラットに語り合う、ワールド・カフェの形式で対話を育みます。交流を育みながら様々な視点やアイデアを共有することで、考えを深めていきました。集まったのは、上野にある9つのミュージアムで働く人々や、上野公園に関する仕事をしている人、とびラー、上野にゆかりのある人から初めて来た人まで、約100人。それぞれの言葉で、上野への想いと未来について語ります。
スタートは17時。会場に着いたら、くじをひいて、ランダムに着席します。
司会の方によってスタートが告げられ、テーブルについたら「チェックイン」。
簡単な自己紹介と、いま感じていることや、今日の気分など、思い思いのことを話します。
互いのことを聞き合い、対等に話し合える場をつくっていくことから始まりました。
まず始めに、東京都美術館アート・コミュニケーション担当係長・稲庭彩和子さんよりご挨拶。東京都美術館×東京藝術大学の活動として「とびらプロジェクト」「MuseumStartあいうえの」の紹介がありました。
続いて、コミュニティデザイナーの山﨑亮さんによる基調講演。
テーマは「多様な人々が、異なった価値を持ち寄り、並べ、組み合わせることで生まれる未来」。
副題についていた「No community,No Life?」のフレーズに感銘を受けた人も多かったようです。
山﨑さんが各地で行ってきた活動の紹介を受け、コミュニティの在り方・作り方について考えを巡らせていきます。
講演のあいだ、参加者に渡されていたのは「ストーリーメモ」。自分が気になった部分や、大切に感じたところ、疑問に思ったところなどを書き留めておくためのツールです。
山﨑さんのお話の後、それぞれのメモを元に感想を語っていきます。
ここまでが前半の内容でした。
後半までの休憩時間では、軽食をとりながら過ごします。まだまだ議論が続くテーブルも多くありました。
くだけた雰囲気のなかで会話が進みます。
後半では、いよいよ上野の未来に焦点を当てたテーマについて話し合います。
第1ラウンドは「あなたが上野について『誇り』や『愛着』だと感じていること」。
上野の魅力とは?誇れることは?1人1人のバックグラウンドを元に言葉を紡ぎます。
ワールド・カフェでのルールは、「考えと経験をオープンにすること」「語り手の話をよく聴くこと」「それぞれのアイデアを結びつけること」「議論を掘り下げること」。
お互いの話を大切に聞きながら、自分の言葉で語り、考えを深めていきます。
テーブルにセットされていた白い紙が、みなさんのアイデアでカラフルに彩られていく様子。
第2ラウンドのテーマは「上野をもっと『誇り』と『愛着』を持てる場所にしていくためには?」
テーブルを移動して、違う場所から集まってきた人で新たに話し合いを始めます。
それぞれのテーブルで話したことをシェアしながら、様々な議論が展開していきます。
第3ラウンドのテーマは「上野がより『誇り』『愛着』を持てる未来になったとき、上野とはどんな場所になっているか」。
移動したテーブルからもとのテーブルに戻り、改めて未来の上野に思いを馳せます。
タイムアップのサイン「口を閉じて両手をあげる」が会場に行き届いたところで、語り合いの場は終了。
その後は今日のことを振返りながら、感想や疑問、気づき、今後の抱負をポストイットに書き出します。全参加者のコメントを集約したホワイトボードは圧巻!
参加した方の声からは、上野がそれぞれにとって思い入れのある場所であること、そして人々の交流・連携が今後の上野を作る要であるということが語られました。
最後に、上野「文化の杜」新構想推進会理事・東京藝術大学教授である北郷悟さんから終わりの言葉をいただき閉会です。
100人がそれぞれの観点から見た上野。語ることで共有できたビジョンや、新たに見えてきたこともあるでしょう。今回のワールド・カフェでの出会いや、生まれたアイデアは、今後どう活かさされていくのでしょうか。上野にいる人たちがつながり、ともに歩むことから未来は形づくられていきます。
2020年のオリンピック、そしてその先の未来に向けて、上野とはどんな場所になっていくのでしょうか?会場に来られなかった方も、上野の未来について考え、誰かとシェアしてみてください。
上野に来た人、いる人、これから来る人、全てのみなさんによって、上野は彩られています。未来の上野を考えていく新たな出発地点に、みなさんと一緒に立てていることを嬉しく思いました!このご縁を大切に、これからも上野を考え続けていける場が、ミュージアムであったらいいなと思っています。
(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)
2016.03.26
春は出会いと別れの季節。とびらプロジェクトも、ひとつの節目を迎えました。
3月26日(土)に行われたのは、2期とびラーの任期満了式「開扉会」。
3年間の活動期間を終えたとびラーたちが、上野からそれぞれのとびらへと進んでいく門出の日です。
開扉会の場をつくっていくのは、もちろんとびラー。
「3年目の節目を彩るプロジェクト」として、この日のために長い時間をかけて準備がすすめられてきました。
会のはじまりは、プロジェクトマネージャの伊藤さんと、東京都美術館の稲庭さんによって告げられました。ともに過ごした時間を振返りながら、美術館から社会的問題へアプローチしていくことについて考えていきます。とびラーの存在によってできたことや、生まれた活動、人とのつながり。とびらプロジェクトと連動するMuseumStartあいうえのの活動も、これまでの経験値を踏まえて変化していきました。
同じ時間を過ごし、様々な活動をともにしてきた仲間たち。これまでに作り上げてきたもの、迷い悩んだこと、来館者との出会い、成長していく子どもの様子、数えきれないほど重ねて来た話し合い。数々の記憶を思い返すと、自然に笑みがこぼれます。
3期、4期のとびラーも集い、限られた期間のなかでの活動や、任期終了後のことについて考えます。とびらプロジェクトのなかで築いた経験を、今後どう活かして行くかはそれぞれの課題です。ここでもらった種をどこに蒔くのか、どう育てるのか。これからの社会と美術館、それぞれの今後の活動をつくっていくきっかけを探る場を共有しました。
その後は、昨年任期満了した1期とびラーによる団体「アート・コミュニケータ東京」の紹介。
アート・コミュニケータ東京は任期を満了したとびラーの活動と、各所のつながりを支える一つの基盤です。楽しいプレゼンテーションにはたくさんの笑いが起きていました。
その後は場所を変え、3年間の活動拠点となった、東京都美術館の景観がみえるところへ。
いよいよ任期満了を記した「開扉の証」が授与されます。
とびラーひとりひとりの名前が伊藤さんによって読みあげられ、とびらプロジェクトの代表教員である東京藝術大学の日比野克彦さんと、東京都美術館の林久美子副館長から任期満了の証を手渡されます。
「開扉の印」に封入されているのは上野から次の場所に向かうための切符。2つ折りのカードの中には、東京都美術館・真室佳武館長、東京藝術大学・日比野克彦教授のお二人からのメッセージが書かれています。ひとつひとつが手作りです。
授与の後は、送り出すとびラーからの言葉。
3年間の感謝の気持ちと、今後の期待、そして、これからも人と人のつながりは続いていくことが伝えられました。
ここで、3・4期のとびラーから開扉するとびラーに向けてのプレゼント。2期生ひとりひとりにインタビューをして、それぞれの言葉を綴った冊子が贈られます。
インタビューの実施から執筆、企画から編集まで、とびラーらしい工夫や気遣いにあふれた一冊です。3年間の活動の記録も掲載されています。
懐かしい記憶がよみがえったり、一緒に過ごしてきたとびラーの意外な一面が見えてきたり。
続いて、開扉するとびラーからの言葉。
リハーサル無し、ぶっつけ本番!全員で声をあわせます。
旅立ちの声が揃って響きわたりました。
最後の「ありがとうございました」は、素敵な笑顔で締めくくられました。
そして、退任するスタッフからの言葉。石井理絵さんと伊藤史子さん。
とびラーとともにMuseumStartあいうえのをひっぱってきた2名にも、「開扉の印」が贈られます。
会の終盤では、東京都美術館で働く方々や、とびらプロジェクトを支える人々から祝辞が贈られました。
まず、東京都美術館より林副館長。
「文化財を通して人と人とのつながりをつくる大切さを、よく痛感します。これからもそれぞれの場所でがんばってください」
東京都美術館・山村学芸課長。
「絵を描く人だけでなく、絵を語る、楽しむ、広がりをつくる仲間が増えていったら、美術はもっと活気づいていくと思います。これからの活躍に期待しています。」
とびらプロジェクトスーパーバイザー、アーツカウンシル東京・森司さん。
「ぜひ、美術館をとびこえて活動を続けてください。ここでの経験を大事にして、歩みを止めることなく、アートの輪を広げる活動をしていってください」
東京藝術大学教授、とびらプロジェクト代表教員の日比野克彦さん。
「一つのことをやるにはどういうことが必要か、目の当たりにして学んできたかと思います。次からは自分で呼びかけて、自分なりのアート・コミュニケータ活動をしていってください」
東京都美術館アート・コミュニケーション担当係長・稲庭彩和子さん。
「一緒に歩いて来られて本当に嬉しいです。今年の開扉会では、去年とは違うビジョンが見えてきましたね。ここで蒔き、育てた種を、外に持って行ったり、温め続けたりしながら、また人と話すことでさらに育てていってほしいと思います」
最後に、東京藝術大学特任助教授・とびらプロジェクトマネージャの伊藤達矢さん。
「みなさんがここでつくったようなコミュニティを、ここから、他の場所へ広げていってください。お互いこれからも、がんばってやっていきましょう!」
その後はいつも活動するアートスタディルームでカフェタイム。
こちらもとびラーによる企画が満載のひとときでした。
これまでのワークショップに向けて作ってきたものを総動員!展覧会の思い出が詰まった道具たちで、思い思いに彩ります。
他にはとびラーが撮影したこれまでの記録映像を鑑賞したり、
とびラー考案のボードゲームに興じるスペース。一般向けにも開催された「ボッティチェリの人生ゲーム」は、大盛況でした。
最後の時間まで、話が尽きることはありません。とびラーの任期は終了しても、形を変えて人と人とのつながりは続いていきます。
本年度、次のとびらをあけたとびラーは33名。
33人のアート・コミュニケータは、これから1人1人が道をつくっていきます。
新しい所へ向かう人、今までいた所に戻る人。上野からの行き先は人それぞれです。
ここでみなさんと一緒に過ごした時間と、培ってきた体験は、全てがかけがえのない出会いに彩られていました。これからも自分らしく、アート・コミュニケータのマインドを大切に、次のとびらへ進んでいってください!
(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)
2016.03.19
上野公園の桜の蕾がほころび始めた3月19日。「ボッティチェリ・鑑賞・香り~聞こえない方と聞こえる方のサイレントコミュニケーション~」のワークショップが開催されました。耳の聞こえない方と聞こえる方が、美術館において、手話通訳を介した交流だけではなく、お互いの感覚を活かしながら・・・鑑賞を共有する、新しいアプローチの提案、コミュニケーションの可能性を広げる様な“体感の場”を目指しました。
◆ようこそ!東京都美術館へ
◆アイスブレイク
自己紹介の後に、アイスブレイク(初対面同士の緊張をときほぐすウォーミングアップ)!
ボッティチェリに関してのキーワードでジェスチャー当てゲーム(手を上げてヒラヒラする動作は聴覚障害者の方の「拍手」の意。いつの間にか、みなさん取り入れてらっしゃいますね)
◆展示室へ
グループごとに、実際に展示室に作品を観に行きます
◆作品鑑賞
展示室に入り、耳の聞こえない人と聞こえる人が一緒に、一つの絵を観て感じた事などを自由にボードを使いながら言葉にしていきます。
◆香り選び
作品から受けたイメージを14種類の香り(お香)の中から、選びます。
【参加者の声】
○絵が立体アートになって良かったです。脳内環境が100%満たされる?!
○香りを使ったコミュニケーションは、初めてだったので緊張もあり、少し疲れました。いかに日頃無神経だったかを実感します。
◆サイレントコミュニケーション
見た絵について、どのあたりからどのような香りや印象を感じたかを記入していきます。この際、耳の聞こえる人は発話せず、
耳の聞こえない人は手話を使わずに実施しました。
【参加者の声】
○最初は難しかったけど、だんだん話が分かると、楽しくなりました。
○戸惑いと迷いと工夫、創造の間で揺れつつコミュニケーションを考えるから、伝えていこうとするプロセスが何故かとても楽しい
◆グループごとの発表
参加者:聞こえない方9名 聞こえる方7名 計16名
◆おわりに・・・
耳の聞こえない方と聞こえる方、一人一人の違いや共通するものをアートを介して探っていくという時間でした。今回、鑑賞を深めるコミュニケーションツールとして「香り(お香)」を取り上げました。この「香り」や「サイレントコミュニケーション(手話や音声日本語を使わない)」は、とびラー達が試行錯誤しながら、独自に辿り着いた手法です。
芸術作品(アート)とは、無限の可能性を秘めていると思います。
その場で出会った人々と「香り」を通して、新たな価値を創造していくというプロセス。
その場でしか生まれない科学反応を、今後もカタチを変えながらデザインしていければと思います。
ご参加頂いたみなさま、柔らかい香りで包まれた空間をありがとうございました。