2025.01.16
武蔵野の面影を残す雑木林が点在する、のどかな丘陵地帯。東京藝術大学(以下、藝大)取手校はその中に広大なキャンパスを構えています。
ほどなくして、校舎から続く丘の小道を勢いよく駆け下りてくる一人の方が…。それが今回インタビューするYe Feng(イェ・フェン)さんでした。
「お待たせしました、早速スタジオをご案内しますね!」
お互いに軽い自己紹介をすませ、私たちはグローバルアートプラクティス(以下、GAP)内のFengさんのスタジオに向かいました。
(以下のインタビューは全て英語で行われ、取材したとびラー3人が翻訳・編集しました。)
香港に生まれロンドンで育ったFengさんは、国際的・言語的に様々なバックボーンを持っています。
「それが私の創作のルーツ、アートの源になっているんです」瞳をキラキラと輝かせながら語るFengさんは、パワフルそのものです。聞けばこのインタビューの翌日に Evaluation Show※を控え、制作も大詰め。
「今日のタイミングで、皆さんに制作のプロセスをお見せすることができるのは、本当に嬉しいです。 まずはこの作品を見てください」
※Evaluation Show=卒業のための最終審査。
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「インタビューのために、制作途中の作品を用意しておきました」 最初に案内されたのは、工場のような本格的な作業場。目の前には建築用の鉄筋を使った立体作品がありました。制作過程を聞けば、「太さの違うむき出しの鉄の棒を様々な長さにカットし、溶接や表面の加工を繰り返し、環(circle)の形に組み合わせています」とのこと。工具を併用しながらも、鉄筋を自らの手で細かく曲げていることに驚かされました。
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ーこの場所で制作されているんですね
はい。組み合わせた鉄筋が、まるで浮かんでいるようにしなやかに輪を描いているでしょう、地面に置くと自立するけど、重い素材のはずなのに、指で押すだけでゆらゆら動く。硬さや柔らかさ、そして強弱。様々な対比を大事にして制作しています。
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ーこの作品のコンセプトはなんですか?
自分のルーツから、「言語」が中心となっています。
小さい頃から、国際的な環境が当たり前で、言語を通して様々な文化や歴史を知ることも多く、甲骨文字を含め様々な言語のルーツを研究し、人類学や文学を深堀りしてきました。当たり前のように使っている言語ですが、そこには誤解やすれ違いも伴います。大人になるにつれて、小さい頃には感じなかった、コミュニケーションの難しさを知るようになりました。
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言語はたくさんの意味を抱えて存在しています。選びながら、構築しながら、私たちはそれぞれ自分自身の言葉を紡いでいます。
バラバラだった直線の金属が曲がり、つながり、環を描いていくことが「言語の伝達」への表現とつながっています。
ーつながって、揺らいだり自立したり、ですね
私の作品にみられる流れるような金属の線は、抽象的な表現ではあるものの、言葉や文字のように、何かのシンボルとして存在しているとも捉えています。
本来、機械を使って磨き上げたり、綺麗な環に繋げたりもできます。でも私はそうはしません。私たち人間も「完璧ではない」からです。
形状や動きがユニークな立体作品ですが、近くで見るとさらに細かいこだわりが見つかります。時間を経てさびていく金属の材質を活かし、表面のテクスチャを様々な表情に仕立て、溶接のつなぎ目もゴツゴツとした個性のある関節のようです。個性がありユニークであるのが人間。そのありのままの姿が、作品を通して表現されています。Fengさんの「金属で描いている」という言葉がよく伝わります。
「次に、Evaluation Showの部屋をご案内しますね。さっきの環(circle)がここでは様々に形を変えて空間を構成していますよ」
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Evaluation Showの会場は、天井の高い四角い部屋。
その中に、金属の立体作品、油絵の平面作品、ライトで作り出された光と影、そして手作りのスピーカーから流れる音。たくさんの要素が集まった部屋全体が一つの作品であり、作品どうしが共鳴する空間が創られていました。
ーこの空間はどのように創られたのですか?
最初から様々な表現を組み合わせようと決めていたわけではなく、自分の感性に従って創作を進めて、最終的にこのような空間ができあがりました。直感を信じて進めるのが私の創作スタイルなんです。
ー先ほどの作業場で見せてもらった金属の環の作品が、ここではさらに形を変えていますね
そうです。地面に置かれたものもあれば、小さく繋げて空気をまとうように空間に浮かせたものもあります。金属の環の一つ一つが、様々な文字をバラバラにして再構築するようなイメージなんです。作品自体のユニークさだけでなく、壁に映る光と影のバランスも見てくださいね!
流れている音は、金属素材を扱う時の音を録音して作りました。壁の高い所にスピーカーを設置したので隣の壁から響きわたるような幻想的な聞こえ方になっているでしょう。
ー金属、絵画、音楽、光と影。立体作品と平面作品など、組み合わせが考えられた空間ですね
絵画は、サイズが違うものを壁に並べて空間を創る飾り方を考えました。基本的には油絵具をキャンバスの上でそのまま混ぜて自由に描いています。実際の展示では触れないことも多いけど、触ったりもできるインタラクティブな展示が理想的ですね。この組み合わせた空間ごと身近に感じてもらえたら嬉しいです。金属の環は中をくぐれるくらいの大きさでしょう?私は自分の体と同じくらいの大きさの作品をつくることが好きです。
「次に油絵を描いているアトリエの方へ移動しましょう」
私たちはEvaluation Showの会場を後にし、日差しが降り注ぐアトリエに向かいました。照明を落とした部屋から、天井が高く明るいアトリエに来て、どこか異世界から現実世界に戻ってきたような感覚でした。
ーこのアトリエも素敵ですね。たくさんの油絵がありますが、これらも卒展作品ですか
ちょっと散らかっているんですけど(笑)。今、ここにある油絵も、気に入ったものはさっきのインスタレーションに加えるかもしれません。
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ーここであらためてFengさんご自身のルーツや、アートへの想いを伺えますか?
私は香港に生まれ、ロンドンで育ちました。小さい頃は空想や考え事をすることが好きで、もちろん絵も描いていました。ロンドンにはミュージアムがたくさんあり、展覧会にもよく行っていましたが、本を読むことも好きで将来は医療や経済を学ぶのだろう…と思っていました。
でも高校生の時に気づいたんです。医療や経済は一つのことを掘り下げるイメージだけど、アートという分野は、そこを通じてもっと広い世界や深い歴史に触れることができるのでは?と。
ー高校卒業後、ロンドンで美術大学に通われたんですよね?
そうですね、高校時代、進路を決める時に当時の学校の先生に相談したら背中を押してくれて、大学への推薦状をいただけたんです。美大への入学が私の人生にとって大きな転機となり、さまざまな事を学びました。「アートジャーニー」とも呼べる流れが始まったんです。
ーGAPでの生活、創作活動はいかがですか
ロンドンのアートスクールを卒業した後、いったんは就職しましたが、日本の藝大のGAPコースの事を知り、入学することができました。素晴らしい先生や仲間たちに囲まれ、本当に充実した2年間を過ごしました。アートジャーニーがここに繋がっている感じですね。
自分にはマルチカルチャーで複数言語のバックグラウンドがありますが、成長するにつれ、それは私のユニークな個性であることを自覚するようになりました。カルチャーや言語についてさらなる思索を深めて、GAPでの作品制作にもその意味合いを込めるようになりました。
アーティストは自身の言葉・信条を表現し、どんな場所にいても、アートの事を考えることができます。私にとっては自然なプロセスで、あらゆることが繋がっています。それが私の人生そのものなんです。
私が今回選んだ金属・絵画・音響など、素材とも言えるものは昔から取り組んでいました。GAPに来てから他のさまざまな素材でも試してみましたが、金属や絵画は、以前より私にフィットしているように感じています。これらは私にとって大事な、変えることのできない血液型のような感覚なのです。
ーアートジャーニーは続く、ですね。卒業後のこれからについてお聞きできますか
そうですね、GAP卒業後も私のアートジャーニーは続いて、実験的な創作を繰り返したり今後の表現の種となるものを探していくでしょう。
日本には引き続き滞在しますよ。ずっと学校中心の生活をしていたので、キャンパスの外の世界も経験したいです。
私を表現するアートの創作も続けていきたいです。将来、どのような表現を展開していくのか未知な部分も多いですが、自分自身の変化や未来の姿に期待しています!
ー藝大の卒展は、どのような展示をお考えですか
そうですね、Evaluation Showと違う会場なので調整はしますが、自分の表現を届けられるように最終的な準備をすすめています。自身のコンセプトとアイデンティティがあってはじめて、自分の作品になると思っています。
だけど見てもらう人たちにとっては、まずは興味を持ってくれれば良いと思っています。複雑なことも哲学的な意味も必要ではないし、何も気にせず自由に楽しんで!と言いたいです。
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ーインタビューを終えて
Fengさんの印象的な言葉があります。 「ひとは皆、ある意味『一つの言葉』=自分だけの言葉を話しているんだと思います。それが英語、中国語、フランス語、どの言葉を話していても、それは自分から発信された、自分らしい表現をもった、『自分だけの言葉』なのだと思います」
一つ一つ独立したように見えるモノやコトも、どこかで循環したり、次の何かに繋がったり。 Fengさんがテーマとしている環(circle)と表現したものが、日本でも古くから言われている「縁(ゆかり)」にも似た感じを受けました。
今日のインタビューでできた接点はどんな環になり、次はどこに繋がるのか。同時に、何気なく紡ぐ言葉の大切さや自分らしさを、改めて感じさせられたインタビューでもありました。
帰りのバス停に向かう時、私たちが見えなくなるくらいまで、身体をいっぱい使って手を振りジャンプしながら「またね!」と見送ってくれました。
熱意あるアーティストであると同時に、とてもキュートでフレンドリーな一面も持ち合わせたFengさん。 この環(circle)を大切にして、藝大の卒展でまた会えるのを楽しみにしています。
取材/翻訳/執筆 前田 浩一 劉 鳴子 星 久美子(アートコミュニケータ「とびラー」)
写真/校正 樋口 八葉(美術学部芸術学科2年)
私は、自分の作品に込めた想いをキラキラした瞳で熱く語り続けるFengさんに魅了されていました。 彼女は、その時々の直感を信じそれを作品に込めて表現できる人、加えてその作品についての思いをしっかりした言葉にできる素敵なひとでした。(前田 浩一)
自分自身や作品と向き合い続け、アートへの情熱を伝えてくれたFengさんは本当にカッコよかったです。 その上で、オーディエンスには自由に楽しく見てもらいたい、と笑顔で言い切る姿がとても印象的でした。今後の作品も楽しみです!(劉 鳴子)
彼女の信じられないくらいのパッションから、あの作品が生み出されたと思うと、こちらまで元気になってきます。 アートだけではなく、人としての魅力や情熱をたくさん受け取っ た一日でした。彼女のアートジャーニーがこれからどのような道をたどるのか、楽しみです。(星 久美子)
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2024.11.25
夜の照明に浮かぶ東京都美術館を散策する金曜の夜間開館時限定の40分ツアーです。
夜ならではの建物のみどころをとびラー(アート・コミュニケータ)がご案内します。
美術館全体が、まるで宝石箱のような輝きを放つ夜。昼とは違うその表情を一緒に楽しみませんか?
【当日受付・先着18名/日本語対応手話あり・定員2名】
日時|2024年11月29日(金) 19:05 – 19:45
会場|東京都美術館
対象|東京都美術館に興味のある方、建築ツアーに興味のある方
定員|18名(当日受付・先着順)※日本語対応手話あり・定員2名
参加費|無料
参加方法|
先着順。当日17:00より東京都美術館LB階ミュージアムショップ前にて整理券配布します(混雑時は場所変更の可能性あり)。
※LB階自動扉の入り口付近にて整理券の配付場所をご案内いたします。
※整理券は先着順です。先着人数に達し次第、受付終了となります。
ツアー集合時間・場所|
18:50 東京都美術館 LB階中庭(自動販売機側・入口横)
※整理券をご持参ください。
その他注意事項|
※サポートが必要な方は受付時にお申し出ください。
※メールなどによるお申し込みは受け付けておりません。
※広報や記録用に撮影を行います。予めご了承ください。
2024.11.11
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日時|2024年11月11日(月)10時〜16時
展覧会|「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」展(会期:2024年9月19日(木)~12月1日(日))
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・東京都美術館で開催された「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」にて、「障害のある方のための特別鑑賞会」を実施しました。この鑑賞会は、障害のある方がより安心して鑑賞できるよう、特別展の休室日に事前申込制で開催しています。
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・鑑賞会当日には、障害のある方とその介助者約630名が東京都美術館を訪れ、一村の幼年期から晩年までの創作の全貌を辿りながら一つ一つの表現の巧みさに魅入っていました。
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・参加者を迎えるのは、アート・コミュニケータです。とびらプロジェクトで活動中の「とびラー」やとびラーの3年の任期を満了したアート・コミュニケータが数多く参加しました。アート・コミュニケータは、受付で参加者をお迎えしたり、館内のエレベータの乗り降りをサポートしたり、展示室で鑑賞体験をサポートするなど、館内の様々な場所で活動しました。
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・展示室では、一村の膨大な作品群を前に、描写の巧みさや構図の面白さ、また一村の人生に想いを馳せる参加者の姿がありました。アート・コミュニケータたちは時に参加者と言葉を交わしながら、細部まで観察するサポートを行なったり、様々な動植物の描き方に注目してコミュニケーションを行っていました。・
・iPadで作品画像を大きく拡大し、作品の細部をお見せすることもあります。車いすに乗っていて目線が低い方や、目の見えづらい方などにはとくに好評です。このiPadで拡大して鑑賞をサポートするアイデアは、アート・コミュニケータが発案し、検討と準備を重ねて実施しています。今回の特別鑑賞会では、のべ約400名の方がiPadで画像を拡大しながらアート・コミュニケータと一緒に作品を鑑賞しました。
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・今回の特別鑑賞会では、視覚に障害のある方の作品鑑賞を補助するツールである「触図(しょくず)」を新たに導入しました。これは、田中一村の作品を立体的な線や凹凸で表現したもので、手指で触れることで構図やモチーフを描写した線がわかるようになっています。
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・当日は、アート・コミュニケータが展示室内で触図の案内を行い、作品の特徴や色、構成などを丁寧に説明した上で、参加者と対話をしながら鑑賞しました。参加者も、触図があることで、作品に描かれている内容をより理解することができていました。
・この触図は、特別鑑賞会の日に限らず会期中であればいつでも、希望する方にスタッフから説明をしながら共に作品を鑑賞するために使用していました。
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・「障害のある方のための特別鑑賞会」への申込みは、①Webサイト申込みフォーム、②メール申込み、③はがき郵送、の3つの方法があります。
・このうち、③はがき郵送でお申込みされた方には、当日の案内状を封書でお送りしています。封筒の表面には、展覧会にちなんだ絵柄のスタンプが押されています。このスタンプは全て、とびラーがオリジナルの消しゴムハンコを彫って手作りしたものです。
・様々なとびラーが制作するスタンプの絵柄は、毎回20種類以上に上ります。「自分に届いたものとは違う絵柄も見たい!」という声を受けて、展覧会会場の終盤で紹介するコーナーを設けるようになりました。
・絵柄を制作したとびラーたちと、デザインの工夫やみどころについて展覧会を身終えた参加者とのお話しがはずんでいました。
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・東京都美術館は、すべての人に開かれた「アートへの入口」となることを目指しています。参加者とアート・コミュニケータがともに作品を味わい、感想を共有し合うひとときは、作品が持つ力と、人とのつながりの大切さを改めて感じさせてくれました。
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・次の鑑賞会でもみなさまにお会いできるのを、アート・コミュニケータ一同楽しみにしています。
2024.11.04
第6回鑑賞実践講座|「ファシリテーションのふりかえり」
日時|2024年11月4日(月・休)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)、ARDAコーチ5名
内容|VTSファシリテーションのふりかえりについて
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第6回の講座では、Visual Thinking Strategies(VTS)鑑賞のファシリテーションをどのようにふりかえるかについて、実践を交えながら考えました。
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まず初めに、今年度の講座の実践の場である「スペシャル・マンデー」や「ずっとび鑑賞会」について、とびラーのファシリテーションに対する三ツ木さんのフィードバックを伺いました。
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VTSを実施することがゴールではなく、鑑賞者が会場に到着してから帰るまでの体験全体をどのようにデザインするかが重要であるという視点が語られました。実践を重ねたからこそ気づく新たな視点に、とびラーたちは頷きながら話を聞いていました。
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三ツ木さんからのフィードバックが終わると、今日のテーマである「VTSファシリテーションの実践とふりかえり」に移ります。実際にVTSとふりかえりを行う前に、まず、とびラー同士がクリティカルかつ協働的に議論を進めるために、どのような点に気を付けるべきかを改めて話し合いました。
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その後、チームに分かれてVTS 実践とふりかえりを繰り返していきました。VTS実践では、チーム内でファシリテータ・鑑賞者・観察者・対話記録の役割に分かれ、それぞれの立場から鑑賞の場を体験し、観察しました。
ふりかえりの際には、それぞれの立場から体験・観察したことを出し合い、対話の流れを追って検証していきました。
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鑑賞者の考えが深まったタイミングでは、ファシリテータがどのような働きかけをしていたのか。その逆に、深まらなかったときには何が影響していたのか。それぞれの視点から意見を出し合いながら、ふりかえる方法を体験しました。
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お互いに客観的な視点を持ちながら鑑賞の場を検証し、とびラー同士でファシリテーションのスキルを高め合うことは、実は簡単なことではありません。しかし、経験を積むことで、ふりかえりの方法自体もスキルアップしていけるはずです。
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今日の講座をきっかけに、実践とふりかえりのサイクルがさらに回っていくことを願っています。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.10.26
第6回建築実践講座|「公・共・私・個を意識し,それを越えて新しい関わり方をつくる」
日時|2024年10月26日(土) 14:00〜16:00
会場|東京藝術大学 第1講義室
講師|山田あすか(東京電機大学 教授)
人々が集う空間の<公・共・私・個>の段階的変化や、公共の在り方について、東京電機大学 教授の山田先生にお話を伺いました。
山田先生ならではの視点で語られる国内外の場づくりやまちづくりの事例は、とびラーが任期満了後それぞれのコミュニティに戻って活動する際の大きなヒントになったのではないでしょうか。
「場をデザインする」とは、その場所(コミュニティ)を共有したい人は誰なのかを考えてフィルタを想定することというお話は、参加したとびラーの多くが印象に残ったようです。
とびラーからのふりかえりの一部をご紹介します。
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•活動内容ではなく、その場所ありきでハード面から活動内容を考えることが興味深く、話を聞くことが出来た。来る人に主体性を持たせることで、その場に責任を持つという考え方も納得できた。今までは、みんなに開かれたことが大前提だったが、フィルターを掛けることも場のデザインには必要だと知った。
•特に、「みんな」って誰?と言う問いかけは新鮮でした。「誰にでも」とは、少しづつフィルターを掛けて「その場を求めている人誰にでも」ということなんだ、そして「少しづ広げていく」「次」を作ることで、結果的により開かれた場となっていく、というのは腹に落ちますね。「みんな」一人一人に個性やニーズがあり、「共生型コミュニティー」を作るというのは実際にはいろいろと難しい事がある、という当たり前のことが、あらためてよく分かりました。
•軸となる場所や事柄は始めから完璧でなくとも関わった人達と緩やかなつながりで変化していってもいい、という考えかたがあることに気がつけました。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.10.12
第5回建築実践講座|「東京藝術大学が考えるキャンパスデザインとは」
日時|2024年10月12日(土) 10:00〜15:00
会場|東京藝術大学 第1講義室
講師|君塚和香(東京藝術大学 特任助教)
今回の講座は2部構成で、午前は東京藝術大学 特任助教の君塚和香先生による講義でした。
君塚先生は建築士として設計の仕事に携わるかたわら、東京藝術大学キャンパスグランドデザイン室で藝大キャンパス内の建物や環境の再構成・構築を担っていらっしゃいます。
東京藝術大学と上野公園や周辺地域とのつながり、公共空間とパブリックスペースの考え方や開き方について、過去・現在・未来とお話いただきました。東京藝術大学の住所は「上野公園」であり、上野公園の一部でもあるという視点で語られるお話が印象的でした。
そして午後は、君塚先生が中心となって推進している、藝大と公道との間にある柵を植栽に変えるプロジェクト「藝大Hedge」を体験しました。
とびラーは、藝大上野キャンパスの芸術未来研究場と国際子ども図書館との境界約100mに700本以上(18種類)の苗木を植えました。
午前の講座をふまえて実際に植栽することによって、実感を持って公園の一部であり、大学と外の境界を意識し、公共空間に関わる体験になりました。
市民も参加できる「藝大Hedge」のお世話係に参加するとびラーもいて、君塚先生の主導で藝大生も一緒に植物のお手入れをしています。
今回植えた苗木が大きくなる頃には、とびラーは開扉していることでしょう。これからも上野に来て、この周辺環境の変化を見続け、感じてほしいなと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.09.30
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第5回鑑賞実践講座|「ファシリテーション事前準備」
日時|2024年9月30日(月)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)
内容|ファシリテーション事前準備(グループ作品研究、個人作品研究)
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第5回の講座では、Visual Thinking Strategies鑑賞(VTS)のファシリテーションをするための事前の準備について知り、複数人のグループワークと個人ワークを通じて理解していきました。
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VTS鑑賞では、まずファシリテータ自身が作品を事前によくみて、味わい、作品から立ち現れるテーマや魅力を掴んでおくことが重要です。事前の作品研究では、時間をかけて丁寧に作品をみながら、テーマや魅力を読み解いていきます。
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まずはグループでの作品研究。
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お互いの視点を聞き合い、それぞれの意見を主観的意見と客観的意見に分類し、作品から見つけられる根拠や主観的解釈を補完してマッピングしながら、作品研究シートを作成していきます。
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つぎに、個人での作品研究です。
普段ファシリテータとして事前準備をする際は、担当する鑑賞作品をそれぞれが自分で準備する場面が増えていきます。
そのため、事前にひとりで作品の魅力やテーマに近づけるように練習することも重要になります。
こちらも、時間をかけて作品研究の練習を行いました。
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今後、とびラーは多くの作品に関わっていきます。それぞれの作品に対して、観点を整理し、それぞれの観点の関わりを分析し、作品に近づく体験を積み重ねながら、鑑賞の場をデザインする視点を育ててもらえたらと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.09.29
第4回建築実践講座|「前川國男邸から見える前川建築」
日時|2024年9月29日(日) 9:30〜12:00
会場|江戸東京たてもの園
講師|早川典子(江戸東京たてもの園 学芸員)
第4回建築実践講座は、東京都小金井市にある江戸東京たてもの園で実施しました。
東京都美術館を設計した建築家・前川國男の自邸が、江戸東京たてもの園に移築されています。
前川自邸のリビングにて、江戸東京たてもの園 学芸員の早川典子さんにお話を伺いました。建築デザインのお話だけでなく、生前の前川がどのようにこの家を使っていたのか、また学芸員が、移築や保存をするにあたり行った工夫や努力など非常に多くのエピソードをお聞きすることができました。
たてもの園には、多くの復元建造物があります。とびラーは、30件ある建物の一つひとつを鑑賞し、それぞれが発見したことを互いにシェアしながら学びを深めていました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.09.14
第3回建築実践講座|「建築ツアーをやってみよう」
日時|2024年9月14日(土) 10:00〜15:00
会場|東京都美術館 ASR・スタジオ
講師|峰岸優香(東京都美術館アート・コミュニケーション係 学芸員)
今回の講師は、東京美術館がおこなっている「とびラーによる建築ツアー」を担当している峰岸優香さん。
まず第1回の建築実践講座内容(都美の建物と歴史)をふりかえり、建築ツアーでどのようなことを大切にし、どのように来館者をお迎えしているかについてお話がありました。
その後は「15分間のMY建築ツアーをつくろう!」ということで、とびラーそれぞれがツアープランを考えました。
東京都美術館パンフレットやトビカンみどころMAP、館内にある資料から読み解くだけではなく、実際に館内を巡り、一人ひとりが感じる「ここが好き!」「気になる!」をみつけてツアーを組み立てていきました。
お昼休憩をはさんで午後は、各々が考えたツアーを3人組になって交代で実施しました。
ツアー後はやってみた感想や思ったことをシェアし、ツアーの構成や伝えたいことが伝わったのかについて考えました。
「とびラーによる建築ツアー」は決まったコースがあるわけではありません。ガイド役のとびラーによって紹介するスポットはさまざまなので、参加するたびに新たな発見があるツアーです。
今回の講座の学びが建築ツアーに活かされたらいいなと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.08.26
第4回鑑賞実践講座|「展示室で学ぶ場づくり 〜スペシャル・マンデーに向けて〜」
日時|2024年8月26日(月)14:30~17:30
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ、ギャラリーA・B・C(『大地に耳をすます 気配と手ざわり』展 会場)
講師|石丸郁乃(Museum Start あいうえの)、越川さくら(とびらプロジェクト)
内容|
・「スペシャル・マンデー」の事前〜当日〜事後の流れを学ぶ
・当日の流れを展示室で体験する
・会場を知る
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第4回の講座では、とびラーが活動する「Museum Start あいうえの」の学校来館プログラム「スペシャル・マンデー」に向けて、展示室での鑑賞の場づくりについて考えました。
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まず、「Museum Start あいうえの」のプログラム・オフィサーである石丸郁乃さんが、「スペシャル・マンデー」の映像を交えながら、プログラムの概要を説明しました。事前授業〜当日の展覧会鑑賞〜事後授業までの流れを理解することで、プログラム全体の構成を把握しました。
続いて、講座担当の越川が、作品を守りながら展示室で子どもたちの鑑賞を深めるためのポイントについてレクチャーしました。
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その後、スペシャル・マンデー当日のプログラムの流れを、実際に鑑賞する展覧会会場で体験しました。
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とびラーたちは、子どもたちの鑑賞体験を想像しながらグループで展示室を巡り、鑑賞を楽しみました。その上で、作品保全のために注意すべき動線や、子どもたちのグループをどのように誘導するかを確認しました。
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2024年度のとびらプロジェクトには全盲のとびラーが参加しています。鑑賞実践講座では、毎回の鑑賞作品に合わせてスタッフが「触図」を制作し、構図やモチーフの形を伝えながら情報保障を行っています。
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今回の講座では、実際の作品の前でグループで鑑賞を行う際に、手元にA4サイズの「触図」を用意しました。全盲のとびラーは、実際の作品の大きさについてスタッフから説明を受けながら、手元の触図で構図を確かめつつ、グループでの対話に参加していました。
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グループでの鑑賞後は、スペシャル・マンデー当日に子どもたちが体験する「ひとりの時間」を、とびラー自身も体験しました。
グループで対話しながら鑑賞することで視点が広がり、作品への理解が深める回路ができた後、ひとりで作品と向き合い思索する時間です。この流れを実際に体験することで、とびラー自身も子どもたちにとっての「ひとりの時間」の豊かさを実感しました。
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展示室での体験が終わった後は、「鑑賞者と作品の両方にとって、安全で安心できる鑑賞の場を作れていたか」という視点で、グループごとにふりかえりを行いました。
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9月から始まる「スペシャル・マンデー」に向けて、何度も展覧会に足を運び、さらにファシリテーションのイメージを深めていきましょう。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)