2025.01.19
2024年12月4日、快晴の窓からは利根川がきらきらと輝いて見える東京藝術大学(以下、藝大)取手キャンパス原田研究室で、美術学部先端芸術表現科4年生の杉田 碧(すぎた あおい)さんに、卒業制作や学生生活、これからのことを伺いました。
〇 卒業制作展に向けて制作中の作品の内容について
― はじめに作品を観させていただいてよいでしょうか。
今制作している作品は、会場に設置する映像インスタレーションです。ここには作品を設置していないので、今手元にある映像や記録の写真をご覧ください。会場では、スクリーンを部屋の真ん中に張り、後ろの壁にも映像を映します。手前のブラウン管テレビにも同時に映像が流れます。CGや画像で作った、鑑賞者に語りかけるキャラクターをスクリーンに映し、浮かび上がって見えるようにしつつ、ブラウン管テレビ、スクリーン、壁の三層の映像が同期して鑑賞できるようになっています。映像では自分で作曲した音楽も流れます。
社会に存在する偏見や問題をリサーチし、現実にあるものを非現実的なものに変換して、リアリティを抑えつつ、観ている人にじわじわ影響を与えるという作品をつくっています。
会場で流れるピアノの曲も自身で作曲している
― この作品をつくろうと思ったきっかけはなんですか。
以前、卵子を提供すればお金を稼ぐことができるという発言をしている人を見ました。その発言から、お金に引っ張られて、軽はずみに命が誕生してしまう状態に危機感を覚えました。しかし、この話は自分とはそんなに遠い話ではないと思っています。自分ももし同じ立場だったら、同じこと(卵子提供)をしてしまうかもしれない。そのような懸念を作品で表現できたらと思い制作したのが、〈Gift〉(2023)という2チャンネル・ビデオインスタレーションです。
そこから卒業制作に向けて、遺伝子操作やデザイナーズベイビーについても調べ始めました。そして、誕生する前から、親から子への理想像や価値観の押し付けができてしまうことにも疑問を抱きました。これらが技術の進歩によって不可能ではなくなっていることに対する注意喚起ができたらいいなと思っています。
作品は3部構成で、第1章では生殖医療の進歩によって引き起こされる問題、第2章では世界で起こっている戦争や身近なところに存在する大変なことに気づかないふりをしている人々について、第3章では優生思想やルッキズムといった、他人に自分の理想を押し付けてしまうことをテーマにしています。
人形劇などから着想を得て、できるだけ生身感がなくなることを意識しながら制作をしています。実際に存在する人はコントロールできず、いやでもその人固有の要素が出てきてしまう。今自分がコンセプトをもって作品として出す上で別の要素が入ってほしくない。できるだけ自分の思ったかたちにできるという点で現実にいない人のほうがやりやすいと思っています。
― いつからこのようなスタイルで制作されているんですか。
去年くらいから始めました。それより前は映像の制作はやったことがなくて、平面の細密画を描いたり、立体の作品をつくったり、映像とは違うことをいろいろ試していました。1、2年生ぐらいまでは、こういうものを作ろうと思って作品をつくるというよりは、描くことによって楽になる、救われるという、自分主体の制作でした。でも、あるときから、そのような制作のスタイルは自分をさらけ出す行為で、自分がすり減っている気がして、自分主体でつくることがしんどく感じるようになってしまいました。3年生の時に、他人に向けてアプローチする方法が自分には合っているかもしれないと気づき、テーマは変えずに少し視点を変えて、今の感じになりました。
― 生殖医療や優生思想、ルッキズムに関心をもったきっかけはなんですか。
1年半くらい前からニュース、SF的な小説を好んで読むようになりました。なかでも村田沙耶香さんの小説が好きで、その世界観に触れ、関連するテーマを調べるようになりました。日頃生活する中で、SNSや人との会話で引っかかる発言やちょっとした疑問が積み重なり、なんでルッキズムに支配されなければならないのかとショックを受けることもありました。そうしたことがきっかけだと思います。
― 生殖医療や戦争、優生思想に対する課題をどう感じていますか。
やっぱり、危ういなとは思います。この状況は変えようと思ってもなかなか変わらないし、進み過ぎてしまっている。情報も錯乱していて、消費社会になってきている。子どもも命も自分の都合のよいように扱われてしまう。このことに対して、何にも感じない人はいないと思っています。育ってきた中で培われてしまうものがあり、そもそも社会全体から変わっていかないとどうしようもない。難しいとは思いつつ、なにか少しでも変えられたら。自分への自戒にもなるので、向き合っていきたいという気持ちでいますね。
〇 今の制作スタイルについて
― インスタレーションという方法を選んだのはなぜですか。
大学に入って一時期からずっとインスタレーションをやっていて、空間づくりが好きです。平面の作品も素晴らしいと思うけど、私は(鑑賞者が作品の中に)入ってほしい。世界観として引き込まれる構図にしたい。暗いところで外の情報を遮断するような感じで、いつも空間づくりをしています。
― どのような手順で作品を制作されていますか。
いつも同じようなテーマから作り始めています。最近は生殖医療に関心があるんですけど、もともとルッキズムを作品で扱ってきました。今回も、ルッキズムに含まれる排他性が、優生思想やデザイナーズベイビーにも通じるというところから始まっています。言葉先行なので、基本はテーマを決めて、言葉やストーリーを考えてから全体を組み立てるという作品のつくり方をしています。
— メッセージを伝える時に、他の方法よりもアートがよいと思う部分はどこですか。
アートの好き嫌いは置いておいて、社会問題だけを直接伝えられると気が引けてしまう気がするけれど、アートはビジュアルや、空間、世界観という、社会問題と別のところで組み立てることで相手にとって入りやすくなると思っています。少なくとも私はそのほうが親しみやすい。一見社会問題とは別物だと思って作品を見始めて、あとからじわじわ気づかされるほうが効果的だと思っていて、そのことを意識してつくっています。何これ面白いみたいな感じで見始めたら、実は重たいテーマだったという感じがいいかなと思って。何かを渡せて持って帰ってもらえたら嬉しいなと思って制作していますね。
― 音楽と映像を合わせたことでよかったと感じたことはありますか。
音楽と映像を合わせたことで、今までやってきた中で一番鑑賞者に伝わっている感じがします。映像はやらないと決めつけていたんですけど、いざやってみたら向いているかもと思いました。3年生の時にレディメイドという既成のものを使って作品をつくるという課題がありました。聖母マリアの肖像画に、チャップリン監督・出演の映画『独裁者』の中のスピーチを語らせ、その音声を無理矢理楽譜に起こし、ピアノで弾くというパフォーマンスをしました。聖母マリアからイメージされる理想の母像とは乖離する言葉を語らせることでイメージの乖離を表し、さらに言葉を音にすることで言葉すら原型をとどめていない状態をつくることで、情報を信じることの危うさを表現したいと思って制作しました。周りからよい評価をもらったので、映像をやってみようかなと思いました。
― 作品を展示する際に、好きな場所や理想的な場所はありますか。
まだ経験が浅いので、外部の展示空間で出来ていません。近いうちに何もない、まっさらな展示空間としてつくられたところでやれたらいいなと思っています。
〇これまでとこれから
― 今の作品のテーマと藝大で作品づくりをしようと思った動機はつながっていますか。
どうなんだろ。もともとそんなに美術を専攻しようと思っていなくて。美術はもちろん好きだったし、高校の授業でも楽しくやっていたんですけど。ずっとピアノや作曲をやっていて、どちらかというと音楽の方が得意でした。ピアノも既成の曲を弾くよりは自分でつくったり、即興で弾いたりするのが好きで、あるものをなぞるよりも自分でつくる方が得意という自覚がありました。曲をつくる感覚と映像をつくる感覚は近いと思っています。高校生の頃は、何かに囚われているような感覚を発散するために、定期的に絵に落とし込んでいて、それをポートフォリオとして出したら運良く藝大に合格しました。
ルッキズムは直接的にはつながっているかわからないですが、日々の悶々とした、漠然としたものと、作品に落とし込む前のもやもやは、間接的にはつながってはいたのかなと思います。
― なぜ先端芸術表現専攻を選んだのですか。
純粋に楽しそうと思ったのが一番です。自分の興味範囲が広くて、ドローイングもしながら画像編集も趣味でやっていました。それらを融合できる学科で、何をやってもいいので面白そうだなと思って選びました。
― 原田研究室を選んだのはなぜですか。
原田愛先生は、舞台美術を専門にしている先生で、大がかりな設営に詳しく、自分が制作したいものと近いので選びました。これまでもいろいろと相談に乗っていただき、学びの多い環境です。ゼミの先輩方にも、劇団を立ち上げている人や、暗室空間での作品をつくっている人がいて、自分の作風が演出的な作品づくりという点で合っているのかなと思って選びました。
― 藝大での学生生活はいかがでしたか。
最初は入学できたのが嘘みたいで不思議な感じでしたが、環境にだんだん慣れていきました。周りの人たちは、話したいことが似ているので、とても居心地がよく、充実していたなと感じています。取り組んでいるテーマが同じ人は少ないですが、自身が探求していることでなくても深掘りしてくれて、対話ができる環境なのでありがたいと思っています。
2年生から取手キャンパスに通うようになりましたが、思っていた以上に自然豊かで驚きました。身近に自然があるのは嬉しいです。
― 大学院に進んで、このままずっとアーティストとして活動をされる予定ですか。
結構悩んでいるんですけど、自分のために作るより他者がいる方が作りやすいです。アーティストとして一人で活動していかなくてもいいのかなっていうのがあります。空間づくりに関心がずっとあるので、空間演出にも興味があります。あとは、自分で文章を書いてストーリーを考え、空間をつくることを卒業制作でやっていますが、それらをメディア別に分けて、自分が書いたストーリーを本にしてみたり、空間だけで作品化することにもチャレンジしたいと思っています。
取材を終えて
卒業作品展では、杉田さんが制作された作品である展示空間がどのようになっているか楽しみです。また、杉田さんは、絵画も、映像も、音楽もできる多才な方なので、今後どのような表現活動をしていくのかとても楽しみです。貴重な時間をいただきありがとうございました。
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取材・執筆:正木伶奈、長沼千春、山中大輔
撮影・編集:竹石楓(美術学部日本画専攻3年)
多様な技術を組み合わせて、社会問題に対しての一貫した興味と危機感を表現してきた杉田さん。制作の紆余曲折や背景を知れたことで、卒展が一層楽しみになりました。これからの活動も応援しています!(正木伶奈)
やわらかい雰囲気の中にもしっかりと自分の軸を持って受け答えしている姿が、とても素敵だな〜と感じました!個人的にも興味のあるテーマなので、卒展の会場で実際に展示された作品を見るのがとても楽しみです。(長沼千春)
杉田さんは、ドローイング、映像、音楽をすべて自分でつくられていて、かつテーマが社会的な内容で、それを空間を作品にした時にどのような場になるのか実際に作品を観てみたいと思いました。これから先もどのようなアーティスト活動をされるのかとても楽しみです。応援してます!(山中大輔)
2025.01.19
上野公園の銀杏が一気に色づいた11月下旬、東京藝術大学(以下、藝大)の上野キャンパスに、同大学大学院美術研究科の間瀬春日(ませ はるひ)さんを訪ねました。間瀬さんは、文化財保存学専攻で保存修復工芸研究室に在籍しています。
文化財修復の研究室は地下にあり、中に入ると木の香りが微かに薫る「和」の空間でした。しかも靴を脱ぐという手順を踏むことで、ちょっと異空間に入るような感覚になりました。
-修了制作はどんな作品に取り組みましたか?
紫陽花で有名な鎌倉の明月院に織田信長の弟、織田有楽斎が100揃い(100個セットのお椀)寄進したものと言われている「明月椀*(めいげつわん)」というお椀の復元模造制作です。今回の制作のプロセスを見せたいので、卒展では出さないものも含めて今日は工程順に素材を並べてみました。
文化財の模造は2種類あります。傷みなども含め現状のありのままを再現する「現状模造」、もう一つは当時の技術を再現しながら、その当時の状態の作品を制作する「復元模造」があります。明月椀については後者で取り組みました。貝片で装飾をする「螺鈿(らでん)」の技法は特殊な技術なので、その再現として、素材の貝を桜の花びらの形に抜くところから取り組みました。
明月椀と制作プロセスが並ぶテーブル
この椀の螺鈿には「割貝技法」が用いられていて、この技法は椀の複雑な形状に合わせて貼り付けるので、1枚1枚にあらかじめ割れ目を入れて面に添わせるようにしています。現代の作品でも割貝は使われていますが、普通は貝を椀の面に押し当て、パキパキと割っていくことが多いです。明月椀のように、ここまで細かい割れ目を入れるようなパターンは珍しい技法なので今回、螺鈿部分を中心に復元しようと思いました。
素材はアワビ貝で、0.15mm程度の比較的厚い貝です。調べるとどうも鏨(たがね)*で打ち抜いたものではないと考え、今回糸鋸で一つ一つ自分の手で形を切り抜きました。
*明月椀(めいげつわん):桜花文散し螺鈿椀。朱塗りに螺鈿(らでん)の桜花文が埋め込まれた桃山・江戸時代の輪島塗の木製椀。
*鏨(たがね):鋼鉄製の加工用工具。
貝から花びらを抜く工程
-なぜ糸鋸機を使わなかったのですか?
「技法の再現」もテーマなので、当時存在した手段を用いました。仮に椀を100個とした場合、計算すると全部で花びらを約29,000枚用意しなければならないので、量産も加味しながらアプローチしました。
螺鈿の桜花文の花びらの部分は、貝片を6枚重ねにして切ることで半量産を意識しました。貝片はデンプン糊で接着させているので、水に浸ければバラバラになります。花びらの真ん中のポツッとした柱頭はとても小さいので、鏨(たがね)で1個1個打ち抜きます。この柱頭を中心に、丸く切った和紙の上で桜花文を作りますが、花びらとの間に隙間をあけることで桜の形がパキッと見えます。そして花びらに、あらかじめ割れ目を入れておきます。
これに注目!花びらの中心にある点「柱頭」
和紙で裏打ちした桜花文
こうして和紙で裏打ちした貝ができるわけですが、大変なのは貼り付ける過程です。紙から貝が剥がれて落ちてしまう・・また貝は自然物なので当然天然の傷や割れはあり、そこから予期せず砕けることもあります。
貝を貼り込む明月椀の器の素地は、文献調査と、オリジナルの椀の透過X線写真を撮ることで、ヒノキと推定できたので今回ヒノキから椀の形を作り、縁の部分に薄い布を着せ、その上で全体に砥の粉と漆を混ぜたものを塗り重ねて下地を作りました。
復元模造のためのヒノキ椀
最初は刷毛目などが残って表面が粗いので砥石を使ってひらすらツルツルになるまで砥いでいきます。そして下地が出来た段階で螺鈿を貼り、そこに上から漆を塗り重ね、乾いたら、炭などを使って螺鈿部分を見せるために砥ぎ出していきます。これを繰り返して作品が出来上がります。形態は素地の段階で完成しているので、あとは目指した仕上げのレベルになるまで繰り返します。同じ工芸でも陶芸などは、一度焼き上げたものがそのまま作品になりますが、漆は同じ工程(塗って砥いで!塗って砥いで!)をひたすら繰り返すので、周りから「(すごすぎて)おかしい!」と驚かれることもあります。(照れ笑)
-とびラー3人「うんうん(ごもっとも!)」(笑)
工程見本の板
<主な制作工程>
木製の蓋つきの椀の縁に麻布を着せ漆で下地を塗る→乾かす→貝を型抜き桜の模様を制作し椀に貼る→桜の模様の上から漆を全体に塗る→乾かす→桜の模様の部分だけ漆を剥ぎ起こす
螺鈿の漆を剥ぎ起こす
-作品制作に掲げているテーマはありますか?
自分にとって明月椀の復元模造は挑戦でした。学部は金沢美術工芸大学で漆を学び卒業後、一度京都で社会人を経験し、そこで漆屋さんとのお付き合いがありました。もともとは乾漆造形をつかったオブジェを制作していたので、藝大に来て初めて螺鈿に触れました。
藝大美術館所蔵の明月椀一揃いが、修復予定の作品として研究室に来ていたのですが、私が鎌倉出身で椀づくりと所縁があり、また漆を学んだ関係で材料や業者といった制作への見通しが立ったので、やってみようかという気持ちで、この椀と向き合うことになりました。
過去にも明月椀の復元に取り組んだ人はいましたが、記録は残っていないので、この修了制作を通じて後続の人たちの参考になればという想いはあります。
-いつも明月椀とどんな気持ちで向き合っていますか?
シンプルに面白い。これだけ合理的で突出したカッコいい技術が備わった作品をスパッと出されてしまうと勝てないな、という気持ちになります。特にわざと凹凸があるところにこれ見よがしに螺鈿の桜模様を貼り、それを400年前に100個揃えるというセンスには驚かされます。そんなカッコいいものに、藝大に入って触れることができたことはとても贅沢なことだと思います。
-苦労して取り組んだ修了作品について、どういうところを見て欲しいですか?
まずは意匠のカッコよさを見て欲しいです。特に螺鈿が複数の凹凸部に貼られているところ。制作は大変だろうなとは思っていましたが、想像以上でした。
中塗りが終わったところ
-間瀬さんにとっての漆の魅力とは?
高校の時、美術予備校の先生が漆をやっていて興味を持ち、藝大の卒展で見た漆の作品がめちゃくちゃカッコよかったので、大学で漆をやりたいと思いました。祖父は、手書きの看板職人と大工だったので、もともと手に職がある仕事に非常に憧れていたこともあり、進路は自然に決まりました。それと、わからないものに興味があります。宇宙も海洋も大好き。漆もわからない。わからないことがあるから面白い。昨日はきちんと乾いたものが、今日は乾かない。そんな漆のご機嫌伺いをしながら暮らしています。だからこそ面白いのであって、死ぬまでずっと漆に触っていたいです。
-ここまで漆にたずさわってきて作品づくりで思うことはありますか?
最初はデザイナーを目指していましたが、デザインのためのアイデアを考えるのがつらい一方、手を動かすのは苦にならないので、工芸志望にしようかなと思いました。漆の素晴らしい作品を見て、結局漆を専攻することになりましたが、並行して作家としても活動していて物づくりであればいくらでもできます。作家として作品のアイデアを考えるのは相変わらず苦労していて、寝ていてハッと思い付き、それを忘れないうちにスケッチして、みたいなこともあります。
自分が創作する作品は、今の時代に通用するカッコいいものをと思いつつ、やっている技術はひたすら磨くことを繰り返す・・めちゃくちゃ伝統的なもの。面白い形の中に隠された技術的なところ、これはどうやって作ったのかということを聞いてもらえると嬉しいです。
-大学を卒業した後、一度社会人を経験されていますが、そこからなぜ修復に進んだのでしょうか?
学部を卒業した時がコロナの大流行と重なり、大学院進学は難しいと感じ、一度社会人になってみようと考え、ギャラリーが付いた京都のホテルで働いていました。目の前で美術品が大量に売買されている一方、博物館では残すべき作品が朽ちていくという現実を目の当たりにしました。でもそれを担う人材がいない、そういう現実の中で働きながら作家を続けていましたが器用にできてしまい、自分のキャリアはこのまま兼業作家でいいのか?という迷いがありました。そんなとき「作品はいつか壊れる」という恩師の言葉から、100年後に自分の作品が残って使ってもらえるようにしたいと思うようになりました。そのためには、作家とは別の角度からも漆を極めておきたいと修復の道に進みました。
-ワークショップで金継ぎなど修理を教える・伝えるということと、作り手という立場は、各々どういう意識でのぞんでいますか?
皆が関心を持つ金継ぎを教えることで、人が漆器などにも興味をもってくれるのであれば、喜んで出向いていきたいです。微力ながら100年後の世にも漆を残せるようにしたいと思っています。どんなにいいものでも見た目がカッコよくないと見てもらえないので作家としては作品としてカッコいい作品を作りたいですし、金継ぎをSNSで発信する際も、オシャレに写そうとかを意識しています。見せ方がまずはカッコよくなくっちゃと(笑)。
-これからどういう人間になりたいですか?
将来は、「漆だったら間瀬」と言われたいです。研究もしたいし、作品も制作したいし、死ぬまで漆に関わっていたいです。それぞれの領域とのいい距離感を保つためにも、制作で悩んだら、研究で修復に学ぶというスタイルが個人的にはいいと思っています。
間瀬さんは、藝大の研究室を受験する前、藝大生インタビューの記事をみつけ、内容を見ながら学生生活を想像していたそうです。今回インタビューに選ばれたことがとても嬉しく、記事が完成するのが楽しみとのこと、ご期待に応えることができたらと思います。
取材:染谷都、志垣里佳、菊地一成(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆:菊地一成
撮影:竹石楓 (美術学部日本画専攻3年)
「死ぬまで漆にかかわりたい」この言葉が一番印象的でした。一生かけて添い遂げるものがある、それはとても羨ましいことです。今後の間瀬さんの作品を追いかけていきたいです。( 菊地一成)
「将来は『漆だったら間瀬』と言われたい」。極めたいという職人気質に心うたれました。出身地、鎌倉の名椀に出会える強運の持ち主の未来がたのしみです。 (染谷都)
漆と螺鈿を観る目がこれから変わりそうです。先人のこれ見よがしの職人技に向き合う、二刀流ならぬ三刀流の間瀬さんの覚悟に敬服しました。(志垣里佳)
2025.01.16
武蔵野の面影を残す雑木林が点在する、のどかな丘陵地帯。東京藝術大学(以下、藝大)取手校はその中に広大なキャンパスを構えています。
ほどなくして、校舎から続く丘の小道を勢いよく駆け下りてくる一人の方が…。それが今回インタビューするYe Feng(イェ・フェン)さんでした。
「お待たせしました、早速スタジオをご案内しますね!」
お互いに軽い自己紹介をすませ、私たちはグローバルアートプラクティス(以下、GAP)内のFengさんのスタジオに向かいました。
(以下のインタビューは全て英語で行われ、取材したとびラー3人が翻訳・編集しました。)
香港に生まれロンドンで育ったFengさんは、国際的・言語的に様々なバックボーンを持っています。
「それが私の創作のルーツ、アートの源になっているんです」瞳をキラキラと輝かせながら語るFengさんは、パワフルそのものです。聞けばこのインタビューの翌日に Evaluation Show※を控え、制作も大詰め。
「今日のタイミングで、皆さんに制作のプロセスをお見せすることができるのは、本当に嬉しいです。 まずはこの作品を見てください」
※Evaluation Show=卒業のための最終審査。
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「インタビューのために、制作途中の作品を用意しておきました」 最初に案内されたのは、工場のような本格的な作業場。目の前には建築用の鉄筋を使った立体作品がありました。制作過程を聞けば、「太さの違うむき出しの鉄の棒を様々な長さにカットし、溶接や表面の加工を繰り返し、環(circle)の形に組み合わせています」とのこと。工具を併用しながらも、鉄筋を自らの手で細かく曲げていることに驚かされました。
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ーこの場所で制作されているんですね
はい。組み合わせた鉄筋が、まるで浮かんでいるようにしなやかに輪を描いているでしょう、地面に置くと自立するけど、重い素材のはずなのに、指で押すだけでゆらゆら動く。硬さや柔らかさ、そして強弱。様々な対比を大事にして制作しています。
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ーこの作品のコンセプトはなんですか?
自分のルーツから、「言語」が中心となっています。
小さい頃から、国際的な環境が当たり前で、言語を通して様々な文化や歴史を知ることも多く、甲骨文字を含め様々な言語のルーツを研究し、人類学や文学を深堀りしてきました。当たり前のように使っている言語ですが、そこには誤解やすれ違いも伴います。大人になるにつれて、小さい頃には感じなかった、コミュニケーションの難しさを知るようになりました。
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言語はたくさんの意味を抱えて存在しています。選びながら、構築しながら、私たちはそれぞれ自分自身の言葉を紡いでいます。
バラバラだった直線の金属が曲がり、つながり、環を描いていくことが「言語の伝達」への表現とつながっています。
ーつながって、揺らいだり自立したり、ですね
私の作品にみられる流れるような金属の線は、抽象的な表現ではあるものの、言葉や文字のように、何かのシンボルとして存在しているとも捉えています。
本来、機械を使って磨き上げたり、綺麗な環に繋げたりもできます。でも私はそうはしません。私たち人間も「完璧ではない」からです。
形状や動きがユニークな立体作品ですが、近くで見るとさらに細かいこだわりが見つかります。時間を経てさびていく金属の材質を活かし、表面のテクスチャを様々な表情に仕立て、溶接のつなぎ目もゴツゴツとした個性のある関節のようです。個性がありユニークであるのが人間。そのありのままの姿が、作品を通して表現されています。Fengさんの「金属で描いている」という言葉がよく伝わります。
「次に、Evaluation Showの部屋をご案内しますね。さっきの環(circle)がここでは様々に形を変えて空間を構成していますよ」
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Evaluation Showの会場は、天井の高い四角い部屋。
その中に、金属の立体作品、油絵の平面作品、ライトで作り出された光と影、そして手作りのスピーカーから流れる音。たくさんの要素が集まった部屋全体が一つの作品であり、作品どうしが共鳴する空間が創られていました。
ーこの空間はどのように創られたのですか?
最初から様々な表現を組み合わせようと決めていたわけではなく、自分の感性に従って創作を進めて、最終的にこのような空間ができあがりました。直感を信じて進めるのが私の創作スタイルなんです。
ー先ほどの作業場で見せてもらった金属の環の作品が、ここではさらに形を変えていますね
そうです。地面に置かれたものもあれば、小さく繋げて空気をまとうように空間に浮かせたものもあります。金属の環の一つ一つが、様々な文字をバラバラにして再構築するようなイメージなんです。作品自体のユニークさだけでなく、壁に映る光と影のバランスも見てくださいね!
流れている音は、金属素材を扱う時の音を録音して作りました。壁の高い所にスピーカーを設置したので隣の壁から響きわたるような幻想的な聞こえ方になっているでしょう。
ー金属、絵画、音楽、光と影。立体作品と平面作品など、組み合わせが考えられた空間ですね
絵画は、サイズが違うものを壁に並べて空間を創る飾り方を考えました。基本的には油絵具をキャンバスの上でそのまま混ぜて自由に描いています。実際の展示では触れないことも多いけど、触ったりもできるインタラクティブな展示が理想的ですね。この組み合わせた空間ごと身近に感じてもらえたら嬉しいです。金属の環は中をくぐれるくらいの大きさでしょう?私は自分の体と同じくらいの大きさの作品をつくることが好きです。
「次に油絵を描いているアトリエの方へ移動しましょう」
私たちはEvaluation Showの会場を後にし、日差しが降り注ぐアトリエに向かいました。照明を落とした部屋から、天井が高く明るいアトリエに来て、どこか異世界から現実世界に戻ってきたような感覚でした。
ーこのアトリエも素敵ですね。たくさんの油絵がありますが、これらも卒展作品ですか
ちょっと散らかっているんですけど(笑)。今、ここにある油絵も、気に入ったものはさっきのインスタレーションに加えるかもしれません。
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ーここであらためてFengさんご自身のルーツや、アートへの想いを伺えますか?
私は香港に生まれ、ロンドンで育ちました。小さい頃は空想や考え事をすることが好きで、もちろん絵も描いていました。ロンドンにはミュージアムがたくさんあり、展覧会にもよく行っていましたが、本を読むことも好きで将来は医療や経済を学ぶのだろう…と思っていました。
でも高校生の時に気づいたんです。医療や経済は一つのことを掘り下げるイメージだけど、アートという分野は、そこを通じてもっと広い世界や深い歴史に触れることができるのでは?と。
ー高校卒業後、ロンドンで美術大学に通われたんですよね?
そうですね、高校時代、進路を決める時に当時の学校の先生に相談したら背中を押してくれて、大学への推薦状をいただけたんです。美大への入学が私の人生にとって大きな転機となり、さまざまな事を学びました。「アートジャーニー」とも呼べる流れが始まったんです。
ーGAPでの生活、創作活動はいかがですか
ロンドンのアートスクールを卒業した後、いったんは就職しましたが、日本の藝大のGAPコースの事を知り、入学することができました。素晴らしい先生や仲間たちに囲まれ、本当に充実した2年間を過ごしました。アートジャーニーがここに繋がっている感じですね。
自分にはマルチカルチャーで複数言語のバックグラウンドがありますが、成長するにつれ、それは私のユニークな個性であることを自覚するようになりました。カルチャーや言語についてさらなる思索を深めて、GAPでの作品制作にもその意味合いを込めるようになりました。
アーティストは自身の言葉・信条を表現し、どんな場所にいても、アートの事を考えることができます。私にとっては自然なプロセスで、あらゆることが繋がっています。それが私の人生そのものなんです。
私が今回選んだ金属・絵画・音響など、素材とも言えるものは昔から取り組んでいました。GAPに来てから他のさまざまな素材でも試してみましたが、金属や絵画は、以前より私にフィットしているように感じています。これらは私にとって大事な、変えることのできない血液型のような感覚なのです。
ーアートジャーニーは続く、ですね。卒業後のこれからについてお聞きできますか
そうですね、GAP卒業後も私のアートジャーニーは続いて、実験的な創作を繰り返したり今後の表現の種となるものを探していくでしょう。
日本には引き続き滞在しますよ。ずっと学校中心の生活をしていたので、キャンパスの外の世界も経験したいです。
私を表現するアートの創作も続けていきたいです。将来、どのような表現を展開していくのか未知な部分も多いですが、自分自身の変化や未来の姿に期待しています!
ー藝大の卒展は、どのような展示をお考えですか
そうですね、Evaluation Showと違う会場なので調整はしますが、自分の表現を届けられるように最終的な準備をすすめています。自身のコンセプトとアイデンティティがあってはじめて、自分の作品になると思っています。
だけど見てもらう人たちにとっては、まずは興味を持ってくれれば良いと思っています。複雑なことも哲学的な意味も必要ではないし、何も気にせず自由に楽しんで!と言いたいです。
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ーインタビューを終えて
Fengさんの印象的な言葉があります。 「ひとは皆、ある意味『一つの言葉』=自分だけの言葉を話しているんだと思います。それが英語、中国語、フランス語、どの言葉を話していても、それは自分から発信された、自分らしい表現をもった、『自分だけの言葉』なのだと思います」
一つ一つ独立したように見えるモノやコトも、どこかで循環したり、次の何かに繋がったり。 Fengさんがテーマとしている環(circle)と表現したものが、日本でも古くから言われている「縁(ゆかり)」にも似た感じを受けました。
今日のインタビューでできた接点はどんな環になり、次はどこに繋がるのか。同時に、何気なく紡ぐ言葉の大切さや自分らしさを、改めて感じさせられたインタビューでもありました。
帰りのバス停に向かう時、私たちが見えなくなるくらいまで、身体をいっぱい使って手を振りジャンプしながら「またね!」と見送ってくれました。
熱意あるアーティストであると同時に、とてもキュートでフレンドリーな一面も持ち合わせたFengさん。 この環(circle)を大切にして、藝大の卒展でまた会えるのを楽しみにしています。
取材/翻訳/執筆 前田 浩一 劉 鳴子 星 久美子(アートコミュニケータ「とびラー」)
写真/校正 樋口 八葉(美術学部芸術学科2年)
私は、自分の作品に込めた想いをキラキラした瞳で熱く語り続けるFengさんに魅了されていました。 彼女は、その時々の直感を信じそれを作品に込めて表現できる人、加えてその作品についての思いをしっかりした言葉にできる素敵なひとでした。(前田 浩一)
自分自身や作品と向き合い続け、アートへの情熱を伝えてくれたFengさんは本当にカッコよかったです。 その上で、オーディエンスには自由に楽しく見てもらいたい、と笑顔で言い切る姿がとても印象的でした。今後の作品も楽しみです!(劉 鳴子)
彼女の信じられないくらいのパッションから、あの作品が生み出されたと思うと、こちらまで元気になってきます。 アートだけではなく、人としての魅力や情熱をたくさん受け取っ た一日でした。彼女のアートジャーニーがこれからどのような道をたどるのか、楽しみです。(星 久美子)
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2025.01.07
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第8回鑑賞実践講座|「ファシリテーション研究」「1年間のふりかえり」
日時|2025年1月7日(火)10:00〜15:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)、熊谷香寿美(東京都美術館アート・コミュニケーション係長 とびらプロジェクトマネジャー)、越川さくら(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手 とびらプロジェクトコーディネータ)
内容|ファシリテーションの言葉の編集作業について/1年間のふりかえり
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第8回の講座では、ファシリテーションにおける「言葉の編集作業」について理解を深めました。また、1年間のまなびをふりかえり、今感じている疑問や気づきを全体で共有する時間を持ちました。
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午前中は、子どもたちとの鑑賞プログラムの様子を収録した映像を視聴しました。特に「ファシリテータが、鑑賞者の対話の流れをどのように編んでいくのか」に注目し、繰り返し見取りながら分析しました。
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午後は、1年間の講座と並行してとびラーが参加してきた鑑賞プログラムをふりかえり、実践を重ねてきたからこそ生まれた疑問や新たな気づきを全体でシェアしました。
この全体シェアは、事前にとびラーから集めた質問をもとに、講師の三ツ木さんと熊谷さんが答えるQ&A方式で進められました。
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今年度は、全盲のとびラーが仲間に加わったことで、「見えない人と鑑賞体験をどのように共有するのか」を考えながら講座を進めてきました。毎回の講座では、スタッフが制作した「触図」(触ることで、モチーフの輪郭や全体の構図がわかるもの)を使って、情報を補足しながら鑑賞を補助しました。「触図」を制作する際には、どこまで・どのように触れる部分を作るとわかりやすいのか、フィードバックをもらいながら検討しました。
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後日、全盲のとびラーがファシリテータとなり、作品画像を鑑賞する会をとびラーとスタッフで実施しました。
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鑑賞会とは別の事前準備の日には、複数のとびラーが集まり、作品選びと、作品研究を行いました。選んだ作品を細部まで観察し、想定される意見を出し合いながら、全盲のとびラーの「脳内マップ」に作品の視覚的な情報をマッピングする作業を行いました。また、ファシリテーション時の立ち位置などについても検討しました。
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鑑賞会当日には、モニターに投影した作品画像を使って鑑賞会を行いました。ここで初めてファシリテーションを担当した全盲のとびラーは、講座でのまなびを最大限に活かし、鑑賞者の新たな視点や対話を引き出していました。
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また、ここで鑑賞者の役割をしていたとびラーが、次の鑑賞会を自主的に企画するなど、次の動きにもつながっています。
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2024年度の鑑賞実践講座がすべて終了しました。今年度もとびラーは、小さなお子さんから高齢者まで、また、様々な文化的背景を持った方々と作品との出会いの場を作ってきました。
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3年目の11期とびラーは、とびらプロジェクトを任期満了し、それぞれの道へ。
1・2年目の12・13期とびラーは、2025年度のまなびと実践の場へと進みます。
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7月からの半年間をともにした三ツ木さんから、激励とともに挨拶がありました。
「VTSのファシリテーションには、これでOKという完成はありません。常に模索しながら、一緒にアート・コミュニケーションの活動を作っていきましょう。またお会いしましょう!」
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みなさんのこれからの活躍を期待しています!
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(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.12.20
一緒に畳にこしかけて
~上野アーティストプロジェクト2024「ノスタルジア―記憶のなかの景色」~
執筆:11期とびラー 曽我千文
おしゃべりしながらノスタルジア展
2024年11月16日から2025年1月8日まで東京都美術館で行われた、「上野アーティストプロジェクト2024 ノスタルジア―記憶のなかの景色」(以下「ノスタルジア展」)で、私たちとびラー(東京都美術館アート・コミュニケータ)は、「おしゃべり鑑賞会」を行いました。普段は静かに鑑賞している展覧会で、初めて出会った人や世代の違う人とお話をしながら鑑賞する楽しさ、ひとりでみるのでは得られない視点の広がりを体験していただこうと思ったからです。
あわせて、「ノルタルジア―記憶の中の景色」をテーマにしたこの展覧会の作品を通じて、ご自身の中にしまわれていた想い、過ぎ去った時代を懐かしむノスタルジアと向き合い、出会った人との対話により生まれる、新たな感情を味わうことで、豊かなひとときを過ごしていただけたらと考えました。
■あらかじめじっくりみる作品を選ぶ
ノスタルジア展で展示されている8人の作家による作品の中から、グループに分かれてじっくりみる作品を、あらかじめとびラーたちで考えて選びました。まず、4グループで各2点、計8点の作品を、8人の作家の作品からひとつずつ選んで鑑賞することとしました。
次に私たちは、8名の作家の作品を、鑑賞者にどこか懐かしい風景だなと思わせる作品を「ノスタルジー系」、実在するとは思えない不思議な世界を描いた「ファンタジー系」と名付けて2つに分けました。ひとつめの作品では、参加者のみなさんがお話ししやすいように、どちらかというと、個人の思い出と接点を見つけやすい「ノスタルジー系」を、2つ目の作品では「ファンタジー系」の不思議な世界から、自由に話題を膨らませていただけるようにと考えました。その上で、展示室内でグループの鑑賞ルートが交錯しないか、他の来館者のご迷惑にならない位置にあるか、鑑賞を言葉にして伝えやすい要素の多寡や、二作品の関係性など、準備のための打ち合わせやリハーサルをやりながら、様々な視点で検討して決めていきました。
ノスタルジア展が始まる2か月ほど前に、東京都美術館の担当学芸員の方が開いてくださった事前勉強会で、作家の紹介やどのような作品が出展されるのかの情報をうかがいました。その世界に惹かれたことが、おしゃべり鑑賞会をやりたいと思うきっかけになりましたが、ラボで準備を進めていても、会期前には具体的にどのような作品があるのか分かりません。そのため、待ちわびた会期初日には、どんな作品と出会えるのだろう、どの作品を「おしゃべり鑑賞会」で見たら話が弾むだろうと、わくわくしながら会場に入りました。「どの絵を選ぼうか?」と前のめりになっていたとびラーたちに、とびらプロジェクトスタッフからいただいた「まずは、作品との最初の出会いを大切にしてくださいね。展覧会を楽しんで!」とのアドバイスにはっとさせられました。対話型鑑賞のやりやすさ、グループが絵の前に立つための展示場所の広さや位置などを考慮して、作品を「選ぶ」気持ちで展覧会に臨もうとしていたことに気が付き、作品に対して申し訳ない気持ちになりました。まずはひとつひとつの作品に向き合い、作家の心に思いを馳せ、素直に鑑賞して展覧会を楽しむことの大切さを再認識しました。それは、おしゃべり鑑賞会に来て下さる参加者みなさんに、ご一緒に体験していただきたいことでもあったのです。
■会場をみんなでお散歩
「おしゃべり鑑賞会」を行ったのは、12月20日の金曜日。東京都美術館の2024年の最後の開館日でした。集まってくださった参加者は事前にお申込みいただいた14名のみなさん。ギャラリー入口であらかじめ入場券をお求めいただいた方から受け付けし、3人から4人の4つのグループに分かれていただきました。
ノスタルジア展は8人の作家による作品を、地下2階と地下3階のギャラリーで展示していました。はじめに、散歩をするように会場をひととおり歩いて見てまわりました。短い時間ですが、展覧会全体の雰囲気をつかんでいただくことと、「おしゃべり鑑賞会」が終わった後にも、ひとりでじっくり見るために気になる作品を見つけていただくことが目的です。
作家ごとにまとめられた展示では、それぞれの作風が鮮やかに主張されていて、歩きながら世界旅行をしているようです。参加者には、ご自身で感じる思いを大切にしていただくために、ファシリテータから説明や印象などは伝えずに、みんなで会場の雰囲気を味わうことを意識しました。
■グループで鑑賞する
グループ鑑賞は、ひとつの作品の前で足を止め、ファシリテータが「みなさんで、この作品をじっくり楽しみたいと思います。」と声をおかけして始めました。まず作品を、各自が自由に、近づいたり離れたりしながらじっくりと見ます。横長の大きな作品では、歩いて見る位置を変えるなどして、丁寧に味わっていただきました。そのあと全員が集まって、感じたことや、気づいたことを一人ずつ話して共有していくのですが、ここでは一緒に鑑賞している方の発言をよく聞いていただくことが大切です。一人の参加者がお話しするたびに、自分では気づかなかった発見を知り、「ほぉーっ」とため息がでたり、感じたことに同感して瞳を輝かせたり、自分の感想とはまた違う視点に「なるほど」と大きくうなずく姿が見られ、他の人の感想への共感によって、グループの中で、ひとつの作品に対する新たな視点や共通の見解が、どんどん広がっていきました。
■リラックス・スペースでおしゃべりタイム
2作品のグループ鑑賞を終えた時には、全員が旧知の仲のように打ち解けて、会話も弾む様子に、鑑賞を共に分かち合う場の力を感じました。
本展会場では、吹き抜けの天井を持つ広いフロアの真ん中に、八畳間ほどの畳敷きの休憩スペースが用意されていました。畳は触れるとほんのり温かく、腰かけてもよし、靴を脱いで上がってもよしのリラックス・スペースです。展覧会が始まる前のとびラー向け事前勉強会で、担当学芸員の方から「くつろぎながら鑑賞できるように、会場に大きな畳敷きのリラックス・スペースを作ります。」とうかがっていた私たちは、絶対この場所を楽しんでいただかなくてはと張り切り、鑑賞の体験をここで語りあおうと、「おしゃべりタイム」を用意していました。広さの関係から、2つのグループにリラックス・スペースを使っていただき、もう2つのグループにはそれぞれ見た絵のそばのベンチに座っていただきましたが、どのグループものんびりと、ノスタルジア展ならではの時間を過ごしていただけたようです。
あるグループでは、鑑賞後のおしゃべりタイムで、ファシリテータから2つの問いかけをしました。1つ目の「どんな時間でしたか?」の問いには、
「1人で見ると1つの考えしか持てないけど他の方の言葉を聞けて発見があった」
「2作品が対象的でメリハリがあって楽しかった」
「絵をみる醍醐味を味わった感じ」
「見た時に生まれるモヤモヤする気持ちを、一緒に見た人と共有できて安心できた」
という感想がありました。
2つ目の「ノスタルジアを感じましたか?」の問いに対しては、
「川の絵を見て、実家の近くに川が流れていて水の音に癒されていたと改めて感じた」
「描かれた場所を知っており、見慣れていた風景だとわかった」
「2作品目は原体験からアジアやルーツを表しているみたい」
という言葉があり、それぞれの思い出を想起したり、作家のノスタルジアに思いを寄せたりしたというお話をうかがうことができました。
もうひとつのグループは、それぞれ友人同士の世代の違う2組でしたが、4人の息がとっても合い、「世代の違う方から違った視点での鑑賞ができてとても楽しかった」という声をいただきました。鑑賞会が終わり解散してからも、しばらく4人で仲よく絵を見ている姿が印象的でした。高校生からは、「今まで、展覧会で感想を話す人の声をうるさいと思っていたけれど、これからは何と話しているのか聞いてみようと感じられるようになりました。」という心の変化もうかがうことができました。
■いただいた感想から
終了後のアンケートからは、14名の方全員から、参加して「とても満足」とのお答えをいただきました。たくさんの方が印象に残ったことに、「初めて会った人との鑑賞」をあげており、その理由として、
「自分が見ていなかったこと、気づかなかったこと等おしゃべりしながら見つけられて嬉しい」
「いろいろな見方や感覚・視点があることを実感して面白かった。絵画を通じたコミュニケーションで、初対面の相手でもその人の深い部分を知れたようで新鮮な感覚だった」
「1人でみるより何倍も楽しかった。皆さんの視点で想像力がふくらんでいくいのが、これまでにない経験でした。」
というような感想が寄せられています。
「美術館って、黙って作品を見なくちゃいけないところだと思っていました。」
この言葉が教えてくれるように、おしゃべりをしながら絵を鑑賞する初めての体験を、みなさん新たな美術館の楽しみ方として手ごたえを感じていただけたようです。
みんなで鑑賞することで、今までになく作品をじっくり観察し、発見や思いを言葉にして伝えることで、自分の感情や、新たな価値観に気づくことができたのではないでしょうか。そして、一緒に見る方の視点を理解することで、さらに鑑賞が深まっていきました。私たちとびラーも、何度同じ絵を見ても、一緒に見る人によって新たな気づきや感動が生まれる「おしゃべり鑑賞」の楽しさに憑りつかれています。また、ぜひとびラーと一緒に展覧会を楽しんでいただければ嬉しく思います。
執筆:11期とびラー 曽我千文
以前は美術館も映画も独りでみていました。とびラーになり、仲間や初めて会う方と、発見や心の動きを分かち合って作品をみると、その時々で輝きや形が変わる虹のような魅力があることを知りました。
2024.12.09
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第7回鑑賞実践講座|「作品選びについて」
日時|2024年12月9日(月)10:00〜15:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)
内容|事前準備。作品を選ぶ。作品のシークエンスを作る。テーマ:〜鑑賞者の鑑賞プロセスをイメージする〜
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第7回の講座では、Visual Thinking Strategies(VTS)で鑑賞する作品の選び方について考えました。鑑賞者の年齢や、作品鑑賞の経験、人生経験の違いを踏まえて作品を選び、鑑賞体験をデザインすることはファシリテーションの第一歩です。
まず、講師の三ツ木さんが「美的発達段階」という概念について説明しました。これは、人が作品を理解していく際に、ある程度体系化された鑑賞体験の段階のパターンがあるという考え方です。この考え方を手がかりに、どのように作品を選ぶかについてのレクチャーがありました。
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レクチャーのあとは、あらかじめ選ばれた2つの作品を題材にしてグループワークを行いました。このワークでは、作品選びの5つの観点に沿って、それぞれの作品の特徴を話し合いました。
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続いて、開催中の「上野アーティストプロジェクト2024 ノスタルジア─記憶のなかの景色」展にて、鑑賞者の属性(年齢や参加プログラム)を想定し、そこに向けた2作品の鑑賞順序を考えました。
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このように、VTSのファシリテータは、作品を選ぶ過程で鑑賞者の立場を想像し、対話の展開をイメージしながら、鑑賞の場を作る準備を進めます。その過程を通じて、ファシリテータ自身の「作品をみる力」も養われ、鑑賞者の気づきを受け止める土台ができていきます。
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講座も残り1回となりました。
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VTSの奥深さに気づく一方で、その難しさを感じるタイミングでもあるかもしれません。しかし、実践で出会う鑑賞者との経験と、講座での学びを互いに影響させながら、さらにステップアップしていけることを願っています。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.11.25
夜の照明に浮かぶ東京都美術館を散策する金曜の夜間開館時限定の40分ツアーです。
夜ならではの建物のみどころをとびラー(アート・コミュニケータ)がご案内します。
美術館全体が、まるで宝石箱のような輝きを放つ夜。昼とは違うその表情を一緒に楽しみませんか?
【当日受付・先着18名/日本語対応手話あり・定員2名】
日時|2024年11月29日(金) 19:05 – 19:45
会場|東京都美術館
対象|東京都美術館に興味のある方、建築ツアーに興味のある方
定員|18名(当日受付・先着順)※日本語対応手話あり・定員2名
参加費|無料
参加方法|
先着順。当日17:00より東京都美術館LB階ミュージアムショップ前にて整理券配布します(混雑時は場所変更の可能性あり)。
※LB階自動扉の入り口付近にて整理券の配付場所をご案内いたします。
※整理券は先着順です。先着人数に達し次第、受付終了となります。
ツアー集合時間・場所|
18:50 東京都美術館 LB階中庭(自動販売機側・入口横)
※整理券をご持参ください。
その他注意事項|
※サポートが必要な方は受付時にお申し出ください。
※メールなどによるお申し込みは受け付けておりません。
※広報や記録用に撮影を行います。予めご了承ください。
2024.11.11
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日時|2024年11月11日(月)10時〜16時
展覧会|「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」展(会期:2024年9月19日(木)~12月1日(日))
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・東京都美術館で開催された「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」にて、「障害のある方のための特別鑑賞会」を実施しました。この鑑賞会は、障害のある方がより安心して鑑賞できるよう、特別展の休室日に事前申込制で開催しています。
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・鑑賞会当日には、障害のある方とその介助者約630名が東京都美術館を訪れ、一村の幼年期から晩年までの創作の全貌を辿りながら一つ一つの表現の巧みさに魅入っていました。
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・参加者を迎えるのは、アート・コミュニケータです。とびらプロジェクトで活動中の「とびラー」やとびラーの3年の任期を満了したアート・コミュニケータが数多く参加しました。アート・コミュニケータは、受付で参加者をお迎えしたり、館内のエレベータの乗り降りをサポートしたり、展示室で鑑賞体験をサポートするなど、館内の様々な場所で活動しました。
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・展示室では、一村の膨大な作品群を前に、描写の巧みさや構図の面白さ、また一村の人生に想いを馳せる参加者の姿がありました。アート・コミュニケータたちは時に参加者と言葉を交わしながら、細部まで観察するサポートを行なったり、様々な動植物の描き方に注目してコミュニケーションを行っていました。・
・iPadで作品画像を大きく拡大し、作品の細部をお見せすることもあります。車いすに乗っていて目線が低い方や、目の見えづらい方などにはとくに好評です。このiPadで拡大して鑑賞をサポートするアイデアは、アート・コミュニケータが発案し、検討と準備を重ねて実施しています。今回の特別鑑賞会では、のべ約400名の方がiPadで画像を拡大しながらアート・コミュニケータと一緒に作品を鑑賞しました。
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・今回の特別鑑賞会では、視覚に障害のある方の作品鑑賞を補助するツールである「触図(しょくず)」を新たに導入しました。これは、田中一村の作品を立体的な線や凹凸で表現したもので、手指で触れることで構図やモチーフを描写した線がわかるようになっています。
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・当日は、アート・コミュニケータが展示室内で触図の案内を行い、作品の特徴や色、構成などを丁寧に説明した上で、参加者と対話をしながら鑑賞しました。参加者も、触図があることで、作品に描かれている内容をより理解することができていました。
・この触図は、特別鑑賞会の日に限らず会期中であればいつでも、希望する方にスタッフから説明をしながら共に作品を鑑賞するために使用していました。
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・「障害のある方のための特別鑑賞会」への申込みは、①Webサイト申込みフォーム、②メール申込み、③はがき郵送、の3つの方法があります。
・このうち、③はがき郵送でお申込みされた方には、当日の案内状を封書でお送りしています。封筒の表面には、展覧会にちなんだ絵柄のスタンプが押されています。このスタンプは全て、とびラーがオリジナルの消しゴムハンコを彫って手作りしたものです。
・様々なとびラーが制作するスタンプの絵柄は、毎回20種類以上に上ります。「自分に届いたものとは違う絵柄も見たい!」という声を受けて、展覧会会場の終盤で紹介するコーナーを設けるようになりました。
・絵柄を制作したとびラーたちと、デザインの工夫やみどころについて展覧会を身終えた参加者とのお話しがはずんでいました。
・「・
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・東京都美術館は、すべての人に開かれた「アートへの入口」となることを目指しています。参加者とアート・コミュニケータがともに作品を味わい、感想を共有し合うひとときは、作品が持つ力と、人とのつながりの大切さを改めて感じさせてくれました。
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・次の鑑賞会でもみなさまにお会いできるのを、アート・コミュニケータ一同楽しみにしています。
2024.11.04
第6回鑑賞実践講座|「ファシリテーションのふりかえり」
日時|2024年11月4日(月・休)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)、ARDAコーチ5名
内容|VTSファシリテーションのふりかえりについて
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第6回の講座では、Visual Thinking Strategies(VTS)鑑賞のファシリテーションをどのようにふりかえるかについて、実践を交えながら考えました。
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まず初めに、今年度の講座の実践の場である「スペシャル・マンデー」や「ずっとび鑑賞会」について、とびラーのファシリテーションに対する三ツ木さんのフィードバックを伺いました。
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VTSを実施することがゴールではなく、鑑賞者が会場に到着してから帰るまでの体験全体をどのようにデザインするかが重要であるという視点が語られました。実践を重ねたからこそ気づく新たな視点に、とびラーたちは頷きながら話を聞いていました。
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三ツ木さんからのフィードバックが終わると、今日のテーマである「VTSファシリテーションの実践とふりかえり」に移ります。実際にVTSとふりかえりを行う前に、まず、とびラー同士がクリティカルかつ協働的に議論を進めるために、どのような点に気を付けるべきかを改めて話し合いました。
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その後、チームに分かれてVTS 実践とふりかえりを繰り返していきました。VTS実践では、チーム内でファシリテータ・鑑賞者・観察者・対話記録の役割に分かれ、それぞれの立場から鑑賞の場を体験し、観察しました。
ふりかえりの際には、それぞれの立場から体験・観察したことを出し合い、対話の流れを追って検証していきました。
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鑑賞者の考えが深まったタイミングでは、ファシリテータがどのような働きかけをしていたのか。その逆に、深まらなかったときには何が影響していたのか。それぞれの視点から意見を出し合いながら、ふりかえる方法を体験しました。
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お互いに客観的な視点を持ちながら鑑賞の場を検証し、とびラー同士でファシリテーションのスキルを高め合うことは、実は簡単なことではありません。しかし、経験を積むことで、ふりかえりの方法自体もスキルアップしていけるはずです。
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今日の講座をきっかけに、実践とふりかえりのサイクルがさらに回っていくことを願っています。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.10.26
第6回建築実践講座|「公・共・私・個を意識し,それを越えて新しい関わり方をつくる」
日時|2024年10月26日(土) 14:00〜16:00
会場|東京藝術大学 第1講義室
講師|山田あすか(東京電機大学 教授)
人々が集う空間の<公・共・私・個>の段階的変化や、公共の在り方について、東京電機大学 教授の山田先生にお話を伺いました。
山田先生ならではの視点で語られる国内外の場づくりやまちづくりの事例は、とびラーが任期満了後それぞれのコミュニティに戻って活動する際の大きなヒントになったのではないでしょうか。
「場をデザインする」とは、その場所(コミュニティ)を共有したい人は誰なのかを考えてフィルタを想定することというお話は、参加したとびラーの多くが印象に残ったようです。
とびラーからのふりかえりの一部をご紹介します。
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•活動内容ではなく、その場所ありきでハード面から活動内容を考えることが興味深く、話を聞くことが出来た。来る人に主体性を持たせることで、その場に責任を持つという考え方も納得できた。今までは、みんなに開かれたことが大前提だったが、フィルターを掛けることも場のデザインには必要だと知った。
•特に、「みんな」って誰?と言う問いかけは新鮮でした。「誰にでも」とは、少しづつフィルターを掛けて「その場を求めている人誰にでも」ということなんだ、そして「少しづ広げていく」「次」を作ることで、結果的により開かれた場となっていく、というのは腹に落ちますね。「みんな」一人一人に個性やニーズがあり、「共生型コミュニティー」を作るというのは実際にはいろいろと難しい事がある、という当たり前のことが、あらためてよく分かりました。
•軸となる場所や事柄は始めから完璧でなくとも関わった人達と緩やかなつながりで変化していってもいい、という考えかたがあることに気がつけました。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)