東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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基礎講座 第2回|「きく力」を身につける

4月15日の第1回基礎講座(オリエンテーション)を皮切りに、今年度のとびらプロジェクトが動き始めました。
第2回基礎講座は、西村佳哲さん(とびらプロジェクト アドバイザー)を講師にお迎えして、「きく力」について、ワークショップ形式で考えていきました。

 

【午前】
講座の冒頭、西村さんからは「とびラーが何をするのかではなく、どう関わっていくのか」という基盤の部分を、講師として担当して頂くことが説明されました。

 

 

講座は、ペアワークないしは3人組で話す/きく時間が複数設けられ、その都度、メモ書きされた体験をもとにした振り返りと西村さんからのコメントが挟まれる形式で進んでいきます。

 

・自分はきける方、きけない方?
まずは、自己紹介も兼ねて、3人組で話してみました。
お題は、「自分は、きける方、きけない方?その詳細、理由は?」
きいてくれる人がいないと話は進まないという意味で、「きく側が力を持っている」と、西村さんはおっしゃっていました。

 

 

西村さんの解説を実体験するため、ペアワークが始まります。
きく役、話す役に分かれ、お互いには分からない形で、西村さんから次のような「ふるまい」をすることが求められます。

 

  1. あなたの最近嬉しかったことをできるだけ詳しく、話す(話し手)。
    上の空できいたり、相手を一切無視し続ける(きき手)。
  2. 話したいテーマを、詳しく気持ちを込めて話す(話し手)。
    相手の話が途中でも、相手の話の腰を折ったり、話を横取りする(きき手)。
  3. 最近、腹が立ったことについて、できる限り詳しく、気持ちを込めて、相手に伝える(話し手)。
    どんな些細なことでもいいので、相手の話を否定する(きき手)。
  4. 最近、困っていることについて、できる限り詳しく、気持ちを込めて相手に伝える(話し手)。
    相手が最近、困っていることについて話しかけてくる。多少脈絡がなくてもいいので、安易な解決策を相手に示す(きき手)。

 

途中で、きき手と話し手が何をしていたのか、種明かしされます。「きく側が力を持っている」という西村さんの冒頭の言葉が、実感を伴って、少しずつ腑に落ちる瞬間です。

 

あらためて、3人組を作り、「相手ができるだけ詳しく、気持ちを込めて話すのをより可能にするきき方」を話し合います。
ペアワークでは、「きき手」による、無視、横取り(聞いている風)、否定、先回り(介入)、といった「ふるまい」が意図的に行われました。
私たちは、普段、「人の話」を「自分の話」としてきいていないか。人は何によって話し続けられるのか、西村さんから問いが投げかけられます。関心を寄せられているという実感が、エネルギーとなり、人は話し続けられると、西村さんはおっしゃいます。人間、誰しもが受け入られたい、認められたいという欲求があるのだそうです。
「分かる分かる」といった安易な解決策を口にしてしまいがちですが、他人のことは簡単には分かりません。では、なぜ「分かる」と言ってしまうのか?その理由は、相手のしんどさが自分にとっても、しんどいからだそうです。

 

 

午前中の最後に、ここまでのお話を意識して、話し手、きき手、オブザーバーの3人組で、「これから始めて見たいこと、やりたいこと」をテーマに、もう1度「きく」ことに挑戦し、振り返りを行いました。

 

 

【午後】
午後は、午前中の最後のワークで振り返った内容を共有するところから始まりました。
西村さんからは、「きく力」とは、「発信能力より受信能力」、「するより、感受することが大切」であり、「きく側が力を持っている」ことの具体例が示されました。

 

・きく側が力を持っている
インタビューを例にするならば、有名な映画監督がどんなに話したいことがあったとしても、きく姿勢がなければきくことはできません。ライターが情報を持っているのに対して、映画監督はライターについての情報を持っていません。つまり、映画監督は何を書かれるのか分からない立場なのだそうです。

 

・引き出す?
良いインタビュアーは相手から話を引き出すのがうまいのでしょうか?上手なきき方は話を引き出すことなのでしょうか?という問いかけが、西村さんから投げかけられます。「きく」ために、「引き出す」ことから離れてみることが提案されます。インタビューのようにあらかじめ組み立てたいことがある場合のみ、「引き出す」のです。「話し手」に話したいこと、豊かな感情があれば、話してくれるそうです。「引き出す」のではなく、「溢れ出す」「染み出す」という感覚なのだそうです。

 

・いい質問をする?
良いきき方とは、いい質問かというと、ちょっと違うそうです。次から次に質問を繰り出すことで、相手の話を切ってしまうことにもなります。きき方を窮屈にすることにもなります。どういうことかというと、次に何をきこうか考えていくと、分からなくなっていくのです。心当たりがあった方も、いらっしゃったかもしれません。質問しなければならないパラダイムから自由になる必要があるのです。

 

・表現力の前に受信力:ついてゆく「きき方」
インプットがないと、アウトプットはありません。インプットが可能性を広げてくれるそうです。テニスを例に挙げると、ラケットをただ振るのではなく、球筋を見て、ラケットを振るイメージトレーニングが必要になります。つまり、球を打とうと思ったら、(球筋)を見ないといけないということです。
では、「ついてゆく『きき方』」とはどのようなものでしょうか。ついていくので、先回りはしません。New Questionもしません。話し手の話が止まれば、自分も止まります。沈黙を保つということです。あくまでも話さなければいけないのは、話し手です。「話すことは無い」と言われても、「無いんですか」と、ついてゆくのだそうです。

 

・どこについていくか:相手に関心を持つ
では、「ついていく」とは、どういう「ふるまい」を指すのでしょうか。話の内容を、頭で知的に理解するのではなく、味わってみる、一緒に感じてみようとするのだそうです。西村さんは、“歌詞”と“うた”の違いに着目し、具体例として挙げてくださいました。「ついていく」には、“うた”についていく、つまり、メロディ、抑揚、身ぶり、歌いっぷりについていくことだそうです。

 

最後に、西村さんからは、基礎講座でなぜ「きく力」を取り上げているのか、これからとびラーとして活動していくにあたって大切なことを話してくださいました。

 

 

・なぜ「きく力」という講座をしているのか?
とびらプロジェクトが始まる際に、アートボランティアというやり方はやめよう。決まっているやり方をするのはやめようという話があったそうです。決められたやり方/役割ではなく、「こういうことができる。足りない。こういう催しをしたい。」というようなことを「形にする」関わり方を作っていくことになったのです。「形にする」ためには、良質なコミュニケーションを保障することが求められます。そのために、「きく力」という講座があります。

 

・とびラーとして活動していくにあたって
とびラーとして求められるのは、プレゼンテーション能力や上手に喋ることではありません。大事なのは、人の話をきける人が数多く揃っていることです。どんなプロジェクトも、誰かにいいねと言われて、広がり、実現しています。きき合えれば、色々なものが成立します。
相手の話を、自分の枠組み(価値観、常識)におさめるのではなく、関心を持ち続けるのです。これから、とびラーとして活動していく際に、来館者と接する場面が出てきます。その時に、「きける」ことが大切です。その人が、どういう人か知覚できれば、適切に動くことができます。ぜひ「きける」者同士でいてください。もし、「きけない」状態になっているようであれば、気がついた人が、「きく」側に回りましょう。

 

2回目の基礎講座は、まさにとびラーの皆さんが、これから実際の活動を計画したり、動いていくにあたっての「基盤」となる内容でした。講座終了後には、とびラボに関するミーティングが多数開かれていました。講座で実感したこと、学んだことを、具体的な活動に活かしていけるといいですね。

(東京藝術大学美術学部 特任研究員 菅井薫)

2017.04.29

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