2025.09.08
日時|2025年9月7日(日)13:30〜16:30
場所|東京都美術館 講堂
講師|冨樫正義(公益財団法人日本ケアフィット共育機構)
小川真美子(点字・触図工房BJ)
峰岸優香(東京都美術館 学芸員)
工藤阿貴(東京都美術館 社会共生担当)
講座の前半では公益財団法人日本ケアフィット共育機構の冨樫正義さんから、視覚障害のある方への理解と接し方の基本を学びました。
視覚障害といっても、全く見えない方だけではありません。
弱視の方、視野が狭い方、色の見え方に特性がある方など、状態はさまざまです。
だからこそ、その人に合わせた声掛けやサポートが必要になります。
講座では、視覚障害のある方への、声掛けの際のポイントを学びました。
声をかけるときは前から名乗ること、触れる前に必ず確認すること、
「こちらです」などのあいまいな表現ではなく、距離や方向を具体的に伝えることなど、具体的なポイントを整理して教えていただきました。
とびラーのふりかえりには、こんなコメントが寄せられました。
「見えない・見えにくいという視覚的な違いには様々な背景があり、当然ながら個人によって感じ方や考え方も異なる。そのため、対応するときには先入観を持たず、丁寧に向き合うことが大切だと改めて感じました。」
「社会は多数派に合わせて形成されているということで、少数派や障がいのある方の困りごとの多くは社会的障壁によるものであることをわかりやすく示してくださいました。タッチパネルが視覚障がいのある方にとっては不便であることに気付かされました。」
「実際の場面を想定してみると、相手の立場に立って理解することの難しさを痛感し、自分が本当に理解できていたのか疑問に思うところばかりでした。だからこそ、手助けとなる行動を躊躇せずに踏み出せるよう、まず「知ること」から始めたいと思います。」

次に、みえない・みえにくい方への情報サポートツールを制作している小川真美子さんにお話しを伺いました。小川さんは点字の表記やデザイン、街の中にある触れる案内図を手掛けるほか、近年では美術館から依頼を受け、手で触れて作品を理解するための触図(しょくず)を専門的に制作しています。
いまの仕事に専念し、独立するまでのお話を聞きながら、制作する時の小川さんの苦労や、大事にしているポイントをお聞きすることができました。
小川さんは東京都美術館で夏に開催された「アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること「Museum Start あいうえの」12年と現在地」(2025年7月31日(木)~8月10日(日)開催) (通称AC展)で展示された作品2点の触図を制作してもらったご縁があり、小川さんの触図を体験したとびラーもいて、親近感を持ってお話を聞きました。
後半は展覧会担当のアート・コミュニケーション係 学芸員の峰岸さんと社会共生担当の工藤さんも登壇し、小川さんや作家と協働した触図の制作について紹介しました。
現代作家の作品の触図ということもあって、実際に作家のアトリエに伺って作品の意図を聞きながら触図を制作した際のエピソードや、そのプロセスを聞くことができました。
触れるからよいということではなく、伴走するアート・コミュニケータがどのように働きかけるかが重要であること、
作品制作者、触図をつくる人、それを伝える人がみえない人とみえる人が展覧会を楽しめるように試行錯誤したことをふりかえりました。
とびラーのふりかえりには、こんなコメントが寄せられました。
「実際に触図を使う方の意見を聞きながら、伝え方、作り方を調整して、相互に作り上げていく工程が、とても大事だということがよく分かった。」
また、実際に視覚に障害のある来館者と小川さんが制作した触図を鑑賞したとびラーも何人かいて、その様子を共有してくれました。
「私たちの目は、見たいものしか見ようとしない。AC展のコミュニケータとして活動した際に、視覚障害がある方と作品を一緒にみる機会がありました。そのことによって、そこにあった作品をきちんと見ていなかった、見過ごしていたことに気づくことができました。視覚障害がある方と作品をみることによって、自分が気づきを得ることができました」
講座の最後には、東京都美術館で定期開催している「障害のある方のための特別鑑賞会」にてアート・コミュニケータが視覚障害のある方に伴走して、展示室や作品について、言葉で伝えながら一緒に鑑賞する取り組みを紹介しました。
東京都美術館では、社会共生の取り組みの一つとして特別展ごとにUV印刷による凸版印刷で作られた触図を用意しています。
その触図を使った鑑賞を深めるとびラボ「触図ラボ」、会場の照明や展示方法により、障害のある方が見えにくい作品をiPadで拡大してみせる「iPadラボ」、そのほか、とびラーによって2023年に開催された 「みえない人とみえる人が一緒に楽しむアート鑑賞みんなでみる美術館」の紹介がありました。
講座終了後には、全盲のとびラーから自分の状況に関して共有するとびラボが開かれました。ご自身のことや、声をかけるときに気をつけてほしいこと、普段の困りごと、挑戦していることなどが話されました。参加したとびラーからも質問が飛び交い、他の皆さんの知り合う場となりました。
触図をつくる環境もできてきて、とびラーの仲間にも当事者の方がいる。みえない、みえにくい人との鑑賞をもっと試行錯誤し、取り組んでいける可能性を感じた講座でした。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.09.08
第4回 鑑賞実践講座|展示室で学ぶ場づくり〜スペシャル・マンデーを例に〜
日時|9月8日(月)14:30〜17:30
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ、ギャラリーA/C
講師|手代木理沙(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手、Museum Start あいうえのプログラムオフィサー)
・・・新留璃子(東京都美術館専門家委託、Museum Start あいうえのプログラムオフィサー)
・・・越川さくら(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手、とびらプロジェクトコーディネータ)
9月8日(月)、東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ、展示室を会場に、第4回鑑賞実践講座「展示室で学ぶ場づくり」を開催しました。講師は、Museum Start あいうえののプログラムオフィサーの手代木理沙さん、新留璃子さん、また、とびらプロジェクトコーディネーターの越川さくらが務めました。
第4回は、これまでに学んできたVTSやファシリテーションの考え方を、実際の展示室という現場に引き寄せて考える回として位置づけられています。学校単位で、小学生から高校生までが来館する、あいうえのの鑑賞プログラム「スペシャル・マンデー」を具体的な想定として、鑑賞の場をどのように準備し、どのように立ち上げていくのかを学びました。
講座の前半では、学校プログラムにおける事前準備から当日、事後までの流れを確認しました。子どもたちが美術館を訪れる際に、どのような情報や環境が必要か、鑑賞の時間や動線について、実際のプログラムをもとに共有しました。
続いて、現在開催中の展覧会「つくるよろこび 生きるためのDIY」(会期:2025年7月24日(木)〜10月8日(水))の展示室で、「スペシャル・マンデー」のプログラムの基本的な流れを実際に体験しました。展示室では、作品そのものだけでなく、空間の広がりや明るさ、音、人の動きといった要素が鑑賞体験に大きく影響します。これまでの講座から一歩進んで、展示室環境のなかで、来館者がどのような鑑賞体験を紡いでいくのかを、実際にプログラムの流れを体験することが目的です。
鑑賞体験の後には、チームで振り返るためのワークシートを使い、グループごとに振り返りを行いました。鑑賞の中で起きていたことを整理しながら、ファシリテータの声かけや立ち位置、参加者同士の関係性が、鑑賞の深まりにどのように影響していたのかを言語化していきます。ひとつの正解を探すのではなく、場で起きていた出来事を丁寧に振り返ることを重視しました。
後半では、自分がファシリテーションを行うことを想定し、自分ならどのような声かけや場づくりを行うかを具体的にイメージしながら、ワークシートに書き込んでいきました。鑑賞者一人ひとりが安心して作品と向き合えるようにするために、ファシリテータとしてどのように立つのか、声のトーンや動き、参加者との距離感など、細かな要素について考えました。その後、とびラー同士でお互いのシートを共有し、意見を交わしました。
第4回は、鑑賞やファシリテーションを「方法」として学ぶだけでなく、展示室という場の中で実際に起こる出来事をもとに、鑑賞の場をどう支えるのかを具体的に考える回となりました。9月には、実際の「スペシャル・マンデー」で、とびラーが学校の子どもたちを迎えます。プログラムに向けて準備を進め、当日の子どもたちの鑑賞を、より豊かな時間にしていきたいと思います。
次の第5回鑑賞実践講座は、9月末の「スペシャル・マンデー」や10月の「名品リミックス!を対話で楽しもう!(ブログリンク)」などの実践を経て、10月に行います。実践後のとびラーのみなさんの成長が楽しみです。このあとの講座は、鑑賞の事前準備や、スキルアップのためのふりかえり方法について考える回へと進んでいきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.08.24
第2回建築実践講座|「建築ツアーをやってみよう」
日時|2025年8月23日(土) 14:00〜17:00
会場|東京都美術館 ASR・スタジオ
第2回 建築実践講座では、とびラーがそれぞれ「建築ツアーを考えて、やってみる」をテーマに行いました。
第1回の建築実践講座内容(都美の建物と歴史)をふりかえり、建築ツアーの写真を用いて参加者ととびラーの間でどのような会話をしているのか、どのように来館者をお迎えしているかについて一緒に考えました。

その後は「15分間のMY建築ツアーをつくろう!」ということで、とびラーそれぞれがツアープランを考えました。
東京都美術館パンフレットやトビカンみどころMAP、館内にある資料から読み解くだけではなく、実際に館内を巡り、一人ひとりが感じる「ここが好き!」「気になる!」をみつけてツアーを組み立てていきました。
それぞれがツアーを考えたあとは、3人組になって交代でツアーを実施しました。
ツアー後はやってみた感想や思ったことをシェアし、ツアーの構成や伝えたいことが伝わったのかについて考えました。
「とびラーによる建築ツアー」は決まったコースはなく、ガイド役のとびラーによって紹介するスポットはさまざまです。
ガイドによって内容が変わり、参加するたびに新たな発見があるツアーです。
今回の講座の学びが建築ツアーに活かされたらいいなと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.08.01
日時 |2025年7月19日(土)
場所 |東京都美術館
参加者(事前申込)43名、とびラー21名
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日差しが強くなり、夏らしい天気の中で2025年度 第2回目の「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。
館内だけでなく、中庭を歩いたりしながら東京都美術館を楽しみました。
この建築ツアーは、決まったコースはなく、それぞれのとびラーが考えたオリジナルのツアーです。
2025.07.30
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日時|2025年5月26日(月)10時〜16時
展覧会|ミロ展[会期:2025年3月1日(土)〜7月6日(日)]
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・東京都美術館で開催された「ミロ展」にて、「障害のある方のための特別鑑賞会」を実施しました。この鑑賞会は、障害のある方がより安心して鑑賞できるよう、特別展の休室日に事前申込制で開催しています。
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・鑑賞会当日には、障害のある方とその介助者約815名が東京都美術館を訪れ、スペイン出身の20世紀を代表する巨匠ジュアン・ミロ(1893~1983)の初期から晩年までの傑作の数々をゆっくりと鑑賞されていました。
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・参加者を迎えるのは、アート・コミュニケータです。とびらプロジェクトで活動中の「とびラー」やとびラーの3年の任期を満了したアート・コミュニケータが数多く参加しました。アート・コミュニケータは、受付で参加者をお迎えしたり、館内のエレベータの乗り降りをサポートしたり、展示室で鑑賞体験をサポートするなど、館内の様々な場所で活動しました。
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展示室では、アート・コミュニケータと来館者の間に穏やかな対話が生まれていました。来館者それぞれの鑑賞のペースを見守りながら、ときに言葉や表情を交わす場面からは、「ともに作品を楽しむ」というアート・コミュニケータが生み出す鑑賞の場の魅力が育まれていたように感じます。
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ミロの作品と言えばカラフルで大胆な作風が印象的ですが、今回の大回顧展では初期作品の緻密な描写や、スペイン内戦期の作品の暗い色調など、細部に注目すべき作品も多く並びました。そうした視覚情報を補うために活躍したのが「iPadラボ」のとびラーです。作品画像を、手元のiPadで拡大表示しながら説明を加えることで、より明確に細部の特徴を伝えることができました。
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この日はのべ200名以上の来館者をiPadラボとびラーが対応し、多様なニーズに合わせた丁寧な鑑賞サポートが行われました。
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さらに、前回の鑑賞会から引き続いて、視覚に障害のある方の鑑賞をサポートするための触図(しょくず)を用いた鑑賞サポートも行われました。触図とは、作品の構図やモチーフを凹凸のある線や点で立体的に表わした図版です。
来館者が触図の線や点を手指でたどりながら、アート・コミュニケータとの対話を通して作品を鑑賞しました。
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触図を用いた鑑賞を体験された方からは、
「ミロのやさしい線も感じられる。勢いでなく、ゆっくり描いている感じがする。」
「ミロの描く星の形がわかったのが嬉しい。」
「月は触ってみるとふくよかな感じ。スマートな三日月より余裕を感じて好き。自分は全盲で、月や星など変わらないもの、永遠のもの、そこに希望を感じる。」
といった感想が寄せられ、作品への新たな親しみや喜びが生まれていました。
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今回の触図の活用にあたっては、事前に「とびラボ」の活動の中で、とびラー同士が触図を実際に使いながら、「どのようにしたらより深い鑑賞ができるか」を探る時間を持ってきました。
活動を行ったとびラーは、以下のように振り返ります。
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「触図を使ってより深い鑑賞をしていただくために、事前にとびラー同士で対話をしながら、自分たち自身の作品鑑賞の質を高めておくことが大事だと感じました。その効果もあり、来館者の方に良い鑑賞の時間を過ごしていただけたと思います」
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※触図は、ミロ展の会期中に常時使用し、希望する方にスタッフが説明をしながら作品を鑑賞していました。
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次の鑑賞会でもみなさまにお会いできるのを、アート・コミュニケータ一同楽しみにしています。
2025.07.21
第3回 鑑賞実践講座|ファシリテーション基礎(2)
日時|7月21日(月・祝)10:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA))
7月21日(月・祝)、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオにて、第3回鑑賞実践講座「ファシリテーション基礎(2)」を開催しました。講師は引き続き、三ツ木紀英さんとARDAコーチの皆さんです。
第3回は、第2回で体験したVTSをあらためて見直し、鑑賞の場で何が起きているのかを分析し、理解を深める回として構成されました。対話のプロセスから鑑賞の場で起こっていることの結果と、それが起こった原因を観察し、言語化することがこの回のテーマです。
講座の前半では、子どもたちとのVTSの映像を用いた分析を行いました。ファシリテータの問いかけや、参加者の発言のつながり方に注目しながら、対話がどのように展開していくのかをとびラーがそれぞれ観察しました。問いの順序や言葉の選び方が、鑑賞者の思考にどのような影響を与えているのかについて、具体的に考えていきます。
後半では、再びVTSの実践を行い、その後、グループで振り返りを行いました。ここでは、とびラーがファシリテータ・鑑賞者・観察者に分かれ、VTSの鑑賞の中で起こっていたことの観察から、その原因をグループで分析する形でふりかえりが行われました。
きこえにくい方の参加について、第2回から引き続き、自動文字化アプリとサングラス型モニターを使用しながら行いました。ただ、サングラス型のモニターは視界への負担が大きく疲れも出てきました。そのため、様子を見て手話通訳サポートしてもらいながら進めていきました。
第2回と第3回を通して、参加者はVTSを「やってみる」だけでなく、「考え、振り返り、次に生かす」ための視点を身につけていきます。このファシリテーション基礎(1)(2)は、今後の現場での実践に向けて、とびラー全体のVTSの知見を揃えるための重要な土台となりました。この後、講座事前準備や場づくり、作品選びへとつながる重要なステップとなりました。次回第4回では、実際の展示室で、実践の場を視野に入れた準備について学んでいきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.07.20
第2回 鑑賞実践講座|ファシリテーション基礎(1)
日時|7月20日(日)10:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA))
7月20日(日)、東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオにて、第2回鑑賞実践講座「ファシリテーション基礎(1)」を開催しました。講師は三ツ木紀英さん(NPO法人 芸術資源開発機構)とARDAコーチの皆さんです。
第1回では、とびらプロジェクトが大切にしている鑑賞体験の全体像を共有しました。第2回・第3回は、その土台の上に立ち、Visual Thinking Strategies(ビジュアルシンキングストラテジーズ:複数の人で対話をしながら作品を鑑賞する手法。以下、VTS)を中心に、鑑賞の場をつくるファシリテーションの基礎を、体験と理論の両面から学ぶ回です。
第2回ではまず、ARDAコーチがファシリテーションを行い、グループで作品画像を鑑賞する体験から始めました。ここでは、2つの作品を60分かけてじっくりと鑑賞し、グループのなかで対話がどのように立ち上がるのか、グループ全体の鑑賞の深まりがどのように進むのかを体感しました。また、その体験をふりかえり、「VTSで作品をみることでどんな発見があった?」という問いで意見を交わしました。
次に、三ツ木さんがファシリテーションを行い、東京都美術館で開催予定の展覧会「アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること「Museum Start あいうえの」12年と現在地(以下、AC展。会期 2025 年 7 月 31日(木)~8 月 10 日(日))」の出品作品の画像を用いてVTSを行いました。ここでは、8名の1年目のとびラーが鑑賞者、それ以外のとびラーが観察者役となりました。観察者役は、ファシリテータが行なっている声掛けや問い、態度などを観察し、鑑賞の場にファシリテーションのはたらきかけがどのように作用しているかを考えました。
続いて、VTSの基本的な考え方や構造についてレクチャーが行われました。VTSでは、作品をよく見ること、他者の発言に耳を傾けること、作品を見て感じたことの根拠を作品の中に見つけることを繰り返しながら、考えが重ねられていきます。こうしたプロセスがどのように鑑賞の面白さや思考の広がりにつながるのかを、実例を交えながら確認しました。
後半には、レクチャーの内容を踏まえた上で、もう一度別の作品で三ツ木さんのファシリテーションによるVTSの体験と観察を行いました。
これまでの体験と観察をふまえ、最後にとびラー全員が、小さな作品画像を使い、実際にVTSのファシリテーションにトライしてみました。実際にやってみるとファシリテーションはなかなか難しく、経験が必要であることを実感する時間となりました。
きこえにくい方の参加について、第2回からは、VTSの手法を用いた鑑賞で複数の人が言葉を交わす場面が増えてきます。そのため、対話の内容が、「なるべくリアルタイムで」「正確に」伝わるにはどうしたらよいのか、きこえない方といっしょに方法を考えました。当日は、手話通訳と音声の自動文字化アプリを併用してみることにしました。VTSをするときには、自動文字化アプリをサングラス型のモニターに投影し、作品に目を向けながら、発話者の言葉が文字化されたものを同時に見ることができるように工夫しました。また、全体へのレクチャーやグループでの振り返り等の場面では、手話通訳にもサポートしてもらいながら進めていきました。
第2回は、VTSで深まる鑑賞の面白さに触れながら、ファシリテーションとは何かを観察とレクチャーを通してつかむ回となりました。次回の第3回では、鑑賞の実践を振り返り言語化することで、ファシリテーションについての解像度をあげ、実践に向けて理解を深めていきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.07.07
日時|2025年7月6日(日)13:30〜15:30
場所|東京都美術館 講堂
講師|小野広祐/明晴学園 校長
日本で唯一日本手話と日本語、ろう文化と聴文化によるバイリンガル・バイカルチュラルろう教育を行っている私立ろう学校(特別支援学校)の明晴学園の校長小野広祐先生をお招きし、『ろう文化「ようこそ ろうの世界へ」』と題して、講座をお願いしました。
小野先生はNHK手話ニュース845 (月曜日担当)や週間手話ニュースなどでキャスターとしてテレビにも出演されています。
とびらプロジェクトではこれまでにも、難聴や手話話者のとびラーが所属していました。2022年度11期のとびラーに3名のろう、難聴の方が入りました。
現在では11期のとびラーが任期満了し、2025年度には4名のろう・難聴の方がとびラーになりました。今年度は12期〜14期のとびラーで活動がスタートしています。
日本手話は、日本語とは違う独自の文法体系を持つ少数言語の一つであることについては知らない人が多く、初めて受講するとびラーからは毎年驚きの声が上がります。
ろう者は生まれた時から視覚で情報を得ていて、手話による視覚言語で思考しています。そのため音を意識しなくてもきこえてくる聴者とろう者では思考スタイルも異なります。言語が違うと思考スタイルも異なるのです。
聞こえてくる音から周囲の状況を受けとっている聴者と違い、視覚で捉えることで認識するろう者は、みえないものは認識しないということになります。そのため、ろう者のコミュニケーションの特徴として、今の状況やこの後のこと、お互い決まったことも、その都度「確認」をします。聴者の文化を「察する文化」、ろう者の文化を「確認する文化」といったりもするそうです。この違いによって、聴者とろう者のコミュニケーションでは誤解やすれ違いが起こることがあります。小野先生の講座の中でも生活や教室で起こるエピソードが紹介されました。この違いをあらかじめ知っているだけで、お互いコミュニケーションを尊重して接することができます。

今年も小野先生のユーモアの交じる巧みなお話しで、音としては静かですが、賑やかで活気ある講義となりました。
「私たちが無意識に音で察していることにも今回の講義で改めて気付かされ、その点からもろう者にとっては察する文化が存在しないのだということにも驚き、とても納得できる内容だった。」
「ろう者は見えないことはないものとして扱う、というのは一見当然のようですが、つい聞こえる環境にいると抜けてしまう視点であり、自分の立場から捉え直せるよう具体例や例えを入れていただいて興味深いと思いました。」
「ろう者は言語的少数者であり、文化や思考の仕方が異なるだけで、決して「可哀想な人」ではないのだというメッセージから、ろう者へのイメージが変わるような感じがしました。マジョリティ側を前提とすることで、マイノリティ側に勝手に押しつけているイメージというのは、色々なところにあるのだろうと思いました。」
きこえの違いは人によって様々です。ろう、難聴と一言にいってもそのきこえ方にはっきりとした境界があるわけではないようです。それぞれの育ってきた環境によっても認識は異なります。
そのため、講座内容をベースとしながらも、私たちが今度出会うろう、難聴の方がどのようなきこえの状態か、どうするとコミュニケーションが取りやすいかは人それぞれだということも念頭に置かなければなりません。
この日、小野先生の講座の後には、とびラーが自発的に開催する「とびラボ」として14期として入った4名のろう、難聴者のとびラーによる発案で、4名それぞれの「きこえ」の違いについて、これから一緒に活動していくとびラーへ共有するラボが開かれました。60名近くのとびラーが参加しました。
参加したとびラーからは
「講座自体でもたくさんの学びがありましたが、講座の後の聴覚障害者の当事者による説明会でも4名それぞれの聞こえ方、背景、適当な配慮が違うことがさらによくわかりました。このような有意義な場を設けてくれた皆さんに感謝です。」
「「ろう」だけでなく中途失聴や難聴の方それぞれ違いがあるため、それについても知りたいと思いました。この日講義後の時間にあった14期の当事者の説明会で聞くことができてとてもよかったです!」
「これからとびラーとして、ろう者とどんな風に出会うことができるのか。早くコミュニケーションをとってみたいとワクワクしてきた。それまでに、少しでも日本手話を学んでみようと思う。」
「講座自体でもたくさんの学びがありましたが、講座の後の聴覚障害者の当事者による説明会でも4名それぞれの聞こえ方、背景、適当な配慮が違うことがさらによくわかりました。このような有意義な場を設けてくれた皆さんに感謝です。」
講座と合わせて理解が進み、さらに聴者が多いコミュニティにとって、一緒に活動をする仲間の状態をしっかりと確認できる時間となりました。小野先生もこのラボの最後まで同席し、共に活動を作っていくことを励ましてくださいました。
とびラーの日常の活動の中でもきこえの違いがある人が一緒に活動をつくっていくことについてこれから考えていきます。
夏にはMuseum Start あいうえののプログラムで聴者、ろう者、難聴者が一緒に美術館でプログラムを考える4日間のワークショップ「みるラボ:つながりをつなげる」を開催します。
とびラーの日常の活動の中でもきこえの違いがある人が一緒に活動をつくっていくことについてこれから考えていきます。
東京都美術館では手話による施設案内動画と、建築紹介動画を公開しています。
建築紹介動画には小野先生も登場しています。こちらも併せてぜひご覧ください。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.07.06
第1回建築実践講座|「都美の建築と歴史と楽しみ方」
日時|2025年7月5日(土) 10:00〜15:00
会場|AM:東京都美術館 講堂/PM:東京藝術大学 第3講義室
講師|河野佑美(東京都美術館 学芸員)
1925年に閉館した「旧館」の当時の様子や、1975年に「新館」として建設された東京都美術館の建設に至るまでの経緯など、東京都美術館の建物や歴史について、東京都美術館 学芸員の河野佑美さんにお話しいただきました。
また、建築ツアーが生まれた経緯や建築家ではない人がツアーを作り上げていくことについても、河野さんの経験を交えながら熱く語っていただきました。
「新館」建設にあたり、建築家として抜擢された前川國男。彼が東京都から与えられた、幾つものミッションを全てクリアして建てられた現在の東京都美術館にはたくさんの魅力があります。
そんな、東京都美術館の魅力を河野さんが撮影した写真を見て、お話を聞いて味わった後は、とびラー同士で東京都美術館のオススメポイントを紹介するシェアタイムを行いました。
自分のオススメポイントを他のとびラーと共有し、新たな見方や発見ができる時間となりました。
「初めて知った!」・「ここ私も好きな場所」・「同じ場所でも、時間と天気で見え方が違って見えるんです」と楽しそうにお話をしているとびラー達が印象的でした。
東京都美術館で実施している「とびラーによる建築ツアー」は、2012年のリニューアル時におこなった館内ツアーがきっかけで始まりました。
建築家が込めた想い、歴史、建物の色・デザインといった建築を楽しむポイントを切り口に、とびラーと対話しながら味わいます。
ガイドによって、ツアーの内容が変わるのも魅力の一つです。
そして午後は、「とびラーによる建築ツアー」を体験しました。
ガイド経験者のとびラーがガイドとなり、参加者のとびラーと都美館内を45分間で巡りました。
ツアーの後は、各チームごとにふりかえりをおこない、ツアーの感想や印象的だったことシェアしました。
今回、初めての建築ツアーに参加したとびラーは、「こんなに楽しいなんて!」・「45分があっという間だった」とお話ししていました。
最後に1日を通じての感想を共有して、私たちの拠点となる東京都美術館への関心を深めていきました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.07.05
【第6回基礎講座 この指とまれ/そこに居合わせる人が全て式/解散設定】
日時|2025年6月21日(土)10時~15時
場所|東京藝術大学 美術学部 中央棟2階 第3講義室
講師|西村佳哲
内容|とびラーは、自分たちの関心を寄せ合い、アイデアを共有し、プロセスを大事にしながら活動をつくります。この回では、小さく始めるプロジェクトのつくり方や、そこに集まった人みんなの力を活かした活動について学びます。また、活動のはじめ方だけではなく、終わり方のデザインについても理解を深めます。
基礎講座最終回は「とびらプロジェクトの活動の進め方」がテーマです。
特に、とびラーはこの後「とびラボ」というとびラー同士が自発的に開催するミーティングのことで、新しいプロジェクトの検討と発信が行われる場をつくっていきます。
そんな「とびラボ」の「はじめ方/すすめ方/おわり方」や「あり方」について考えました。
講義は西村さんと、とびらプロジェクト マネジャーの小牟田さんのクロストーク形式で進みました。
「この指とまれ式」
新しい活動のアイデアをひらめいたとびラーは掲示板で一緒に活動するとびラーを募集します。3人以上集まったら「とびラボ」のスタートです。
このはじまり方を「この指とまれ式」と呼んでいます。
西村さんや小牟田さんから
・適正人数(グループサイズ)を考えること
・指を立てた人、集まった人同士の想いや視点をよく確かめ合うこと
・成功を目的化しない、プロセスを大事にすること
の3つのポイントが伝えられました。
「人数が多いと感じたり、やりたいことが違っていたりしたら別のラボに分かれてもいい」というお話に「へえー」とうなずくとびラーもいました。
今回の基礎講座も講義の合間にペアで考えたことや疑問点について話し合う時間が多くあります。早速、「この指とまれ式」について活発に話し合いました。
「そこに居合わせる人が全て式」
「とびラボ」では集まった人同士の想いや視点を確かめ合ったあと、いまここで「やりたい・できる・やるべき」アイデアを生み出し育てていきます。
一般的な活動がやるべき事や問題点からアイデアが生まれ、必要な事を考えていくのに対して、「とびラボ」はそこにいる人からアイデアが生まれます。
西村さんの「今夜冷蔵庫にあるもので、なにか美味しいものをつくる」という例えに納得したとびラーも多かったのではないでしょうか。
また、「とびラボ」をすすめる上での新たな試みとして、ミーティングの最後に内容と過程についてふりかえる時間を設けることが西村さんから提案されました。
内容のふりかえりでは、決まったこと、重要なこと、まだ検討が要ることについてを、過程のふりかえりでは、ミーティングの進め方、進み方についてを話し合います。
実際に、今回の講座のここまでの過程をふりかえってみると、
「ペアで話し合う時間があることで疑問が共有できる、けど忙しい」
「1人じゃなくて2人のクロストーク形式だからわかりやすい」
など進め方について色々な意見が出ました。
14期にはきこえない・きこえにくいとびラーがいます。聞こえやコミュニケーションの方法はそれぞれ違うため、ミーティングの進め方も一様ではありません。全員がやりやすい方法をその場にいる全員でその都度考えることが大切であるという認識を共有しました。
「解散」
活動の目的を達成して成果をとびラー自身がふりかえることができたら、その「とびラボ」は解散します。
普段の生活で「終わらせること」を意識する機会はあまりないかもしれません。
「反省会にならないように」という小牟田さんの言葉を受け、「創造的な解散」とはどういうことか考えました。
とびラボ実践編
まず、西村さんから「アイデアとは、既にあるもののあたらしい組み合わせである」というお話があり、アイデアを紐解いてみるワークに移りました。
既存のアイデアは何が組み合わさったものなのか?
たとえば歌番組のように、それぞれ思いついた身の回りのアイデアを紐解き、自分の発見を楽しそうにシェアする様子が印象的でした。
続いて、とびらプロジェクト コーディネータの越川さんから過去の「とびラボ」の事例を聞きました。
アイデアが生まれ活動へとつながっていく過程を具体的にイメージすることができたのではないでしょうか。
全6回にわたる基礎講座、お疲れ様でした!
基礎講座を終えられた今、どのようなお気持ちでしょうか?
「よし、どんどん活動していくぞ!」という方もいれば、
「まだ全然わかんない、果たしてやっていけるのか、、、」という方もいらっしゃると思います。(こちらの方が多いかも?)
東京都美術館のミッションのもと、とびラー・都美スタッフ・藝大スタッフが一体となってとびらプロジェクトの活動をつくっていきましょう!
(とびらプロジェクト アシスタント 三原凜子)