2024.06.29
第1回建築実践講座|「都美の建築と歴史と楽しみ方」
日時|2024年6月29日(土) 10:00〜15:00
会場|AM:東京都美術館 講堂/PM:東京藝術大学 第3講義室
講師|河野佑美(東京都美術館 学芸員)
現在の東京都美術館は1975年に「新館」として開館し、2010年から2012年にかけて大規模修繕工事がおこなわれた建物ですが、講座の午前中はそれ以前の1925年に開館した「旧館」も含めた東京都美術館の建物や歴史について、東京都美術館 学芸員の河野佑美さんにお話しいただきました。
東京都美術館では「とびラーによる建築ツアー」を実施しています。建築家が込めた想い、歴史、建物の色・デザインといった建築を楽しむポイントを切り口に、東京都美術館の建築空間をアート・コミュニケータ(とびラー)と対話しながら味わいます。このツアーは2012年のリニューアル時におこなった館内ツアーがきっかけで始まりました。
建築ツアーが生まれた経緯や建築家ではない人がツアーを作り上げていくことについても、河野さんの経験を交えながら熱く語っていただきました。
そして午後は「とびラーによる建築ツアー」を体験しました。
とびラーの中には建築ツアーに参加したことがない人もいます。ガイド経験者のとびラーがガイド役となって、参加者役のとびラーと都美館内を巡りました。
ツアー後は各チームでふりかえりをおこなったり、別のチームでふりかえりで出た話題を共有したりして、私たちの拠点となる東京都美術館への関心を深めていきました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.06.24
第1回鑑賞実践講座|「とびらプロジェクトで大切にしている鑑賞体験とは?」
日時|2024年6月24日(月)14:30〜17:00
会場|東京都美術館 講堂
講師|熊谷 香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長 )
第1回目の講座では、今年度の鑑賞実践講座の目標に基づき、「みる」という行為についてさまざまな角度から考えました。
2024年のとびらプロジェクトには、全盲のとびラーが1名参加しています。鑑賞実践講座でも、視覚だけでなく多様な知覚や感性を働かせながら、他者との関わりを通じて思考する方法を考えていきます。
初回の講座ではまず、「とびらプロジェクトで大切にしている鑑賞」や「共同的な学び」について考えるレクチャーを行いました。
その後、私たちに備わるさまざまな知覚に意識を向ける体験を行いました。用いたのは、「貝殻」です。
ツルツル・ざらざら・ギザギザ・まるまる…
触れることで、普段「見ている」だけでは気づけない多様な感触を実感することができました。
さらに、自分が知覚した感触を他者に言葉で伝えることで、自分と他者のコミュニケーションの中で新たな理解が生まれる過程を体験しました。
次に、2〜3年目のとびラーがファシリテータとなり、東京都美術館の敷地内に常設展示されている野外彫刻やレリーフをグループで鑑賞しました。
14期とびラーの皆さんには、自分の感じ方を大切にしながら作品を深く鑑賞する楽しさや、作品を媒介に他者と一緒に考える場の豊かさを体験していただけたのではないかと思います。
このような「とびらプロジェクトで大切にしている鑑賞体験」を生み出す場をデザインしていくために、これから約半年間の講座と実践に取り組んでいきましょう!
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.06.22
■はじめに
とびラー11期の小野関です。
とびラーとして色々な人と関わり、様々な活動に参加する中で、コミュニケーションが発生する場面や仕組みに興味が向きました。
まさか体操を作ることになるとは思ってもみませんでしたが、丸1年に及んだこのとびラボの歩みをご紹介します。
・
数あるとびラボの中では、異色なラボだったかもしれません。
アートスタディルームで汗をかくまで運動している姿は、他のとびラーたちの目にはどう映っていたでしょうか。
まずはこのラボで制作した「とびラ体操」をご覧ください。
■体操はコミュニケーションツール
2023年の6月にとびラーの交流会が行なわれました。
2年目、3年目となるとびラーが、4月から加わった新しいとびラーを迎えるためにいろいろな企画を準備し、交流を楽しむ場となりました。
その企画の中の1つに、ラジオ体操がありました。
交流会の当日は、12期とびラーにとって全6回の基礎講座の最終日であり、受講で疲れた頭と体を癒して、リラックスしてもらおうという気持ちから出たアイデアでした。
日本で育ったほとんどの人はラジオ体操を知っています。
様々な背景を持つ人の集まりであるとびラーが、同じ時間を過ごすことのできるグッドアイデアだと感心しました。
交流会で実施した際には、「気持ちいいね!」「こんなに長かったっけ?」など、会話が広がっていく様子を見ることができ、コミュニケーションツールとしての体操の持つ力に興味をもちました。
少し調べてみたところ、体操を体力向上や健康増進だけでなく、コミュニケーションツールとして活用している地域や学校もあると知りました。
また、ラジオ体操以外にも、「〇〇体操」というコンテンツはたくさん作られています。純粋に運動するためのものや好きなものを身体で表現しているもの、本格的なものからシュールなものまで様々ですが、そのどれにも共通して感じられたのは、「みんなで一緒にやろう!」という気持ちです。
体操がコミュニケーションのきっかけになるのであれば、とびラーとかけ合わせたらきっと面白くなるのではないか?
どんなものができるかはまったくわからないけれど、これを作っていくプロセスはきっと楽しいだろう、という予感はありました。
■「この指とまれ[i]」の想い
交流会から数週間後に、「この指とまれ」をする想いを文章にして、とびラー専用掲示板に投稿しました。その時に書いていたのが以下の文章です。
10期・11期・12期とびラー交流会の準備から本番まで、何度かラジオ体操を踊りました。毎回みんなが楽しそうだったのが印象的でした。やり方は少しずつ違っても、同じ動きをすることってコミュニケーションツールなんだと思いました。
だから、都美を題材にしたオリジナルの体操を作って、みんなで踊ればきっと楽しい。そして作る過程では、題材のことをよく見たり、表現方法を考えたりするのがきっと楽しい。
これは鑑賞→表現→コミュニケーションの連鎖を感じられるものになりそうな気がする。とびラーもスタッフさんも学芸員さんも守衛さんもみんなで踊りましょう!
「体操」の動詞は「踊る」で合ってるのかな?と悩んだことを思い出します。(たぶんですが、「体操」の動詞は「体操する」なんですよね…)
動機を一言にしてしまえば、「楽しそうだから」という一点のみだったのですが、それだけでは趣味の自主制作と変わりません。
そこで少しだけ自分たちに問いを向けて考える時間を持ちました。
・美術館で体操を作る意味があるのか?
・美術館で作られる体操とはどんなものか?
・とびラボでやる意味があるのか?
考えた結果、「この指とまれ」の掲示板の文中にある「鑑賞→表現→コミュニケーションの連鎖を感じられるものになりそうな気がする」というぼんやりとした考えが浮かびました。
全くもって抽象的なのですが、あとは集まったメンバーと一緒に考えながらやってみようと思っていました。
最後の一文は思い切って大風呂敷を広げましたが、半分は煽り文句のつもりで。でも半分は本気で、とびラーだけでなく美術館にいる色々な人とやってみたいと考えて書きました。
これは僕が感じているとびラボの面白いところで、他のコミュニティなら躊躇ってしまいそうな呼びかけでも、おもしろそう!やってみよう!と受け止めてもらえるのです。
結果よりも試行錯誤するプロセスや、その場で生まれた気持ちを大事にしたいという共通の想いがあり、明確なゴールが見えていなくても、同じ興味を持った人が能動的に集るのです。
そしてこのゆびとまにも、何人かのとびラーが集り、とびラボとしてスタートを切りました。
■想いの共有
ラボのキックオフミーティングでは、集まったメンバーに「このラボに参加しようと思った理由」「体操って何?」「どんな体操にしたいか?」「誰のための体操か?」などについてメンバーの考えや想いをきき合いました。
とびラボでは、折衷案を取るということではなく、みんなの興味や気持ちの重なる部分を確かめ合いながら目指す方向を探るようにミーティングが進みます。
一人ひとりの想いをじっくりときき、その人が何を大事にしているのかを理解しようとする力が働いているように感じられます。
素直な意見をその場に出せる雰囲気をみんなで作っている感覚です。
だから、ゴールのイメージがなくても、みんなでスタートすることができるのです。
■とびラーならではの題材とは何か?
次には、「体操で何を表現したいか」を話し合いました。
東京都美術館に親しんでもらうために、建築の特徴を表現するのはどうか?
より広くアートそのものに興味をもってもらうために、誰もが知っている有名な作品を表現するのはどうか?
上野という地域性を取り入れて、パンダや西郷像も入れてはどうか?
それぞれの想いから、色々なアイデアが出されました。
そして最初に取り組む対象として、普段からとびラーが親しんでいる、東京都美術館の野外彫刻作品[ii]を題材にしてみることにしました。
題材の模索中には、あるメンバーが現代美術家の高橋唐子(たかはしとうこ)さんが、静岡県立美術館の彫刻作品から着想を得て作られたという《ロダン体操》[iii]を発見し、共有してくれたことで、僕たちと同じようなこと(全然ちがう!と言われるかもしれませんが)を考えた先人がいたことに喜び、一方的につながりを感じました。
その後、ラボのミーティングを開く際には毎回《ロダン体操》で身体をほぐしてから始めるようになりました。
初めてアートスタディルームで音楽に合わせて《ロダン体操》をした時は周囲からの視線を感じ、どう思われているのだろう?と不安になりました。
しかしその後も毎回やっているうちに、見ていた人たちから「なんだかすごく楽しそうなことしてるね!」という声がたくさんきこえてくるようになりました。
■作品愛と体操らしさの両立
題材が決まってからは、まずは試しに表現してみようということで、彫刻の画像を見ながら体を動かしてみることにしました。
最初は僕だけが立って「こんな感じかな?」「これはどう見える?」と色々な動きを試していたのですが、次第に一人二人と立ち上がり「あの作品はこうだよね!」「こうのほうがいいんじゃない?」とアイデアを出し合うようになりました。
一度火がついてからの勢いはすごかったです。
掲示板に上げた文中で、「鑑賞→表現→コミュニケーションの連鎖」と書いているように、作品の観察にも時間を割くことを想定していたのですが、既にメンバーが見慣れている作品であったためか、次々と動きのアイデアが溢れてくる状態でした。
みんなそれぞれに作品への愛を持っていて、少しでもその作品らしさを表現したいという気持ちが表れていたように思います。
また、あまり気にしていなかった作品とは、改めて向き合う機会になれたのではないかと思います。
時に奇抜なアイデアに大笑いしながらも、気をつけたかったのは、止まったポーズで表すのではなく、動きの中で表すということ。
そして手先足先の小さな動きではなく、身体全体を使った大きな動きで表すということです。
メンバーの中には、地域の高齢者に体操の指導をしている方がおり、体操らしい身体の動かし方になるように相談しながら、作品らしさと体操らしさが融合する振り付けを考えていきました。
それぞれの彫刻を表す体操ができてからは、全体の構成を考えました。
前出の指導者の方も体操の専門家ではありませんので、あくまでも自分たちで考え、やってみて、身体のどこに負荷がかかっているか、同じような運動が続いていないかなどを確認しながら組み立てました。
いつも《ロダン体操》をしてから、振り付けや構成の試行錯誤を始めると、誰かが「休憩しよう」と言うまで動き続けていたので、気が付くとみんな汗を流してフラフラ。
自分も含め若者ではないことを感じざるを得ませんでした。
ラボの連絡をする掲示板の持ち物欄には、「スポーツドリンクとタオル」と書くようになっていました。
■自分たちのやり方でできた喜び
次は、考えた構成で音楽に合わせてみることにしました。
曲は、ラボのメンバーがフリーのBGMを見つけてきてくれましたので、それに合わせてみることにしました。
楽譜を書き起こすことができれば、もっと上手なやり方があったのかもしれません。
でもそれができなかった僕たちは、まず曲を聴いて、メロディーと尺に体操のタイミングが合うように、何度もやりながら回数や間隔を調整しました。
今思えば、なんとも不器用なやり方でしたね。
でもその時は、方法について議論しようという空気にはなりませんでした。
最初は全然合わなかったものが、ここのタイミングを速めて・・・ここを一拍空ければ・・・と微調整を繰り返すうちに少しずつ重なっていきました。
何度目だったかわかりませんが、曲の終わりと深呼吸で息を吐くタイミングが噛み合った時は、「おー!」という感動の声が上がりました。
きっとベストな方法ではないと気付いていながらも、その時自分たちにできるやり方で前進し、最後にはこれでもできたと喜び合うことができた。
まるで未開の登山ルートを切り拓いたような爽快感がありました。(登山はしたことないですが。)
■見える化で広がった安心感
さて、音楽に合わせることができたので、次の回では、自分たちが練習する時のお手本とするための動画を撮影することにしました。
しかし、改めてやってみるとまた曲と体操がズレてしまっています。
前回90分間をフルに使って微調整を繰り返し、やっと合わせられたものだったので、さすがに気持ちが萎えかけました。
再現性を高めるにはどうしたらよいだろう?と悩みましたが、このあたりからラボに参加してくれたメンバーの一人が、動き方や拍数をイラストに描き出してくれたのです。
それがこちらです。
みんなが頭と身体で覚えていたことを見えるかたちにしてもらえたことで、メンバー内に安心感が広がりました。
書き残す、可視化するというのは基本的なことですが、そんなことも忘れて突っ走ってきていたのだなと気付かされました。
このイラストを印刷した紙をカメラの横に貼り、動画の撮影を行ないました。
■隠せぬ疲労感も味になった?
イラストを見ながらの体操を撮影し、全体の流れが確認できる動画ができました。
この後は数日間の自主練習を経て、完成版としての動画の撮影に挑みます。
数日後の撮影当日。
朝からメンバーを入れ替えながら少しずつ撮影を行ない、なんとか夕方までに撮り切ることができました。
ただ、若者でない僕たちにはさすがにハードスケジュールだったようで…
完成した動画の中でも疲労の色が隠せず、足元がフラフラだったり無表情だったりしていますが、それはもうこの動画の味として笑ってください。
初夏にゆびとまをし、この頃は次の春がもう目の前でした。
10期とびラーの開扉の日が迫っていて、現役中に完成させることは難しいだろうということは分かっていました。
それでもラボに参加してくれて、「頑張って完成させてね」と言ってもらったことは、その後のモチベーションになりました。
■どこまでも自分たち流を楽しんだ
映像の次はナレーションと字幕です。
これも専門のコピーライターがいるわけではありませんので、自分たちで考えます。
この時はNHKのラジオ体操のナレーションを研究し、たたき台となるものを作ってきてくれたメンバーがいました。
本当にメンバーの能動性、主体性にはいつも感心させられます。
彫刻作品を表現する体操であるため、作品の形状の部分に言及するのか、体操としての効果の部分に言及するのか、色々な角度から言いまわしを検討しました。
実際に作ってみると、考えることがたくさんあるということに気付けたこともこのラボの収穫です。
時には遊び心も入れて、自分たちの納得のいくかたちに仕上げました。
音声の収録はアートスタディルームの脇にある小部屋に籠って行ないました。
録音機材はiPhoneのみ。
とても音響の専門家には見せられない環境ですが、少しでも外の音が入ってしまわないようにホワイトボードを衝立の代わりにしたりして工夫しました。
■ゴールのかたちも自分たち次第
映像と音声の素材が揃いましたので、最後の作業は編集です。
当然、動画編集の専門家はいません。
しかし、少しだけ経験のあるメンバーが手を上げてくれました。
こればかりはみんなでできる作業ではないので、自宅で作業してもらうことになります。
動画編集は時間のかかる作業です。
映像を切り貼りするだけでなく、画面の構成をデザインしたり、字幕の固有名詞の表記を確認したりすることも必要です。
にもかかわらず、家庭での時間を割いて作業してくれました。
また、動画の冒頭にタイトル画像も入れようという提案があり、これはデザインの心得のあるメンバーが自宅作業を引き受けてくれました。
もし編集ができなければ、音楽に合わせて体操するところをノーカットで撮影し、同時にナレーションも録音するという、考えるだけでも気が遠くなるようなことをやろうとしていたかもしれません。
あるいは、動画は諦めて紙芝居のようなものを作っていたかもしれません。
それでも悪くはないのですが、「みんなで一緒にやろう!」という気持ちを体現するかたちとしては、やはり動画がベストだったと思います。
■プロセスを重ねたことへの達成感
6月。昨年の交流会でのラジオ体操からほぼ1年が経ちました。
編集された動画をアートスタディルームで試写し、最後に字幕の文字校正をして、「とびラ体操」の動画は完成しました。
ゴールのかたちも含めて、集まったメンバーと一緒に考えて進めていくプロセスの中で起こること、それを楽しむことがこのラボの目的でした。
ここまで書いてきたように、動画というかたちになるまでは色々な試行錯誤がありました。
誰も専門家がいない中で、みんなで意見を出し合い、1つの制作物を完成させられたことは、まさに「この指とまれ式」と「そこに居る人が全て式」で進めてきたプロセスの集大成になったと思っています。
何よりもこのプロセスを重ねて来られたことに達成感があります。
そしてこのブログを読み、動画を見てくれた人にも、僕たちが経験してきたことの一端を感じてもらえたら嬉しいです。
■‘24の交流会での実演
動画の試写には、たまたまその日居合わせたプロジェクトマネージャの小牟田さんも同席してくれました。
そして動画を見終わった時に、「今年の交流会でやったら?」と仰いました。
思わぬ一言に「え?いいの?」という感じでした。
というのも、みんなで頑張って作ったものなので、どこかで実演して、他のとびラーにも一緒にやってもらいたいという気持ちはありつつも、そのためだけに他のとびラーに集まってもらうのは自己満足のようになってしまう気がしていました。
そしてなにより、コミュニケーションツールとして制作した以上は、その用途に合った場面で使いたいという想いがありました。
ちょうどよい機会はないだろうか?と考えていたところでしたが、その機会を見出せず、またいつかチャンスがあれば・・・ということで終わりにしようと考えていたところでの小牟田さんからの一言でした。
早速、その場にいたメンバーで、交流会で実演するための設計を考えました。
「とびラ体操」を見たことのない人にも一緒に体操をしてもらうためには、このラボに関わってくれたとびラーに見本になってもらう必要があります。
会場内のどこにメンバーを配置すれば効果的かを考えると、あと二人ほど見本となれる人が欲しい。
こういう時僕は、どうしようかなぁ…と悩み始めてしまうのですが、行動の早い他のメンバーは思い当たるとびラーに早々に声を掛け、協力をお願いしていました。
しかも協力をお願いした二人とも二つ返事でOKしてくれました。
交流会までは2週間ほど。
短期間で体操を覚えてみんなの前で実演してほしい、というなかなかハードルの高い要求だったと思うのですが、快諾してくれて本当に助かりましたし、このタイミングでラボに関わるとびラーが増えて、大団円への勢いが増した気がしました。
また、とびラーの中には、きこえない人、きこえにくい人、見えない人もいます。
そういう人たちにも一緒に体操してもらうためには、どうしたらよいか?も考え、できる限りのアイデアで進行台本をまとめました。
交流会当日。
「とびラ体操」でたくさんのとびラーが前後左右に揺れている光景は壮観でした。
一年前のラジオ体操はみんなが知っているもの。
今年のとびラ体操はほとんどの人は初めて見るもの。
どうなることかと不安もありましたが、みんなが映像と実演を見ながら楽しそうにやってくれて、忘れられない景色になりました。
動画に出演しているとびラーも動画内の表情とは打って変わって笑顔満開でした。
■最後に
この「とびラ体操を作りたい!」は、ほぼ月に一度のペースで、丸一年続けました。思わぬ長丁場となりましたが、支えられたのは、ラボに参加してくれたとびラーの熱量と、見守り、声をかけてくれたとびラーやスタッフさんの応援だったと思っています。
参加してくれたとびラーの熱量の高さには毎回驚かされました。
いつも集まる度に「さあ、今日もやろう!」というエネルギーに満ちていて、みんなでサポートし合いながらラボを前進させてくれました。
最初からずっと参加してくれたとびラーはもちろん、途中から入ってくれた人も、戻ってきた人も、みんなそれぞれに存在感を発揮してくれました。
そして、ラボに参加していないとびラーたちからもたくさん声をかけてもらえたのは、このラボの特徴だったのではないかと思います。
ラボを行なった後に活動報告のホワイトボード[iv]を公開すると、「ホワイトボードを見るだけでも楽しい」「時間が合えばいつか参加したい」などのコメントをもらいました。
興味を持ってもらえることが、ラボに参加するとびラーの熱量をさらに高めたように思います。
最後にもう一度書きますが、「とびラ体操」はコミュニケーションツールのつもりで制作しました。
世の中にある「〇〇体操」の1つとして、どこかで使えるチャンスがあれば、どんどん使ってほしいと思います。
そして、人や場所や時間に合わせてどんどんカスタマイズしてほしいと思います。
《ロダン体操》につながりを感じた僕たちのように、どこかの誰かに東京都美術館と、そしてとびラーとのつながりを感じてもらえたら・・・
「とびラ体操」がどこかで活躍してくれることを期待して、「とびラ体操を作りたい!」ラボは解散いたします。
みんな!やったね!ありがとう!
たくさんのとびラボに参加し、たくさんのとびラーと関わらせてもらいました。「この指とまれ式」と「そこにいる人が全て式」から生まれるものには、関わった人たちの体温を感じます。毎回、内容も顔ぶれも変わりますが、1つの気持ちをみんなで育てていく感じは、何回やっても飽きません。
[i] 「この指とまれ式」でとびラボを始める時の合言葉
[ii] 東京都美術館にある彫刻作品 https://www.tobikan.jp/archives/collection.html
[iii] ロダン体操 https://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/rodin/gym/
[iv] とびラボなどの活動内容を共有し合う、とびラー専用の掲示板
2024.06.22
【第6回基礎講座 この指とまれ/そこに居合わせる人が全て式/解散設定】
日時|2024年6月22日(土)10時~15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
講師|西村佳哲
内容|とびラーは、自分たちの関心を寄せ合い、アイデアを共有し、プロセスを大事にしながら活動をつくります。この回では、小さく始めるプロジェクトのつくり方や、そこに集まった人みんなの力を活かした活動について学びます。また、活動のはじめ方だけではなく、終わり方のデザインについても理解を深めます。
基礎講座最終回のテーマは「とびラボ」です。
「とびラボ」とは、とびラー同士が自発的に開催するミーティングのことで、はじめ方/すすめ方/おわり方やあり方について考えました。
講義は西村さんとマネジャーの小牟田さんのクロストーク形式で進みました。
新しい活動のアイデアがひらめいたとびラーは『この指とまれ!』をして、賛同した他のとびラーが3人以上集まったら、とびラボは始まります。
西村さんや小牟田さんからは「まずは集まった人同士の思いや視点をよく確かめ合い、成功を目的化しない」というお話がありました。
そして、とびラボは『そこに居合わせる人が全て式』で進めていきます。
発起人がリーダーというわけではなく、みんながフラットに関わることで、当初のアイデアに他のアイデアが重なって、新たなアイデアが生まれます。
とびラーは、ふだんの仕事のすすめ方や前提とは違う価値観に少し驚きながらも、3人組で話し合うワークを通して「この方法もよさそうだ!」という考えになったようです。
とびラボの最後は『解散』です。
活動の目的を達成して成果をとびラー自身がふりかえることができたら、そのとびラボは解散します。「解散は大事で、組み立て直せる仕組みでもある」と語る西村さんに、うなずいているとびラーもいました。
あるコミュニティの中で、ちいさなチームが結成と解散を繰り返しながらフラットな関係性でアイデアを形にしていくには、『この指とまれ!』『そこに居合わせる人が全て式』『解散』をみんなが確認しながらプロジェクトを進めることが大切です。
午後は、とびラボの実践編です。
まずは東京都美術館のミッションを確認し、その後、1人ずつとびラボのアイデアを考えました。
そして「あれはよかった!」と思い浮かぶとびラボはどのようなプロセスを経ていたか、スタッフの峰岸さんと越川さんから実際の事例について聞きました。
西村さんは「アイデアとは、既にあるものの、あたらしい組み合わせである」と言います。13年目となるとびらプロジェクトですが、これまで既存のアイデアを掛け合わせたとびラボもありました。同じアイデアを使っても、時代や場所、鑑賞する作品が変われば、目的は変わってくるかもしれません。
東京都美術館のミッションのもと、とびラー・都美スタッフ・藝大スタッフが一緒になって、とびらプロジェクトの活動をつくっていきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.06.10
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日時|2024年6月10日(月)10時〜16時
展覧会|デ・キリコ展(会期:2024年4月27日(土)~8月29日(木))
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・東京都美術館で開催された「デ・キリコ」展にて、「障害のある方のための特別鑑賞会」を実施しました。この鑑賞会は、障害のある方がより安心して鑑賞できるよう、特別展の休室日に事前申込制で開催しているものです。
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・当日は、障害のある方やその介助者620名以上が東京都美術館を訪れ、ジョルジョ・デ・キリコの不思議な世界の魅力を堪能していました。
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・参加者を迎えるのは、アート・コミュニケータです。とびらプロジェクトで活動中の「とびラー」やとびラーの3年の任期を満了したアート・コミュニケータが数多く参加し、受付や展示室内など、館内の様々な場所で参加者の皆さまをサポートをしました。
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作品から生み出されるコミュニケーション
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・歪んだ遠近法や、不思議なモチーフやなど、幻想的な雰囲気をまとうデ・キリコの絵画を見ていると、「これはなんだろう?」「どうしてこんなふうに描いたんだろう?」と、たくさんの疑問が頭をよぎります。そんな作品が並ぶ展示室では、おとなりの人同士で作品の謎や魅力について語りあうコミュニケーションが自然と生まれていました。アート・コミュニケータたちは、時に参加者の皆さまと言葉を交わしながら、作品にに対する興味をさらに深めていただけるようにサポートしました。
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・iPadで作品画像を大きく拡大し、小さなモチーフや作品の細部をお見せすることもあります。車いすなどに乗られていて目線が低い方や、至近距離でものが見えやすい方にはとくに好評です。このiPadで拡大して鑑賞をサポートするアイデアは、アート・コミュニケータ「とびラー」の発案により実施されています。
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「消しゴムハンコ」でデザインされた案内状
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・今回の鑑賞会では、とびラーによる「消しゴムハンコ」も注目を集めました。ハガキでお申し込みされた参加者の皆さんにお送りしている案内状は、毎回の展覧会にあわせてとびラーが手製の消しゴムハンコでデザインした封筒でお送りしています。来館者から「ほかのデザインも見たい」という声が寄せられ、休憩スペースにてさまざまなデザインの封筒が披露されました。
見えない・見えにくい方へのサポート
・今回、見えない・見えにくい参加者を含む2組の方から、アート・コミュニケータと一緒に展示を巡りたいという希望がありました。各フロアごとにそれぞれのペースに合わせて、作品に描かれていることや、それぞれのアート・コミュニケータが感じる作品の魅力をお伝えしながら、一緒に作品を鑑賞する様子が見られました。
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・この特別鑑賞会は、東京都美術館のミッションである『すべての人に開かれた「アートへの入口」』を体現するように、そこにいる人がともにアートの魅力に触れ、その喜びを分かち合う1日です。参加者のみなさまとアート・コミュニケータの交流の様子から、美術館という場所やアートが持つ力と、それをともに受け取りあうコミュニティの大切さを改めて実感しました。
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・次の鑑賞会でもみなさまにお会いできるのを、アート・コミュニケータ一同楽しみにしています。
2024.05.25
【第4回基礎講座 会議が変われば社会が変わる】
日時|2024年5月25日(土)10時~15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
講師|青木将幸
内容|とびラーの自主的な活動には、直接コミュニケーションをとるミーティングの場のあり方がとても重要です。ひとりひとりが主体的に関わるミーティングの場をつくるために、ミーティングの理想的なスタイルや具体的な手法を、レクチャーやワークショップを通して学んでいきます。
とびらプロジェクトでは、とびラー同士が自発的に開催するミーティング「とびラボ」があります。さまざまな関心を持った多世代の人が集まってアイディアを重ねるため、とびらプロジェクトではミーティングを大切にしています。
アイスブレイクの「ご近所さんこんにちは!(自己紹介)」でみんなの緊張がすっかりとけた後、本題に入っていきました。
「ミーティングをうまくやるコツとして、五感を使ってみる方法があります」と青木さんから語られ、【聴覚】【視覚】【触覚】【嗅覚】【味覚】それぞれの感覚に着目しながら、ミーティングについて考えていきました。
まず聴覚については、第2回基礎講座「聞く力」を思い出し、相手に関心を持って聞くことの大切さを改めて意識しながら、3人組でミーティングをしました。
これはミーティングのファースト・ステップで、安心して話せる場がうまれることを体感しました。
視覚では「お好きなものは何ですか」をお題にグループで話をし、1人がみんなに見えるように書き留めました。ミーティング後、みんなで書かれたものを見ることで、再び情報を得られることを学びました。
触覚は、各自が持参したお気に入りの小物を、他のとびラーは目をつぶって手で触って味わうというミーティング。
目をつぶって触ったとびラーが「ん?なんだ、これは?」とつぶやくと、その様子を見ている小物を持ってきた本人が「この辺りを触るとわかるかも」とヒントを出しながら、会話が進みます。
触ってどんな感じがするかを語り合ったり、持ってきた理由を話したりすることでミーティングの場がどんな様子で進むかを体感しました。
「会議は言語で進みがちですが、ミーティングに変化をもたらしたいとき、触覚を使うことで脳がひらいて新しいアイディアが出やすくなります」と青木さんから語られました。
嗅覚では「人は香りによる意識がかわる。ミーティング進行者の中は、みんなにこの場をどんな気持ちで進めてほしいを考えて、室内にお香を焚いて迎えたりする」という事例のお話がありました。とびラーからは「あ~」という感嘆の声がもれていました。
そして、青木さんがスプレー出してプシュッとすると、淡路島の檜の香りに包まれました。嗅覚による気持ちの変化を体感しました。
そして味覚は、お菓子を食べながら。なぜ自分がこのお菓子を持ってきたのかを語りながら、ミーティングを進めて行きました。味覚を共有すると繋がりが深まることに気づきました。
五感を丁寧に使うと、ミーティングの質がよくなってくることを実感したのではないでしょうか。
そして、午前中の最後は「とびラー流のよい会議『グッド・ミーティング』って?」を、7~8人で語り合いました。それぞれの考えをホワイトボードに書き出すことで、参加する全員が同じものを見ながら考えを共有していきます。
午後は、実践です。みんなで話したいお題を出し合い、好きな話題を選んでミーティングをしました。その後はそれらをみんなで共有です。
自分たちで考え、導き出した『グッド・ミーティング』の要素を意識しながら進めることで、納得感を持ってミーティングを進められたことでしょう。
とびラーの本当の実践はこれからです。今回感じたこと・発見したことを忘れずに過ごしていただけたらなと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.05.11
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【第3回基礎講座 作品を鑑賞するとは】
日時|2024年5月11日(土)10時~15時
場所|東京藝術大学美術学部 中央棟2階 第3講義室、東京藝術大学大学美術館
講師|熊谷香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係 係長)
内容|作品の鑑賞について理解を深めます。作品が存在することによって起こる体験とは、私たちにとってどのように意義があるのか、それらを鑑賞することの意味についても考えてみます。
・美術館体験とは何か?
・鑑賞とは何か?
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とびらプロジェクトの鑑賞を体験する・知る
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作品を鑑賞することは、美術館を拠点にアートを介してコミュニティを育むとびらプロジェクトの基盤となる活動です。基礎講座3回目では、「作品を鑑賞すること」を考えるレクチャーとともに、 美術館で実際の展覧会の作品を鑑賞しながら講座を行いました。
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午前の体験
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午前中は、とびらプロジェクトマネージャの熊谷さんからレクチャーを聞いた後、昨年の鑑賞実践講座に参加していたとびラーのファシリテーションで複数の人がともに作品を鑑賞する体験をしました。鑑賞するのは、講座当日に東京藝術大学 大学美術館で開催されていた「大吉原展」(会期:2024年3月26日(火)~5月19日(日))です。
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実際の展示室に行く前に、まずは作品図版をじっくりと観察し、気づいたことをグループ話し合いました。
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そのあと展覧会場に移動し、本物の作品を鑑賞しました。
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午後の内容
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午前の体験も交え、作品を鑑賞することを、単なる「受容」ではなく、その人なりの「意味・価値の創造が行われる時間」であるということを、映像やテキストも丁寧に見ながら理解していきました。
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また、とびらプロジェクトの特徴でもあるお互いに話をききあうことのできるコミュニティでの「共同的な学び」が、複数の人で作品を鑑賞する上でも重要になることについて考えました。
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今年度のとびらプロジェクトには、全盲の方が1名、13期とびラーとして参加しています。視覚情報のない方と一緒に講座の中で映像・画像・作品を見ることについて考えることで、関わる人みんなにより伝わりやすく講座の内容がブラッシュアップされていきます。
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基礎講座は折り返し地点となりました。
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後半あと3回の講座では、アートを介したコミュニティのあり方・活動の作り方についてみなさんと考えていきたいと思います。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.04.27
【第2回基礎講座 「きく力」を身につける】
日時|2024年4月27日(土)10時~15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
講師|西村佳哲
内容|コミュニケーションの基本は、上手な話し方をするのではなく、話している相手に、本当に関心を持って「きく」ことから始まります。この回では、人の話を「きく力」について考えます。
・話を〈きかない〉とはどういうことか?
・話を〈きく〉とは? また、それによって生まれるものとは?
基礎講座の第2回は「きく力」がテーマでした。
この「きく力」はとびらプロジェクトが大切にしていることのひとつで、毎年1年目とびラーは西村さんのこの講座に参加します。
西村さんの挨拶や講座の進め方の話が終わると、早速「隣の人と2人組になって自己紹介してみましょう」「次は別の人と3人組になって自己紹介を!」と進み、13期とびラーたちの緊張がとけていく様子が伺えました。
いよいよ本題です。
まず西村さんから「きく力は、なぜ大事?」いう問いかけがあり、はなし手・きき手・観察の役割をローテーションしながら、いくつかのワークをグループでおこない、それぞれのきき方が相手に与えていた影響について語り合いました。
これらをふまえて、西村さんから「「きく」には【話の内容】に関心をある場合と【その人】に関心をもつ場合がある」という話がありました。
自分は普段どんなきき方をしているかを考えるきっかけになったとびラーも多かったようです。
午後は、午前のワークや話を、別の角度から捉えた話からスタートしました。
「事柄を正確に理解するのがひとの話をきくことだと思っている人が多いが、これは「きく」の一部。はなし手にとって言葉(概念)になっていないこと・気持ちもたっぷりある。そこに関心を向けることが、その人に関心を向け続けるということなのではないだろうか」と西村さんは語ります。
一文字も逃すまいとメモをとる人、うなずく人、西村さんの顔を見つめる人。とびラーそれぞれが西村さんの話に聞き入っていました。
さらに進んで「言葉の抽象性」について。
その言葉を使わないで説明するというワークを通して、同じ言葉でもそれぞれイメージしていること・ものが異なることを体験し、「意味や経験はひとりひとり違う」の理解を深めました。
最後に、とびらプロジェクト マネジャーの熊谷さんから、「とびらプロジェクトでは、お互いに関心を持ち合える関係性、ききあえる・はなしあえる関係性が大事だと思っています。それによって思ってもみてなかったようなアイディアが出てくる。そういうことを実践していくコミュニティにしていければと考えています」との話がありました。
この講座を受けたからといって、すぐにきく力がグーンッと高まったり、なぜきく力が大事か明確になったりすることはないかもしれません。
しかし何かしら「きく」について考えたのではないでしょうか。
13期とびラーには、ゆっくりじっくり自分のペースで、きく力を身につけていってもらえたらと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.04.13
【第1回基礎講座 オリエンテーション】
日時|2024年4月13日(土)10時〜15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム、東京藝術大学 美術学部 中央棟2階 第3・4講義室
51名の新しいとびラーを迎え、13年目のとびらプロジェクトがスタートしました。
基礎講座初回の午前は、とびラーの活動の拠点である東京都美術館アートスタディルームに13期のメンバーが集まり、活動に必要な情報のオリエンテーションや、2~3年目とびラーによる館内ツアーを行いました。
午後は東京藝大の講義室に11~13期とびラーと、東京藝大・東京都美術館のスタッフ全員が集合し、今年度のキックオフを行いました。
今年度も美術館を拠点にアートを介したコミュニティの輪を広げていきたいと思います。
13期とびラーのみなさん、これから3年間よろしくお願いします!
(とびらプロジェクトコーディネータ 越川さくら)
2024.03.28
『とびdeラヂオぶ~☆』はとびラボです。
活動期間:2023年7月~2024年3月
頻度 :月に1~2回
■「とびLOVE#1」のゲスト・スタッフ越川さんととびラーで試聴する様子
■趣旨 美術館に興味のない人や足を運んだことのない人のきっかけをつくりたい。
( “すべての人に開かれた「アートへの入口」”に足をかけてほしい!)
■ラジオをツールとしたのはなぜ?
このとびラボは、「とびラーのなかでラジオをきく人が思っていたよりたくさんいたので、『ラジオとアートコミュニケーションをテーマに話してみたい』」というラジオの仕事に携わっているとびラーの思いがきっかけとなり始まりました。話していくなかで、ラジオは話し手と聞き手が1対1でつながるメディアであること。その強みを生かしラジオを通して 「東京都美術館の魅力を知ってもらいたい!」「東京都美術館に関わる様々な人の話や推しポイントを我々メンバーがききたい!知りたい!」ということになりました。
■これまでのラボの流れ
▼なりきり期…集まったメンバーで自身がラジオDJになったつもりで、好きな音楽を選曲し自己紹介。
また、ある日のラボでは「マティス展」が開催中だったので、マティスの作品をイメージして各々音楽を選曲してみました。そのようにしてみたことで、音楽とアートという組み合わせでできることについて話が膨らみました。
▼迷走期…ラジオを介してしたいこととは?となったとき「東京都美術館のミッションに立ち返ろう」「興味のある人は自ら情報を取得するけど、そうでもない人たちにも知ってもらうきっかけをつくりたい」「中高生の放送部と一緒になにかできないか?」など、思いばかりがどんどん膨らみ迷走してしまったのでスタッフに相談したところ、結局わたしたちは「ラジオ番組が作りたいんだ!」という明快な答えにたどり着きました。とはいえ、ラジオ番組を制作したことがないメンバーがほとんどだったので、どのような形で実現できるのか、録音や進行も試しながら、まずはとびラー同士で聞けるような番組を制作してみようということになりました。今回の企画の内容は①美術館に関わる様々な人(警備員さん、ショップ店員さん、来館者など)の話を聞きたい。②とびラー内コミュニケーションの活性に役立てたい。この点に関しては、約130人のとびラーそれぞれが様々な活動に取り組んでいるため、お互いが知り合うきっかけが意外と少ないと感じました。そこで、ラジオというメディアを通してとびラー同士がお互いを理解する機会を作りたい。そうすることで、とびラー同士のコミュニケーションがより活性化し、活動の幅が広がるのではないかと考えたのです。この思いを形にするべく始動しました。スタッフにも相談し、まずは身近なスタッフやとびラーに美術館についての話を聞くという、インタビュー番組の制作が決定しました。
▼制作実践期
方向性が決まり、さっそく「とびLOVE」というタイトルの番組制作にとりかかりました。この番組タイトルには、愛してやまない東京都美術館への思いを語ってほしい・聞きたいという意図をこめました。番組の長さは10分程度で、移動中やすきま時間に気軽に聞けるよう、また内容は、話してくれる人の人柄が少しでも伝わるものにしようと決めました。
制作過程…基本的にインタビュアーが話してみたい人に自ら依頼するところからスタートします。収録はハンドサイズのレコーダーを使用しました。ヘッドホンをつけて、音声がうまく録れているか音のバランスを確認しながらの作業です。初めての収録の時はドキドキでした。収録場所はとびラーの主な活動場所であるアートスタディルーム。初めのうちは部屋の静かな場所を選んでいましたが、進めていくにつれて同じ部屋でミーティングしている他のとびラーの声も番組のエッセンスとして収録するようになりました。
編集作業も、とびラーが担当。番組にはオープニングテーマやエンディングテーマもつけ、場面転換に使用する番組のタイトルを乗せた「ジングル」は、ギターを弾けるラボメンバーが作りました。また、番組タイトルをラボメンバーの子どもや、ゲスト出演者に言ってもらい、その声を乗せたバージョンのジングルも制作。様々な声が番組にいろどりを添えることになりました。出来上がった番組はラボメンバーで試聴し、カットしてもいい部分について話したりして最終的な番組の形に仕上げます。そして、とびラーには聞こえない・聞こえにくい仲間がいるので、文字でも番組の内容が楽しめる「文字版」を制作することにしました。番組の最終版が出来たところで文字起こしを行いそれをもとに文字版を制作します。文字版もラボメンバーで最終チェックをして完成です。完成した番組はダウンロードで聴取できるようデータをアップし、とびラー全員が聞けるようにお知らせをしました。
番組について…第2回目からはゲストにインタビューする人と、番組のオープニングとエンディングの案内役(ナビゲーター)を分けることにしました。そうすることでインタビュアーが変わっても番組の始まりと終わりをいつも同じ声でおとどけできるので番組自体の統一感がでました。また、全5回を通して共通していることはゲストの人となりが分かるインタビューだということです。いつも接しているスタッフがアートと関わることとなったきっかけや、とびラーがなぜとびらプロジェクトに応募しようと思ったのかについて触れることで、距離が縮まった感じがしたり、普通に接していただけでは触れられなかったかもしれない考えや思いを知ることができたりと毎回“驚きや感嘆、新しい発見”があるこのインタビューはとても個性豊かです。インタビュアー×ゲストの化学反応はもちろんですが、インタビュアーによって雰囲気が変わるのです。そして、録音に際しては、他のラボも開催中の部屋で協力してもらいながら実施。番組内でBGMのように様々な声が聞こえてくるのもとびラーの日常が感じられます。
文字版について…聞こえない・聞こえにくいとびラーとも番組の雰囲気や出演してくれたゲストについて共有したいという思いから、目でも楽しんでもらえるようにするため、ただの文字起こしではなく、収録時の様子を書き足したりしています。そうすることよって、聞こえるメンバーにも音だけでは伝わらない部分を伝える手段にもなりました。
番組を聴いたとびラーからの感想…番組ナビゲーターを担当したとびラーの口調のファンという人、「みんなの好きなことが集結してできている感じがいい」「(ゲストの)活動の様子や思いがきけてよかった」「文字版は、音だけでは伝わらなかったところまで知ることができる」などの声が寄せられています。聴いた・見た感想をきけるのもラボメンバー以外のとびラーが関心を寄せて支えてくれているからで、励みになっています。このやりとりがとびラー同士のコミュニケーションにもなっているはずです。
■『とびdeラヂオぶ~☆』は数多く存在するとびラボのなかのひとつのラボです。
我々とびラーが愛してやまないラブの対象・東京都美術館に来てみてほしい。そのきっかけになるようなことを発信したい!と思いつくままに意見を出し合い、膨らませ、想像してきました。たどり着いたのは、まずは身近な気になる仲間の美術館への思いを聞いてみようということでした。このラボを通してゲストの話をきけばきくほど、もっと他の人の話もききたい!という、ききたい欲が湧いてきました。
ラボメンバーからは「妄想から始まってだんだん具体的になって、これからどう発展するか楽しみ」「スタッフやとびラーの人となりをラジオを通してとびラー内に発信できたことで、親しみがわき接するときの心持ちが変化した」「番組を聴いて寄せられた感想を通して、出演してくれたとびラーだけでなく感想をくれたとびラーの人柄もわかった」「寄せてもらったメッセージからどんな思いで聴いてくれているのか想像をかきたてられ励みになった」という声があがっています。また、文字版については「全く予想していなかったが、その場の雰囲気まで伝えられるものになった」「聞こえない・聞こえにくいとびラーにも届けたいと考えて出来た文字版が、聞こえるとびラーにも音で伝わる以外の部分を感じてもらえることにつながった」「文字というのは形も音に通じるものがあると思う」「それぞれの人の持っている個性にあった文字があるように、番組らしいカラフルな文字版があると視覚的によりうまく伝わるのではないか」などの見解もでました。
番組も文字版もまだまだ可能性を秘めているとメンバー全員が感じているところですが、10期のとびラボメンバーが開扉するのを機にいったん解散。
スタッフ、とびラー仲間はもとより、その輪を広げて美術館に関わっている様々な人々に話をききたい。そして、知りたい、知らせたい。このラボを通して美術館と人とをつなげたい思いは広がっています。
・とびラブはつづく・・・。乞うご期待!!
執筆:
柴田 麻記(12期とびラー)
染谷 都(12期とびラー)