2024.10.13
執筆者:藤原裕子
東京都美術館には「野外彫刻」が10作品展示されています。 東京都美術館の貴重な常設展示ですが、 東京都美術館には何度も来ているのに、こんなに野外彫刻があると気がつかなかった」という声を時々伺います。野外彫刻は、日差しの変化により映り込む色が変わり、 季節の など移り変わる自然を背景に、日々異なる表情を感じることができる魅力的なアートです。また、東京都美術館の野外彫刻は、抽象的な形状だからこそ、鑑賞する人ごとに解釈の幅が広がります。私たちは、このような魅力的な野外彫刻について、自然光の下で風を感じながら鑑賞の発見や楽しみを分かち合いたいという思いで、このとびラボをスタートしました。
鑑賞会当日まで実に6ヶ月、14回 とびラボを開き、とびラーで議論を重ねて準備してきました。
ミーティングでは、野外彫刻を鑑賞する楽しみをさまざまな来館者と共有していくために必要な工夫について考えました。そして特に以下の4つのポイントを、プログラムに落とし込んでいきました。
(1) 散歩を取り入れた鑑賞
野外彫刻は土や木陰、風、天気など周りの環境も含めて作品であると考えました。目の前の作品に向き合うだけではなくて、美術館の屋外空間の全体で楽しんでほしいと考えました。そのため、スタート後すぐに対象の野外彫刻に向かうのではなく、まずは散歩しながら日差しや他の野外彫刻を眺め周りの環境を楽しんで、その後に今回取り上げる野外彫刻の前に立ってじっくり鑑賞するプログラム構成にしました。
(2)野外彫刻を対話型鑑賞で楽しむ
おしゃべり鑑賞なのか作品解説なのか。野外彫刻の魅力をより楽しむにはどのような方法がよいか。最も効果的な鑑賞の在り方についても何度も議論しました。東京都美術館の野外彫刻は、抽象的な形状だからこそ、それぞれの解釈の幅が広がります。そこで今回は、彫刻の詳細をガイドがお伝えする形式ではなく、参加者同士で鑑賞を楽しむ対話型鑑賞(VTS)を取り入れることにしました。
(*VTS:Visual Thinking Strategiesの略。複数人の対話を通して作品により深く鑑賞する方法。)
(3)アイスブレイクー「小さな立体を作るゲーム」
プログラム当日、スタート時は、参加者の方々はまだ緊張しています。そこで、実際の作品を鑑賞する前に頭と心のウォーミングアップをするため、シンプルな形でさまざまな素材を組み合わせて小さな立体を作るゲームから始めます。完成したら参加者みんなでそれぞれの作品を、360°さまざまな角度から見合います。 ”いろいろな方向から見る”立体作品の楽しみ方を練習するとともに、緊張がほぐれて安心して発言できる場の雰囲気が生まれます。
(4)対象者
世代を超えてより幅広い鑑賞となるように“子どもと大人の視点の違いを味わってほしい”という考えから、幅広い年齢層を対象にした場づくりと時間配分を想定しました。そのため小学校低学年の子どもでも参加しやすいプログラムの所要時間を検討し、内容を精査しました。
2日間に分け、小学生以上を対象にそれぞれ約15名の定員で参加者を募集してプログラムを行いました。
(1)実施概要
2024年10月5日(土)、13日(日) 14:00〜15:30
(2)鑑賞会の流れ
⚫︎小さな立体を作るゲーム
まず室内で小さな立体を作るゲームを行います。アートスタディールームでグループに分かれ、それぞれのテーブルに置かれた立体物を3つ選びます。そして木材や石などさまざまな素材でできた立方体、球、円柱などを組み合わせてその人なりの“立体作品”を作ります。参加者の緊張をほぐすために、スタート時には気軽な「ゲーム」として紹介し、それぞれの立体が完成してからそれを「作品」と呼ぶことで、参加者に自然と鑑賞の意識が芽生えるように、細かな言葉使いにも注意しました。最初は緊張していた参加者の方々も、どの素材のどんな立体物を使おうか考えているうちに笑顔が出てきました。楽しみながら素材を選び、絶妙にバランスをとって積み上げようとしたり、横に並べたり、組み上がったものも逆さにしたり裏から見たり。色々な工夫を楽しんでいる様子が見られました。
完成したら、他の参加者のものを鑑賞します。同じ素材を使ったのに個々に異なる“立体作品”ができており、他の人から見た印象と制作者の作った意図が異なることに驚いたり、面白く思ったり。印象が変わったり、影も作品の一部だと気づいたり。「なるほど」「へえ~」「そう見えるんだ」などのつぶやきも出てきました。自ら選んだ素材の理由を説明しながら、自分の意図にあらためて気付いたりして、好奇心いっぱいの笑顔があふれる場となりました。「小さな立体を作るゲーム」を通して、たった3つの立体物を組み合わせるだけで多様な連想がうまれることを楽しみ、また360°さまざまな角度から観ることで新しい発見が生まれることにも気がついたところで、いよいよ野外彫刻の鑑賞へと向かいます。
同じ立体を反対方向からみてみると・・・。
⚫︎野外彫刻の鑑賞
その後、みんなで外に出て、散歩しながら野外彫刻の鑑賞を行います。今回実施した2日間は、あいにくの雨に見舞われた日と晴天の日で、それぞれまったく違う鑑賞体験となりました。散歩のように自然や建物を眺め歩くこと自体を楽しみながら、野外彫刻を観察し、対話を交えた鑑賞に入っていきます。とびラーが厳選した2作品を囲んでじっくり鑑賞しました。雨の日は、野外彫刻の表面に光る水滴や雨音、湿った匂いを楽しむことができました。雨の中で連想した野外彫刻の気持ちなど、様々な発想を共有できました。また、晴れの日には、反射する光のまぶしさや映り込む色の違いなどから、参加者同士の会話が止まらなくなるほど。反射した光が、四方に伸びていくようでありながら途中で角度を変えている様子を見て「人生のようだ」とつぶやく方もいらっしゃいました。彫刻に反射する光を人生の道筋に見立てていらっしゃるようでした。
素材が金属の彫刻は、晴れた日には青空や草花の緑、タイルの茶色が映り込みますが、曇りや雨の日はグレー一色で、見え方が全く異なります。雨の日には、《イロハ》の表面には水が溜まったり、《堰》は雨水の流れる音を見聞きすることもあります。 参加者同士の多様な発想を互いに楽しみながら、笑顔で活発な会話がつづく鑑賞をすることができました。
《イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》(最上壽之、1979年)を鑑賞する参加者ととびラーたち。
《三つの立方体 A》(堀内正和、1978年)を鑑賞する参加者ととびラーたち。
《三本の直方体 B》(堀内正和、1978年)
(3)参加者同士の鑑賞体験のふりかえり
鑑賞を終えて、アートスタディルームに戻り、チームごとに鑑賞内容を共有しました。参加者の方々は笑顔いっぱいで、充実した鑑賞時間だったことが伝わってきました。これまではあまり気づかなかった野外彫刻の鑑賞が実はとても楽しいものだったと、新たな発見を嬉しそうに共有してくださる声が多く聞かれました。ご夫婦で参加された方は、お互いの発想が新鮮だったようで、鑑賞後もひとしきり会話がはずんでいらっしゃいました。
雨の日の鑑賞について参加者の方々がどう感じられたのか、とびラーたちは少し心配をしていましたが、「雨の日ならではの鑑賞ができて、楽しかった」「逆に貴重な体験だった」と、ポジティブに楽しんでいただけた様子で、参加者の方々に笑顔をいただけてほっとしました。天候に左右されてしまう屋外での活動ですが、天候の心配を抱えながらも今回の野外彫刻ラボを敢行して良かったと嬉しい気持ちになりました。
(4) 鑑賞後の参加者の感想 (アンケートから抜粋)
・東京都美術館には何度も来ているのに、こんなに彫刻があると気づかなかった。
・他の人と一緒に鑑賞して、そういう見方もあるのかと知り、面白かった。どんな見方をしてもいいのだと思った。
・自分から出ることのない視点や意見を聞くことができ、新鮮に感じた。
・他の参加者の方、とびラーの方との交流から、凝り固まっていた考えや視点が一気に解放されたような気がした。
・鑑賞とは個人的なものだと思っていたので、他の人の意見を伺うのは新鮮だった。
・“じっくり見る”、“他の人の見方を「きく」”は、対人間にも応用できること。あらゆる立場、年齢の方に参加してもらったら、社会がいい方向へ向かうのではないかと思った。
・「小さな立体を作るゲームは、わずか1分ほどで誰でも選べる素材でも、何かしらの作品としてのストーリー性や達成感が得られた。これは簡単なことではなく、素材選びや形が非常によく考えられていた。
【雨の日ならではの感想】
・雨の日に屋外で美術作品を鑑賞できることは滅多にないので、特別感があった。
・天気による(野外彫刻の)素材の変化を見ることができた。
・排水溝に流れる水の音が、水琴窟のようで良い音色だった。
計画段階で目標としていた、「さまざまな年代の人が参加することにより生まれる視点の違いを楽しむ」「作品だけでなく屋外の環境全体で味わう」、そして「野外彫刻の楽しみ方を体験し、野外彫刻への関心を高める」という狙いは、しっかり達成されたように感じます。
(1)とびラーの感想
長きに渡る準備を経てついに迎えた本番当日。美術館の清掃スタッフさんがプログラム実施場所でもある東門付近で、蜘蛛の巣を取り払ったり銀杏の実を掃き集めたり、念入りに清掃してくださっている様子を目にしたメンバーは、感謝と晴れやかな気持ちでスタートを切ることができたといいます。屋外で活動し周りに向ける視野を持つと、この美術鑑賞の場は、作品だけの力だけではなく実にたくさんの人の手で作られ運営されていることに気付かされます。そうやってみると、自然の中、土の上に置かれた作品1つを取っても、見せ方が計算されていて、そしていろいろな方向から時間をかけてじっくり観察する意義を感じられるし、それを多くの人と共有したいと考えた今回の試みは意義深いものなのだと背中を押された気持ちです。とびラーが企画運営するプログラムも、美術館やとびらプロジェクトの関係者、参加してくださる一般の方、そしてとびラーの仲間たち、多くの人との関わり合いの上に成り立っていることを感じ、この時間をより深く学びと味わいのある機会にしたいと感じました。
参加したとびラーからは、「野外彫刻は館内の美術作品とは扱い方も見せ方も見方もまるで違う。自然や天気もそうだが、もっと周りの虫や花や太陽も、空間にあるあらゆるものが作品の一部、鑑賞の対象、心を豊かにする要素なのだと感じることができた。」「自分がモノを見ている位置を変えただけで、見えるものが変わること。自分の世界が広がっていくことに気づいた時のわくわく感。心を広げ視野の解像度が上がっていく満足感を知った。」という感想が聞かれました。
(2) 企画、ファシリテーターとしてのふりかえり・改善点
私たちは、野外彫刻を鑑賞するラボが今後も、形を変え発展しながら続いていくといいなと考えています。そのためにも改善点をはっきりさせ、次の「野外彫刻ラボ」をより充実させるべく、参加メンバーでふりかえりのミーティングを開きました。
他の鑑賞者の妨げにならないように、散歩型鑑賞のコース取りや鑑賞時の声かけ、また対話中の声量など引き続き配慮が必要だと感じました。また、秋に入っているとはいえ長時間の屋外活動では、熱中症や害虫対策については、今後も注意が必要です。雨天の活動では傘が登場するため、美術館内には持ち込めない傘を傘立てから出したり入れたりをスムーズに誘導する算段も必要です。
執筆者:13期とびラー 藤原裕子
それまでは全く意識していなかった野外彫刻だったのに、鑑賞体験の日に「目からウロコ」体験をしました。それからは興味関心がむくむくと湧き上がってきて、その味わい深い魅力的な世界を楽しんでいます。関心をもって調べるほど新しい発見が湧き上がってきて、世界がどんどん楽しく豊かになっていきました(進行中)。そんな素敵な体験をひとりでも多くの方と共有できたら嬉しいな。
2024.10.12
第5回建築実践講座|「東京藝術大学が考えるキャンパスデザインとは」
日時|2024年10月12日(土) 10:00〜15:00
会場|東京藝術大学 第1講義室
講師|君塚和香(東京藝術大学 特任助教)
今回の講座は2部構成で、午前は東京藝術大学 特任助教の君塚和香先生による講義でした。
君塚先生は建築士として設計の仕事に携わるかたわら、東京藝術大学キャンパスグランドデザイン室で藝大キャンパス内の建物や環境の再構成・構築を担っていらっしゃいます。
東京藝術大学と上野公園や周辺地域とのつながり、公共空間とパブリックスペースの考え方や開き方について、過去・現在・未来とお話いただきました。東京藝術大学の住所は「上野公園」であり、上野公園の一部でもあるという視点で語られるお話が印象的でした。
そして午後は、君塚先生が中心となって推進している、藝大と公道との間にある柵を植栽に変えるプロジェクト「藝大Hedge」を体験しました。
とびラーは、藝大上野キャンパスの芸術未来研究場と国際子ども図書館との境界約100mに700本以上(18種類)の苗木を植えました。
午前の講座をふまえて実際に植栽することによって、実感を持って公園の一部であり、大学と外の境界を意識し、公共空間に関わる体験になりました。
市民も参加できる「藝大Hedge」のお世話係に参加するとびラーもいて、君塚先生の主導で藝大生も一緒に植物のお手入れをしています。
今回植えた苗木が大きくなる頃には、とびラーは開扉していることでしょう。これからも上野に来て、この周辺環境の変化を見続け、感じてほしいなと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.09.30
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第5回鑑賞実践講座|「ファシリテーション事前準備」
日時|2024年9月30日(月)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)
内容|ファシリテーション事前準備(グループ作品研究、個人作品研究)
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第5回の講座では、Visual Thinking Strategies鑑賞(VTS)のファシリテーションをするための事前の準備について知り、複数人のグループワークと個人ワークを通じて理解していきました。
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VTS鑑賞では、まずファシリテータ自身が作品を事前によくみて、味わい、作品から立ち現れるテーマや魅力を掴んでおくことが重要です。事前の作品研究では、時間をかけて丁寧に作品をみながら、テーマや魅力を読み解いていきます。
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まずはグループでの作品研究。
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お互いの視点を聞き合い、それぞれの意見を主観的意見と客観的意見に分類し、作品から見つけられる根拠や主観的解釈を補完してマッピングしながら、作品研究シートを作成していきます。
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つぎに、個人での作品研究です。
普段ファシリテータとして事前準備をする際は、担当する鑑賞作品をそれぞれが自分で準備する場面が増えていきます。
そのため、事前にひとりで作品の魅力やテーマに近づけるように練習することも重要になります。
こちらも、時間をかけて作品研究の練習を行いました。
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今後、とびラーは多くの作品に関わっていきます。それぞれの作品に対して、観点を整理し、それぞれの観点の関わりを分析し、作品に近づく体験を積み重ねながら、鑑賞の場をデザインする視点を育ててもらえたらと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.09.29
第4回建築実践講座|「前川國男邸から見える前川建築」
日時|2024年9月29日(日) 9:30〜12:00
会場|江戸東京たてもの園
講師|早川典子(江戸東京たてもの園 学芸員)
第4回建築実践講座は、東京都小金井市にある江戸東京たてもの園で実施しました。
東京都美術館を設計した建築家・前川國男の自邸が、江戸東京たてもの園に移築されています。
前川自邸のリビングにて、江戸東京たてもの園 学芸員の早川典子さんにお話を伺いました。建築デザインのお話だけでなく、生前の前川がどのようにこの家を使っていたのか、また学芸員が、移築や保存をするにあたり行った工夫や努力など非常に多くのエピソードをお聞きすることができました。
たてもの園には、多くの復元建造物があります。とびラーは、30件ある建物の一つひとつを鑑賞し、それぞれが発見したことを互いにシェアしながら学びを深めていました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.09.14
第3回建築実践講座|「建築ツアーをやってみよう」
日時|2024年9月14日(土) 10:00〜15:00
会場|東京都美術館 ASR・スタジオ
講師|峰岸優香(東京都美術館アート・コミュニケーション係 学芸員)
今回の講師は、東京美術館がおこなっている「とびラーによる建築ツアー」を担当している峰岸優香さん。
まず第1回の建築実践講座内容(都美の建物と歴史)をふりかえり、建築ツアーでどのようなことを大切にし、どのように来館者をお迎えしているかについてお話がありました。
その後は「15分間のMY建築ツアーをつくろう!」ということで、とびラーそれぞれがツアープランを考えました。
東京都美術館パンフレットやトビカンみどころMAP、館内にある資料から読み解くだけではなく、実際に館内を巡り、一人ひとりが感じる「ここが好き!」「気になる!」をみつけてツアーを組み立てていきました。
お昼休憩をはさんで午後は、各々が考えたツアーを3人組になって交代で実施しました。
ツアー後はやってみた感想や思ったことをシェアし、ツアーの構成や伝えたいことが伝わったのかについて考えました。
「とびラーによる建築ツアー」は決まったコースがあるわけではありません。ガイド役のとびラーによって紹介するスポットはさまざまなので、参加するたびに新たな発見があるツアーです。
今回の講座の学びが建築ツアーに活かされたらいいなと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.08.26
第4回鑑賞実践講座|「展示室で学ぶ場づくり 〜スペシャル・マンデーに向けて〜」
日時|2024年8月26日(月)14:30~17:30
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ、ギャラリーA・B・C(『大地に耳をすます 気配と手ざわり』展 会場)
講師|石丸郁乃(Museum Start あいうえの)、越川さくら(とびらプロジェクト)
内容|
・「スペシャル・マンデー」の事前〜当日〜事後の流れを学ぶ
・当日の流れを展示室で体験する
・会場を知る
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第4回の講座では、とびラーが活動する「Museum Start あいうえの」の学校来館プログラム「スペシャル・マンデー」に向けて、展示室での鑑賞の場づくりについて考えました。
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まず、「Museum Start あいうえの」のプログラム・オフィサーである石丸郁乃さんが、「スペシャル・マンデー」の映像を交えながら、プログラムの概要を説明しました。事前授業〜当日の展覧会鑑賞〜事後授業までの流れを理解することで、プログラム全体の構成を把握しました。
続いて、講座担当の越川が、作品を守りながら展示室で子どもたちの鑑賞を深めるためのポイントについてレクチャーしました。
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その後、スペシャル・マンデー当日のプログラムの流れを、実際に鑑賞する展覧会会場で体験しました。
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とびラーたちは、子どもたちの鑑賞体験を想像しながらグループで展示室を巡り、鑑賞を楽しみました。その上で、作品保全のために注意すべき動線や、子どもたちのグループをどのように誘導するかを確認しました。
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2024年度のとびらプロジェクトには全盲のとびラーが参加しています。鑑賞実践講座では、毎回の鑑賞作品に合わせてスタッフが「触図」を制作し、構図やモチーフの形を伝えながら情報保障を行っています。
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今回の講座では、実際の作品の前でグループで鑑賞を行う際に、手元にA4サイズの「触図」を用意しました。全盲のとびラーは、実際の作品の大きさについてスタッフから説明を受けながら、手元の触図で構図を確かめつつ、グループでの対話に参加していました。
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グループでの鑑賞後は、スペシャル・マンデー当日に子どもたちが体験する「ひとりの時間」を、とびラー自身も体験しました。
グループで対話しながら鑑賞することで視点が広がり、作品への理解が深める回路ができた後、ひとりで作品と向き合い思索する時間です。この流れを実際に体験することで、とびラー自身も子どもたちにとっての「ひとりの時間」の豊かさを実感しました。
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展示室での体験が終わった後は、「鑑賞者と作品の両方にとって、安全で安心できる鑑賞の場を作れていたか」という視点で、グループごとにふりかえりを行いました。
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9月から始まる「スペシャル・マンデー」に向けて、何度も展覧会に足を運び、さらにファシリテーションのイメージを深めていきましょう。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.08.25
日時|2024年8月25日(日)13:30~16:30
場所|東京藝術大学 第1講義室
講師|藤岡勇人/東京都美術館 学芸員、金濱陽子/東京藝術大学
東京都美術館と東京藝術大学が取り組むプロジェクトとして「Creative Ageing ずっとび」があります。
2021年にスタートし、台東区の病院や福祉関連施設と連携しながら、アクティブシニア(元気なシニア)対象のプログラムや認知症の方や、認知症が気になる方、またそのご家族へ向けたプログラムを実施してきました。
第3回では、「Creative Ageing ずっとび」を担当する、東京都美術館 学芸員の藤岡勇人さんと東京藝術大学の金濱陽子さんから、立ち上げの経緯やこれまでの取り組みの事例についてお話しいただきました。
ずっとびのプログラムにおいて、とびラーは参加者と一緒に作品を見たり、発言を引き出したりしながら、参加者が安心した気持ちでプログラムに臨めるような場づくりを進行しています。
今回の講座ではプログラムに参加したとびラーにも登壇してもらい、参加者の様子で印象的だったことやどんな時間だったかなど、感想も交えてお話ししてもらいました。
各プログラムの詳細は、それぞれの活動紹介ページや動画でご覧いただけます。
■「動く、遺影!イェイ!イェーイ!」(2024年8月7日実施)
■「アート・コミュニケータと一緒に楽しむ おうちで印象派展」(2024年3月16日実施)
・動画
■「ずっとび鑑賞会」(2023年10月3日実施)
・動画
その話を受けて、とびラーは3人組になって自分たちが感じたことを話合いました。
後半は、台湾やイギリスでのCreative Ageingの活動事例について、藤岡さんからお話しを伺いました。
人は誰もが歳を重ねていきます。世間ではアンチエイジングという言葉も見受けられますが、とびらプロジェクトやずっとびは「歳をとること」をポジティブに捉え、さまざまなプログラムを通して、この価値観を発信していきたいと考えています。
講座の中での「創造的な活動は健康に良い」というお話が印象に残りました。高齢者に限らず、どの世代の人も創造的に、そして健やかに日々を過ごすことができたら、自分はもちろん他者の視点や価値観を肯定し、お互いに認め合える社会になるのではないかと、今回の講座から感じました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.08.24
第2回建築実践講座|「建築を鑑賞する」
日時|2024年8月24日(土) 14:00〜17:00
会場|東京藝術大学 第1講義室
講師|倉方俊輔(大阪公立大学 教授、建築史家)
大阪公立大学 教授の倉方俊輔先生をお招きし、「建築を鑑賞する」をテーマにお話いただきました。
近年、精力的に取り組まれている美術作品の対話による鑑賞を建築でおこなう「建築鑑賞」を軸に講座が進んでいきました。
建物の所有者や利用者が使い続けること、一般公開し活用することによって建築の価値を捉え直したり、市民が鑑賞することで貴重な建築を保存し後世につながることについて考える時間になりました。
倉方先生が実行委員長を務めていらっしゃる東京建築祭をはじめ、最新の情報も交えてさまざまな事例を挙げてお話くださり、建築を介したコミュニケーションについて理解を深めていく講座となりました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.08.11
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終了しました。たくさんのご来場ありがとうございました。
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昨年度からはじまった「アート・コミュニケーション事業を体験する」。
今年も 7/30(火)〜8/11(日)の12日間開催します!会場では、毎日、とびラーと“開扉”アート・コミュニケータが、みなさんとのアートを介したコミュニケーションの場を生み出していきます。
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今年のテーマは、「クリエイティブ・エイジング」。
豊かに歳を重ねていくために、アートが果たす力や美術館の役割について、とびラーや“開扉”アート・コミュニケータといっしょに考えてみませんか。
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会場でお待ちしています!
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アート・コミュニケーション事業を体験する 2024
「ずっと」アートと生きていくー上田薫と上田葉子の生き方に学ぶ、クリエイティブ・エイジング
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会期 2024年7月30日(火)~8月11日(日)
会場 東京都美術館 ロビー階 第3公募展示室
休室日 8月5日(月)
開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
観覧料 無料
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\毎日とびラー&“開扉”アート・コミュニケータが会場にいます/
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アート・コミュニケーション事業を体験する 2024
公式Webサイト:
https://tobira-project.info/ac-ten/
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昨年の様子はこちらでご覧いただけます。
◎「アート・コミュニケーションを体験する2023」アーカイブページ:
https://tobira-project.info/ac-ten/blog.html?category=archive
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とびラーが3年の任期を終えることを、「新しい扉を開く」意味を込めて、「開扉(カイピ)」と呼んでいます。開扉したとびラーは、美術館や大学と継続した関係を保ちながら、アート・コミュニケータとして実社会で活躍することが期待されています。現在も任期満了した多くのアート・コミュニケータが、美術館で培ったネットワークや、とびらプロジェクトの活動を通して育んだスキルを活かしながら、対話のある社会の実現に向けた活動を継続しています。
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「アート・コミュニケーションを体験する2024」では、開扉アート・コミュニケータの団体が、とびラーや開扉アート・コミュニケータ全体の運営も担っています。
2024.07.15
第3回鑑賞実践講座|「ファシリテーション基礎(2)」
日時|2024年7月15日(月・祝)10:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム・スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA))、ARDAコーチ5名
内容|
・映像を使ったVisual Thinking Strategies ファシリテーション分析
・Visual Thinking Strategies ファシリテーション実践と分析
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第3回は、前回に引き続き、NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)の三ツ木紀英さんから、Visual Thinking Strategies(ビジュアルシンキングストラテジーズ:複数の人で対話をしながら作品を鑑賞する手法。以下、VTS)におけるファシリテーションの基礎を学ぶ2回目です。
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午前は、まず、小学4年生の児童がVTS鑑賞をしている映像を視聴しました。映像内のファシリテータと児童の対話の内容をメモしながら、ファシリテータが行っていること、問いかけていること、また、その作用を観察しました。
特に今回は、VTSの手法の中で「Q2」と呼ばれるファシリテータの問いかけを中心に観察を行いました。
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「Q2」は、VTS鑑賞において、鑑賞者が「こんなふうに感じる」という主観的な意見を言った場合に、「(あなたに)そう感じさせるのは、作品の中の何が要因なのか」ということを、客観的に考えていくための質問です。問いかけの例としては「作品のどこからそう思いましたか?」などです。この質問をすることで、発言した児童や、一緒に鑑賞している児童にどんな変化が起こっているかという部分を中心に映像を観察しました。
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(VTSのファシリテータは対話の問いかけとして3つの問いかけを用います。「Q2 」以外に「Q1」「Q3」があります。「Q1」は、対話を始めるときに参加者全員に投げかけるオープンな問いかけ。例:「この作品の中で何が起こっていますか?」など。「Q3」は、1つの意見の検討が終わった時に、再び全員に向けてする問いかけ。例:「他に発見はありますか?」などです。)
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午後は、グループに分かれて、VTSファシリテーションの実践とふりかえりを行いました。ここで鑑賞した作品は、実際にとびラーが来館者と鑑賞をする展覧会の作品から数点が選ばれました。
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ここでも、「Q2」(作品の中に根拠をさがす質問)を、何に対して、どのように聞いていたのか。または、聞いていなかったのか。また、「Q2」を聞くことによって、鑑賞の場にどんな影響が起こっていたかということをグループで検証していきました。
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今回は、VTSファシリテーションの基礎となる「問いかけ」とその作用について1日を通して考え、実践してきました。次回は、実際の来館者との鑑賞に向けて、展示室での場づくりについて学んでいきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)