東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

チラシdeうちわプロジェクト:夏の活動報告

2012.10.05

とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です

真夏のマウリッツハイス美術館展に並ぶ長蛇の列をクールダウンした「チラシdeうちわプロジェクト」から夏の活動報告が届きました。

記述はとびラー候補生の越川さくらさんです。

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■事の始まり
「今度のマウリッツハイス展では、一日に1万人の人が来るらしい」

 思えば「チラシdeうちわプロジェクト」はこの一言から始まりました。リニューアルした東京都美術館(以下、都美)の最初の特別展である「マウリッツハイス展」は入場者数の予想も桁外れのものでした。「夏の暑い中、お客さんが何時間も並ぶのか!?」「なんとかしなければ!」血気盛んな(?)とびラー達が色めき立ちました。長蛇の列対策プロジェクトが立ち上がり、瞬く間に数十ものアイデアがとびラー専用掲示板を埋め尽くしました。整理券配布、ファストパス、フリーペーパー配布、紙芝居、グッズの販売、椅子設置、伝言ゲーム、などなどなど…。
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それらのアイデアを引っさげ、早速ミーティングです。きっと今までにない画期的な長蛇の列対策が生み出されるに違いない!夢は膨らみます。しかし、2日間の集中ミーティングの終わりかけた頃、私たちは大きな無力感に襲われていました。私たちにできることがほとんどない事に気がついたのです。
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ミーティングの始め、私たちは数々のアイデアを“にぎやかし系”(列に並んでいる間にエンターテイメントを提供して楽しんでもらう)と、“おもてなし系”(暑い中列に並ぶ苦痛を軽減する)とに分類しました。そして、長蛇の列対策プロジェクトでは、主に“おもてなし系”の企画を実行する事にしました。“にぎやかし系”はとびラーの得意とする所らしく、絵から顔を出して写真撮影をする企画、「あなたも真珠の耳飾りの少女」プロジェクトなどがすでに走り出していたからです。
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しかし、“おもてなし系”の企画はそのほとんどが私たちとびラーの手に余るものでした。それもそのはず、数々の展覧会を開催している都美や朝日新聞社のスタッフさん達が、その経験から必要な策はすでに講じていらっしゃったのです。それに、もてなすからには来る人全員をケアしなければ!と気負っていたせいでもあると思います。落胆する私たちは「それでも、私たちらしく、私たちにできる事をやろう」と、とあるスローガンを思いつきました。
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「とびラーは、あなたの待ち時間を全力で応援します!」という言葉です。
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このスローガンを思いついた途端、みんなの中で何かが変わりました。とびラーが“ボランティアさん”なのか、“単なるおもしろい人たち”なのか、そんな定義もまだ何も見えていない頃です。それでも“私たち”は力及ばないまでも“全力で”来場者の方々を“応援したい!”のです。やりたいからやる。やれる範囲でやる。楽しくやる。そんなイメージを、その場のみんなが共有できた瞬間だったように思います。
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不思議な事にその瞬間、一つのアイデアが頭に浮かびました。
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「うちわ、作ってみる?」
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 はい。普通ですね。暑いから、うちわ。普通すぎます。でも、普通のうちわじゃないんです。あるものをリユースしたうちわ。そのあるものとは、どこの美術館にも必ずあって、とても大事だけれど、ある期間が過ぎてしまったら廃棄するしかないもの…そう、チラシの登場です。こうして、チラシdeうちわプロジェクトが始まりました。

■ミーティング!ミーティング!ミーティング!

1、コンセプトを考える
―チラシを半分に折って、厚紙の持ち手を付け、うちわにする―
このシンプルなアイデアは、他のとびラー達からも温かく迎えられました。
「いいじゃん!これ!簡単だし。エコだし」
「そういえばチラシって配布期間が終わってしまったものが余ってるはずよね」
「涼しい涼しい!いいね、これ。へー、こんなのでうちわになるんだね」
大好評です。メインメンバー4人も集まり、さあ後は作るだけ!のはずが、チラシdeうちわプロジェクト、略してうちPはこの後なんと5回もミーティングを重ねる事になります。
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始め、私たちはまずうちPのコンセプトについて話し合いました。
①   来館者に涼をとってもらいたい[cool]
②   配布期間の過ぎたチラシを有効活用したい[re-use]
③   来館者ととびラーとのコミュニケーションツールとしたい[communication]
④   チラシを美術館の歴史と捉え、そのデザインも大切に有効活用したい[re-design]
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といった項目が上がりました。
しかし、ここでいくつかの疑問が生じました。
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・  [re-use]の観点から、新たなゴミとなってしまう可能性のある「持ち手部分」 を新しく作らなければいけないことへの疑問。
・  [re-design]の観点から、半分にしたチラシに持ち手をつけると、大体の場合、メインとなる図像が逆さまに使用されてしまうという欠点。また、あまりにも元々のチラシの情報(展覧会名など主に文字情報)がはっきり見えすぎてしまうと、持ち手部分にある情報との食い違いがおこり、見る人に混乱を招くのではという懸念。
・  [communication]の観点から、当初は対面のワークショップで来館者自らうちわを作ってもらう実施方式が検討されていたため、ホッチキスの使用は危ないかもしれないという危惧。
などです。そこで、チラシを利用した新たなうちわのアイデアが検討されました。
2、折り紙方式
その新しいアイデアとは、折り紙方式のうちわです。この折り紙方式にはモデルがあります。ある本でたまたま見つけた「四万十新聞バッグ」がそのモデルです。
この新聞バッグは高知県出身の梅原真さん(梅原デザイン事務所)が、ふるさとの高知県で始められた活動です。四万十川の流域で販売する商品は、全て新聞紙で包もうという「ラストリバーのこころざし」、「モッタイナイ×オリガミ」などのコンセプトのもとに新聞でエコバッグを作る試みです。 中でも、私が一番共感したのは「考え方」を伝える。という点でした。折り紙のすばらしい所は「折り方と四角い紙さえあれば、誰でも、いつでも作れる」という事だと思います。それを、古新聞を使いバッグを作ることに活用し、さらに「環境を汚さない」という「考え方」を伝える活動です。この活動は今や全国に広がり、海外にも「折り方」と「考え方」を輸出しているとの事。これを知ったとき私は、コレだ!と思いました。チラシを「折り紙」する事でうちわができたら…上記の問題点が全て解決し、更にうちわに新たな価値が加わります。
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しばらく、実際にチラシを折りながら考えていましたが、そうすぐに良い折り方が見つかるはずもありません。四万十新聞バッグの折り方を最初に考えたのは四万十川流域に住むおばちゃんだったそう。私たちも誰かに聞いてみよう!聞きたい事を90人の仲間達にすぐ聞けるところが、とびらプリジェクトの良い所。早速、掲示板で呼びかけます。「うちわの折り方募集中!」するとやっぱり出ました色々なアイデア!もの作り大好きな小学生(とびラーのお子さん)や、折り紙大好き!なとびラーさんから折り方のアイデアが色々と寄せられました。
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しかし残念ながら、今回この折り紙案は実施まで漕ぎ着けませんでした。
・  ワークショップ形式の場合:(お客さんが)暑くて折り紙をしてくれる余裕がない。
・  作って渡す場合:制作時間がかかりすぎる。
・  「折り紙」としては面白いが、「うちわ」としては涼しさの点で問題が残る。
等がその理由です。
けれど、この折り紙案はメンバーの間でも想いが強く、次の機会があればまた挑戦したいと思っています。
3、持ち手のデザイン
この辺りから、実施方法はできあがったうちわを配る方式。うちわは厚紙の持ち手つき。持ち手は8×8cmの正方形を斜めに使用する。ということとが徐々に決定してきました。次は、持ち手部分の厚紙に印刷する内容の検討に入ります。メンバーの新倉さんの作ったデザインを元に5回目のミーティングです。このミーティングには、今までホワイトボード上でうちPの動きを見守っていたとびラーも参加してくれました。外からの新鮮な空気が、少し視野が狭くなっていた私たちにもう一度、このうちPの意義を再認識させてくれました。
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①   使用期間の過ぎたチラシを有効利用して、来館者に涼をとってもらうこと。
②   とびラーの存在を知ってもらう名刺代わりとすること。
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その2つが最終的なうちPの目標となりました。小さな持ち手の中で、最低限この2つをどう伝えていくかを考え、使う言葉やデザインを考えました。
作る!そして配る!
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作業
持ち手部分をボール紙に印刷したものが出来上がってくると、後はひたすら折ってホチキス留めすれば完成です。とびラー掲示板に「うちわ作りのお手伝い募集!」と募集をかけると十数名のとびラーが集まってくれました。ワイワイお話をしながら折っては留め、折っては留め、うちわ1000枚が2時間で出来上がりました。あとは配るだけ。さて、パッと見ただけではうちわと分からないこの“チラシdeうちわ”。来館者の方々は、果たして受け取ってくれるのでしょうか…。
<表>
<裏>
■実施
実施日は8月15、水曜日。暑い盛りのシルバーデーを選びました。シルバーデーとは、65歳以上の方が無料でマウリッツハイス展を鑑賞できる日です。7月のシルバーデーには120分という待ち時間ができてしまっていました。来館者の待ち時間を応援するならこの日をおいて他にないという日です。
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「どのくらいの人がうちわを受け取ってくれるんだろう」試行錯誤の末出来上がった“チラシdeうちわ”をやっと来館者の方に届けることができるという喜びと、一抹の不安を胸に、うちわの入った箱を抱え、屋外に長々とできた行列へと向かいました。しかし、いざ配り始めるとそんな不安は吹き飛んでしまいました。列に並んでいた来館者の多くが“チラシdeうちわ”を欲しがってくれたのです。ご自分で扇子をお持ちの方の中にも「私にも貰えますか」と手を伸ばしてくださる方もいます。結局とびラーは5名様ずつ位の幅広の列の中に入り込み、間を縫ってほとんどの方にお配りする程の好評ぶりでした。「こんにちは!とびラーです!」「うちわをどうぞ!」と言いながら、あっと言う間、40分程で全てのうちわを配り終えてしまいました。
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後から「公園を歩いている人がみんなチラシのうちわをヒラヒラさせていて不思議な光景だったよ!」という嬉しい報告も耳にしました。
本当に一瞬のできごと。一瞬の”上野公園チラシdeうちわジャック”です。
念のため用意したうちわ回収ボックスにも、返却されたうちわは20枚ほどでした。
その他
◎プロジェクトの進め方について
うちPが始まる直前まで、私たちはとびらプロジェクトの基礎講座をうけていました。そこでは人の話を「きく力」、ミーティングの進め方など、プロジェクトを進める実践的な方法をこれでもかというほど叩き込まれました。だからまず、やってみたかった。実際にプロジェクトをやってみたいという想いがとても強かったです。「きく力」を研ぎすまし、「居合わせた人がすべて方式」で、最小単位3人が、イメージを共有しあい、各ミーティングをタスクに変える習慣をつければ本当にプロジェクトが進行するのか。そして、その試みがどんなに小さいものでも、それがとびラーの足跡となり波紋となり、私たち自身が「新しい公共」となり得るのか。「自ら行動する実験台になってやろう」という気持ちは今も変わっていません。
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またうちPはミーティング以外でのメンバー間でのやりとりをweb上のとびラー専用ホワイトボードで行うことにこだわりました。正直、メールでのやりとりの方が早いのですが、進捗状況をネット上にアップしておけば、他のとびラーたちの途中からの参加も可能だと思い、情報公開に留意しました。この事で結果的に、活動が自動的にアーカイブされ、今この活動報告を執筆するにあたっても役立っています。
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◎他館でのうちわを使った取り組みの調査
•新江ノ島水族館 一回200円でオリジナルうちわを作ることが出来る。まず背景3種類を選び、うちわを作った後、好きな深海の生き物のシールを3つ選び、貼って完成。
•井の頭自然文化園 園内をクイズ形式でスタンプラリーで回り、全てのスタンプを押すとゴールでうちわをもらえる。厚紙のみを使用したエコなデザインのうちわ。
新江ノ島水族館うちわ  井の頭自然文化園うちわ
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■むすび
作ったのはただのうちわでした。
配れたのはたったの1000枚でした。実現できたことよりも、諦めたことの方が多かったと思います。しかし、このプロジェクトを終えた事で、私たちの中に何かとても確実なものが降り積もりました。とびラーとは何なのか?まだ答えのでない疑問に私たち自身がヒントをもらったような気がしています。また、私たちが本気で取り組んだ結果を来館者の方々が興味を持って受け入れてくれた事。この事は今後、私たちが様々な活動をしていく上で大きな自信になると思います。
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※参考資料
しまんと新聞ばっぐ 公式サイト http://shimanto-shinbun-bag.jp/
新江ノ島水族館 公式サイト http://www.enosui.com/
井の頭自然文化園 公式サイト http://www.tokyo-zoo.net/zoo/ino/〈チラシdeうちわプロジェクトメインメンバー〉
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越川さくら、鬼澤舞、新倉千枝、山中麻未
その他沢山のとびラーにご協力頂きました。

とびラー候補生:筆者:越川さくら(こしかわ さくら)
夫と3才の娘、2匹のフェレットと共に東京都三鷹市に在住。

 

紙芝居プロジェクト:活動報告

2012.10.05

とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢です。
マウリッツハイス美術館展の会期中に好評を博した「紙芝居プロジェクト」の活動報告がまとめられました。
記述はとびラー候補生の山中麻美さんです。
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この紙芝居プロジェクトは、都美に来られたお客様に、都美で行われている展覧会をより親しみやすく、楽しく鑑賞してもらいたい、という願いから生まれました。記念すべき第1作目は、現在開催中のマウリッツハイス美術館展を題材にした物語、「都美子のタイムトラベル」です。この紙芝居で楽しみながら作品の背景を学ぶことによって、美術の面白さを子どもから大人まで実感していただけると嬉しく思います。
マウリッツハイスがスタートしたと同時に生まれた紙芝居プロジェクト。夏休みの上演を目標に、毎週打ち合わせを行い、物語を練り上げていきました。大人の方にも楽しんでいただくため、豆知識を豊富に盛り込んだ内容となっています。企画展を見るのが初めての人だけでなく、美術通の人にも楽しんでいただけるような内容づくりを心がけました。そのため、メンバーのひとりひとりが企画展をじっくりと鑑賞し、フェルメールが生きていたオランダの時代、文化、歴史について勉強を重ねました。
これが、「都美子のタイムトラベル」全16枚のイラストです。イラストに起こす前に、ラフ画を皆さんと制作して、何をどこに配置するのか、コマ割りを細かく決めていきました。その後、メンバーの大学生2人で手分けして制作しました。なので、よーく見ると、前半と後半で微妙にタッチの違いがあるのです。皆さん気づきましたでしょうか?
第一回目のお披露目は8月19日、佐藤慶太郎アートラウンジで行われました。前座と紙芝居合わせて15分程度、14時と15時の2回の上演です。初公演でしたが、たくさんの方に見ていただき、ラウンジのソファに座っていらっしゃるお客様も耳を傾けてくださっていました。また子どもたちは、おまけで披露した、真珠の耳飾りの少女のターバーンの色が変化してゆくパフォーマンスに、とても喜んでいる様子でした。
2回目は講堂前にイスを置き、ゆったりとしたスペースで紙芝居を上演することができました。呼び掛けにはチラシも配布し、この日は前回よりたくさんの方に興味をもってもらえたのではないかと思います。講堂前の上演では大人の方が多く、ショップへと上がる階段に座って鑑賞しているお客様も目立ち、私たちメンバーも、とても手ごたえを感じる1日となりました。
私たちの今後の夢は、他の美術館や小学校、図書館で出張紙芝居を行うことです。そして美術のおもしろさを、紙芝居を通してもっと多くの人に知ってもらい、この活動がアートと人とをつなぐ架け橋になればいいと思っています。また、全国の図書館で私たちが作った紙芝居を置いてもらい、いつでも手に取って見られる環境ができれば、とても理想的です。しかしこの紙芝居プロジェクトの活動はまだ始まったばかり。次のメトロポリタン美術館展も今から少しずつストーリーを考え始めています。
皆様、今後の活動にもご期待ください!
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とびラー候補生:筆者:山中麻未(やまなか あさみ)
現在、武蔵野美術大学 芸術文化学科に所属。今年挑戦したいことは、アートに関するボードゲームや絵本、おもちゃを作ること。趣味は週1での美術館巡り、恐竜の化石の鑑賞やプラネタリウム。

どこまでつながるとびかんバトン開催!

2012.09.30

「東京都美術館ものがたり」展の入口。たたずむ男性のとなりには、なぜかガチャガチャ置いてあります。そうです。とびかんバトンのガチャガチャです。とびラー候補生(以下:とびコー)によって企画された「どこまでつながるとびかんバトン」は、「東京都美術館ものがたり」展の締めくくりである9月29日、30日に実施されました。

 

ガチャガチャは無料。ガチャガチャの番人成島さんからメダルをもらってハンドルを回すと、おなじみのカップが出てきます。なぜだかガチャガチャって興奮しますね。

 

カップの中には栞が入っています。この栞「東京都美術館ものがたり」展をイメージしてとびコーさんたちが準備したもの。でも、とびコーさんたちが準備した栞は来館された方々を繋ぐ最初のきっかけにしか過ぎません。企画の名前の通り「どこまでつながるとびかんバトン」は、来館された方が次に来館された方へ栞を残して行くこと通して、展覧会のイメージをリレーのバトンの様に繋いでゆくことを目的としています。

 

とびコーさんの描いた栞はあっと言う間になくなって、来館された方々が栞をたくさん作って下さって、次々に栞のバトンは受け渡されて行きました。

 

展示室の奥に設置された栞の制作ブースには人が絶えません。日の光の入る心地よい空間で、まったり栞つくりの昼下がり。
(しかし30日は台風の影響で天気はどんよりでした。。。)

 

2日間を通して300枚もの栞が描かれ、ガチャガチャのカプセルを通して、人から人へとバトンが繋がれました。この企画まだまだ応用できそうです。次の展開に期待しましょう!
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

対話による鑑賞について:「スクールマンデー」実践講座3回目

2012.09.24

「スクールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」の実践講座の3回目が行われました。今回の実践講座は学芸員の稲庭さんによるファシリテートのもと、9月10日に行われたスクールマンデー(多田小学校・青井中学校の訪問)の振り返りからはじまりました。小中学校が来館するにあたり、事前に行う先生方との打ち合わせの内容や、美術館での鑑賞が授業にどの様に位置づけられているのかなど、裏方の大切な部分をとびラー候補生(以下:とびコー)と共有しました。
続いて、NPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さん(スクールマンデー実践講座講師)による、「聴く、応答するワークショップ」が行われました。
まずは三人一組になります。一人はお話をする人です。もう一人はお話を聴く人です。ただしお話を聴く人は、話題の一区切りごとに聴いたお話を自分の言葉で要約して、「今あなたの言っていることはこう言うことですね。」とパラフレーズしなくてはなりません。お話をした人は自分の意図がキチンと伝わっていれば○、間違っていれば×のサインを手でだします。例えば「朝食でコーヒーを入れるのですが、マメはやっぱり挽きたてが一番なので、毎朝欠かさず挽くようにしています。」というお話ならば、「挽たてのコーヒーマメの香りを味わいうことの出来る、朝のコーヒータイムがすきなのですね」と聴く人は返してあげます。それでお話の意図が合っていれば○と返答されます。○と返答された時だけ、会話を前に進めることができます。×が出た場合は再度パラフレーズをやり直さなくてはなりません。しかし、×が3回続いた場合は、お話をする人がそのニュアンスの違いについて補足修正し、「なるほど~」となれば、会話を前に進めることができます。そして3人目の人は、そこで行われている一連のコミュニケーションを見守る人になります。
ちなみに、会話にはテーマはが与えられます。1つのテーマに与えられた制限時間は5分間です。これを、役割を交換しながら3回繰り返し、一巡して終了となります。

 

ルールを覚えたら早速スタートです。はじめの出題は「あなたがすきなもの・こと」です。相手の話を聴いて、「こういうことですよね。」と要約して返してみると、意外に話し手と聞き手の間に、理解のギャップがある事に気付きます。さらに、話し手の意図を汲み取って、自分の言葉としてフィードバックすることの難しさに悪戦苦闘の様子でした。
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実はこれ、VTS(対話による鑑賞方)を身に付けるための一つのトレーニング方法なのです。VTSのファシリテータは何人もの参加者の言葉を一つひとつ受け止めながら、その都度、参加者各々が思考を深く掘り下げて行ける様に、受け止めた言葉を丁寧に整理して、個人の感覚や解釈が、全体の理解となる様な言葉に置き換えて、再度参加者全員にフィードバックする役割を担わなくてはなりません。大変です。。。

 

5分が経過したら、講師の三ツ木さんからストップの合図があります。会話は上手く進んでいたのか、いなかったのか、もしも上手く進まなかったのらなば、どこに問題があったなのかなど、少しだけ振り返りの時間を持ちます。こうした時、3人目の見守る人の存在が効果を発揮するのです。1ラウンド目が終了したあとは、2ラウンド目に移ります。テーマは「あなたがとびラーをやって見ようと思った理由」です。

 

そして3ラウンド目は「あなたが大切だと思うこと」です。みなさん少しずつ慣れて来た様でした。

「スクールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」では、必ずしもVTSの手法を用いた鑑賞プログラムを実施するわけではありませんが、VTSの手法を学ぶことを通して、作品鑑賞について理解を深めることを期待しています。また、これは僕個人の感想なのですが、普段のミーティングを行う上でも、このVTSの実践講習を通して身に付けることのできる能力はのとても有効であると感じました。アートプロジェクトの現場などではよく、年齢も職業も違う人たちが集まり、喧々諤々と議論したりしますが、その場合、場を取りまとめる役の者は、都度言葉と議論の積み重なりを整理して、建設的な話し合いになるように、舵取りを行わなくてはなりません。同じことを言っていても、対立している様な話し合いや、全く違うことを言っていても、同意が起こったりなど、いまいち噛み合ないミーティングは意外と多いものです。そうした時、この言葉のパラフレーズ的手法が非常に効果的で、僕もそれとは知らず使っていた様に思います。鑑賞教育の実践だけでなく、日常のとびコーさんのミーティング能力の向上にも期待を寄せている次第です。

 

最後は、「勉強」と「学び」の違いについてお話を伺いました。美術館は正しい情報を持ち帰るだけでなく、分からない事を分かろうとする「学び」の場であり、個々人のホントのコトを探求する場であって欲しいとのこと。
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美術において何がホントであるかを明らかにするのはとても難しいことですが、作品を通して知る事の出来た個々人の真実「ホントのコト」の魅力は、きっと人の心を豊にしてくれる様に感じました。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

 

Map&マニュアル:マップ制作の活動報告

2012.09.20

とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です。
とびラー候補生(以下:とびコー)がとびラーや美術館で働くさまざまな方が便利に使える館内マップをつくりました。お客様用のフロアマッフはこれまでもありましたが、全ての職員等が使える詳細な共通情報が入ったマップはこれまでありませんでした。制作過程についてのレポートは秋本さん、島津さん、田中さんです。

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1.プロローグ  MAP&マニュアルの立ち上げ
4月、とびラー候補生としての基礎講座がはじまりました。スタッフの皆さんを含め100名ちかくの方々との新たな出会いとともに、バタバタと5回目の基礎講座が終了してもなお、お名前と顔の一致しない状態に、これでいいのかな・・・と思う自分がいました。次の基礎講座がおわったら、全員が集まる日はしばらくは来ない。何か役に立てるようなことはないだろうか、とりあえず、この1年だけでもいいから何かできることはないだろうか。
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それにしても、どうして内部の人のためのマニュアルがないのだろう?みんな、どこに何があるのか、もうわかっているのかしらん? わからなくても、館内でお仕事している人に聞けばいいけれど、私たちもそれでいいのかな。知っていて当然と思われるだろうに。
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おそるおそる掲示板に「MAP&マニュアルを作りませんか?」と呼びかけをしてみました。もしかして、だれも関心を示してくれなかったらどうしよう・・・。地道な作業になるだろうしなぁ・・・。いらないって言われたらどうするかなぁ・・・。
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不安に思いながらコメントをみてみると、「作りましょう!」「それ、必要だよ!」と手を挙げてもらえていました。ありがたや!ありがたや!
こうして、MAP&マニュアル隊(以下:M&M隊)が歩きはじめました。
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まずは、素材集めからです。都美館の中を歩いて、写真を撮る作業、情報を集める作業を進めていきます。デジカメ片手にウロウロと、あーでもないこーでもないと歩き回りました。「マウリッツ美術館展」のはじまる前に、大体のところを回っておかないと写真も撮れなくなるし、トイレのなかもチェックできなくなります。この作業は短期に進めなくてはならず、1回3時間くらいうろうろして、計4回!がんばりました!ウォーキング隊長の島津さ~ん、お願いします。
(文責:秋本)

 

2.地道な館内めぐり
とにかく館内と館のまわりを手当たりしだい歩きます、歩きます。資料となる写真が、後になってここはどこ?にならないように、まず先にその場所を示すメモを写してから続けてその場の写真を撮る方法を採りました。歩いてみると、へえーっ、ここってこんなふうになっているんだと、いろんなことがわかります。写真を集め、歩いた成果をメモし、MAPに何を取り入れるかを検討する土台を作ります。

 

たとえば、傘たての数を数えると、こんなにお客さんが来ても大丈夫なんだということがわかります。屋根付きのサンルームのような空間で、落ち着いて傘の収納が出来ます。

 

さらに館内を歩きます。特に公募棟の構造は一筋縄にはいきません。展示室3層とその間の事務室の3層、階段やエレベータで登ったり降りたり。調査を通して公募展の主催団体の方の動線が理解できました。公募棟をうろうろしていると、ご案内の必要な来館者に出会うことがあります。例えば車椅子で入れるトイレの場所や、オストメイトの有無など。実際ご案内をしてみると、フロアマップでは理解できても、具体的な場所や設備が身につかないことことに気付きました。

 

全く知らなかった場所の発見もあります。妙に落ち着く休憩スペースです。プライベートスペースと呼んでいい?ほど。ここはどこでしょうか?  公募棟の展示室奥にひっそりとある休憩スペースです。贅沢空間、ぜひ味わって頂きたい。

 

ここがわかれば通。北口外のゴミ置き場附近です。普段通らない所かもしれませんが、いろいろな人の立場の視点も大事です。こうして収集した情報も充実し、いよいよMAPのデザインに入ります。「素材とイメージをもらえれば、こちらでたたき台をつくりますから~!」とさわやかに引き受けてくださった田中さん。M&M隊のみんなで、「少しでもチカラになれれば・・・」とチェックにチェックを重ねました。MAPのイメージは、「やわらかだけど、押さえるところは押さえているぜぃ~」っていう感じです。それでは、田中さんどうぞ!
(文責:島津)

 

3.MAP作りの工夫やアイデア
当初のMAPは、A3サイズの両面刷りを二つ折りにして配布する程度のものとして考えていました。とびラーがMAPを片手に自分で館内を歩き回り、自分の目で実際に確認しながらガンガン書き込みをしてオリジナルのMAPを完成させるようなものにしようと、あえて空白スペースを多くしたり「さがしてみよう!」というゲーム性をもたせたりもしていました。
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第二段階になり、MAPを持ちやすくする為に、仕様はミウラ折りのような折りたたみ式のポケットサイズにして、表面にはマップ、裏面にはマニュアルを入れてみてようということになります。実際に試作品を作ってみたところ、片面に全てのフロアを収めてしまうと、かなり小さなMAPになってしまったので、やはりMAPはMAPとして両面刷りで作成し、マニュアルは、別の仕様にすることで決定しました。

 

第三段階では、完成版にかなり近いカタチの試作品が完成。この辺で、MAP隊全員が「これならいけるかも!」という雰囲気になってきました。伊藤さんや美術館のスタッフに確認したところ、とびラーだけでなく美術館内のスタッフのみなさんにも配布できることになった為、書き込み方式やゲームはやめて、より具体的な説明を入れ込んだものになりました。表紙と背表紙は、ハードカバーのような厚紙を使用。クラフト紙に印刷したものを手作業で包み込んでいます。

 

第四段階は、ひたすら校正作業です「これは入れておこう」「これは省こう」「このエレベーターは使えるか」「このトイレはだれでもトイレか」「やっぱりこれは入れておこう」などなど…、MAP隊と美術館スタッフの怒濤の赤入れ作業です。

 

第五段階、ミウラ折りという技術を採用すると、表紙は試作品のサイズよりもひとまわり大きくなることが判明。結果的にカードサイズからパスポートサイズ(現在のサイズ)くらいに大きくなりました。表紙のデザインも少しずつ変化し完成形に。パンダのイラストやMAP内の上野動物園付近に配置されているキリンやゾウのイラストは、小幡さんに下絵を描いていただきました。

 

これで完成! みなさんおつかれさまでした! 多くの方に活用していただけるといいですね。

(田中)

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田中(M&M隊デザイン担当)
Mr.Tanakaのラブリーなモノ&コトは、 映画『ホノカアボーイ』、「蕎麦」、「演劇鑑賞」の3点セット。惚れたあまりに、ハワイに行ってしまい、とことん満喫してしまったほど。おやつタイムの時の「ゴボウせんべい」は大好評!

島津
ナイスなフットワーク!今回の取材では一番歩数を稼いだハズ!実家は相撲部屋のとなり。文房具には目がなく、ついつい時間を忘れてしまうほど大好き。いつも元気印なので、秘訣をぜひ伝授してほしい。

秋本(M&M隊ご意見調整担当)
十人十色といいますが、まさにそのとおり。MTGの度におもしろいな~と感心するばかり。silverとsunglassesが大好きなので、お守りのようにいつもなにかつけている。ご無沙汰のプラネタリウムにも行きたい。ソラマチ行こうよ!

 

「あなたも真珠の耳飾りの少女」ファイナルステージ!?

2012.09.16

マウリッツハイス美術館展も残すところ後1日となった9月16日、「あなたも真珠の耳飾りの少女」プロジェクトもファイナルステージを迎えました。まずは長蛇の列のお客さまを巻き込んでの「フェルメール体操第一」。みなさんしっかり体操されてます。

 

続いておなじみ「とびら楽団」の演奏が場を盛り上げます。

 

ラストスパートの「あなたも真珠の耳飾りの少女」も大盛況。

 

順番待ちのお客様でこちらにも行列ができていました。
では、本日で最後となる「本日の真珠の耳飾りの少女」です。ご覧下さい!

 

マウリッツハイス美術館展はとびらプロジェクトにとって忘れがたい素晴らしい展覧会となりました。本当に遊び尽くしたと言っても過言ではありません。「あなたも真珠の耳飾りの少女」プロジェクトはこれで終了です。。。。と思いきや、なんと!巡回先の神戸市立博物館から「あなたも真珠の耳飾りの少女」プロジェクトに必要な道具一式を貸してほしいとのオファーを頂きました!!写真はそのことを発表した瞬間のとびラー候補生の表情です。みんなびっくりです。道具一式は恐れ多くも本物の「真珠の耳飾りの少女」とともに神戸へ旅立ち、神戸で開催される「マウリッツハイス美術館展」でも「あなたも真珠の耳飾りの少女」プロジェクトが開催される予定です。関西のみなさん!是非あなたも「真珠の耳飾りの少女」になってみて下さい!
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

東京都美術館 建築ツアー始動!

2012.09.15

東京都美術館(以下:都美)の建築ツアーがスタートしました。24名のみなさんにご参加頂きました。ロビー階では、参加者のみなさんをとびラー候補生(以下:とびコー)がお待ちしております。

記念すべき第一回目の建築ツアーをガイドするのは、とびコーの秋本さん、関口さん、淵上さんです。これまで勉強してきた都美の建築物としての魅力を精一杯ご紹介させて頂きました。

コースは三者三様。それぞれの視点で、それぞれが勉強して来た内容についてツアーが進められて行きます。

 

ガイドが代われば内容も変わり、同じガイドでも、ツアーの内容はどんどんブラッシュアップされて行きます。きっと何度もご参加頂ければ、その深みを感じてもらえるのではないでしょうか。

 

ツアーの内容は、、、残念ながらここには掲載できません。これまでとびコーのみなさんが研究に研究を重ねたガイドツアーは、都美でしか味わうことの出来ないひと時です。次回建築ツアーの募集は既にはじまっています。アートコミュニケータ(現:とびコー)がリードするオリジナリティー溢れる建築ツアー、是非一度ご参加ください。
お申し込み先はこちら→「東京都美術館:建築ツアー」
(とびらプロジェクト マネージャ 伊藤達矢)

スクールマンデー:足立区立青井中学校の鑑賞授業

2012.09.10

午前中の多田小学校の皆さんを見送った後、続けて午後には足立区立青井中学校1年生のみなさん66名が来館されました。

 

美術館での滞在時間が1時間少ししかないという非常に短いスケジュールではありましたが、学芸員やとびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんが一丸となり、出来る限り充実した鑑賞体験をしてもらう為に工夫をこらして対応させて頂きました。展示室の入口から出口まで、まずは一通りザッと案内をさせて頂きました。これで、生徒のみなさんもこの展覧会がどのくらいの規模なのかを掴むことができます。つぎは、グループ鑑賞へと移ります。絵の前に座って気持ちを落ち着かせてから鑑賞に移ります。

 

4グループに分かれて、それぞれのファシリテータ(稲庭、武内、河野、三ツ木)のもとでじっくりと作品を鑑賞して行きます。絵の中で起こっていることをそれぞれ言葉にしながら、感じたこと、思ったことを共有して行きます。今回も生徒のみなさんには、つぶやきをメモしておくことの出来るシートを渡してあります。

 

グループでの鑑賞が終わった後は、個々人での鑑賞に移ります。絵の前に座り込んで、じっくり見ることは、混雑する平日では到底できませんが、休室日を利用したスクールマンデーなら、こうした鑑賞体験が可能なのです。小中学生のみなさんが、絵と対峙し、ゆっくりとその世界観へ入って行くには、静かな環境と少しのサポートが必要なのではないかと思います。東京都美術館は小中学校の先生とともに充実した鑑賞教育の場をつくりあげて行きたいと考えています。

 

あっと言う間の時間でしたが、名画と対峙したこの体験を通して、何かを感じとってもらえていれば幸いです。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

スクールマンデー:中野区立多田小学校の鑑賞授業

2012.09.10

東京都美術館(以下:都美)がリニューアルオープンしてはじめて学校単位での鑑賞授業が行われました。スクールマンデー<対話を通した作品鑑賞>は都美のアートコミュニケーション事業の一貫である「先生とこどものためのプログラム」の一企画として実施されており、普段は来館者が多く学校単位での鑑賞が難しい特別展を休室日に特別開室し、鑑賞教育の実践の場としています。学芸員やアートコミュニケータとして都美で活動をするとびラー(現段階ではとびラー候補生:以下とびコー)が中心となり、こどもたちとの対話を中心に、自由な発想を引き出しながら、主体的に鑑賞できるようなお手伝いをします。本日お越し頂いたのは、中野区立多田小学校(以下:多田小)の6年生のみなさん48人です。はじめに担当学芸員の稲庭さんから展示室内でのルールやマナーについてお話がありました。

 

展示室に入るとまずは1フロアずつ自由に作品を鑑賞して行きます。実は多田小のみなさん、都美に来る前に、どんな作品が展示されているのかを予習して来ています。予習と言ってもお勉強ではなく、「どんな作品に出会えるのかな?」「本物の作品ってどんなだろう」と、美術館に来る前にワクワク感を持ってもらう為の心の準備です。遠足にしても、お祭りにしてもそうですが、本番よりも本番を迎えるまでの心の中の時間が充実していればしているほど、素晴らしい体験につながる可能性が大きくなります。そのため、多田小のみなさんに都美へお越し頂くまでには、何度も担任の先生と学芸員とで連絡を取り合いながら、事前の準備をさせて頂きました。その甲斐あってみなさん、予め自分が凄く見たいと思っていた作品の前に立って「あったあった!」と嬉しそうにお話をしていました。もちろんこの日は休室日、他のお客さまはいません。作品の前で自由に感想を語り合っても大丈夫です。

 

まずは、個々人でじっくり鑑賞しますが、こどもたちには「つぶやきシート」というプリントを配布してあります。気になっていた作品の前で、気付いたことをメモしてゆきます。少し思ったことを言葉にすることで、自分が思っていたことを再確認することができるからです。これは、こともたちが絵の世界にゆっくりと入って行くためのきっかけとしての「つぶやき」でもあります。「絵画を鑑賞する」ような行為、つまり、動きもない、音も無いモノを前に、見つめることを切り口としながら、自分の心の中に入って行く体験は、こどもたちの日常の生活の中ではなかなかありません。絵を鑑賞することは、絵を通して自分と対話することでもあります。そして、鑑賞すること(鑑賞を通した教育とは)は、「素晴らしい絵を拝見すること」「絵の意味を正しく理解すること」に治まる体験ではありません。鑑賞教育とは、絵の素晴らしさを教える教育ではなく、目の前のモノに素晴らしさ(価値)を感じとれる心を育てる教育を意味しているのだと思います。「素晴らしい絵」があるから人の心に感動があるのではなく、感動する心があるからこそ、「素晴らしい絵」が残されるのだと考えます。つまり、その絵を素晴らしいと思う心の素晴らしさを育む機会が、いつもとは少し違った自分たちだけの美術館での体験なのです。

 

個々人での鑑賞のあとは、4班に分かれてグループで鑑賞します。グループ鑑賞ではVTSの鑑賞方法を用いながら進められました。ファシリテータは学芸員の稲庭さん、武内さん、河野さん、それにスクールマンデー実践講座で講師を担当されている三ツ木さんです。(とびコーさんはサポートに入ります。)
はじめは、どんな風に作品の前に立ってよいか分からなかったこともだちも、ファシリテータの「この絵の中でなにが起こっていますか?」という質問をきっかけに、次第にこどもたちの「つぶやき」は大きな声へと変わって行きました。

グループ鑑賞では、こどもたちが絵の中で起こっている出来事を一つひとつ言葉にして紡ぎだして行きました。思わず立って説明をするくらい夢中になる子もいました。ちょっとお話することが苦手な子は、他の同級生の意見を聞いて、自分のつぶやきをメモするなど、それぞれのやり方で参加をしている様子でした。見る→発見する→共有する→個々人の感想として心に蓄える→(見る)、グループでの鑑賞ではこうしたサイクルによって一人で鑑賞するのとは違った深まりを体験することが出来ます。

 

グループでの鑑賞が終わると、もう一度個々人での鑑賞に移ります。

 

こどもたちは、もう一度美術館へ来る前から出会うことを楽しみにしていた絵の前に立ちます。最初のぎこちなく「つぶやいた」言葉とは違った思いが自然に心の中に湧いてきて、それをさりげなく隣りの先生につぶやいている様な様子が伺えました。真珠の耳飾りの少女との会話はどんなだったのでしょうか。

 

展示室での鑑賞を終えて、アートスタディルームへ。今日の体験を振り返ります。

 

グループで鑑賞したときと、一人で鑑賞した時の違いなどの感想をメモします。そして、もっと興味を持ったことがあったら、ここから先は自分で調べてみましょうと先生からの宿題が出されました。
都美で実施するスクールマンデーは、学校の希望(人数、学年、滞在時間など)によってその都度先生方と相談しながら実施されます。この体験がこどもたちにとってよい思い出となれば何よりです。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

 

 

「フェルメール体操第一」&「あなたも真珠の耳飾りの少女」&「とびら楽団」大盛況

2012.09.09

マウリッツハイス美術館展も終盤になるに連れ、1日の入場者数が16000人を超える大賑わいの東京都美術館(以下:都美)。9月に入ってもまだまだ残暑厳しい昼下がりを少しだけ癒しにとびラー候補生(以下:とびコー)が今日も出動します。まずは「フェルメール体操第一」から。お客さんも一緒になって体操します。

 

体操が終わったら「とびら楽団」の演奏です。思わず子供たちは踊りだします。

 

そして、楽団の演奏を聞きながら「あなたも真珠の耳飾りの少女」プロジェクトが進められる黄金の流れ。

 

あっと言う間に「真珠の耳飾りの少女」になりたい人たちで行列が出来ました。
では、おなじみの「本日の真珠の耳飾りの少女」です。ご覧くださーい!
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

 

「とびら楽団」のみなさん!

 

「あなたも真珠の耳飾りの少女」プロジェクトのみなさん!

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