東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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【開催報告】親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち

「東京都美術館の野外彫刻を楽しむラボ」とは

 

東京都美術館には、10点の野外彫刻があります。これらの彫刻は、「いつでも会える」作品です。多角的に鑑賞できて、季節や天気によって様々な表情を見せてくれます。そして抽象彫刻であるため、多様な解釈が生まれるのも魅力です。

そんな野外彫刻の魅力をもっと多くの人に伝えたいと願うアート・コミュニケータ(とびラー)が集まって、東京都美術館の野外彫刻を楽しむとびラボを立ち上げました。

 

このブログでは、私たちとびラーが、来館者向けに野外彫刻を楽しむプログラムを企画し、実施するまでの半年間の軌跡を紹介します。

 

 


東京都美術館の野外彫刻はこちら:https://www.tobikan.jp/archives/collection.html


 

 

私たちがこだわった2つの価値

 

これまでにも、とびラーによるプログラムとして、来館者に野外彫刻を楽しんでもらう企画は実施されてきました。そこで、過去のプログラムから学びつつ「私たちは誰にどんな価値を届けたいのか?」を話し合いました。その結果、このとびラボでは2つの価値の実現を目指すことにしました。

 

​​①未就学児を含む子どもとその保護者が、安心して親子で美術館を楽しむ場をつくる。

②子どもと大人が対話をしながら作品を見ることと、造形活動を用いて鑑賞のふりかえりをすることを通じて、世代を超えて、感じたことを多面的に伝え合うコミュニケーションの場をつくる。

 

これらの目標は、次のような思いから生まれました。

 

・美術館の館内よりも自由に過ごせる野外の環境を活かして、乳幼児や多様な個性を持つ子どもとその保護者など、展覧会に行くのを躊躇しがちな親子にも、もっと気軽に美術館を楽しむ機会を広げたい。

 

・対話型鑑賞(複数の人が対話しながら作品を鑑賞すること)の場で、感じたことをすぐに言語化するのが難しい子どもでも、工作やお絵描きなど慣れ親しんだ表現を用いることで、みて感じたことをもっと伝えられるのでは?

 

・野外彫刻をみて、感じたことを工作や絵などで造形的に表現し、その形にしたことをあらためて言語化するというプロセスを辿ることで、大人と子どもが世代を超えて感じたことをもっと伝え合えるのでは?

 

 


 

とびラーによるプログラムメイキング

 

まずは、とびラー自身が鑑賞して感じたことを造形してみる

はじめに、「造形を用いた鑑賞のふりかえり」によってどんな効果が生まれるのか体験するため、とびラー同士で野外彫刻を鑑賞して、感じたことを造形してみました。

そして、形にすることで「何に心が動いたのか?」を制作物によって視覚化でき、その人が感じた質感や印象がもっとリアルに伝わるという手応えを共有しました。

 

例えば、

 

「どっしりとした石の作品が、地中に深く根を張っていると想像した」

「金属の作品をみて、表面のざらざらした質感が心に残った」

「雨の日に、彫刻の窪みに水が溜まっていたり、ナメクジがいたり、生き物の住処になっていると感じた」

 

など、一人一人の感性が制作物を通して伝わりました。

 

 

 

作品研究

同時に、野外彫刻への理解を深めてより良い鑑賞の場を作るために、各自が興味を持った作品について作品研究を進めました。作品にまつわる情報を調べたり_自分自身でしっかりと作品を鑑賞して発見を書き留めたり、自分が感じる作品の魅力を言語化したりしていきました。また自分で作品研究をするだけでなく、とびラー同士でそれらを共有していきました。

 

プログラム作り

来館者にむけて、具体的なプログラムを作っていく過程は、手探りの日々でした。

 

プログラムの対象者は、対話による鑑賞や造形活動を楽しめそうな「5歳以上」の子どもとその保護者としました。ふだん「美術館に来るのはハードルが高い」と感じている幼児期の親子にも門戸を開きたい、というとびラーの願いからです。

さらに、様々な個性を持つ子どもにも美術館に来てもらいたい、異なる年齢層の子どもがともに鑑賞することで生まれる気づきもあるのではないか、という理由から、5歳〜高校3年生までの子どもと、その親を対象とすることにしました。

 

次に、とびラーが野外彫刻作品を介して、大人と子どもが対等な参加者として対話する場を作ることができれば、普段の親子関係とは少し違うお互いの姿を見る機会にもなるのではないか、という理由から、親子一緒に活動するプログラムを作ることにしました。

 

そして、野外彫刻を鑑賞して感じたことを形にする「造形を用いた鑑賞のふりかえり」を設計するために、「どんなステップで行う?」「どんな声がけをする?」「どんな材料を使う?」「作る時間はどれくらい必要?」「制作物をどのようにお互いに見せ合う時間をつくる?」といった一つ一つの問いについてとびラー同士で議論を重ねました。

 

とびラー親子対象のトライアル

夏真っ盛りの7月末、プログラムの内容と対象者を検証するために、とびラーとそのご家族19名に協力してもらい、5歳から高校生まで幅広い年齢の子どもとその保護者を対象とするトライアルを実施しました。

トライアルの時間は、1時間半。参加者は3グループに分かれて、彫刻をみる練習をしてから、2つの野外彫刻を鑑賞しました。その後、「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」を造形的に表現し、各々が表現したことを造形物を見ながら、互いに伝え合いました。

 

トライアル当日の様子を、写真を交えてお伝えします。

 


 

①アートスタディルームに集まってプログラム開始

 

②複数の親子が混在するグループに分かれて、自己紹介&彫刻をみる練習

 

③2つの野外彫刻をグループで鑑賞

 

④「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」をかたちにしてみる

 

⑤表現したことを言葉にして伝え合う

 

 

⑥他のグループの表現も見てみる

 

トライアルの実施後には参加者にヒアリングを行い、大人・子ども双方から沢山のご意見をいただきました。

 

トライアルで検証したこと① 子どもの対象年齢

トライアルに参加いただいた5歳のお子さん2名とも、グループで鑑賞して感じたことを形にできたため、「5歳以上」の子どもと一緒に活動できるという手応えを得ました。

 

トライアルで検証したこと② グループ構成

5歳から高校生まで年齢差のある子どもとその保護者を混合した、親子一緒のグループで活動してみて、対話による鑑賞や造形を用いた振り返りができるか?参加者はどう感じるか?検証しました。参加者からは「色んな年齢の子どもが一緒にみることで自分にはない視点が面白かった」「大人と子どもの発想の違いを知ることができてよかった」「複数の家族が一緒で色んな意見を聞けてよかった」といった声が聞かれました。異なる年齢の子どもや大人が混ざることで生まれる効果もある、というのは、私たちにとって新たな発見でした。

 

また親子一緒に活動することについて、子どもからは「家族と一緒で安心感があって話しやすかった」「お母さんが作るものを見られてよかった」、大人からは「親も制作できて楽しめた」「日頃見ない子どもの表情や一面を見られてよかった」といった声が聞かれました。

 

トライアルで検証したこと③ プログラム内容(特に、造形ワーク)

「造形を用いた鑑賞のふりかえり」では、大人も子どもも、野外彫刻をみて感じたことや、対話から感じたことを、制作物と言葉の両方を使って伝え合っていました。参加者からは「形にすることで、どこにその人の感性が動いたかが伝わる。」「爆発してくる、重いなど、鑑賞中の発言だけでは分からなかった、その人が感じた質量などが、制作物をみると分かった。」「対話から感じたこと、作品そのものの印象など、多様な表現が出てきて面白かった。」といった声が聞かれました。子どもも大人も表現することをとても楽しんでいたことが、印象的でした。

 

一方で、プログラム全体の時間配分、子どもだけでなく親も遠慮せずに参加者として楽しめる場づくり、「造形を用いた鑑賞ふりかえり」のファシリテーションなど、本番に向けたさまざまな課題も見えてきました。

 

「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」決定

トライアル後には、ラボメンバーみんなで、このプログラムが届けたい価値を改めて話し合いました。「親子で楽しむ」を大事にしたい、立体作品を360℃いろんな視点から楽しみたい、みて作って作品を「まるごと」味わいたい、「感じた気持ちをかたちに」したい、ということで、プログラム名は「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」に決定。

 

またトライアル結果を踏まえて、プログラムの導入→彫刻をみる練習→野外での彫刻鑑賞→造形によるふりかえりといった各パートの意義やつながり、全体進行や各グループのファシリテーター・サポートの声掛け、場づくりで大事にしたいことなどを、入念に再検討しました。

 


 

そして迎えた本番

 

秋晴れの青空が広がる9月23日、来館者向けプログラム「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」を開催。午前・午後2回のプログラムを通して、未就学児から高校生までの子ども20名、親23名および同伴のきょうだい児、総勢45名が、親子一緒に彫刻をみて、感じたことをかたちにして、まるごと野外彫刻を楽しみました。

 

今回、子どもの対象者を「5歳〜高校3年生」と幅広く設定した結果、参加した子どもの内訳は、未就学児5名、小学校低学年8名、小学校高学年4名、中高生3名となりました。また、5歳未満のきょうだい児同伴の親子には、保護者と共にきょうだい児を見守るスタッフを配置して、保護者がプログラムに参加しやすいように配慮しました。

 

第1回 9月23日 10:15〜12:00

参加者:5歳〜高校2年生とその保護者(同伴のきょうだい児)=24名

とびラー =15名

 

第2回 9月23日 15:00〜16:45

参加者:6歳〜中学1年生とその保護者(同伴のきょうだい児)=21名

とびラー =15名

 

 

本番当日の様子の詳細を、写真を交えてお伝えします。

 


 

 

①アートスタディルームに集まってプログラム開始

今日のプログラム全体の流れや「よくみる」「感じる」「言葉にする」「他の人の言葉をよく聞く」といったみんなで彫刻を楽しむコツをお伝えします。グループ構成は、トライアル結果を踏まえて、複数の親子が混在するグループとしました。

 

 

②グループに分かれて、自己紹介&彫刻をみる練習

まず自己紹介をしたら、金属、石、木材など様々な素材や形の小さな立体の中から、好きな立体を2つ選んで組み合わせ、自分で思いついた形を作ってみます。

「金属の球は重くて冷たい」「ざらざらした石、つるつるした石がある」「平たい形の石もある」など、皆さん素材の手触りや形に興味津々。

 

 

2つの立体を選んだ理由をお話ししてもらったり、作品タイトルを考えてもらったり、みんなで色んな角度から見たりして、彫刻をみる練習をします。

 

初めて会った親子同士もだんだん打ち解けて笑顔が見られるようになってきたところで、いよいよ野外へ出発です。

 

③2つの野外彫刻をグループで鑑賞

離れてみたり近づいてみたり、色んな角度からみたり。野外ならではの光と影、周囲の景色の映り込み、木の葉の揺れる音、生き物の気配なども感じて、対話しながら鑑賞します。

 

イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》(以下、《イロハ》)を色んな角度からみて「文字だけではなくキャラクターみたいな形もある!」と発見するお子さん。

 

P 3824 M君までの距離》をみて考えたことを全身で伝えてくれるお子さん。

 

《メビウスの立方体》をみて感じたことを話す子どもの言葉に、大人も真剣に耳を傾けます。

 

《三つの立方体 A》の形について考えたことを話すお父さん。子どもも大人もグループの仲間として、みんなでみることを楽しんでいました。

 

④「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」をかたちにしてみる

野外彫刻をみて心に残ったことを、自由にかたちにしてみます。粘土で形を作ったり、ダンボールや折り紙で工作したり、絵を描いたり、参加者それぞれの表現が生まれます。

 

《三つの立方体 A》を鑑賞して印象に残ったエッジを、銀紙で表現してみるお母さん。

 

《三本の直方体 B》の形を、粘土で再現してみるお子さん。

 

P 3824 M君までの距離》を粘土で作ってみるお子さん。大人も子どもも、かたちにすることに没頭していました。

 

⑤表現したことを言葉にして伝え合う

制作物を見せ合いながら、どんなことを表現したのか、一人ずつ説明します。

 

「《三つの立方体 A》の線がかっこよかった。」とダンボールで立体模型を作って表現したことを話してくれるお子さん。

 

P 3824 M君までの距離》をみて造形したことを話すお子さんと、その言葉に耳を傾ける大人たち。

 

《イロハ》を一緒にみた子どもたちからは、それぞれの表現が生まれていました。

 

《イロハ》鑑賞中にお子さんが発見したことを受け止めて、お父さんがかたちにする場面もありました。子どもの感性に触れた親も、自分の視点が伝わった子どもも嬉しそうで、親子で鑑賞する意味を感じた一コマでした。

 

⑥他のグループの表現もみてみる

歩き回って他のグループの表現も見てみます。この活動によって、今日グループで鑑賞した2作品以外の東京都美術館の野外彫刻にも興味を持ってもらい、他のグループの参加者との交流を促します。各グループの担当とびラーが、鑑賞した野外彫刻の写真パネルを見せながら、制作物がどんなことを表現しているのかを説明しました。

 

小学生と高校生が、どんなことを表現したのか和やかに会話するなど、制作物を見ながら参加者同士のコミュニケーションも生まれていました。

 

 

プログラムの最後に、今日見た2つの作品以外の野外彫刻にも会いに行ってみて下さい、という思いを込めて、子どもたちに東京都美術館野外彫刻ガイドをお渡しました。

 

 


 

参加者の感想(アンケートから抜粋)

 

大人の参加者

・野外ならでは、太陽の色で、《さ傘(天の点滴をこの盃に)》の色の見え方が変わるところが印象に残った。

・遠くから見る、近くでみる、距離が生み出す見方のギャップが面白かった。

・グループで鑑賞すると自分では気づかなかった意見がたくさん出て楽しかった。

・みたものを自分がどう感じたのか深く考えることや、他人がどう感じるのか知ることができたのが楽しかった。

・同じものを見ていても、人それぞれ受けとるものや感じることが違うと発見があった。

・人によって見え方、感じ方が違って、表現には自由がある。

・自分の感じたことを形にできてよかった。

・自分では思ってもみないことを子ども達が発言することが新しい気づきだった。

・「かたちにしてみる」で、子どもの自由な発想に驚かされた。

・子どもと大人がフラットに作業できたのがよかった。

・子どもが自分の言葉で感じたことを話せていたことが印象に残った。

・言葉にして人前で表現することが苦手な娘が生き生きとしていてうれしかった。

・4歳の面倒を時々見ていただき助かった。

 

 

子どもの参加者

・とてもよかった。(5歳)

・彫刻をみるのが楽しかった。(7歳)

・Mくんまでの距離(作ったほう)が心に残った。(8歳)

・(彫刻をみてかたちにして)いろいろ話してもっと分かった。(8歳)

・みんなで色んな形を作るのが楽しかった。(9歳)

・見ることによって感じるだけでなく、聞いたり、肌で感じることができて面白かった。(12歳)

・形の見方を自分で表現できて楽しかった。(12歳)

・他のグループの作品をみて他の彫刻も見てみたいと思った。(16歳)

 

 


 

終わりに

今回のプログラムでは、たくさんの親子が野外彫刻を囲んで賑やかに鑑賞し、感じたことをかたちにすることを楽しんでくれていました。また参加いただいたお子さんの大半が未就学児〜小学生であったので、このラボの狙いの一つ「未就学児を含む子どもとその保護者が安心して美術館を楽しむ場を作る」ことを実現できました。

 

「対話による鑑賞と造形を用いた鑑賞のふりかえりによって子どもと大人が世代を超えて感じたことを伝え合う」というもう一つの狙いについても、特に大人が子どもの発想から刺激を受ける様子が見られ、親子が共に鑑賞し、造形を用いてふりかえることで、世代を超えた対話の場が生まれていました。

 

このプログラムをきっかけに、またご家族で東京都美術館の野外彫刻に会いに来てくださることを願ってやみません。最後に野外彫刻をイメージしたポーズで、ありがとうございました!

 

 


 

 執筆:木原裕子(12期とびラー)

文章を書いて伝える仕事をしています。趣味は子どもとMuseumめぐり。子どもたちが美術館でワクワクする場づくりをしたくてとびラーになり、親子で美術館を楽しむ一つのカタチをこのラボで模索。とびラー活動で学んだ対話型鑑賞を通して、世界のどこに行っても「ありのままの自分で共に在る」場を開いていきたい。

 

2025.09.23

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