絵本でコミュニケーションをとると聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは「読み聞かせ」ではないでしょうか。また一方で、絵本の原画展が人気を集めるなど、絵本は「アート」としても多くの人に親しまれています。
私たちとびラーは、アートを介して人と人とのコミュニケーションを生み出すアート・コミュニケータです。では、絵本をアートとして捉えたとき、どのようなコミュニケーションが生まれるのでしょうか。そんな問いから、この絵本のとびラボは始まりました。活動期間は、2025年1月から8月まで。年度をまたいだ長期の活動となりました。
参加したとびラーの中に、普段読み聞かせ活動を行っているとびラーがいたので、まずは絵本を読んでもらうことにしました。大人である私たちが「読む側」ではなく、「聞かせてもらう側」になるのは久しぶりの体験です。みんなが耳を澄ませて聞き入っている様子がとても印象的でした。人の声の心地よさも、改めて感じる時間となりました。
私たちはまず、絵本でコミュニケーションを生む方法について、アイデアを出し合うことにしました。例えば、文字のない絵本を鑑賞してみる・絵本から想像する音を作ってみる・アニマシオン(読書に親しむためのゲーム)を取り入れてみるなど、さまざまなアイデアが出ました。
いくつかのアイデアの中で「リレー方式でページをつないでいく方法」が紹介されました。さっそく実践してみることに。絵本の1ページごとに言葉を考え、次の人へバトンタッチしていきます。自分にどのページが回ってくるのか分からないため、その場で言葉を考える面白さもありました。「ワークショップの前のアイスブレイクとして使えるかもしれない」という感想も出ましたが、同時に「まだアートの要素が少し足りないかもしれない」という声もありました。
とびラーは、「対話型鑑賞」という、複数の人が意見を交わしながらともに作品を鑑賞することを活かして活動しています。そこで「絵本をアートとして捉えるなら、絵本でも『対話型鑑賞』ができるのではないか?」という案が出ました。しかし同時に「1ページの絵だけを鑑賞しても、それは絵本を『鑑賞する』こととは違うのではないか」という疑問も出てきました。
疑問が残る中でしたが、私たちは「絵本で対話型鑑賞を行い、コミュニケーションを生み出す」という試みを実践することにしました。考えているばかりではなく、実践してみないと分からないことがあるからです。
まずは作品選びです。「みんながよく知っている物語では、絵を見るときに固定観念が働き、感想も既に知っている物語から連想してしまうのではないか」という意見が出ました。対話型鑑賞では、鑑賞者の主観的な見方を大事にしつつ、作品をクリティカルに読み解いていき、感じたことを自由に話しながら鑑賞を深めていきます。
そこで「出版されたばかりの絵本なら、みんな初見で鑑賞できるのではないか」という考えから、あるとびラーが一冊の絵本を持ってきてくれました。
『ピンクのカラス』(文:松本千登世 画:牧かほり出版元:BOOK212)
初めに表紙を使って対話型鑑賞を行います。
以下のような対話がありました。
「ピンクのカラスが誇らしげに見える。目に生命力や生き生きとした感じを受ける。」
「カラスの身体にピンクだけでなく赤色も入っている」
「それは、どんな印象?」
「どこかで戦ってきたのかも」
「ここはどこなのか。時間は早朝なのかな。背景に街が見えるけど、カラスや虫たちと距離を感じる。」
「それは、この絵のどの辺りから?」
「自転車も止まっていて、信号に色が無いから。街には動きを感じない」
「ビルの隙間にクローバーが生えている。」
「どんな感じを受けますか?」
「生き物はカラスや虫だけでなく、植物も生き物の仲間という感じ。」
対話型鑑賞が終わったあとで、読み聞かせを行いました。「じっくり絵を見ていたので、物語の世界に入りやすかった」という感想がある一方、「答え合わせのようになってしまう」という意見もありました。
また、違った取り組みとして、アメリカで行われているダイアロジック・リーディングという方法も試してみました。読み手から聞き手への一方向の読み聞かせではなく、読み手と聞き手が絵本に書かれている内容について、やり取りをしながら読み進める方法です。いずれも読み手と聞き手との間にコミュニケーションを図ることができました。
絵本の表紙を対話型鑑賞したり、絵本の中の1ページの絵について対話型鑑賞する方法などさまざまな方法を実践し、私たちはあることに気づきました。
どうやら絵本には、
・対話型鑑賞をしてから読み聞かせをするのに向いている絵本
・読み聞かせをしてから対話型鑑賞をするのに向いている絵本
の両方があるのではないか、ということです。
そこからは、対話型鑑賞に適した絵本探しも始まりました。ミーティングのたびに試行錯誤を重ね、最終的に導き出した方法をとびラー向けのワークショップで紹介することになりました。
ワークショップでは、「対話型鑑賞をしてから読み聞かせ」、「読み聞かせをしてから対話型鑑賞」という順番の組み合わせで2冊の絵本をとりあげました。
開催中はいずれのグループでも活発に発言がありました。大人に読み聞かせを行った場合、湧き上がった思いを言語化し他者にそれを聞いてもらいたいという気持ちが強いようです。
ワークショップに参加したとびラーからの感想はいずれもポジティブなものでした。対話型鑑賞をしてから読み聞かせを体験した時には、「どんなストーリーなのかワクワク感が高まった。」「絵本の世界観にすぐ入ることが出来た。」といった感想が聞かれました。絵本の内容に期待感を膨らませている様子が分かりました。
読み聞かせをしてから対話型鑑賞を体験した時には、「絵からイメージが広がった。」「読み聞かせの声により絵に対する季節感も感じた。」といった感想がありました。
単に描かれている絵を表面的に見ているのではなく、絵の描かれている背景まで見ているようでした。

ワークショップを終えて、私たちは絵本とアート、そしてコミュニケーションの関係について、いくつかの考えをまとめることができました。
・大人に対する読み聞かせでは、感想を誰かに伝えたいという気持ちが生まれやすく、伝え合うことでその場にコミュニケーションが生まれる。
・先に対話型鑑賞を行うことで、先入観なく絵を鑑賞できる。それは思考のトレーニングにもなり、ストーリーに入っていく準備運動にもなる。
・読み聞かせの後に対話型鑑賞を行う場合、読み聞かせの声の印象やページの前後関係が鑑賞に影響し、鑑賞自体がより深まる可能性がある。
このようにまとめてみたものの、まだまだ疑問が残っています。
今回のラボでは、たくさんのアイデアが生まれました。そして、それをとにかく実践してみることを積み重ねてきました。試してみたからこそ気づいたことがたくさんありました。が、すべてが明確になったわけではありません。でも、それでいいのではないか。また新しいアイデアが浮かんだら「絵本のとびラボ」を「この指とまれ」して始めましょう。そう確認し合い、8カ月に及ぶとびラボ活動はひと区切りとなりました。
さまざまな角度から絵本にアプローチし、絵本の可能性を改めて感じることができた絵本とアートとコミュニケーションラボでした。
とびラー12期 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2025.08.31