東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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【開催報告】「なりきりアーティスト」東京藝術大学卒業・修了作品展

2018年2月3日土曜日、東京藝術大学卒業・修了作品展において、「なりきりアーティスト」を開催しました。
「なりきりアーティスト」とは、藝大生が制作した作品をワークショップ参加者が作ったと想定して、参加者の皆さんに作者になりきってコンセプトや作品タイトルなどを語ってもらうワークショップです。例年につづき今回で3回目の開催となり、6名の様々な”なりきりアーティスト”さんに参加していただきました。

 

開催日である2月3日は節分の日、明日は立春という天気の良い春めく日でした。そして第66回目にあたる東京藝術大学卒業・修了作品展の最終日。東京都美術館や大学構内は学生の集大成である作品を観に来る人々で大賑わい、そしてエネルギー溢れる作品たちを感動した面持ちで鑑賞していました。
そんな中、応募してくださった皆さんを大学美術館前にて待つとびラー。

 

ポカポカ暖かくて、これから楽しいワークショップが始まるワクワク感が増します。さて、今年の「なりきりアーティスト」はちょっとした「仕掛け」をご用意しました。受付にてグループ分けされた参加者の方々に、なりきっていただくための小道具をお配りしています。ベレー帽やアーティスト風メガネなど、お好きなアイテムを選んで身に付けていただきました。みなさん、喜んで身につけるあたりにさすがのやる気を感じます。「なりきろう!」と応募されてきただけあって、楽しもうという姿勢が圧巻です。

みなさん集合されたところで、これからのワークショップの流れを説明。

今回は、1グループ3名の参加者に対して、3名のとびラーが付き添います。
2つのグループに分かれて、それぞれ1つの作品を鑑賞します。その後、鑑賞した作品の作者に一人一人がなりきって語り、お互いの発表を聞きあいます。

 

はじめに2グループに分かれて自己紹介とアイスブレイクです。
もうこのあたりから、参加者の皆さんのわくわくした面持ちが伺えます。
グループごとに大学美術館の地下へ降りていきます。

まずはグループごとに、自分が作者に「なりきる」作品を鑑賞します。鑑賞のポイントは以下の3点に絞って考えます。

1. どうしてこの作品を作ったの?

2. みんなに見て欲しいポイントは?

3. もしあなたがタイトルをつけるとしたら?

上の3点が書かれた「ヒントシート」にメモをしながら鑑賞していきます。

 

こちらは「おさるチーム」の様子。


立体の作品を前から後ろからじっくり観察しています。

 

こちらは「ぶどうチーム」。
大きな絵画の前でじっくりと作品を鑑賞しています。

 

ゆっくりと鑑賞し終えたら「なりきり」発表です。まずは絵画作品の「ぶどうチーム」から。発表をしてもらう方には「なりきりマイク」と「なりきりタスキ」をかけていただきました。

みなさん堂々と自分が描いたのかのように作品について語ってくれました。

お話ししてくださったのは、こんなこと。

・ぶどうがワインになる直前の輝きを表し、「これからの豊穣」と「果物のこれから」を考えて描いたと想像した。
・自分を病床から復活させてくれた「種無しぶどう」を描きたかったが、不作のため用意できず、「種ありのぶどう」を描いた。
・ワイナリーを経営しながら、素材のぶどうについて勉学しながら描いた作品である。

どれもこれも、とてもユニークな「なりきり」発想に、会場には笑いが絶えません。

 

他の参加者からの質疑応答はインタビュー形式で行います。活発に質問が飛び交い、その質問にも作者になりきって答えていただきました。

 

そこへ、その様子を見ていた本物の作者が登場!みなさんの想像の豊かさに驚き、頷き、真剣に見入っていらっしゃいました。そしてとても楽しかった様子です。
まずはみなさんのなりきりに関しての感想、そして”本当の”コンセプトや絵に対する想い、また、絵を描いている時に考えていることなどを語っていただき、その後みなさんからの質問にも丁寧に答えていただきました。

 

 

次に全員で「おさるチーム」の作品の場所へ移動します。こちらは立体の作品です。


複数体の猿をモチーフに作られたこちらの作品では、キャラクター同士の関係性を想像する人も多かった様子。みなさんがつけた作品のタイトルにも注目が集まりました。

・祖父との思い出が作品になった「あの日のリアル」
・思い出のある動物園が壊され、新しい建造物が立つことに異議を唱える作品「建設反対」

・人間関係のストレスから退職した人が、そのエネルギーをものづくりへと変換した作品「どこ見てんだよ」

どの方も堂々とアーティストに「なりきって」、独自の視点と発想で、見て感じたことを語っていました。

 

こちらの作品でも、最後に本物の作者が登場。発表中は横の方で、自分の作品がどう語られるのか、興味津々で見守っていらっしゃいました。
こちらもみなさんの「なりきり」の感想から始まり、作品が語るストーリーや、制作過程での秘話、技法についてなど詳しくお話ししていただきました。

本物の作者のお話に、みなさん真剣に聞き入り、質問をしたりと、自分自身が作者に「なりきる」からこそ深く考えたやりとりが続きます。

 

最後に会場の外にて、グループごとにワークショップの感想を共有し、本物の作者の方々へ応援のメッセージを書いていただきました。

これにて「なりきりアーティスト」は終了。終始和やかに楽しく、和気藹々とした雰囲気でした。

今回参加してくれた藝大生の作家のお二人からのメッセージの一部抜粋をご紹介します。

 

「参加なさっていたみなさんがおっしゃっていた言葉のどれもが、
私自身が作品について考えている一側面でもあったので、
ひとりひとりの発表内容から、大変多くのことを学ばせていただきました。」

 

「普段の展示では聞けないような違う視点からの感想を聞くこともできて、
新しい発見もありつつとても勉強になりました。
参加者の方々も楽しく感想を述べてくださっているようで良かったです。」

 

じっくり作品と向き合った参加者みなさんの視点によって、作者の方も、また私たちとびラーも、いろいろな解釈に驚き、納得し、楽しめたことは言うまでもありません。とても素晴らしい「なりきりアーティスト」さん達でした。また、そんな参加者の言葉を真摯に受け止めていただいた藝大生のお二人にも感謝いたします。

 

美術作品を観るときに、「もし自分だったら、なぜこの作品を作るのだろう?もし自分が作ったとしたら、どこを一番観て欲しいのか」などと考えながら観ることは、その作品を深く鑑賞することに繋がるのではないかと思っています。また作者にとっても、卒業・修了制作にあたる作品で鑑賞者にそのように観てもらい、どんな風に感じてもらえるのかを知ることは希少な体験で、これからの作品制作や美術とともに歩んでいく過程のなかでプラスになることもあるのではないかな、と考えています。

そんなことを思いつつ、その日、その時初めて出会った方々と、作品を通して感じる心の違いを尊び楽しめたらいいなと思っています。とびラーにとっても、みなさんの素晴らしい感性に触れて寄り添わせていただけることは貴重な体験で、新たな価値の創造に繋がっていると思えるのです。

 

あなたもぜひ「なりきりアーティスト」の体験をしてみませんか?

そして、またいつか「なりきりアーティスト」でお会いしましょう。

 

ごきげんよう。

 


執筆:アート・コミュニケータ(とびラー)上田紗智子

アートとコミュニケーションが大好きで、そこを繋げることに興味を抱きとびラーに。あっという間の2年が過ぎ、最後の3年目。人とコミュニケーションしながら鑑賞する、その深さを追求していきたい。そして世界に笑いを!

2018.02.03

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