東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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あいまいな記憶と証言でたどる:「あなたも真珠の耳飾りの少女プロジェクト」活動報告前編

とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です
とびらプロジェクトで活動開始前から既に伝説かと噂される「あなたも真珠の耳飾りの少女プロジェクト」から中間報告が入りました。
記述はとびラー候補生(以下:とびコー)の小野寺伸二さんです。
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東京都美術館の来場者に笑顔を、小さな思い出を持って帰ってもらう。そんなプロジェクトをやりたいと思ったのが「青タープロジェクト」の始まりです。そして直近の企画展である「マウリッツハイス美術館」展のチラシを見ていて思いついたのが“顔出し看板”でした。よく観光地やテーマパークなどに置いてある、人物の絵の顔の部分だけがくり抜いてあり後ろから顔を出せる立て看板みたいなアレ。穴から顔を出しただけで、その人物に早変わり、というアレです。看板の絵にしたいのはもちろん、ヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」。展覧会の目玉作品です。
 企画としては決して目新しいものではありません。でも、ちょっと新鮮で魅力的な“顔出し看板”にできるのではないかと思いました。元の作品そのものがとても魅力的なのはもちろんですが、昨今の「フェルメールブーム」のような状況の中、肖像画としては、いまやダ・ヴィンチの「モナリザ」に次ぐくらいの知名度になっている作品であること。そして、振り返った瞬間の表情を作ることが、多くの“顔出し看板”が真正面向きの中、異色の存在であること。この2点からです。看板は額縁の部分まで作り、来場者は持参のカメラやケータイでそれを撮れば来場者にとってもらえば記念になるし、その様子を周囲で見ている人にも楽しいと考えました。
 幸いなことに大作ではないので真似して作りやすそうです。そして、公開が夏休み中になることもよいタイミングだと思いました。あまり準備期間はないけれど、この世にこれ以上“顔出し看板”にぴったりの作品もタイミングもないようにさえ思えました(笑)。これはもうやるしかないと、とびらプロジェクトの掲示板に参加募集をアップしました。題して「青タープロジェクト参加者熱烈募集!!!!」。「青ター」とは「真珠の耳飾りの少女」の別名「青いターバンの少女」の略である。その段階で、単に“顔出し看板”をやるのではなく、とびら楽団を交えて、衣装も作り、賑やかなものにしようと提案しました。5月31日のことです。
 とにかくミーティングをやろうということになり、初めてのミーティングが行われたのが6月2日。どんな感じかとザックリ考えてみるような段階。衣装に関してとびコ−の越川さんが、テルテル坊主のようなスタイルで、足は男女とも黒タイツ姿、みたいなことを提案するので、私はとびらプロジェクトマネージャーの伊藤さんと顔を見合わせ、背中に冷や汗を感じたのでした。

■ミーティングに参加したとびコー越川の証言■

「そうですね。衣装というのは、青タースタッフと、青ターを周りで盛り上げるとびら楽団のコスチュ—ムのことです。確かにテルテル坊主の様な上からかぶるマントとタイツを提案しました。マウリッツハイス展が始まる6月30日までもう1ヶ月切っていると言う状況と、コスチュームなんて作れる人材がいるのか?という心配がその理由です。マント型なら、フリーサイズだし、縫うのも簡単でなんとかなりそうだと思いました。タイツはただの私の趣味です。」

 

 続く6月3日、私は出席できませんでしたが、この日もミーティングがあり、ここで衣装はターバンだけにしてはどうかとなったようです。
 6月15日、この日、とびコ−の時田さんが衣装用のターバンを作ってきてくれたことで大きく流れが変わりました。ターバンが面白い。着けてみると、女性は誰でも意外なほど似合ってきれいなんです。男性はどことなくカレーショップの店員風なのが、情けなくも楽しい。穴から顔を出すのではなく、来場者にターバンを着けてもらったら、額縁の中で写真を撮ってもらう。それでいいのではないかという意見が出ました。確かにターバンは魅力的。それを来場者に体験してもらうのも楽しそう。でも、実際にターバンの装着をしたり、管理をするようになったら、壁穴方式に比べてさまざまな負担が増えるのではないか。それを予感して、私自身は多数決にも参加できないほど迷いましたが、結果はターバン方式に決まりました。ただ、ターバンそのものの形式は、管理や装着の手間を考えて、実際に布を巻くのではなくヘアバンド形式にしました。
■ミーティングに参加したとびコー田中の証言■
「僕はこの日、とびラボで何をしているのか全く知らぬまま、アートスタディルームに向かいました。ドアを開けて中に入るや否や、真っ青な布を頭にクルクルと巻かれてしまい…。あれが生まれて初めての女装経験でした。青ターに参加したのは、後にも先にもその1回ぽっきりでしたが、一生忘れられない良い思い出です。」
 7月15日、とにかく8月5日にそれらのチェックを含めて、通し練習のようなことを行い、流れ次第では本番実施に入ってしまおうということが決まりました。わかりやすく言うと「ぶっつけ本番」だと思います。ちっとも練習ではありません。ちなみに、この時点で肝心の額縁はまったく出来上がっていませんでした。
 8月の1日・2日で額縁を作ることになりました。材料はスチレンボードとホットボンド。実は額縁をなるべくきっちり作るというのは当初から重要なポイントだと考えていました。しかし、もはや時間がありません。そこで、額縁の設計として、平面状の作るのに簡単なものと、作るのにちょっと手間がかかる立体感が出るものの2種類を提案したのですが、その場にいた人たちは、よりによって作るのが面倒なほうを、当然のような顔をして選ぶのでした。額の模様は本物そっくりとはいかないけれど、かなり複雑なものにしました。しかも、私の希望で、額縁の模様の中には「フェルメール」と「ローストビーフ」の文字をこっそり入れておくことになっているのです。しかし、とびコ−の山近さんの職人的な技と「秘密工作部隊」の活躍で、かなり複雑な模様を実現することができました。多くの人の協力を得て、ついに額縁完成へと至ったのです。初「青ター」実施3日前のことでした。
■額縁作りに参加したとびコー長井の証言■
「初めは文化祭準備のノリで賑やかにスチレンボードを切り出していましたが、模様をトレースするあたりから、皆、寡黙になってきました。「間に合うのか?」額縁を見ると今もホットボンドの溶ける臭いがよみがえります。熾烈を極めたのは、金色スプレー塗布作業で、新装都美を汚してはならぬと屋外退去を命じられました。屋外作業では、蚊の大群に襲われ、足に10匹位黒い蚊が止まっているのを見た時は卒倒しそうでした。よくぞ完成、感無量です。」
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今回の執筆にあたっては以下の3名のとびコーさんたちに協力してもらいました。越川さくら・田中進・長井靖子。
 
【もっと面白い(はずの)後半に続く】
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とびラー候補生:筆者:小野寺伸二(おのでら しんじ)
児童書用になぞなぞの問題を作ったり、クロスワードパズルを作ったりしている。企画は好きだが、実施は苦手。

 

2012.08.02

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