東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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「身体に耳を傾けながら、感じながら動きたい。それによって伝わることがあると信じています。」藝大生インタビュー2021|グローバルアートプラクティス専攻・修士2年・中川麻央さん

都心よりいく分か気温が低く、澄んでキリリとした空気の東京藝術大学取手キャンパス。ドキドキしながら向かうとびラー3人を、中川麻央さんがパフォーマンスに使う機材を念入りに準備しながら待っていてくれました。美術学部専門教育棟内、2体の彫像の置かれた吹き抜けの大空間には3台のモニターが置かれています。インタビューの前に、修了制作のパフォーマンス作品の一部を見せてもらいました。

まず二体の彫像の間に身体を置く中川さん。身体の一部が映されたモニターの裏側で、しなやかな動きで身体を動かします。やがて、モニターを持ちながら彫像前を離れ、中央棟内のエレベーターや、階段付近へと身体を進めていきます。学生や先生方が行き交う専門教育棟内が、中川さんのパフォーマンススペースへと変わっていきました。

―「変容する身体」

作品のコンセプトは「変容する身体性」です。私の表現のバックグラウンドにはダンスがあるで、常に身体(からだ)に耳を傾けるという行為が主軸になっています。その行為は、作品を作ることだけでなく、生活の中でも影響があります。環境が変わると無意識でも自分の身体に反応が出てきて、そこが身体の面白い部分だな、と思っています。みなさんも同じように身体を持っていますが、個人個人で全然違う。環境が変われば、質や存在感も変わります。身体の状態や様子は、毎日違います。2年前の自分の身体と、今の自分の身体とでも違う。自分の身体に耳を傾けていくと自然と変わってきているのが分かって“身体”への興味は尽きません。

―物質としての身体

身体は、すごく流動的でありながら確立した物質である、という面でも面白いな、と思っています。映像の中に、身体のある部位をすごくズームインしたり、逆にフォーカスがぼけているシーンを入れています。それをすることによって、身体の一部だという認識が曖昧になり、すごく物質的に、オブジェクトになってくることを表現しています。また、映像の中にある物質的に見える身体と、実際に私が動いている身体の対比をパフォーマンス全体で表現しています。

オブジェクト(モノ)と身体の存在感

今回のパフォーマンスでは、人形浄瑠璃の主遣いの方の身体の使い方をヒントに、アプローチしています。伝統芸能の人形浄瑠璃の人形遣いで、「主遣い」という、姿が見えたまま人形を遣う方の身体の存在にずっと興味があります。実際には見えているのに、鑑賞していると人形に意識が集中して、主遣いの姿が見えなくなっているように感じる。人形(モノ)の存在感と主遣いの存在感の関係性が変わってくる。そういう身体の存在のさせ方が気になっています。モノと人が存在する場合、どうしても「人がモノを使う」という主従関係になりがちです。それに対して、モノの存在感と身体の存在感の主従関係を曖昧にする、もしくは同等になるような身体のアプローチのさせ方、それによって見え方が変わる、ということにすごく興味があります。

―コロナの影響は?

私の中での作品作りは、パフォーマンスする空間に観る方が一緒にいて、その時間を一緒に体験してもらうというのが基盤にありました。パンデミックという状況に陥って、自分の創作や、パフォーマンスの仕方など、大切だと思っていたことを一から見直して、向き合う機会になりました。人と距離をとって、人の波動を感じられない時間を過ごしたことは、やはり身体の中に記憶として残っていると思います。身体が覚えている。自転車は象徴的で、どうやって乗るか身体が覚えていて、全然乗ってなかった期間があっても乗ってみたらやっぱり乗れる。身体自体が記憶をとどめているコンテナみたいな印象ですね。コロナ渦の経験は、この先何かを表現するのに、無かったことにはできないだろうな、と思います。コミュニケーションがリモートでスクリーン越しになる中で、相手の身体と相手の発している言葉がなんだか噛み合わずバラバラだった印象や、スクリーンに映っている自分の身体と今ここに存在している身体が繋がっていないという違和感など、身体に対する認識の試みをパフォーマンスの中でアプローチしています。

パブリックな場でのパフォーマンス

以前はシアターでパフォーマンスすることが多かったのですが、今は、パブリックスペースに自分の身体をおいて何かを表現する、ということにすごく魅力を感じています。シアターでは観客との間にどうしても壊せない隔たりがあって、物理的な距離と心理的な距離がどうしても埋められなかったんです。それで人々が行き交うようなパブリックスペースで試しています。私がパフォーマンスをしたことによってパブリックスペースの日常的な時間や空間が壊れる、という関係性や、見ていただく方にどうやって/どこから見ていただくかという選択肢があるということも私の中では大きいです。

パフォーマンスとは

私はパフォーマンスの身体の動きだけがコレオグラフィー(振り付け)だとは思っていません。身体に関わっている空間全体、モノとの関係性、その空間に身体を置くことで何が起こるのかということ、全て含めてコレオグラフィーだと思っています。パフォーマンスは、時間の流れをベースにした芸術、表現方法だと思いますが、音、時間、光、身体、匂い、空気感など、いろんな要素が詰まって出来上がっている総合芸術だと感じます。その魅力として、その時に起こったことを、その実感する瞬間に体験する、ということがあると思います。

 

パフォーマンスの途中で中川さんの手のあたりにちょうど光が落ちてきて、とても美しくて、「光」というものを今ここで感じて改めて意識する、というような体験をしました

そうですね。そういう具現性も、パフォーマンスではとても大切になってくると思います。ただ、スクリーン越しには中々お伝えできない部分だな、というのを痛感してもいます。パフォーマンスをしている私自身も、自分の身体と空間の間でその時その時に起きていることをリアルタイムで判断して、反応していく。耳を傾けて、それを汲み取ったり汲み取らなかったり、選択しています。私は、物事を理解して体験する、ということに関して時間を要する人間で、自分が今何を体験して動いているのか、ということにも時間がかかります。ただ、それをちゃんと聞いて、耳を傾けて動いているのとそれを聞かずに動くのでは、出てくる動きや質感が全然変わってきます。私は身体と空間の間で起きていることを、感じながら動きたい。それによって伝わることがあると信じています。

ー日常の動きとパフォーマンス

身体の構造自体にすごく興味があるんです。外側がどう綺麗に動いているか、というよりは、身体の構造が動きにどう影響しているか、ひねりの構造はどうなっているのか、ということに興味があります。身体は皮膚一枚で繋がっているので、ある部分をひねったら違う部分に影響が出ていたりとか、どこかの一部が動くと連動してどこかが動いたりして、本当に面白いです。パフォーマンスの中の動きは、普段何かしていて身体の反応、動きがおかしいな、といったような、日常生活の中で体験した、感覚的なものから派生して出てくる動きなので、日常とパフォーマンス制作をしている時の自分の身体とは繋がっているな、という実感はあります。

ーオランダから藝大へ、そしてその後は…

私は幼少期ものすごい人見知りの子どもだったんです。心配した両親が、人前で何かできるような手段として、クラシックバレエを習わせてくれました。身体を使って表現する楽しさもありますが、いろんな人と関わって何かを作っていくという魅力に取り憑かれてここまできている感じです。

オランダには振り付けの勉強をしに行っていました。アムステルダムに住んでいましたが、本当にコスモポリタンな都市で、あなたはあなた、あなたらしく、というのが自然に身についている。そういう雰囲気が、「許容範囲が広い」という感じの印象を受けました。

ヨーロッパでは、ヴィジュアルアートの方がパフォーマンスやダンスの方へ作品の傾向が移っていったり、ダンスの方がビジュアルアート的な要素でパフォーマンスを作ったり、というのが最近10年くらいすごく活発に入り混じっていて、私もすごく共感しました。アートの境界っていらないんじゃない?というような。GAPがまさに境界がなく、そういう意味でグローバル。いろんな国籍いろんなジャンルの人がいて、そんな中で自分のアーティスティックな部分をより深めたりするような環境がすごく魅力的に感じたのでGAPに進むことにしました。

今まで属していたのがシアター、演劇というジャンルだったので、藝大に来て、GAPでの環境はすごく新鮮で、刺激的でした。オランダの時よりもっと色が濃い感じです。卒業後はまだ具体的な予定は何もないんですが、「身体表現に関わること」で、私が今まで経験してきたことを何かしらの形でシェアするということをできたら、ということは考えています。

ー身体表現を続けているのは?

パフォーマンスはすごく抽象的なものだと思います。その分、いろんな理解の仕方、見方ができるのがすごく魅力的だな、と思っています。パフォーマンスを見て、その方の経験を通して自由に解釈していただく、それが私はすごくうれしい。

作品を見せることで伝わる、理解していただけるという経験をたくさんして、それが心に強く残っています。国籍や文化背景に関係なく、身体表現を通してコミュニケーションできる、人と「何かしら繋がれた」という経験ができる喜びが私を身体表現に向かわせているんだと思います。

ーインタビューを終えて

現地で実際に観るパフォーマンスは本当に素晴らしかった!こちらまで身体の感覚が研ぎ澄まされるような感覚がありました。やはりこの体験は、現地で観ないと体感できないと思います。中川さんのパフォーマンスは、東京藝術大学 上野キャンパス 美術学部中央棟1Fロビーにて、展示期間中毎日14:00〜15:00に実施される予定です。ぜひご覧ください!インタビュー前、パフォーマンス作品はちょっと難しそうだなと思っていましたが、パフォーマンスを観た上でお話を聞いて、私たち誰もが持つ身体をメディアとした表現、という視点を得て、なんだか親近感を感じることができました。

 

■中川麻央さんHP
https://maonakagawa.tumblr.com/

■中川麻央さんインスタグラム
https://www.instagram.com/__mao.nakagawa__/

 


取材:梅浩歌、門田温子、滝沢智恵子
執筆:梅浩歌

 

とびラー2年目、3才になる息子を通して世界と出会い直し中。とびらプロジェクトでの素敵な出会い、体感を伴う学びに感謝しつつ、それを還元していけたらと思っています。まずこの藝大生インタビューでの興奮・感動をお伝えしたい!(梅)

 

 

 

2022.01.23

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