東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2016.01.25

美術学部校内を奥まで進むと木材のよい香りがしてくる。
今回インタビューを受けてくれた森木ノ実さんとは、彫刻棟で待ち合わせた。
石彫を専攻する森さんは、寒空の下まさに制作をしているところだった。
沢山の石と機械が並ぶ屋外の屋根のついたスペースが彼女のアトリエだ。

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「ここにある大半の石は、卒業時に先輩が残していったものです。私の作品の石も先輩から譲り受けました。素材が高価なこともあって、引き継いだ石を大切に使っています。」

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「貰った時は既に円錐型に掘りかけてあった石でした。さらに、部分的に彫り込まれていました。」

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ー 彫りかけのものということは、形の制約があったのでは?
「もちろん、ある程度決まった中ではありましたが、私の作りたい形になるよう考えました。粘土は心棒に形をつけていく作業ですが、石は性質によって割れ方も異なり、もとの形や固さを理解しながら彫るので確かに不自由な面が多い素材ではあります。」

 

ー いつ頃から作り始めたのでしょうか?
「ちょうど1年くらいです。決めてしまえばどんどん掘れるのですが、私は結構悩む方で…結構ゆっくりと彫っているんですよね。石って掘り続けると無くなってしまう。ここを彫ったらどうなるかなとか、ドキドキしながら作っています。でも躊躇していると進みません。」

「粘土をつけていく作業をモデリングといって、木や石などの材料から削り出すことをカービングと呼びますが、カービングを仕事にする人は勇気が無いと駄目だなと思います。」

 

ー モチーフを教えてください。
「女性を彫っています。私はよく200人程しか入れない小さなライブに出かけるのですが、この作品は、そこにいる女性ファンと男性出演者の関係から着想を得ました。ファンと出演者の関係が不思議だなって。差し入れをしたり、全国どこにでも付いていく。言い方は悪いですが貢ぐような感じ…。でもその関係は一生続くわけでもなく、それぞれ運命の伴侶が見つかればあっさりファンをやめることもあります。ファンでいることが将来その女性たちの為になることもない。何も生産性のない行為をしていると思うんです。私もファンの一人の立場から、この感覚に無理にでも意味をつけてみようかなって。」

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「この女性はファン側を表現したものです。信者のような。でも宗教的なことではなく、人間が生きて行く中で、心から信頼して付いて行くところに、最終的には行き着くのではないかと思いながら制作しています。」

「彫り始める前にはマケットという小さな模型を作るのですが、この時点で基本の人体の形を放棄してしまおうと思いました。出演者に対するファンの熱い視線を考えると、少しとろけている方が面白いなって。タイトルは《Fanatic》、和訳すると『狂信者』です。」

 

ー ファンの存在を表現しようと思った動機は?
「ライブや好きなアーティストを見ていると、冷静になる瞬間があります。こんなライブ、私の人生に何の影響があるんだろう?と。でも、私だって表現者なんだから何か作りたいと思ったんですね。そんなフラストレーションや焦りから、制作のモチベーションが生まれています。」

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「平らな面が床で、突起が人体。ライブ会場で一人冷静になり、自分は何もできていないと感じる瞬間を形にしてみたいです。」

 

ー 自分自身を掘り出しているのでしょうか?
「そうですね。今はまだ学生という立場なので、それだったら、怒られようが自分のことだけ考えて作りたいなって。甘えかもしれませんが、石という素材を扱うことは、自分自身と向き合うことだと思うので。先生の意見も取り入れつつ、自分のやりたいことをやり続けています。私は頑固で、言われたことを反映しないこともありますが(笑)まずは素材にじっくり向き合うことを大事にしたいです。」

 

ー 石彫を選んだのは何故ですか?
「まず屋外で作業するところに惹かれました。屋外は季節によって風の向きも違い、風向きを読んで磨いている石と粉塵の出る石の場所を交換したりと、自然と共存している感じがいいなと思ったんです。外だとみんな話かけてくれて、私も気軽に他の人の作業を見に行けます。朝日が作品に差すとこともあり、作品の奇麗な姿を見ると気合が入ります。」

「それと、私は受験のときから押すと変形してしまう粘土が苦手で…。石はちょっとやそっとじゃ壊れない。素材の硬さが自分に丁度よかったこともあります。あとは、石彫をやっている方々の溌剌とした雰囲気も私には結構合っていました。」

「石の魅力って重量感とか存在感だと思うので、更に大きい作品も作りたいのですが、そうなると重い。素材としては扱いづらかったりデメリットも多いのですが、多少ぶつけても割れないし、石のならではの格好良さがあると思っています。」

 

ー 藝大に入ったきっかけは?
「高校生の時、翻訳の仕事している母親に何故翻訳の仕事を選んだのか尋ねたことがあります。『私は24時間翻訳のことで悩むのが苦じゃない。』と。絵を描くことが好きだった私は、美大を目指すことにしました。丁度同じ頃、教育実習生としてきていた藝大の日本画専攻の方に出会いました。その方は人を惹き付けるのがうまくて…私と、同じく美大を目指していた友人はまさに「狂信的」にその人に付いて行くことにしました。その人に、藝大目指したら?と勧められたのがきっかけです。」

 

ー 卒業後は?
「このまま大学院に進もうかなと思っています。これからも石彫を続ける予定です。モチーフは人体を掘りたい。人間が一番感情移入するのは『人』かなって。」

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石彫というとついその作業を思い、パワフルなイメージを持つが、「ライブに行く女性たち」に感情移入してしまうという森さんお話からは繊細な一面を感じることができた。

これからも石彫で人体をつくり続けたいとお話してくれた森さん。今後の展開も楽しみだ。

(2015.11.28)


執筆:大谷 郁(東京藝術大学 美術学部 特任助手)

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