東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2017.11.12

11月12日、これからゼミ「長生村鑑賞会」を開催しました。

千葉県の長生村では、毎年秋になると生涯学習課主催の「展覧会鑑賞会」が実施されています。昨秋、村のみなさんをお迎えして開催した鑑賞プログラム「よく見て話して」に続き、今年は「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」展を舞台に「長生村鑑賞会」を実施しました。

 

<プログラムについて>
◯これからゼミ「長生村鑑賞会」の目的
美術館を訪れることが少ない方々に作品とより深く向き合う時間を過ごしていただき、これからの美術館体験を豊かに広げていっていただけることを目指し、このプログラムはその入り口となる機会として実施します。

 

◯参加者の特徴に合ったプログラムをデザインする
昨年のプログラムでの経験を生かし、長生村生涯学習課ご担当の方とも相談をしながら参加者のみなさんに合わせたプログラムをデザインします。
今回参加いただいた23名の参加者の特徴は、30代から90歳近くの方までと、幅広い年齢層にありました。
もう一つの特徴は、ゴッホの作品を見たいと思って参加してくださっていることです。
そのため、特に移動と安全への配慮を検討し、活動の項目を極力減らしシンプルにすることで、展示室で鑑賞を深める時間を増やしました。とびラーと関わる充分な時間も確保し、参加者に合わせた鑑賞プログラムがデザインされました。

 

プログラム タイムテーブル
9:50   東京都美術館到着、とびラーがお出迎え。
10:15 館内のアートスタディルームに集合、本日のプログラムについて、展覧会のみどころをお話。
10:40 グループごとに展示室へ移動、とびラーと一緒に展示室をまわります。
12:00 アートスタディルームに戻り、鑑賞をふりかえる。
12:30 プログラム終了

また、<これからゼミ>として、長生村生涯学習課担当者の方との共働も視野に入れたプログラム作りを進めていきました。
担当者の方には、一般参加者と一緒にプログラムに参加していただき、体験を通して「地域の行政との連携活動とその継続」について共に考えていきます。

 

<当日の様子>
◯車中での活動1|安心した気持ちで美術館に向かう
当日、参加者は、村から都美までを大型バスで移動します。
バスにはとびラー1名が村から同乗し、一行が一緒に過ごす車中での時間を<美術館に行く準備>の時間に充てます。
参加者の中には、初めて美術館に行く方もいらっしゃいました。
美術館へ向かう気持ちをつくるために、展覧会のチラシやガイドを配ります。
展示室での6つのルールを書いた資料も配布します。初めて美術館に行く方にもわかりやすく、また緊張を和らげるために役に立つと考えました。

このように、全員で事前に美術館の話を聞くことは、参加者にとって、安心した気持ちで美術館へ向かうことに繋がります。

 

◯車中での活動2|作品鑑賞の準備
美術館へ向かう準備の次は、みんなで展覧会鑑賞の準備をします。
展覧会図録を見て、 「本物を見てみたいと思った作品」を選び、更に、「何故そう思ったのか?」「どこが気になったのか?」を考え、メモしておきます。
この活動は作品鑑賞の準備となり、参加者自身が行うことで、プログラムへの参加と作品への関心を高めることに繋げていきます。
前もって、展覧会にどんな作品が展示されているか、や、プログラムの流れを知ることは、大切な準備の時間となります。

 

◯全体活動1|とびラーと出会う
都美に到着すると、とびラーが参加者を迎えます。
降車地点から館内に向かう僅かな時間ですが、都美を囲む上野公園の環境についてお話しながら歩きます。
今回駐車場所となった都美の駐車場は、一般の方にとっては興味深い見どころの一つとなっていました。

 

◯全体活動2|プログラムスタート

参加者にとっては、初めて訪れるアートスタディルーム(以下ASR)。
グループに分かれて着席し、安心してプログラムに参加していただけるようグループ担当のとびラーから声かけをします。
プログラムが始まり、全員で学芸員の稲庭さんから「ゴッホ展の見どころ」を聞きます。
車中で図録を見る、作品を選ぶなどしてきた参加者にとって、この話は、鮮やかに心に沁み込み、展示室への期待が更に膨らんだようです。

 

◯グループ活動1|鑑賞の導入

4人の参加者と2人のとびラーでグループになります。年代はバラバラに組まれています。
図録を広げながら、参加者が選んだ「本物を見てみたいと思った作品」とその理由を、1人ずつお話し、グループ内で共有します。こうして、他の人の話も聞きながら、作品を見る期待感を高めていきます。

 

◯グループ活動2|展示室へ

グループ毎に、展示室へ向かいます。鑑賞時間は約80分。
とびラーは、参加者ごとのペースを大切に、参加者の作品鑑賞が深まる手助けをします。
混雑した展示室では参加者の鑑賞のペースを見守りながら、ゆとりのある展示室では参加者と作品についての話をしながら、状況に合わせて伴走します。 「本物を見てみたい作品」の前では、とびラーと参加者が一緒に作品に向かい合います。
図録をみてから本物の作品に出会った時の、様々な発見や驚きが語られます。

 

◯グループ活動3|鑑賞のふりかえり「話す・聞く」

鑑賞を終えた参加者は、作品について自分の感想を言葉で「話し」、他の人の言葉を「聞き」ます。
とびラーは時間配分も考えながら、図録を使い、その人が選んだ作品をグループ全員に示し、話を促します。
展示室で本物の作品を見た感動がグループで語られる時間でした。

 

◯プログラムの終了とその後
参加者の感想は尽きることはありませんが、
このプログラムで「作品を見てみんなで話をする」という、あまり経験のない鑑賞体験を共有できたことを確認して、プログラムを終えます。
そして 都美からの帰路の車中では、今回のプログラムについての感想をアンケートで答えていただきました。

 

<プログラムを終えて>
鑑賞プログラム「長生村鑑賞会」の一番の特徴は、大型バスで長生村を出発した時から、帰路のバスの中でアンケートの記入が終わるまでがプログラムとしてデザインされている、ということです。また、とびラーと一緒に活動することや、展示室で本物の作品を見て感想を言葉にするという体験は、昨年に続き今年も活動の柱となっています。
昨年の実施プログラムからの成果と課題に対する方策、村の担当者の希望をできるだけ組み入れながら、新たに今年のプログラムイメージとタイムスケジュールを考えました。
最後まで検討を続けたのは、「混雑した展示室での伴走の方法」という課題です。
展示室の混雑は避けられない状況のなかでも、より豊かな美術館体験をしていただくために、私達とびラーができることを検討し続けました。プログラムについて話し合いを始めてから、実施日に至るまでの間、16名のとびラーとスタッフ(延べ61名)で話し合いを重ね、長生村生涯学習課担当者とも打ち合わせをしてきました。
課題に対しては、決定的な解決策は見つかりませんでしたが、いろいろな方法をシュミレーションしながら「とびラーとしてこれまで学んできたことや、経験してきたことを活かして、参加者と関わる中で、それぞれの参加者に合った伴走のあり方を、それぞれのとびラーが探っていこう」ということになりました。
これまでの鑑賞方法を主体に、伴走の方法を工夫し、できるだけ興味深い美術館体験も組み込みました。
当日は、とびラーやスタッフの内容共有と充分な人数で迎え、余裕を持って対応することができました。
終了後の参加者からのアンケートには、今年も「とびラーさんが一緒にいてくれたお陰で、良かった、助かった、楽しかった、分かり易かった、充実していた、安心だった」とあります。
しかし、こうして振り返ってみると、「とびラーのお陰で」ではなく、参加者自身のプログラムへの関わりこそが、成果を生み出していることに気付かされます。事前に図録を見る、図録の中から作品を探す、理由を考える、本物を見る、感想を言葉にするなど、全て参加者自身の能動的な活動だったのではないでしょうか。とびラーの役割は、「参加者に何かをしてあげる」のではなく、「参加者が能動的に活動できる場を作ること」と改めて確認する機会になりました。

 

 

文:中島惠美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

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