東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2026.06.06

 

 


 

【第5回基礎講座 ミュージアムとウェルビーイング】
日時|2026年6月6日(土)10時〜15時
場所|東京都美術館アートスタディルーム
講師|中原淳行(東京都美術館学芸員 学芸担当課長)
   小牟田悠介(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任准教授)
   熊谷香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長)
内容|ミュージアムとウェルビーイングについて考えます。また、とびラーの活動拠点である東京都美術館のミッションとその背景について学芸員から話を聞きます。
・ウェルビーイングとは何か?
・ミュージアムってどんなところ?
・東京都美術館のミッションができるまでの背景とは?

 


ミュージアムとウェルビーイング

午前中は、熊谷さんから「ミュージアムとウェルビーイング」というテーマでお話がありました。

 

昨今よく耳にする「ウェルビーイング」とはなんでしょうか?

 

世界保健機関(WHO)は健康を単に「病気ではない」ことではなく、「肉体的にも、精神的にも、社会的にもすべてが満たされた状態にあること」と定義しています。肉体や精神が良好な状態であることはもちろん、社会的に良好な状態であることも重要といえます。

 

ウェルビーイングは個人の中だけでなく、他者やコミュニティとの関係性の中で達成されるもので、何に対してウェルビーイングを感じるかは文化や人によってそれぞれ異なります。

 

自分の目標を達成してウェルビーイングを感じることもあれば、他者を助けることでウェルビーイングを感じることもあるでしょう。

 

そんななか、とびらプロジェクトでは「わたしだけでもなく、あなただけでもなく、わたしも、あなたも、わたしたちがミュージアムでウェルビーイングを育む」ことを大切にしたいと熊谷さんからお話がありました。

 

 

では、ミュージアムではどのようなウェルビーイングが育まれるのでしょうか?

また、ウェルビーイングを育むためにアート・コミュニケータはどのような関わりができるのでしょうか?

 

これらの問いについて考えるために、3つの事例が紹介されました。

1つ目は「Museum Start あいうえの」のプログラム「みるラボ:つながりをつなげる」(2025年8月〜9月実施)です。

 

みるラボ:つながりをつなげる

 

「みるラボ:つながりをつなげる」は、ろう者、難聴者、聴者が美術館で専門家と出会い、一緒に作品を鑑賞し、思考し、実践する4日間のアート・コミュニケーションプログラムです。

 

ろう者、難聴者、聴者を含む参加者たちが、背景の異なる人たちと一緒に美術館を楽しむためのアイデアを自分たちで考え、最終日にプログラムとして実践してみる過程が映像で紹介されました。

 

映像視聴後のシェアタイムでは、

「色々なきこえの人がいるから『できない』じゃなくて、『じゃあ、どうしよう?』って考えることが大事なんだなって思いました」

「私もこういうプログラムに関わってみたい」

などの意見が出ていました。

 

参加者であるティーンズたちが、アイデアを考え、展覧会にきた人たちを巻き込んで実現させていく様子に勇気づけられた人も多かったのではないでしょうか。

 

2つ目の事例は、「Creative Ageing ずっとび」のプログラム「美術館で絵を楽しもう!ずっとび鑑賞会」(2023年10月実施)です。

 

美術館で絵を楽しもう!ずっとび鑑賞会

 

「美術館で絵を楽しもう!ずっとび鑑賞会」は認知症が気になる65歳以上の方を対象としたプログラムです。

 

とびラーと参加者が貸切の展示室をゆっくり巡ったり、作品鑑賞をしながら対話を楽しむ様子が映像で紹介されました。

 

映像をみる前に、熊谷さんから「とびラーがどのような関わりをしているのか注目してみてください」と呼びかけがありました。

 

映像視聴中、医療スタッフや参加者の方々の言葉にうんうんとうなずいたり、微笑みながらみているとびラーも多く、映像をみているこちらにも幸せが広がっているようでした。

 

映像視聴後のシェアタイムでは、

「参加者の人たちがすごく話しやすそうだった」

「安心感がある」

などの意見が多くでていました。

 

とびラーの関わりによって参加者の気持ちがほぐれ、話がはずむ様子が印象に残った人が多かったようです。

 

3つ目の事例は、東京都美術館の「障害のある方のための特別鑑賞会」です。

障害のある方のための特別鑑賞会

「障害のある方のための特別鑑賞会」は障害のある方がより安心して鑑賞できるように、特別展の休室日に開催する鑑賞会です。

 

とびラーは受付や展示室などさまざまな場所で来館者のサポートを行っています。

アート・コミュニケータとしてとびラーは、「ただその場にいるだけではなく、そこにいる人と関わっていくことが大事」というお話が熊谷さんからありました。

 

午前中最後のシェアタイムでは、ここまでの内容を振り返って印象に残ったことを共有しました。

 

人によってウェルビーイングはさまざまであることに気がついた人、それぞれの事例が印象に残った人、基礎講座第2回で学んだ「きく力」の重要性に改めて気がついた人など、一人ひとりが自分なりに内容を受け止めている様子が印象的でした。

 

近年、ミュージアムの役割は世界的に大きく変化してきています。

作品の収集・保存・展示・調査研究にとどまらず、包摂的で多様性と持続可能性を育む場であることが求められています。また、コミュニティの参加も期待されています。

こうした流れの中で、とびらプロジェクトでもとびラーのみなさんと一緒に、ウェルビーイングが育まれるミュージアムについて考え、実現していきたいと思います。

 

東京都美術館のきのう・今日・あした

午後は、ミッションの策定に携わった学芸員の中原淳行さんから、言葉に込めた想いや、ミッション策定の裏にあったミュージアム体験について、また東京都美術館100周年記念の企画展についてもお話を伺いました。

きき役はとびらプロジェクト プロジェクトマネジャーの小牟田さんです。

東京都美術館は2012年のリニューアルオープンに合わせて新たなミッションを掲げ、そのミッションに基づいて様々な事業を展開してきました。

 

東京都美術館の使命(ミッション)
東京都美術館は、展覧会を鑑賞する、子供たちが訪れる、芸術家の卵が初めて出品する、障害のある方がなんのためらいもなく来館できる、すべての人に開かれた「アートへの入口」となることを目指します。
新しい価値観に触れ、自己を見つめ、世界との絆が深まる「創造と共生の場=アート・コミュニティ」を築き、「生きる糧としてのアート」と出会う場とします。そして、人びとの「心のゆたかさの拠り所」となることを目指して活動していきます。

 

東京都美術館のミッション(使命)について深く考えたことがある人は少なかったかもしれません。

 

ミッションにある「新しい価値観に触れ、自己を見つめ、世界との絆が深まる『創造と共生の場=アート・コミュニティ』」とはどういった場なのでしょうか。

このミッションを実現するためには、どういった取り組みが考えられるのでしょうか。

 

中原さんの丁寧で想いのこもったお話に全員が惹き込まれていくようでした。

 

お話を聞いた後は、3人組に分かれて感想のシェアタイム。

 

「言葉にならない想いを汲みとれるのがとびラーなのかな」

「コミュニケーションは受け取ってくれる人がいないと成り立たない」

「鑑賞って作者から鑑賞者への一方通行な体験じゃなくて、鑑賞者からもはたらきかけているんだ」

「ミッションの解釈がどんどん広がっていった」

 

中原さんの原体験となるようなミュージアム体験をきいて、自分の忘れられないミュージアム体験を語る人もいました。

 

東京都美術館のミッションはとびラーとして活動する上で大きな支えになるのではないでしょうか。

 

最後に、小牟田さんからは「ミッションをもとにどういう場をつくっていきたいのかをとびラーの皆さんと一緒に考えていきたい」

中原さんからは「ゆっくりと焦らず皆さんのペースで」と呼びかけがありました。

 

今回の講座は、「とびラーとしてこれからどういう場をつくっていきたいか」を考え、共有する時間となりました。これからも皆さんと考え続けていきたいと思います。

 

基礎講座も残すところあと1回。

次回の講座では、「この指とまれ/そこにいる人が全て式/解散設定」に込められた意味について、考えていきます。

 

(とびらプロジェクト アシスタント 三原凜子)

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