東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

【藝祭2018】「とびラーによる御輿制作インタビュー③」

2018.08.18

今年度からとびラーとしての活動をスタートさせた戸邉さん。記念すべき最初の活動は藝祭で披露される御輿の制作現場をレポートすること!戸邉さんは理工学系の建築科に在学中の大学生で、そういった観点からの考察も交えてレポートをしてくれました。

文末のメッセージのお茶目なつぶやきも必読です。


こんにちは、とびラーの戸邉です。8月初頭の真夏日、御輿を制作している藝大の校内を訪れました。


(グーグルマップより。赤丸は筆者が記入。)

この図は、各チームの作業場の位置を示している。上から『油画・建築・声楽指揮打楽器・オルガン・チェンバロ・リコーダー』、『日本画・工芸・邦楽・楽理』、『デザイン・芸学・作曲・弦楽』、『彫刻・先端・管楽器・音環・ピアノ』である。特に、建物の南西に位置する敷地は、直達日射に晒されて、アトリエとしての条件が良いとは言えないが、この環境下で奮闘しているチームがいる。

 

我々一行は、校内の奥に向かって進み、『油画・建築・声楽指揮打楽器・オルガン・チェンバロ・リコーダー』チームの本拠地に至った。

第一印象は、“テントが美しい”ことである。御輿の出入りと作業を考慮し、奥行のある大空間と正面の大開口部が備わっている。鉄パイプを限界の長さまで用いることで、二階建ての建物に近い天井高を実現している。加えて、ファサードには袖幕とペディメントまで設けられている。(このデザイン性と機能が両立した構造は、ペーター・ベーレンス設計の工場などを想起させる。)

それでは、肝心の御輿について触れよう。隊長はこの二人だ。右から、建築専攻の伊勢さん、油画専攻の林さんである。テントから顔を覗かせた発泡スチロール像を見ると、御輿の概容は「三つの頭がある象」であるらしい。我々が一般に象で連想するのは、特徴的な鼻や耳が形作る大きい頭部と、ずんぐりむっくりの胴体である。故に、八岐大蛇のように華奢な頭部と比べ、象の頭部が複数あると、見慣れているバランスが崩れて、プロポーションが悪く思えてしまうのではないか、という危機感を抱いた。しかしながら、モチーフにしたというタイのエラワン美術館の象のオブジェの画像を確認したところ、迫力のある構図であった。

(画像出典:https://www.thailandtravel.or.jp/the-erawan-nuseum/ タイ国政府観光庁公式サイトより)

 

隊長曰く、「三頭の象には、戦中の物語である、上野動物園の『かわいそうなぞう』を意識した」とのこと。例えば世界の歴史の中では、戦象対策として、豚に火をつけて放つということもあった。古来から、動物は人の戦争に否応なしに巻き込まれてきた。被災した象の頭部を合わせたイメージは画期的で、エラワン美術館の象のオブジェとイメージが重なっていく。御輿として生まれ変わった象を目の前にしたら、毒針を刺す気力もわかない。

加えて、生命体という有機物と建造物という無機物の統合が一つの目標だと聞いた。思うに、現時点では、十二分に生き物の雰囲気が醸し出されているので、建造物の挿入がボトルネックであろう。最後に、三頭の象が前方にせり出し、担ぎ手に覆いかぶさるような構造も見所である。


執筆:戸邉尭暉(とべ たかき)(アート・コミュニケータ「とびラー」)

 

完成した御輿に感服する以上に、プロセスにおけるドラマを発掘することで、

一過性ではない興奮を共有できるようなレポーターを目指したいです。

追伸:一緒に御輿を制作したい衝動に駆られています。

 


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公式サイト→(http://geisai.geidai.ac.jp/2018/index.html)

開催期間:9/7(金)8(土)9(日)9:00〜20:00  / 東京藝術大学上野校地にて

【藝祭2018】「とびラーによる御輿制作インタビュー②」

2018.08.16

こんにちは。とびラーの松原です。今日は『先端・彫刻・ピアノ・管楽・音環』チームが作っている御輿の制作現場をレポートします。伊藤さん(彫刻)、西山さん(先端)の両隊長にインタビューしました。このチームのイメージはエジプトという事で、アヌビス神を作成していました。

 

 

 

他のテーマ候補として『能』も挙がったそうですが、和のテーマは他チームに譲る事にして、音楽、踊りとコラボしやすそうなエジプト(アヌビス神)に軍配が上がった様です。この決め方は多数決だったとのこと。科をまたぐコラボが売りなので、御輿を中心とした、当日の連携パフォーマンスを、どうかお楽しみにとのコメントでした。

 

 

 

 

 

 

取材の最後に、隊長に立候補した、やる気満々のお二人に「意見が合わない事は無いですか?」と、とびラーからチョット意地悪な質問をしたら、間髪入れず「全然無いよねー」と答えが返って来ました。過去の様々なノウハウ(資料)が伝授され、毎日の様に暑い作業現場に差し入れに来てくれるという先輩方の暖かい応援の声が聞こえてくる様でした。

息のピッタリ合った、ピアスがお似合いのお二人でした。

 

 

取材・執筆:松原誠一(アート・コミュニケータ「とびラー」)

…「美術館はライブハウスだと思ってとびラー活動してます。御輿づくりのライブ感を熱くお伝えしまーす!

 

 


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【藝祭2018】「とびラーによる御輿制作インタビュー」が始まります!①

2018.08.16

暑い、今年は特に暑い。でも、もっと暑くて、もっと熱いところがあります。東京藝術大学(以下、藝大)の敷地に建てられたテントの中です。そこでは今年藝大に入学した学生が、9月7日から9日に開催される藝大の学園祭「藝祭」に向けて、御輿づくりの真最中です。

藝大に興味があり、毎年の藝祭も楽しみにしている、とびらプロジェクトのアート・コミュニケータ(愛称「とびラー」)の有志は、今年も、藝祭まで待てずに、御輿づくりの現場に突撃取材しようということになりました。学園祭を学生だけが楽しむのは勿体無い、周りの大人も楽しんじゃおうというノリです。改めましてみなさんこんにちは、とびラーの鈴木です。

昨年までは、藝祭では8基の御輿を制作していましたが、今年は、諸々の事情で4基になったということで、パワーが倍増するのか、はたまた大勢の船頭が御輿を山に登らせてしまうのか、興味津々です。

今年第一回の御輿取材は、8月10日に行いました。ここからは、そこで取材させていただいた、『日本画・工芸・邦楽・楽理』チームが制作している御輿「烏天狗」に関するレポートになります。

「烏天狗」は、音校(※音楽校地)をちょっと入った所で、大きなテントの中で制作されていました。台風13号が通過した後の取材日の東京はすごく暑かったのですが、このテントは西日があたり特に暑く感じられます。こんな中で、どんな人が御輿を作っているのだろうと興味が湧いてきた所で、「隊長さんいますか」と声をかけます。すると、御輿の本体を制作中のテントではなく、その近くにある小さなテントから、裸足の女性が飛び出して来てくれました。彼女が、隊長の一人、日本画の山本さんでした。そこに、もう一人の隊長、工芸の中川さんも加わって、お二人から話を聞くことができました。

テントの中では、もう発泡スチロールのブロックが積み上がって本体の制作が進んでいたので、「もう始めてからどのくらい経ったんですか?」と聞くと、2週間くらいとのこと。2週間でテントを建て、ここまでできるんですね。驚きます。でも、藝祭までもう30日をきっていますから、このくらいできていないと、順調とは言えないのかもしれません。大変だなと思います。

このチームの今年のモチーフは「烏天狗」だと公式藝祭Webサイトに発表されていました。今回の「烏天狗」はどのように決まったんですか?」と伺うと、チームの中から出て来たアイデアの中で、最後に残ったのが「龍」と「烏天狗」で、その2つで競った結果、最後に「烏天狗」になったそうです。でも、後日談があり、よく調べてみると、天狗の元は仏法を守る八部衆の中の迦楼羅(カルラ)で、その迦楼羅はもともと龍を常食としていたということが分かったので、そこで再び龍が登場して、烏天狗と龍が対峙する図柄になったということです。このチームは、日本画、工芸、邦楽、楽理の混合編成ということで、御輿のモチーフも日本の伝統を意識しているようです。

日本画と工芸が一緒のチームで御輿づくりをするのは、今年が初めてということなので、「二科の混成チームでうまくいっていますか?」と、ちょっと意地悪な質問。すると答えは、最初は、作品に対するアプローチなど合わないところもあって、工芸の方が大きく形を取るところから始めようというのに対し、日本画の方は細部へのこだわりがあったなど、対立もあったそうです。けれど、共同作業を進めるなかで、いまではお互いのことがわかるようになり、立体は造形、色は日本画というように、お互いの良いところを出し合って進めているようです。よかった。

お二人にどうして隊長になったのですかという質問をすると、お二人とも自らの立候補だということでした。工芸の中川さんは、高校2年生の頃から、藝祭御輿の隊長をやりたいと思っていたそうです。すばらしい意気込みですね。

作業台の上には接着剤と並んで、栄養ドリンクの空き瓶が転がっています。柱にかかっている温度計は42度になったこともあるそうです。素晴らしい御輿も、こんな過酷な環境から生まれると考えると、感慨に打たれます。

 

今はまだ、嘴や羽は別の場所で作成中であり、本体は発泡スチロールの塊の中から頭の丸みが出て来ているだけの段階なので、最終形は想像するしかできません。でも、この御輿の見所はそのポーズにあるという隊長の話もあり、これからどんな姿を現してくるのか楽しみです。また、9月7日の御輿アピールのパフォーマンスでは、邦楽と楽理の得意分野の「烏天狗」を題材とする邦楽を使うということなので、それも見逃せません、いや聞き逃せません。

取材でお邪魔した後、帰ろうとすると、トンボが一匹飛び去って行きました。11日からは学校も夏季休日で御輿作業も中断。少しお休みして、また9月に向けて頑張ってねと思う、取材とびラーでした。

 

 

執筆:鈴木重保(アート・コミュニケータ「とびラー」)

…「過ぎ去る夏に突如現れる藝祭御輿、これからもフォローします。

 

 

 

写真:藤田まり(アート・コミュニケータ「とびラー」)、峰岸優香(とびらプロジェクト アシスタント)


★藝大生やとびラーが活躍する「藝祭2018」を一緒に楽しみませんか?

公式サイト→(http://geisai.geidai.ac.jp/2018/index.html)

開催期間:9/7(金)8(土)9(日)9:00〜20:00  / 東京藝術大学上野校地にて

 

藝祭神輿レポート2015

2015.09.04

東京藝術大学の学園祭「藝祭」の初日に行われる「神輿パレード」。この神輿の制作過程を私達とびラーが約1ヶ月に渡って取材してきました。(取材レポートはコチラからご覧いただけます)

9月4日(金)午前10時。藝祭は神輿パレードで始まります。サンバのリズムに合わせて東京藝術大学音楽学部の正門を次々と出発する神輿。
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その迫力に集まった人達の間からは大きなどよめきが起きます。そして皆その素晴らしさを写真に収めようとカメラや携帯を構えますが、その大きさはカメラのファインダーにはなかなか収まりきれません。パレードの神輿は全部で8つ。毎年、美術学部と音楽学部の1年生がチームを組み協力して制作に取り組みます。私達はこの「渾身の力作」が生まれる過程を「蔵出し」と呼ばれる制作の初日からパレード当日まで取材しました。

■7月29日「蔵出し」
毎年恒例の神輿制作ですが、昨年のもので残っているのは「担ぎ棒」とチームによっては「纏(まとい)」と呼ばれる学科名が記された旗印のみ。まさに毎年ゼロからのスタートです。この蔵出しが本格的な制作の初日になりますが、各チームはこの日までに「今年のテーマ」と「マケット」と呼ばれる模型(車のクレイモデルの様なもの)を用意しています。そのテーマに合わせて各チームこれから制作を進めていきます。
この日から学生達の暑い夏が本格的に始まります!
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■8月上旬
各チームは神輿制作の統括責任者「神輿隊長」の指揮の下、構内に設置したテントで作業を進めていきます。どのチームでも隊長の役割は大きく、精神的にも体力的にも大変なポジションです。「お祭りやイベントが好きだから!」、「家が(学校に)近かったから。」と、隊長になった理由は様々ですが、どの隊長も笑顔が素敵な点は共通していました。数日前には四角い発砲スチロールの塊が積み上げられていた制作現場も、徐々にチームのテーマに沿った神輿の形が現れつつありました。

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■8月中旬
約1週間の夏期休業(学生登校禁止期間)のインターバルを経て神輿の制作にもエンジンがかかります。
「デザイン×作曲」チームは、猪の上に神輿が乗っているデザイン。タイトルは「猪突猛進」。ノリの良い曲をBGMにテンポ良く作業を進めていました。
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「工芸×楽理」チームのテーマは「日本」。ここからイメージを膨らませ、「神輿とオオサンショウウオ」がモチーフです。オオサンショウウオの質感と神輿の質感の対比にまでこだわった、細かい作業が続きます。

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「芸術学×弦楽器」チームは、「地獄」をテーマに狸が閻魔に化けるというストーリーに基づき、大きな狸を制作中。狸の毛並みを表現するために発砲スチロールをナイフで削っていく「彫り込み」という作業を根気よく続けていました。
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「彫刻×管楽器×ピアノ」チームの神輿は巨大な熊に跨がるこれまた巨大な金太郎です。さすが彫刻科、と思わせる巧みな削りの技術で躍動感あふれる神輿を目指します。既におおよその形は整っていましたが、大学の正門を通れる大きさまでこれから削りこ込んでいきます。
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■8月下旬
「油画×指揮×打楽器×オルガン×チェンバロ」チームは、総勢80人の大所帯。今年は「笑い」をテーマに掲げ作る神輿は「9つの笑顔の集合体」。果たしてどんな「笑顔」に会えるのか!
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「日本画×邦楽」チームの神輿は、勇ましい「闘牛」のイメージで。立体物を扱う機会がほとんどない事から立体の制作はやや苦手との事でしたが、なんのなんの。様々な角度からの設計図を何枚も用意して、仕上がりのイメージをしっかり掴んでから作業に入りました。
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「建築×声楽」チームの神輿は、神殿に大ダコが巻き付いているもの。この大ダコには(なんと!)300個の吸盤を取り付ける予定。吸盤ひとつひとつにやすりをかけ、本体に取り付ける。こんな所にも学生達のこだわりが感じられました。
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「先端芸術表現×音楽環境創造」チームの神輿は、「先端と音環の共同研究室で孵化しようとしている、ある”卵”」。果たしてどんな卵が生まれてくるのか。。。
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■8月30日
連日の雨と季節外れの寒さが制作の現場にも大きく影響を与えていました。制作場所のテントを大きく前に張り出して雨をよけながらの作業です。この日、多くのチームが下地塗り、または色塗りの段階に入っていましたが、中には下地を塗ってもなかなか乾かない為に色塗りに進めないチームも。制作メンバーの中には疲労と寒さで体調を崩す人も出ており、本番が迫る中、学生達の緊張と焦りがこちらにも伝わってきたこの日の取材でした。
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■9月2日(本番2日前)
この日の取材は日が暮れてからになりました。チームによっては片付けまで終わって学生の姿がない所も。一方、いくつかのチームは最後の作業中。どんなに疲れていても作品にの出来上がりにとことんこだわる学生達の真摯な姿にこちらも心を打たれました。本番まで後わずか!
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■9月4日(神輿パレード当日)
晴れました!どんどん気温が上がって真夏を思わせる暑さです。やっぱり神輿は青空が似合います!

午前10時に出発したパレードは上野周辺を約2時間練り歩き、最後は公園内の噴水前に集合です。
それぞれのチームが最後のアピールを行いました。どのチームの神輿も素晴らしい。2日前には疲労の色が出ていた学生達の顔にも充実感が溢れていました。
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パレードという「晴れの舞台」に立った神輿はどれも迫力に満ちた素晴らしいものでした。それと同時に、今回の取材を通して、制作に携わる学生達の明るく、それでいて真剣なまなざしを近くで見る事が出来た事は、私達のこの夏の素晴らしい思い出となりました。


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執筆:河村由理(アート・コミュニケータ「とびラー」)

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