2026.03.28
<藝大の森との出会い>
2024年8月、私は、Museum Start あいうえの ファミリー&ティーンズ・プログラム「あいうえのmeet ①大地とつくる 東京都美術館×東京藝術大学」にとびラーとして参加し、活動の場となった東京藝術大学(以下:藝大)の保存林の成り立ちを知ることになりました。台東区在住の私は、コロナ禍前、この森の周りに飲食屋台がにぎやかに並ぶ「藝祭」へ連日訪れ、人々が楽しそうに行き交う様子をみながら気ままに過ごし、構内の大樹・木々に心地よさを感じたことを思い出し、人の手、思いがきちんと入っていたのだと納得しました。
「あいうえのmeet ①大地とつくる」の活動で、
藝大の保存林の中で大クスノキに出会う。
藝大の保存林入口。樹齢300年とも400年ともいわれる大クスノキ。
そして私たちは、プログラムを担当した東京藝術大学 キャンパスグランドデザイン推進室 君塚和香先生が指導する「藝大の森」プロジェクトにて、藝大ヘッジのお世話をするボランティア活動に参加しました。
「藝大ヘッジ」とは:
藝大ヘッジとは、2016年から大学の外周の柵に代わり、植栽による「やわらかな境界線」をつくる取り組みです。近隣住民や藝大生のみなさんなどの有志で、生垣を剪定し定期的に世話をしています。藝大ヘッジの活動が生み出す「やわらかな境界線」は、物理的に見通しがよくなることで、親しみを持ちやすくなるだけでなく、心理的にもコミュニケーションを生みやすくする効果があります。

藝大正門脇の生垣「藝大ヘッジ」。
武蔵野在来種の落葉樹と常緑樹をとりまぜ植樹。腰高に刈り込みをしている。
四季折々の花が楽しめます。お茶の木に白い花が。
さらにこの年の10月、とびらプロジェクトの建築実践講座(以下:講座)に講師としていらした君塚先生から、藝大と上野公園や周辺地域とのつながり、公共空間の考え方や開き方について学ぶ回がありました。また、その講座の中で、実際の藝大ヘッジに苗を植樹することができました。
私は、とびラーに在籍した3年間、毎年建築実践講座を受講し、東京都美術館(以下:都美)の建築ツアーのガイドを四季を通して経験しました。その中で、5月から夏にかけて都美敷地内の樹々と上野公園の樹々が互いに生い茂り、都美が森に沈む風景が素敵だと感じました。都美から、樹々がつくる緑の境界線を越えツアーが外へにじみ出ていくことを想像しました。敷地が隣である藝大は、藝大ヘッジがあることで、よりやわらかな境界線として景色が交わっていきます。公園の森、藝大ヘッジの生垣、その間に立つ歴史的建造物との共存をツアーとして紹介していきたいという思いを起点に、「上野の森と建築を考えるラボ」と命名し、2025年3月に“とびラボ”を立ち上げました
上野公園の噴水広場と都美の間の道。5月は樹々で右手にある美術館が覆われる。
2月はレンガ色のタイルがよく見えます。
東京都美術館裏手の門から見える藝大ヘッジ
「上野の森と建築を考えるラボ」がスタートしました。
このとびラボは、講座で植樹を経験したとびラーの共感を集め、多数のとびラーが集まりました。ミーティングでは、まず、上野の土地の記憶を紐解く勉強会をすることから始めました。武蔵野台地の端に位置し、寛永寺の土地だった上野公園の歴史。また、藝大の敷地にある、赤レンガ1号館や、藝大の敷地に隣接する黒田記念館など、建築ごとのデータ収集を行いました。そして、藝大の保存林や「藝大ヘッジ」についても、とびラー同士で情報を共有していきました。
また、現場へ何度も足を運び、みんなでみて感じることを実践。そして、一般参加者を募集するツアープログラムを目標に掲げ、基本となるツアーコースを1つ作ることにしました。

藝大への通り道「芸術の散歩道」から、
都美の大きな窓越しにその先にある木々をみる。
ツアーコースは、大銀杏がある都美東門をスタート地点にして、北側の「芸術の散歩道」の林を抜け、旧博物館動物園駅をはじめ、4つの歴史的建造物がたつ交差点「アートクロス」の風景を紹介します。そして「藝大ヘッジ」の前を通り、藝大の赤レンガ1号館、保存林へと…上野の森の木々の中に点在する建築を巡る!というコース案を作成しました。
これをブラッシュアップしながらテストツアーを重ねましたが、とびラボの中では、予定の1時間に収めることができず、2025年内の一般参加者を募るとびラボ発のプログラムの開催には至りませんでした。
基本コースの組み立て
その後、とびラー向けのツアー開催へと目標を変更。都美の建築ツアーガイドをしているとびラーを中心に、今回のとびラー向けツアーのチームを編成しました。しかし都美の建築ツアーより紹介範囲が広く、一人で全ツアーをガイドするほどの知識を開催日までに覚えられません。それを打開するためのアイデアとして、1つのコースを、4人のガイドがリレー式で案内しました。この方法によってツアーガイドを初めて経験できたメンバーもいました。
また、とくに試行錯誤したのは、アート・コミュニケータであるとびラーが案内するのにふさわしい建築鑑賞ツアーとはどういうものか、という視点でした。参加者に、建築と景色をどのように鑑賞してもらうか。建築のデータや見どころを紹介する知識教授型の案内だけではなく、樹齢数百年の木と建築が長い時間をかけて作り出した素晴らしい景色を、参加者自らが、自分の感性を主体として、味わってもらうにはどのようなアプローチが必要かという点について、丁寧に話し合いました。
そして、参加者それぞれが素敵だと感じた景色、場所をスマートフォンで写真撮影し、参加者同士で見せ合いながら、その理由をシェアすることで、お互いの「推し」の景色を味わってもらうやり方を考えました。
また、藝大ヘッジの”やわらかな境界線”の伝え方にも苦心しました。鉄の柵が赤レンガ館の前にあった当時の写真をみてもらい、生垣になった現在の景色と比較することで、その違いを感じてもらうことにしました。
そして、とびラーに向けたツアーでは、3つのコースでツアーを実施することができました。1つのツアーにつき、4〜5人のとびラーが参加者になりました。
全てのコースで、上野公園の歴史の変遷を紹介することから始め、以下のようなコースを行いました。
・「アートクロス」にある建築の囲い=鉄柵と藝大ヘッジの違い、生垣効果による建築の見え方をメインにしたコース
・都美スタートで木々を抜け藝大へ向かうという上野の森の中の建築散策を意識したコース
旧東京府美術館の跡地でありし日の姿に思いを馳せ、
点在する歴史的建造物をめぐる。
藝大の建築物で一番古い築145年の赤レンガ1号館と、6年後に建てられた赤レンガ2号館。このレトロな建築と樹々の風景鑑賞がツアーのハイライトとなりました。

参加者は「ステキ!気になるな?」と思った場所を撮影し、
全員で見せ合い感想をシェアします。
赤い実とレンガ色が絵になる1枚。丸い窓がキャンディに見える!
(ツアーに参加したとびラーの撮影)
敷地にある樹齢不明のカヤノキ。幹周りは大人が2人向かい合い両手を回して、手を繋げないくらいの大きさです。直径1mの成長が300年かかるといわれ、ゆっくりと成長するカヤノキ。参加者には、明治時代の「東京音楽学校予想復元図」(写真下)を見てもらい、ある程度の大きさで描かれている木をみて、ここが寛永寺の敷地だった頃へ想像を巡らせました。建物より先にたっていた大樹、時間がつくりだした風景をゆったりと味わいました。

赤レンガ2号館の脇に2本の木がある。
(明治43〜44時頃の東京美術学校・東京音楽学校予想復元図 ©︎君塚和香)

樹齢は不明のカヤノキ。
葉のにおいをかぐと柑橘のかおりがします。

藝大ヘッジ越しにみた藝大美術館は「生垣の波に浮かぶ大きな船のように見える!
鉄柵ではこの景色は味わえない」という声が。
2026年1月、とびラーの任期を満了した後の活動の準備をするため「これからゼミ」として活動を開始しました。そして、プロジェクトスタッフのアドバイスにより4月以降に、藝大構内を拠点にツアーガイドの活動を準備することになりました。とびラボとしては、目標の一般の方向けのツアー開催には間に合いませんでしたが、そこまでのプロセスを見てもらえていたことがとてもうれしく、とびラボ活動は結果ではなくプロセスが大切だとしみじみ感じました。
それから藝大構内に点在する建築や保存林についての勉強会として藝大構内を巡るツアーを、今後もアドバイザーとしてお世話になる君塚先生に実施してもらいました。ツアーに参加してもらいたい関心層の絞り込みや、どんな内容のコースにするかを検討していきます。
君塚先生による藝大の構内ガイドツアー、勉強会の様子
構内ツアー中に藝大美術館前の「大シイノキ」のメンテナンスに遭遇。
樹齢は600~800歳であろうと定説を上回る説明を担当者から受ける。
私は、とびラーに応募したときに、自分を表すキーワードとして「木・建築」と書きました。私の2人の祖父が木工屋、木材屋で工場がとなり合わせの住環境で育ったせいか、樹木や建てものが自然と好きになり私の興味の中心になっていました。自分の「好き」や「知りたい」が思いもよらない形で今回の活動につながっていったことに、自分自身驚きましたが、運命を感じざるを得ない気持ちです。そして、とびラー任期満了後に、おもいのある場所を活動の拠り所にできることは、立ち上げから1年間で31回のミーティングを重ねた “とびラボ”で一緒に考え寄りそってくれた仲間たち、見守ってくれたプロジェクトスタッフ、君塚先生はじめ「藝大の森」お世話隊ボランティアのみなさん、すべての方の気持ちがつながりみちびかれていったと思います。
上野の森を見続けてきた約600歳の大樹、木々の中に佇む歴史的建造物の風景…それを守ってきた先人の想いをつなぎ、人々に届ける私たちの活動は、これからもつづきます。
染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。藝大の森お世話隊ボランティアで活動中。好きなことは散歩と旅と打楽器。とびラーになって美術館によく行くようになり、作品<空間=「場」に興味があることを再認識。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。
2026.03.27
<美術館の来館者の声をとどけるラジオ>
2023年7月からメンバー、形を変えながらとびラボとして活動している「とびdeラヂオぶ〜☆」。今年度は、『アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること 「Museum Startあいうえの」12年と現在地』(以下:AC展)の展示室の一角に即席ラジオブースを構えて、来館者にインタビューを実施しました。収録の様子はこちらからご覧いただけます。「みること、つくること、つながることラジオ」(収録編)。美術館にあまり来ない人にも美術館の良さを知ってもらいたい!来館者のアートにまつわる素敵なエピソードをシェアしたい!という想いからスタートしました。
<試聴&編集の日々>
2日間にわたっておこなった収録もあっという間に終わりいよいよ編集作業です。
まずは、録音した19組のインタビューを手分けして試聴しました。その中から7つのインタビューをセレクト。編集作業を分担する中で、メンバーの1人が音声編集の経験がありiMovieでの編集が簡単にできるとのことで、編集レクチャー会を開催。その後、各自編集したものをみんなで聴いて、さらに細かい編集を重ね、インタビューの間に入れるナレーションを考えていきました。
*編集のレクチャー中。
*いらない言葉をカットします。
<初めての音声編集>
ラボメンバーによる編集講座を受けた後、まずは練習を兼ねて使用したい素材を切り出すことからはじめました。AC展のテーマ「みること」「つくること」「つながること」に沿った素敵な言葉をピックアップするのはもちろんのこと、「えーっと」「あのー」などのフィラー(つなぎ言葉)もカットし、リスナーが心地よく聞くことができるように整えていきます。
次は、7本のインタビューの制作担当を決め、収録した音声を番組になるよう編集します。ナレーションが入ることを意識して内容ごとに区切っていきます。各自、仕事ととびラー活動をしながら編集作業をしていたので、なかなか個人での作業が進まない時期もありましたが(笑)、そんな時には、とびラボで集まり、みんなで作業を進めました。
*各自パソコンで編集中。
<編集素材を聞いてナレーション制作&録音の日々>
編集がひと通り終わった後は各番組のナレーション担当を決めて、内容に相応しいナレーションの文章を考える工程に入ります。
インタビューの概要を伝える前枠、前半と後半に分かれる場合はそれを繋ぐための中枠、内容を総括する後枠をそれぞれ考えました。
自分が素材の編集を担当したものに関しては、思い入れが強すぎて内容に比して世界観が強すぎる概要文が出来上がったこともありました(笑)
ラボメンバーからの「力みすぎだ!」というツッコミのおかげで、硬くなり過ぎずフラットなナレーションになったのではないかと思います。そのほかの素材についても、メンバー全員で、ああでもないこうでもないと言いながら相応しい文章になるように推敲を重ねました。
ナレーションの文章が完成した後は録音します。ただ読み上げるだけだと、たかを括って録音を始めたのですが、家で何回も噛んでは読み返し、噛んでは読み返しを繰り返す羽目に。最終的にはイントネーションが訛っていたこともあり、アートスタディルームで再録し、やっとナレーションの録音が完了しました。
(噛まずに当たり前に話すテレビの中のアナウンサーってすごいんだなぁと改めて感じました。やっぱりプロはさすがですね)
*編集をするたびに何度も同じインタビュー素材を聴いて確認します。
<完成した番組の紹介テキストを考える>
編集済みのインタビュー素材に、ジングル、BGMとナレーションが入ると、それまで、幾度となく聞いてきたインタビューの音源が、一気に「番組」の風格を漂わせるので、皆でニンマリ。こうして完成した7つの番組の「タイトル」をつけるべく、それぞれにふさわしい言葉出しをしていきます。
アイディアを出し合うことで、ピタッとハマる瞬間に出会うことができます。それぞれが担当した番組の紹介文を作成し、ハッシュタグをつけました。それをラボメンバーで確認し、違和感ないように調整します。
*2025年版のジングルを制作したメンバーと試聴会。
*とびラボで賑やかな中、スマホで流すインタビュー素材をへばりつき聴く。
<番組制作をしてみて>
完成した番組には、ラボメンバーの想いがぎゅうぎゅうにつまっています!なので、これを読んだ方にもぜひ聞いていただきたいです。ただし、番組はラジオ部の活動のほんの「一部」にすぎないということをここではあえてお伝えしたいです。番組のテーマ/ジングルのギター演奏でのオリジナル音源制作、公開収録のポップの作成、インタビュー承諾書の英文作成etc…など、制作段階にたどりつくまでの縁の下の力もちもたくさんいました!
制作の過程において、各自の担当があるとはいえ、メンバー同士、たくさん語り合い、助け合って、考え抜いて番組を作り上げてきました。その過程こそがこのラボの宝であり、最大の魅力でもあるのです。
<とびdeラヂオぶ〜☆をやってみて…>ラジオ番組制作が仕事のメンバーが立ち上げたとびラボでしたが、集まった全員が制作初心者からのスタート。届けたい気持ちと、みんなのチャレンジ精神がとびラボとして3年間続けていく原動力でした。美術館でのあたたかいコミュニケーションの場から生まれた様々な背景の人の声をきいて、「美術館おもしろそう!」「行ってみようかな?」とアートコミュニケーションの裾野が広がるきっかけの1つになっていくことを願います。
▼番組はコチラから聞くことができます
執筆:矢吹美樹(12期とびラー)
日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。 一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。
執筆:藤井孝弘
とびラー14期。普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。
執筆/構成:染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。これからゼミ「上野の森と建築を考える」「『アートコミュニケータの建築鑑賞まちあるき』を考える」を実践中。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。
2026.03.21
とびラーは、東京都美術館の特別展や企画展に何回も足を運びます。それは、自分たち自身が展覧会をじっくりと鑑賞し、作品と出会うことを大切にしながら、プログラムの準備をしたり、とびラボの検討をするためです。一方で、公募展に訪れるのはつい自分の好みの展覧会に偏りがちなのではないかという思いがありました。「とびラーである私たち、いろいろな分野の扉を開けてみよう!」という思いのもとに始まったとびラボです。
そもそも公募棟で開催される展覧会には、どんな展覧会があるのでしょう。毎回、このとびラボに集まったとびラーで鑑賞に行く前には、「公募展カレンダー」を確認します。公募展とは、作品を広く一般から募集し、応募された作品や、審査を経た入選作品を展示する展覧会のことです。東京都美術館では、1年間に200を超える団体が公募展を開催します。東京都美術館が1926年に開館した頃から活動している歴史の古い団体から、新たに活動を始めたばかりの団体もあります。全国規模の大きな団体や小規模の市民団体の展覧会もあります。学校や教育団体の展覧会や美術大学・芸術大学の卒業製作展もあります。分野も、絵画だけでなく、工芸、書、手芸、写真、盆栽、生け花など多岐にわたります。
しかし、とびラーの中でも、「一人で入るには勇気がいる」「知らない表現分野の展示が多いので、展示を見に行くきっかけが欲しい」という声もありました。そこで、とびラボとしてみんなで鑑賞しに行きましょう!というのがレッツ!コウ!ボトーです。2025年4月から2026年3月までの1年間活動を行いました。多くのとびラーが参加できるように、1か月の中で平日1回、土日1回の2度の活動日を設け、毎回5、6人で鑑賞をしてきました。
初めてみんなで訪れたのは、モダンアートを作品のテーマにしている展覧会でした。展示室には大きな作品が並んでいました。その次に訪れたパステル画の展覧会会場では、小さめの作品が並んでいました。2つの公募展に行ったことで、展覧会によって作品の大きさにも違いがあることに気付くことが出来ました。
公募展に出品される作品の多くには、詳細な解説文などはありません。その為、「これは油彩なのかパステル画なのか」など素材を考えたり、「この作品から作者は何を伝えたいのだろうか」など想像したり、作品をじっくりと鑑賞するとびラーの姿がありました。
何回か活動していると想定外の嬉しい出来事が起きてきました。それは、作家さんとの出会いです。展示室内では作品を鑑賞するだけでなく、作家さんから作品についてお話を伺う時があるのです。とても興味深い時間です。
書の公募展を鑑賞しているときのことでした。その日参加したとびラーには書道の経験者が居なかったため、鑑賞のポイントが分かりません。展示室には、作家の方が在室していることがあるのですが、たまたまそこにいらした方が、私たちの為に書について詳しく解説をしてくださったのです。墨の濃淡の意味や、題材の選び方、筆運びの難しさなど、お聞きする話は初めて聞くことばかりなので、みんなとても感心していました。
また、和紙絵画展で出会った作家の方は、お弟子さんとの活動の楽しさをお話してくださいました。和紙をどのように重ねるか、遠近感の表現が難しいことを教えてくださいました。
漆の公募展では、漆工芸歴60年という作家の方からレクチャーを受けました。
いずれも、とにかく作家の皆さんのお話がとても興味深く、参加したとびラーは濃厚な鑑賞時間を持つことが出来ました。公募展に行ってみることには、作品との出会いがあるだけではないのです。人とも出会える魅力を持っています。
もうひとつ、作品以外に私たちが感心したことに、活動内で出会った作家の方に80代半ばの方が何人もいらしたことです。姿勢も良く、外見ではそれほど高齢とは思えません。お話もしっかりされとても健康的でした。遠方のご自宅から東京都美術館までいらして、一日展示室で過ごし、仲間と話し、半年先の次回の展覧会の予定も決まっていて制作意欲も持たれています。そのお姿に、私たちはアートの力を感じたのです。
とびラボ活動をした際には、活動内容をとびラーのみんなに報告をします。すると、嬉しいコメントが入るようになりました。それは、「活動報告を読んでその公募展に行ってみました!」といった内容のものでした。また「一人でも公募展に入りやすくなった」「面白かったから次の機会にも行ってみようと思います」という話も聞きました。
公募展に行くことは、新しい分野の作品に出会い、その後の鑑賞活動の幅を広げる効果もあるようです。
レッツ!コウ!ボトー 皆さん一緒に レッツ GO!公募棟!
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2026.03.15

集大成ともいえる団体作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》より
みなさんは、「コスプレ」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?わたしたちが取り組んでいる「アートコスプレラボ」では、絵画や彫刻などの作品を、自分たちの身体を使って、再現することをめざしています。再現にあたっては、作品に登場する人物のあり方や気配まで含めて表現しようとします。
多様な来館者と様々な作品を鑑賞する経験を重ねてきたとびラー(アート・コミュニケータ)が、その視点を活かし作品を鑑賞し、制作します。
ここからは、コスプレラボの過程をご紹介します。
①作品選び
②どんな風にコスプレするか熟考する
③制作
④撮影
①作品選び
まず、どの作品をアートコスプレするかについては、各とびラーの感性で自由に選択します。多くの人が目にしたであろう「名画」シリーズにこだわるとびラーや、東京都美術館で開催された展覧会の作品にこだわるとびラーなどそれぞれが、なぜその作品を選んだのかをミーティングで他のとびラーに話します。また、各自で選ぶ作品とは別に、複数のとびラーで一つの作品をつくることも考えていきます。
②研究
作品に向き合い、作品をじっくり見ます。色や形、質感や感触、時代、季節や気温、光や風の強弱、匂い、作家や登場する人物の気持ち、前後のストーリーまで推測します。図録やwebなどで作品の背景も研究します。自分たちなりの解釈に正解はなく、自分たちがその作品をどうキャッチしたかを大事にします。鑑賞する際の自分の受け止め方によって、その人らしいアートコスプレの表現につながっていくのです。
③制作
鑑賞してキャッチしたものをカタチにしていきます。最も楽しく、悩ましい過程です。制作に使う素材選びでは、100円ショップや布屋や古着屋などに何度も通います。制作にあたっては、どのようにカタチにしたらよいか迷いながら作っていきます。撮影までの間、とびラボで中間発表をしたり、お互いにお悩みを相談します。とびラボに参加するとびラーの発想力で、お互いの自宅に眠っている材料も使って制作をしていきます。。
クイズ:この素材は何でしょうか?
正解は、「羊毛フェルト」!完成度の高さにとびラーもびっくり!
④撮影
撮影は、制作したものを着用してすぐに写真を撮るわけではありません。この段階でもまた、作品をじっくりと見るのです。たとえば、作品の中の人物の上半身と下半身のプロポーションが現実ではありえないようなバランスだったり、頭を傾けるにも左右の角度だけでなく前後の角度も大事で、さらに捻りが入っていたりします。
これは、「作品をじっくりみる」だけでは気づけないことで、実際に身体をつかってみることで、はじめてわかるバランスや違和感があります。コスプレしている本人だけでなく、周囲のとびラーが「もっと左をむいて」「からだは正面だけど顔は右に!もっとうつむいて!」など的確な指示をだすことによって、より作品に近づけます。撮影の場では、とびラーのものすごいエネルギーが流れていて、みんな汗だくに!実際に演じてみてこそわかる不自然ともいえる体勢での撮影翌日には、筋肉痛になること間違いなしです!(笑)
たくさんの視点により入念にチェック。
撮影が長引くと、背景も持つ腕もプルプル・・・
【アートコスプレギャラリー(抜粋)】
実際に身体を使って再現してみると、作品を見ているだけでは気づかなかったことが次々に現れてきます。作家が何を表現したかったのか、どんな気持ちだったのか、じっくりみることで思いを馳せ、ひとりでつくる。そして、とびラー同士の別の角度からの視点と熱量があわさって、みんなでよりよくするための意見を出し合い、撮影して完成させる。コスプレーヤーとディレクターの相互作用で「アートコスプレ」となるのです。
アートコスプレは、カラダをつかった「模写」とも言えるかもしれません。
アートコスプレラボを実施する場に満ちている充実感や達成感は、内省的な創作活動だけでなく、とびラー同士の共同創作の成果だと思います。
ひとりでつくる楽しさもありますが、みんなでつくりあげる過程を楽しみたい、そう思えるとびラボでした。また、アートコスプレという方法を通して、新しい鑑賞のとびらが開かれたように感じています。

飛び入り参加のとびラーも加わり、いろんな個性が集合したひまわり。
そこに居る人が、「来て良かった、ここにいていいんだ。」と感じられる場づくりをしたいです。
日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。
2026.03.14
この「これからゼミ」では、アート・コミュニケータならではの視点で、街なかの建築を鑑賞。みんなで歩いて、みんなで見る建築鑑賞ツアープランを考えました。
とびラーは、建築実践講座(※)で学んだり、建築ツアーガイドを経験したりするうちに、「建築沼」にはまってしまう人が少なくありません。建築の魅力に取り憑かれたとびラーたちは、常日頃から誘い合って、街なかの名建築を見にいっています。
そして私は、気づいてしまいました。一人で見るよりも、みんなで対話しながらのほうが、何倍も楽しく、鑑賞の「解像度」がぐぐっと高まることを。
もしかすると、アート・コミュニケータとしての視点が、建築鑑賞にも生きているのかもしれない……。だとしたら、私たちの建築鑑賞まちあるきは巷の建築ツアーとは一味違うものであるはず。
そんな仮説を立て、任期満了後の活動を見据えた「これからゼミ」として、「アート・コミュニケータの建築鑑賞まちあるき」の可能性を考えてみることにしました。
※建築実践講座:東京都美術館の建築の歴史や背景を理解し、自分の感覚を手掛かりに建築を味わう力を身につけ、美術館というパブリックな建築を介して人々をつなぐ場をデザインする」ことを目的に、とびラーに向けて毎年開催されている講座。
キックオフミーティングは、
#アートコミュニケータ
#建築
#鑑賞
#まちあるき
というモリモリのキーワードに惹かれた9人のとびラーが集結。
と、大風呂敷を広げてざっくばらんに話し合いました。
まずは実践。さっそくみんなで街に出てみることにしました。行き先は、前川國男のファンなら一度は訪れたい「国際文化会館」がある六本木エリアです。各自が気になる建築をリサーチして、記念すべき最初のツアーが完成しました。教会建築から、昭和初期のアパートメント、愛すべきモダニズム建築……と時代を超えて、大都会六本木の心意気を感じられる贅沢なラインナップに。
テーマ:
六本木の名建築を歩く
ルート:
▶︎神谷町駅
▶︎聖オルバン教会・聖アンデレ教会
▶︎ノアビル
▶︎和朗フラット
▶︎AXISビル
▶︎国際文化会館(お茶)
▶︎全日本海員組合本部会館
(国際文化会館以外は、外観をじっくり見学)
ツアー気分を盛り上げるため、しおりを作成。鑑賞する建築ごとに「自分が注目したいポイント」を記入する欄をつくり、見る準備を整えて当日を迎えました。
当日は10人のメンバーが参加し、六本木の名建築を心ゆくまで鑑賞しました。面白かったのは、コースに組み込んでいなくても、気になる建物があれば立ち止まり、みんなで鑑賞が始まってしまうこと。いっときも対話が途切れることなく、あっという間の3時間でした。
後日実施したふりかえりミーティングでは、「建築鑑賞まちあるき」の意義についてさらに深い発見がありました。
「いろいろな時代の建築を通して街の歴史を感じたり、地形を体感したりして、街の全体像を知ることができた」という手応えに加え、メンバーからはこんな意見も。
「地域の人に話を伺ったら、もっと面白くなるはず」
「ツアーをつくること自体が、ひとつのコミュニケーションだね」
「人がいてこそ、まち」。
単なる見学ツアーを超えて、「コミュニケーションの場づくり」としてのツアーという、私たちの目指す方向性がはっきりと見えてきた気がします。
次のゼミでは、各自ツアープランを作成して、みんなに発表しました。メンバーの「好き」が詰まったツアーの数々に「こんな建築があるとは!」「早く行きたい!」と盛り上がり、あっという間に時間が過ぎました。
みんなが考えたツアー案のほんの一例
・馬車道・日本大通り レトロ・モダニズム建築さんぽ
・白金・高輪名建築さんぽ〜ゴシックからクマケンゴ〜
・上野の山を下って、東上野〜浅草下町さんぽ
・日本橋界隈ツアー
・山形市内 みどころ建築満載涙ものツアー
・北区王子周辺の文化財を歩く
・文京区本郷界隈ツアー
実際にツアープランを作ってみると、時間配分やトイレ休憩の確保など、実践的な課題も見えてきました。検討すべきことがたくさん! 誰もが安心して参加できるツアーを作るのは、そう簡単ではありません。
そうこうするうちに、開扉(3年の任期が満了すること)が迫ってきたので、開扉後に自主的に活動を続けていくための任意団体を作りました。
その名も「まちと建築 みるみる隊」。
目的は、まちあるきと建築鑑賞を通したコミュニケーションの場を通じて、人と人、人と建築、人とまちをつなげること。対話を通して、「まちと建築」をよ〜くみて、その魅力を多くの人と共有したい。そして、まちが受け継いできた文化や名建築を次世代に引き継ぐ一助になれたらと考えています。
まずは、メンバー内でまちあるきと建築鑑賞を実践しながら、自分たちの考えや思いを言語化、研究することからスタート。私たちのペースでじっくりと「まちと建築」に向き合っていきます。
編集制作会社で働いています。名建築に身を置き、建築家の思いを知ることに夢中。とびらプロジェクトで学んだことを生かして、身近な場所にみんなが居心地の良い場所をつくることを目指しています。
2026.02.22
<触図(しょくず)とは>
まずここでいう触図ですが、手指で触って作品の構図や形を理解するための図です。点、線、面などの要素が凹凸で表現され、触感によって絵の情報を捉えることができます。鑑賞の際は、サポートする人が、見えない・見えにくい方に、作品の視覚情報を伝えながら使用します。
東京都美術館では、2024年の「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」より、すべての特別展で、展示作品の中から2〜3点の作品の触図を制作しています。この触図は、展覧会の会期中、触図を必要とされる方にご利用いただいています。
<触図ラボ、キックオフ!>
13期とびラーの山本さん(全盲)と活動中の2025年3月末、特別展「ミロ展」展示作品の触図を山本さんがテストで触る機会に立会いました。
そのテストの場で、山本さんが
「線が多いとモチーフがわかりづらい…。」と感想を言いました。
この時のミロ作品の触図では、
・赤色の部分:ドット柄
・黒色の部分:斜線
など、別々の触感を使って色の違いがわかるようにすることが試みられていました。
ただそうすることで、手に触れる要素が増え、山本さんにとっては逆に、作品に描かれているモチーフそのものの形状が分かりづらいと感じることがわかりました。
その触図を用いた鑑賞の様子に、そこにいたとびラーはとても興味を持ちました。
そして、この触図が5月に実施する『障害のある方のための特別鑑賞会(以下:特別鑑賞会):「ミロ展」』で活用されることを聞きました。見えない・見えにくい方がより作品鑑賞を楽しめるように、私たちが伴走をしたい、そのためにどう触図を利用していくかをみんなで考えたい、という思いで、4月上旬に「触図ラボ@特別鑑賞会」のとびラボを立ち上げました。
今回は主に以下のことについて試しました。
<「障害のある方のための特別鑑賞会」@ミロ展での活動>
▽実施日:2025年5⽉26⽇
▽展覧会:ミロ展
▽とびラボ活動期間:2025年4月7日〜6月7日 計10回実施
<対話鑑賞と触図鑑賞…どちらが先?>
山本さんの体験談に耳を傾けながら、触図で構図を理解するだけでなく、より深い作品鑑賞まで行きつくためには、どう触図を活用したらよいかを話しあいました。
その中で、下記のような鑑賞サポートのヒントが見えてきました。
・ゆっくり時間をかけてみんなで作品をみて対話をすることで理解が深まりやすい(人によって捉え方が違う=情報が増える)
・対話での鑑賞を先にするのが良いか、触図に触れるのを先にするのが良いかは、作品の性質によって変わる
・触図を触っている最中に、作品説明を聞くのは難しい
鑑賞方法の順序として、見える人は「森→木」、
そして見えない人は「木→森」なのでは?というキーワードが出てきました。
・森→木:見える人はまず作品の全体を見てから気になるところを細かく見ていける。
・木→森:見えない人はまず作品の部分的なものを知ることから始まり、それを集めて全体の作品のイメージを作り上げる。
見えない・見えにくい方全員が、同じ状況ではありませんが、基本の考え方の1つになりました。
<鑑賞を楽しんでもらうための工夫>
ある日のミーティングでは、とびラーが持参した、さわる絵本や、触知図印刷(特殊インキで凹凸を表現した印刷)を用いた冊子を、触ったり見たりして「さわって鑑賞する」ことを体験してみました。
ミロ展の触図は、2作品あります。特別鑑賞会当日に触図ラボのとびラーが担当する作品は、月と星が印象的な《涙の微笑》。
そこから、当日の鑑賞に向けて、鑑賞サポートのより具体的なアイデアも検討されました。
・ミロの作品に月や星のモチーフがよく登場することを紹介し、星のモチーフの形を比較したりできると良いのでは?
・作品鑑賞の補助ツールとして触図を利用して、ミロの色彩や線を楽しんでもらう。
・言葉だけでなく指での触覚を通しての鑑賞をしてもらう。
・とびラーとの対話で、普段とは違う鑑賞体験が生まれるのではないか?
そんなことを考えながら、今回の企画意図を整理、共有していきました。
また、展示室内で実際の作品の前で触図を用いた鑑賞を行うための工夫を模索しました。見えない・見えにくい当事者と、介助者、、とびラー3人での鑑賞を想定し、触図を安定した姿勢で触ってもらえるように、A3サイズの紐付きボードを使用することにしました。
触図の持ち方を思案中
<目標だった鑑賞を深めることはできたのか?>
本番当日。触図についてや構図の説明がおもになってしまった時もありましたが、全盲の鑑賞者からはこんな声をいただきました。
・月や星に希望を感じられる。
・3本の髪の毛(のようなもの)は、目を閉じた時のマンガで描かれるシワのようで、そこから涙が流れ、下の赤い部分にたまっていくようだ。月の周りの白いグルグルした筆跡は、暗くモヤモヤした気持ちで、涙の理由になったものではないか。
・ずっと見てきたミロの星の形が触ってわかった!鑑賞の補助になった。
積極的な作品鑑賞ができたからこそ出てきた言葉を、私たちはうれしく受け取りました。この実施で、ミロ展での触図ラボは終了しました。
<「障害のある方のための特別鑑賞会」@ゴッホ展での活動>
▽活動日:2025年10月27日(月)
▽展覧会:ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢
▽とびラボ活動期間:2025年9月7日〜11月2日 計8回実施
「ゴッホ展 特別鑑賞会」へ向けて、9月上旬に「触図鑑賞ラボ@ゴッホ展特別鑑賞会」をキックオフしました。今回は、鑑賞を深める気持ちを込め、とびラボの名称に「鑑賞」を入れてラボ名をリニューアルしました。
まずは前回のとびラボでの実施を一通りふりかえりました。さらに鑑賞の深め方を試行錯誤していきました。今回のゴッホ展で、私たちのとびラボが担当する作品は《種まく人》です。前回担当したミロ作品の《涙の微笑》よりも要素が多く遠近感のある作品です。
基本姿勢としては、作品全体のモチーフの配置情報を伝え、それから人物、木など個々のモチーフについて伝える手順が伝わりやすそう、色の情報なども伝えたほうが良いと話しあいました。また前回の経験から、じっくり鑑賞したい人、さらっと鑑賞して次に行きたい人と、目の不自由な方の鑑賞の様子をみて対応していこうと確認しました。
<本番のふりかえり>
・「構図がよくわかった」との声が複数あった。
・来館者の状況がそれぞれ異なるので、声をかけるタイミングが難しかった。
・全盲の方と弱視の方では見せ方が違った。
・「輪郭だけがわかる触図が別にもう1つあるといい」という声。
鑑賞者の手をとり、モチーフの輪郭をなぞってもらうなどし、前回より構図やモチーフの形をわかりやすく伝えることができたと思います。
ゴッホ展の図録で何度も対話型鑑賞をして作品研究をしました
<「障害のある方のための特別鑑賞会」@スウェーデン絵画展での活動>
▽活動日:2026年2月9日(月)
▽展覧会:東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
▽とびラボ活動期間:2026年1月24日〜2月22日 計5回実施
今回のスウェーデン絵画展に向けて、新しく立ち上げた触図鑑賞ラボのキックオフの時点で触図は未完成でした。また、スウェーデン絵画展での特別鑑賞会は開幕してから数日後で展示室での検証期間も少なく、ドキドキの準備となりました。
スウェーデン絵画展の触図は3作品です。
3作品全ての作品の鑑賞サポートを触図鑑賞ラボで担当することになり、3ヶ所3チーム編成で活動しました。会場の下見では展示室の動線の妨げにならない立ち位置の確認や、椅子が目の前にある作品では、来館者に座ってもらって行う鑑賞も想定しました。
鑑賞の流れとしては、前回までの鑑賞体験から、作品の構図や情景を伝え、全体から部分モチーフへの説明へと進めるようにしようと話し合いました。
また、来館者の鑑賞深めるための準備として、とびラー同士で、作品を時間をかけてよく見て言語化していきました。とびラー自身の作品への理解を深めることが、鑑賞サポートをする際に大切なことです。。
<触図のタイプが変化>
東京都美術館の触図は、社会共生担当のスタッフが、展覧会担当学芸員に相談しながら、触図制作者とともに作成しています。その制作過程では、来館者からのフィードバックを元に、作品の魅力がより伝わるように試行錯誤が重ねられています。
今回のスウェーデン絵画展で制作された触図は、素材感も楽しめる触図が制作されました。
作品の女性がしている編み物の部分には赤い毛糸を編んだものが貼られています。
<鑑賞の変化>
今回の触図では色は表現されてないため、ロービジョンの方など、色を認識する方の鑑賞用に、iPadに取り込んだ作品画像で必要に応じて色をみてもらえるようにしました。
鑑賞者の手をとり誘導しながらモチーフの輪郭をなぞってもらいます。
作品鑑賞、会場下見が終わり展示室を出ると雪景色。
北欧の作品とのリンクに思わず笑顔。
<本番のふりかえり>
・立体・白黒印刷の触図は「さわって構図を知るためのもの」という目的がより明確で良かった。
・ロービジョンの方が多かった。触図を指で触って形を認識し、iPadで色や細部を認識する。あえて分けて提供するやり方は今後も継続した方が良いと感じた。
・ロービジョンの方だと思うが、同伴者と作品を見た後、触図で鑑賞。中央の馬を触りながら「お尻じゃなくてこちらを向いているのね!」と触図で顔の向きを理解していた。
・雪が描かれた部分に並ぶ無数の「◯」のボツボツ感にスウェーデンの雪の硬さを感じてくれた。
・触図があります、いかがでしょうか?という声かけだけでなく「鑑賞をいっしょにしませんか?」の声かけが効果的だった。
・《川辺の冬の夕暮れ》で同伴者の「木目のような波紋が・・」のような解説に反応していたのを見て、全体の構図の説明より先に、真ん中の波紋を触ってもらった。「本当木目みたい、ここが川なのね。」と嬉しそう。鑑賞者と同伴者の、鑑賞の様子に注意を向けて行動することも大事だと思った。
<鑑賞者の印象に残った声>
対話と触図で鑑賞を深めていくと、作品を起点に紡がれたコミュニケーションが生まれる場面もありました。印象的だった鑑賞者の言葉をいくつかご紹介します。
作品1《編物をするダーラナの少女コール=マルギット》
・ロービジョンの方と、言葉での鑑賞 → 触図での鑑賞 → iPadでの鑑賞の順に進めた。「昔、母に編み物を教えられたんだけど…」と棒針での編み方を教えてくれた。
作品2《川辺の冬の夕暮れ》
・ロービジョンの方「水辺の絵でモネだったら花が描かれるけど、この絵はスウェーデンだからシンプル、冬で光が足りないから花がないのではないか?」一つの絵から他の絵もイメージしていたことが印象に残った
・日本の川幅が狭く流れが早いのと違い、作品の川は水面に映る木々の影や空の色がわかるほど、ゆったりと静かな印象を話し、「北欧の広大な大地ならではの悠々とたゆたう川を感じる」と仰っていた。
作品3《夜の訪れ》
・ストレッチャーに横たわる男性の手を母親がとり触らせ、わずかに目や手がピクッと動いたようだったので「鑑賞で反応したのかな?」と。パリの美術館へ行くほどアート好きだったという話しを伺いました。
<今後の展望>
触図に限らず、見える人・見えにくい人・見えない人がともに行う鑑賞のあり方を、今後も試行していきたいと考えています。
<3回目の触図鑑賞ラボを終えて>
回を重ねるごとに声かけの工夫がだんだん出来てきました。触図を、構図の理解をしてもらうツールとし、目標である鑑賞を深めていくことも徐々にできつつあると感じています。
経験をみんなでシェアしながらブラッシュアップしていけると思います。これからの触図鑑賞の進化が楽しみです。
執筆:染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。 ラジオの仕事を長くやっているせいか状況・情景描写を細かくする習性が少しあります。音声メディアで働く者として底辺のところで目の不自由な方を意識する感覚があり少しでも役にたつことができればと思っています。
2026.02.04
私たちとびラーが主に活動している東京都美術館 交流棟にあるアートスタディールームには、カラフルで座り心地の良いイスがあります。また、本棚の前にあるイサム・ノグチのソファに座ると、自然とゆったりとした気分になり、お喋りに花が咲きます。
普段は気にせず使っているこれらのイスですが、実は東京都美術館内にはさまざまな種類の魅力的なイスがあるのではないか、改めてイスに注目して館内を巡ってみよう、というのが、とびラー同士で実施したこのとびラボです。平日午後の開催でしたが、17名のとびラーが集まりました。
イスについては、デザイナーの情報やどこのメーカーのものであるかなど基本的なこともとびラー同士で共有しました。その際、参考にしたのが「美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」というリーフレットです。このリーフレットには、東京都美術館にあるイスについて紹介されています。
※「美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」リーフレット
https://www.tobikan.jp/media/pdf/2022/guide_artlounge.pdf
しかし、それだけではありません。このとびラボでは、イスがどこに置かれているのか、そしてその場所にあるイスに実際に座ってみることで空間がどのように感じられるのかなど、イス単体に注目するのではなく、空間自体を捉えることを試みました。
1階の佐藤慶太郎記念アートラウンジにあるイプ・コフォード・ラーセンのイスや、フィン・ユールのイスは建築ツアーでも話題にするとびラーが多くいます。いつもは紹介する側ですが、今日は自分でしっかり座ってみよう、座ったら何が見えるだろうか、という思いで腰掛けてみました。すると、公園の緑がより近くに感じられる印象がありました。実際に座ってみることで視点の違いをリアルに感じることが出来たのです。
※佐藤慶太郎記念アートラウンジ
https://www.tobikan.jp/guide/artlounge.html
エスプラナード(美術館正門から建物内部へとつながる広場空間)に置かれている石のベンチについても、みんなで検証してみました。このベンチは、1975年の新館設立時から設置されているものです。これまで、たくさんの来館者を迎えてきたベンチです。エスプラナードのエスカレーター脇や企画棟の壁沿いにありますが、そこだけではなく、東門へ通じる階段の途中や屋外彫刻の最上壽之 《イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》と、小田襄 《円柱の領域》の近くにもあります。東門近くのこのベンチでは、彫刻を眺めたり、本を読んだりしてゆっくり過ごしている方を見かけます。あるとびラーが、東門近くは、企画棟の打ち込みタイルの壁や大きな銀杏の木などに囲まれ、特に落ち着いた空間になっているのではないかと気付きました。だから、のんびりと座っている人が多いのではないでしょうか。
東京都美術館のイスと言えば、ロビー階のホワイエや公募棟にある大きな窓のある休憩エリアに置かれている、赤・緑・黄・青の4色のイスが特徴的です。このイスは建築家・前川國男がデザインしたものです。
ホワイエで観察していたとびラーが、このイスが置かれている数の配置に規則性があることに気付きました。手前から、4個組5個組6個組になっていることに気付いたのです。よく観察したからこそ気付いた発見でした。
一方で、色の配置は常に決まっているのだろうか?座面の色の配置には何か理由があるのだろうか?という疑問も湧き上がりました。これは、今後の検証が必要そうです。
公募棟の休憩エリアにも同じ前川國男デザインのイスがあります。1階のイスに座ると外のエスプラナードを行きかう人々の流れや屋外彫刻に目が行きます。2階のイスに座ると広い青空に目が行きます。
同じ大きな窓でもイスの置かれている場所が違うことで、座る人の視線の動きに違いがあることに気付きました。前川國男は、こうした人の視線の動きも計算していたのでしょうか。みんなで感心しました。
とびラーから特に好評だったのは、美術資料室にあるナンナ・ディッツェルのイスでした。座ると包み込まれるような感覚になるという感想を持つ人が多くいました。いつまでも座っていたくなる、好きな展覧会の図録を眺めながら、ゆっくり過ごすことが出来るイスです。
※美術情報室
https://www.tobikan.jp/guide/artlibrary.html
私たちは、今回、イスに注目して館内を巡ったことにより、それぞれが東京都美術館の中で自分のお気に入りの場所を見つけることが出来ました。そして、なぜその場所が好きなのか、理由についても考えてみることになりました。
例えば、公募棟展示室の上野動物園側にある休憩エリアのイスがお気に入りのとびラーは、なぜそこがお気に入りなのか考えてみました。そうするとイスの座面の色がホワイエにあるイスとは違い、グレー系の色であることやその休憩室が貸し切りの個室のような空間で落ち着くのだと改めて腑に落ちたのです。
このとびラボは、この日一日だけの活動でしたが、館内の素敵なイスに詳しくなったことで、他のとびラーや友人たちにも是非伝えたいという声もあがりました。
私たちがもっとも美術館らしさを味わえるのではないかとお勧めするイスは、講堂前のイスです。座ると自然に視界に入るのが対面の壁に掛かる大きな作品、ジョゼフ=アントワーヌ・ベルナールのレリーフ《舞踏》です。一人静かに作品を眺めるという優雅な時間が味わえるお勧めのスポットです。
機会がありましたら、是非、みなさんも座ってみてはいかがでしょうか。
とびラー12期 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2026.02.02
とびらプロジェクトで、
生まれるべくして生まれた企画
12月にしてはポカポカと暖かい小春日和、東京都美術館(以下、都美)で1日限定のスタンプラリー企画が開催されました。その名も「前川國男の名建築 都美のいいトコ 建築鑑賞スタンプラリー」。建築の見どころをモチーフにしたとびラーお手製のハンコで、スタンプラリーを楽しむイベントです。
前川國男の名建築 × スタンプラリー × ハンコはとびラーお手製
お腹いっぱいになりそうな内容ですが、実は、とびラーのこれまでの活動が積み重なって、必然的に生まれた企画でした。というのも………
❶「とびラーによる建築ツアー」から派生
都美では、前川國男が設計した名建築そのものも楽しんでいただくため、とびラーによる建築ツアーを実施しています。数人のグループ単位で館内のおすすめの場所をご案内するツアーですが、45分間のツアーが終わると「あっという間だった!」「もっと長くていいわ!」と、うれしい感想をいただくことが少なくありません。とびラーのほうも「もっとのんびり、心ゆくまで建築鑑賞をご一緒したい!」「一人ひとりのペースで楽しめる方法はないかな」と思っていました。
❷「消しゴムハンコ」にはまるとびラー
とびラーは「障害のある方のための特別鑑賞会」の招待状封筒を消しゴムハンコで飾る活動を続けています。回を重ねるごとに腕を上げて、消しゴムハンコの世界にはまっていく人が多いのです。
以上から、手作りハンコのスタンプラリーをツールとした建築鑑賞企画があってもいいのでは!と思いつき、「この指とまれ」をしたところ、仲間が集まりました。
初回のミーティングは、悪天候によりオンラインと
オフラインのハイブリッドで実施
スタンプラリーは人類の根源的な欲求を達成できる
最高のコミュニケーションツールだ!
キックオフミーティングでは、「都美のいいところを知ってほしい」「スタンプラリーが大好き」「都美のハンコを彫りたい」とそれぞれのとびラーが熱い想いを語り、スタンプラリーについて勉強。その上で、なぜ自分たちは、スタンプラリーを交えた建築鑑賞をしたいのかを言語化しました。
スタンプラリーの面白さを分析し、挙がったキーワードは以下です。
「収集」「達成感」「発見」「コミュニケーション」「冒険心」
つまり、スタンプラリーは、人類の根源的な欲求を達成できる、最高のコミュニケーションツールなのかも!と盛り上がりました。
さらに、これらのキーワードを都美の建築鑑賞スタンプラリーに当てはめると
「収集」 ▶︎自由に都美を回遊、長時間過ごす
「発見」 ▶︎都美の建築の魅力を知る
「達成感」 ▶︎成功体験により都美に愛着が湧く
「コミュニケーション」▶︎人と人(参加者ととびラー)もつながる
「冒険心」 ▶︎楽しい!ワクワク!
さらに、コミュニケーションツールにスタンプラリーを選ぶ必然性についても考えました。
⚫︎ 表現手段を手作りスタンプにすると、建築が身近に感じられる
⚫︎ 言語に頼らないコミュニケーションもできる
⚫︎「発見」の瞬間をたくさん提供できる
⚫︎ 子どもも大人も、誰でも楽しめる!
そして、メンバー全員で「都美でスタンプラリーをやりたいのだ!」と意思を固めたのでした。
企画にワクワク、懸念がムクムク
2回目のミーティングでは、さっそく具体的なプランを相談。ルールやスタンプシートのデザインなどのアイデアがポンポン飛び出し、ワクワクしながら、当日のイメージをカタチにしていきました。
アイデア出しを楽しむ一方、懸念点を洗い出し、対策も考えました。
⚫︎子どもたちが夢中になって館内を動き回って、安全性は担保できるのか
▶︎スタート地点でルールをしっかり説明。とびラーが見守る。
⚫︎スタンプインクで汚れるようなことはないか
▶︎とびラーがスタンプを押す。もしくはシールにする。
⚫︎当日の運営に、人員が必要!
▶︎とびラーを引き続き募集する!
その後のミーティングでは、とびらプロジェクトのスタッフから客観的な意見をもらいつつ、「参加者が殺到したら?」「雨が降ったら?」とあらゆる事態を想定し、運営体制を検討。同時並行でスタンプの制作と各ポイントでの参加者とのコミュニケーションの練習も進めました。
ここで新たな心配が発生。建築ツアーガイドの経験があるとびラーは参加者と建築鑑賞をすることに慣れているのですが、そうでないとびラーが、参加者とうまくコミュニケーションできるかどうか、不安を口にし始めたのです。そこで、ポイントごとに参加者に楽しんでいただける対話のネタを考えてシミュレーション。自信をつけるために経験を積み重ねました。
100人の参加者が名建築を堪能!
当日は、100人の参加者が、スタンプラリーと建築鑑賞を楽しみました。午前中は、SNSを見て「先着100名なので、早めに来ました!」と来られた建築ファンの方がちらほら。午後は、当日ふらっと参加した高校生や親子連れが多く、赤ちゃん連れや障害がある方にも参加していただきました。
「自分のペースでポイントをめぐれるのがいいですね」と、自由に回れるスタンプラリー形式にした狙い通りの反応も。「建築に興味はなかったけれど、新たな視点が得られてよかった」というご意見もあり、名建築としての都美のファンを増やすことに寄与できたと思います。そして何を隠そう、誰よりも、参加者が都美の魅力を発見していく、その場や時間を楽しんでいたのは、とびラーたちだったかもしれません。
みんなでつくった手作りのスタンプシートはこちら!
「消しゴムハンコを押したシール」を貼るスタイルになりました。
職人がコンクリートに施した凸凹(はつり加工)の
柱表面を触って鑑賞
高校生も親子も、都美建築の特徴である
壁面の「打ち込みタイル」を鑑賞
今回が初めての試みだったため、とびラーは「本当に参加者が来てくれるのかな……」「楽しんでくれるかな」と心配していました。しかし、スタンプラリーと名建築を愛する情熱、そして、持ち前の臨機応変なコミュニケーション力で、当日は底力を発揮することがました。最後は、参加者のみなさんも、とびラーもみんなが笑顔で終われて本当によかったと思います。
13人で始めたとびラボも、当日はこんなにたくさんのとびラーで
来館者を迎えました!
編集制作会社で働いています。名建築に身を置き、建築家の思いを知ることに夢中。とびらプロジェクトで学んだことを生かし、身近な場所にみんなが居心地の良い場所をつくることを目指しています。
2026.01.29
2026年1月25日に開催した、フォーラムの第一部映像を公開しました!
映像はこちら▶︎https://youtu.be/qrjDPr2DpTM
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東京都美術館×東京藝術大学 「とびらプロジェクト」フォーラム
『「鑑賞」はコミュニティに効く?みんなで作品をみる場づくり』
フォーラム概要はこちら▶︎https://tobira-project.info/f2026
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第一部
【概要】
2026年1月25日(日)
会場:東京都美術館 講堂
時間:13時〜15時半
プログラム内容:
・・
● とびらプロジェクトとは?(0:06:00~)
小牟田 悠介(東京藝術大学 特任准教授 とびらプロジェクトマネジャー)
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● アート・コミュニケータトーク(0:25:05~)
「みんなで作品をみる場づくり」
熊谷 香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長 とびらプロジェクトマネジャー)
小牟田 悠介
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「とびラーの実践」
実践1:(0:25:40~)
【大学生の「放課後ミュージアム」みる・つくる・はなす】
とびラボ:大学生プログラムを考えるラボ
金子淳平/田口怜
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実践2:(0:47:44~)
【ずっとび鑑賞会】
認知症のある高齢者とその家族を対象とした鑑賞会
Creative Ageing ずっとび プログラム
寺岡久美子
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実践3:(1:03:20~)
【芸大生も参加! 「名品リミックス!」を対話で楽しもう】
藝大生と高校生が作品を鑑賞するプログラム
東京藝術大学大学美術館との協働/とびらプロジェクト鑑賞実践講座
岩瀬眞砂美/木原裕子
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「みんなで作品をみる/とびラーの役割と学び/鑑賞実践講座」(1:17:25~)
越川さくら (東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手 とびらプロジェクトコーディネータ)
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● ディスカッション (1:37:04~)
『「鑑賞」はコミュニティに効く?」』
日比野 克彦 (アーティスト 東京藝術大学学長)
熊谷 香寿美/小牟田 悠介
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主催:東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京藝術大学
企画・運営:東京都美術館×東京藝術大学「とびらプロジェクト」
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手話通訳:瀬戸口裕子、加藤裕子
日本語字幕:株式会社 ミライロ
映像制作:らくだスタジオ
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フォーラム概要はこちら▶︎https://tobira-project.info/f2026
映像はこちら▶︎https://youtu.be/qrjDPr2DpTM
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2026.01.26
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2025年12月。東京藝術大学 上野校地にある中央棟の一室で、先端芸術表現科4年の髙田清花さんにお話を聞きました。
髙田さんは、学部3年生だった2022年に、「藝大校歌再生活動」という活動を始めたそうです。その活動についての話を入口に、髙田さんのこれまでのこと、これからのことを伺いました。
実は、現在の東京藝術大学(以下、藝大)には「校歌」がないんです。
「藝大校歌再生活動」(以下、「再生活動」)とは、藝大の前身である、東京美術学校、東京音楽学校の時代にあった「校歌」や「学生歌」、口伝の歌を蘇らせる取り組みです。
卒業・修了作品展(以下、卒展)には、この「再生活動」から派生した映像作品などを展示します。
卒展での発表形態は、3種類を予定しています。
「再生活動」の年表の展示、映像の上映、小編成オーケストラによるパフォーマンスの上演、の3つです。
映像では、歌の再生の活動で出会った、藝大油画卒業生である現在84歳の先輩の語りを映します。
オーケストラによるパフォーマンスは、箏と尺八などの邦楽器をはじめ、美術学部の学生も歌う13人編成で演奏します。校歌、口伝の歌、再生活動のテーマソングである「めぐる」という曲をパフォーマンスする予定です。
学部2年生の終わりに、授業で「藝大の歴史を調べて作品を制作する」という課題があったのがきっかけです。藝大には現在、校歌がないことに気づき、今は歌われていない「校歌」を課題のテーマにしました。山田耕筰(作曲家・指揮者/東京音楽学校卒業)が東京美術学校の校歌を作曲したという情報を得て、図書館で山田耕筰作品全集を紐解いたところ、東京美術学校の校歌と学生歌を見つけました。その歌の中に、「上野の森」という歌詞があり、その歌が、当時確かにこの場所で歌われていたのだと知りました。
私の入学時はコロナ禍で入学式も学園祭もなく、クラスメイトが誰なのかも知りませんでした。2年目まではほとんどの授業がオンラインで行われていたので、他の学生と直接会う機会がなく、藝大の学生だという実感がありませんでした。この歌の歌詞によって、自分が藝大に所属していることがやっと実感できた気がしました。
この校歌を蘇らせたらどうだろうと思い、制作期間が3日しかないなかで、和太鼓などの邦楽器をいれたオーケストラをパソコンの音楽ソフトを使って自分で制作しました。歌は5名の声楽科の学生とオンライン上でやりとりをし、歌ってもらいました。その音源を課題として提出しました。

藝大校歌再生活動のパンフレットと映像のパッケージ。デザイン科の学生に協力を得て制作した。
課題を提出した数ヶ月後に音楽学部の学生と話す機会があり、藝大の前身には校歌があった話をしたところ、「演奏したい」と言われました。課題の時は、パソコンの音楽ソフトで制作しましたが、同じ藝大に音楽学部があるのだから、その学生たちに呼びかけて演奏してもらえばいいんだと、その時初めて気がつきました。コロナ禍で会えていないこともあり、大学にどんな学生がいるのかをまだ意識できていない頃だったと思います。
その場で、同学年のほとんどの学生が登録するSNSに演奏者を募るコメントを送ってみました。5人くらい集まれば良い方かなと思っていたら、なんとその日のうちに80人から参加を希望する連絡がありました。その後も、さまざまな学科や専攻からの希望者は増え続けて、最終的に130人ほどになりました。ほとんどが同学年の学生でした。
2024年3月には、藝大にある音楽ホールの奏楽堂が主催する、奏楽堂企画学内公募演奏会に「再生活動」を選んでいただき、校歌を演奏することができました。演奏会当日は、同級生の卒業式の2日後というタイミングでした。私たちの学校生活は常にコロナ禍の制約と共にあったため、この時初めて、オンラインではなく実際に会うことができた同級生もいました。
「再生活動」は、途中から活動自体が生き物のようになり、よい意味で活動に振り回され、自分自身が一番驚いています。休学中の2022年にプロジェクトを始めてから4年が経ちますが、最初からこんなに長いプロジェクトにしようと思っていたわけではありませんでした。歌を再生することに惹かれ、集ってくれた他の学生も同じように校歌を再生したいと感じていたようでした。
東京美術学校から藝大美術学部に口伝で継承された「チャカホイ」という歌があると知り、インターネットで検索したところ、とあるおじいさんが「チャカホイ」を歌っている動画にヒットしました。その投稿者に連絡を取り、おじいさんの連絡先を教えてもらいました。その方は藝大油画を卒業された先輩で、祭りが大好きな方でした。現在でも夏はエアコンを使わずに立ちっぱなしで制作をしたり、展示会を訪問すると3時間もお話を聞かせてもらえたりと、訪問する度に元気をもらえる方でした。この方のお話を映像として残したいと思い、密着してインタビューすることにしました。

髙田さんが制作したインタビュー映像。写っているのは、現役学生の時に「チャカホイ」を歌っていた油画科の先輩
この先輩の生の語りに後輩として触れられたことが、活動の中のひとつの財産だと感じています。話を聞く中で、藝大の思い出や、今も昔も変わらない精神があることが印象的でした。先輩と出会うきっかけが「チャカホイ」でなければ、堅苦しいインタビューになってしまっていたのではないかと思っています。共通の歌があるからこそ、愛着をもって受け入れてもらえ、自然な映像が撮れたと感じています。
「藝大校歌再生活動」の詳細は、WEBサイトでご覧いただけます:
https://geidaikouka-saisei.studio.site/
もともと生物学を学びたいと思っていました。美術の授業もない高校に通っていて、藝大も知りませんでした。ただ、好きな歌手のファン仲間のSNSで、普段考えていることや、趣味で作ったちょっとした曲、適当に描いた絵をアップしていたら、ファン仲間のひとりからいきなり「藝大の先端(先端芸術表現科)か音環(音楽環境創造科)が、あなたに合うかも」というダイレクトメールがきたんです。それがすべての始まりでした。最初は「いや、私は細胞の勉強がやりたいんだ」って思いました。でも、踊ったり演奏したり、アイデアを考えて表現することは確かに好きでした。
藝大について調べてみたら、先端と音環だけは技術面の受験対策をしていなくてもチャンスがあると知りました。高2の冬に急に進路変更したので、高校の先生たちも心配していました。高校3年生の夏に藝大のオープンキャンパスに行ったら、音環は裏方のプロフェッショナルというイメージを受けました。それは素晴らしい世界だけれど、自分自身としては、どうせ表現するなら自分で発案もしたいし、自分で作りたい。そのことを音環の先生に話したら、「じゃあ先端もいいんじゃない。先端でも音楽の授業があるしね」と言われたんです。
私が藝大を目指すことは、太宰治も知らずに文学部に入るくらいの無謀さでした。進路をどうするか、そこからずっと考えていました。センター試験の直前に藝大に落ちたら浪人でいいと覚悟を決め、先端を受験することに決めました。
受験にはポートフォリオの提出が必要でした。住んでいたところは、画材屋もない地域で、100円ショップやホームセンターで見繕ったものを使って作品を作ったり、藝大に入学したらやりたいことを書いた企画書を作ったりして、奇跡的に受かったという感じです。
親の職業の関係で海外の知り合いが頻繁に家に訪れる環境で育ちました。親はキノコに関する国際事業のコーディネートをしているんですけど、その一環でインドネシアでキノコ栽培の技術支援もしています。その関係で、私も最近はインドネシアと日本をかなりの頻度で行き来しています。その「浮遊感」がすごく性に合っているし、しっくりくる感覚があります。なんで浮遊する感じに惹かれるんだろう、と進路を決めた時ちょうど考えていたところだったんです。地面に足をべったりつけてどっしりやっているより、ある意味で力を抜いた生き方をしていく方が、私には自然なんだと思います。生物学を学びたいと思っていたところに、いきなりファン仲間から藝大を勧められて、「そうかな~」とふわっとしながら漂っているうちに、「それもいいな」と思ってくる自分がいました。
「再生活動」も、最初は全部自分で抱えがちでした。でも、自分の作品や活動だからとがっしり抱え込むのではなく、少し手放して、幽体離脱するみたいに「ちょっと離れたところから見てみる」と、意外と人が集まってきて助けてくれたり、大変なことが起きてもなんとか乗り切ったりして、それが全部自分の成長につながっていました。
1人でやっても、自分が本当に理解できることってそんなに多くないと思っています。感覚的なことや作品のようなものは、そもそも1人で所有するものではない気がしていて。だから、どんなものからも距離感を持つというか、透明感を持つというか、風通しよく存在していることが大事だなと感じています。
自分の芯は大事にしながらも、水みたいに変幻自在に関わる、という感覚が近いかもしれません。
奇跡的に藝大に入れましたが、入ってからが本当に大変で。先生が出す基礎的な課題に出てくる単語も分からない。必死に授業課題をやっても、「実験止まりだね」と言われ続けて、作品と呼べるものが1個も作れていないまま大学2年が終わってしまって。せっかく藝大に入ったのに、この流されていくような状況から一度離れないと本当にもったいないことになると思い、この先どうするか何も決まっていないまま親に休学したいと伝えました。
休学を決めた直後、親から「仕事の役職に空きが出たからインドネシアに来ないか」と誘われました。休みの日には現地で芸術分野の経験もできるため、休学中の2年ほど、親の仕事を手伝いながら、インドネシアに滞在しました。
インドネシアはずっとあたたかくて、四季の感覚がぐちゃぐちゃになるのですが、それすら心地よい場所でした。日本の友達から「サヤカって今どこにいるの?」と聞かれるのも、むしろ気が楽でした。ある日、インドネシアの日本食レストランでたまたま隣に座っていた人が藝大の工芸科出身の方でした。その方にインドネシアの「ろうけつ染め」の職人のところに連れて行ってもらい、習うことができたりもしました。
校歌のことも含め、世代を超えた先輩にすごく助けられる体験をしてきました。インドネシアでも、人とつながる楽しさは「再生活動」の時に感じた面白さと同じかもしれません。
卒業後、またインドネシアに3年ほど行く予定です。現地滞在員として働きながら、うち2年で現地の大学院に留学しようと思っています。
やりたいことは、仕事の面と制作の面の2つあります。
仕事の面でいうと、先端の授業では、「社会問題をどう解決していくか」について議論する機会が多いのですが、結局、その社会問題の根っこにある社会的な構造を変えないと、どうしようもないと思っています。
親が自営業をしているということもあり、起業することも自分にとっては身近なものです。起業家なり、政治家なりになって、直接その社会の中の構造に触れて社会問題の解決につながることをしなければいけないという使命感をどこかで感じています。
制作の面では、インドネシアの人達を撮る映像制作に取り組みたいと考えています。「再生活動」はすごく面白かったのですが、未だに自分の中では「作品」と呼べるものを作れていないと感じている部分があります。表現できることはあると思うので、自分自身でもっと作品制作をしていきたいという野望があります。そのために、インドネシアの大学院で、自身の精神性をもっともっと深めながら、いつか自分の「作品」と呼べるものを作ってみたいと思っています。
なんなんでしょうね…。いわゆる「もの」としての作品は、自分には作れないと感じているのかもしれない。
「再生活動」は、確かにみんなに作品といってもらえますが、私は責任者として「場」を作っただけだと思っています。映像は作品というより「場」だと思っています。
歌は映像と形態が似ています。例えば童謡は、誰が作った歌かは知らなくても、歌う人たちは自分たちの歌だと思っています。
これは大事にしたい価値観だと感じています。
インドネシアに行き来する中で、現地で出会った人たちは尊敬できる方ばかりでした。私は、どんな環境で過ごしたら、このような人が育つのかに関心を持ちました。そこで、彼らの哲学や芸能を深く知りたいと思ったんです。
色々調べていく内に現地の大学院で学べることを知りました。入学するために必要ないくつかのハードルも越えられることが分かり、そこから、インドネシアの大学院進学が現実味を帯びてきました。現地の大学が、私のために外国人枠を新設してくれることにもなりました。有名な国立大学ですが、先生方のフットワークが軽く、ここを学び舎にしたらどれだけいいだろうと思ったんです。
先端の先生方から、「卒業制作の映像の中の先輩がすごく生き生きしている」と言われ、それがとても嬉しく、もしかしたら映像が、自分にとってのキーになるかもしれないと、藝大での学生生活の最後で気づいたんです。
インタビューでは、普通のインタビューにはない表現が、自分にはできる直感があります。映像を作るなら、自分の意思でがっちり作り上げるより「手放す」という感覚で作りたいと思っています。
自分ですべてをコントロールして何かを生み出すことってできないと感じています。制御できないものをそのまま受け入れながら、その上でどうやってもがけるか、というようなことを表現としてやってみたいです。
直近でチャレンジしたいのは、インドネシアで誰かの映像を取ることです。
先ほどお話ししたように、度々インドネシアを訪れる中で、インドネシア人の道徳心や精神性の高さにいつも感激していました。毎日お祈りをし、お花を飾り、お香をたくなど、その行為自体がほんとに美しいですし、みんなで共生している。その風景に他の国にはない魅力を感じています。
私は、現地の方にキノコ栽培の技術支援をしていますが、逆に満たしてもらっているのは、こちらの方だといつも感じています。
この人たちの姿を映像に撮って、日本を含めた他の国の人たちに共有したいと思いました。
本当にそうですね。私が作り出せるのはたぶんプロセスの部分です。「再生活動」でも絵を描くのは、美術学部の学生ですし、編曲や演奏は音楽学部の学生です。ちなみに歌は今回、美術学部の学生も歌いました。
彼らが作るものは確かに作品と呼べます。私はその流れというか土壌のようなものをつくって、その土壌の上で、メンバーが各々作品を作っている気がします。
いい芸術体験は、自分自身からも逃れられるような気がします。それが忙しない現代人にとって必要なのだと思います。自分はどう思うか、社会の何を変えたいかは、先端にいると何度も自分の考えを求められる部分です。そこからさえも離れ、自分は何者かという問いからも離れる、透明人間になれるような装置が、いいアートではないかと思います。その無の状態から、何かが芽生えてきて、その人が浮遊するきっかけになる、そんな作品を作りたいと思っています。
「藝大校歌再生活動」やインドネシアで体験から、自分ひとりでは制御できない場で創造性が生まれる可能性を探究したい、という思いが伝わるインタビューでした。髙田さんの今後の活動に引き続き注目していきたいと思います。

音楽学部キャンパスにある、東京藝術大学同窓会「杜の会」が入っている建物前にて撮影
インタビュアー:
山中大輔:とびラー12期。社会福祉士、介護支援専門員、ボランティアコーディネーション力検定2級合格。都内の社会福祉協議会で、住民の皆さんと地域の福祉課題の解決に取り組む。また、地域活動では、地域の皆さんとアートを介してコミュニティをつくる活動を都内各地で実施中。
塙隆善:とびラー13期。長らく勤めたIT企業を卒業後、セカンドキャリアで、研修講師、個別指導塾講師、小学校の特別支援学級の介助員として活動中。地域の活動としては、コミュニティ学習支援コーディネーターとして、人がつながるためにどのようにアートを活用できるかを模索中。
平田彩:とびラー14期。フリーランス。浦安藝大への参加をきっかけに、アートの力に魅せられDOORを受講、現在そんぽの家で滞在活動中。聴くこと・ことばにすることを手がかりに、場づくりやつながりづくりができる存在を目指している。