東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

まなざしを共有する:第4回基礎講座

2013.05.25

きく力について考える:3回目基礎講座

2013.05.11

3回目の基礎講座が開催されました。講師は西村佳哲氏。テーマは「きく力について考える」です。

 

「とびらプロジェクト」の基礎講座は「やり方」を教える講座ではないので、来館者の前で上手にお話ができる「話し方」などの講義はありません。アート・コミュニケータ(とびラー)に必要なのは、発信力より受信力、相手の意見や気持ちを受け止めることのできる力、すなわち「きく力」だと考えています。

 

そこで、今回の基礎講座は「きく力」をキーワードに進められました。講師の西村さんのお話を聞くだけではく、とびラー同士でコミュニケーション取りながらの講座となりました。そして、「きく力」(受信力)の話から、プロジェクトを進めてゆく上で必要となるさまざまな心構えや予備知識の話へと講座は展開して行きました。

 

今回の西村さんのお話でとても興味深かったのが、「80%=20%の法則」です。80%の成果は20%の活動エネルギーよって生まれるという説で、「パレートの法則」としても広く知られています。
この「80%=20%の法則」を、プロジェクトの成長課程に当てはめると、とても面白い見方ができます。
^
「80%の成果は20%の活動エネルギーによって生まれる」と仮定すると、
1、80%の成果は20%の時間で達成できると考えられます。
2、また逆に残り20%の成果を生むには、全体の80%の時間を費やさなくては成らないとも読み取ることができます。
縦軸を質(成果)、横軸を時間として、この状況をグラフにするとスライドのような曲線が描かれます。そして、質(成果)が凡そ80%に到達したところを分岐点としてとらえ、時間軸から見る前者を1、時間軸から見る後者を2として、それぞれの特性を分析すると以下の様に解釈することができます。
^
1、80%の質(成果)をあげる20%の時間 = トライ&エラーを繰り返して急激にイメージが実態化される期間(創造的成果が問われる期間)
2、残り20%の成果を詰める80%の時間=丁寧に仕事を整理してプロジェクトの制度を高める期間(生産的成果が問われる期間)
^
これについて西村さんは、こうした曲線を辿らず進行するプロジェクトもあり得る、しかし、高い成果を残すプロジェクトにみられる成長曲線は、このスライドにあるような曲線をたどるプロジェクトであると言います。その理由は、1、2の両方の状況が顕在化していることがプロジェクトにとって理想的であるからだとのこと。
^
この、1「創造的成果が問われる期間」と2「生産的成果が問われる期間」とが顕在化することの重要性については非常に納得でした。創造的な発想をバネに失敗を恐れず進行しなくては成らない1の時期と、積み上げた成果をキチンと価値付けてゆく2の時期、確かにどちらもないとよいプロジェクトにはなりません。
^
もう一つの興味深いポイントとしては、1と2転換期(80%地点)を「壁」として捉えることができるところです。創造的な取組みに注力し、急激に成長したプロジェクトであっても、ある時からその成長が伸び悩む時期が訪れます。
それを「壁」という言葉で表しますが、実はのこ「壁」は仕事への意識を変えるタイミングであると解釈することができます。「やり方を変える」「求める成果を変える」など意識を変えることで、その「壁」は越えることができるばかりか、プロジェクトの完成度をさらに高めチャンスとなり得るのです。

各々どのように西村さんの話を「きいた」のかを共有したながら講座は進められました。

 

コミュニケーションを取りながらの講座は、自分だけの解釈の枠を越えて、さらに深い理解へと導いてくれます。

 

午後はコミュニケーションについて考えるワークショップを行ないました。こちらは、昨年の基礎講座でも実施された内容なので、詳しくは「H24基礎講座2回目」をご覧下さい。基礎講座も3回目を修了し、全6回の基礎講座も折り返しとなりました。とびラー2期生もどんどん成長しております。どんどん加速してゆきます!
(とびらプロジェクト・マネージャ 伊藤達矢)

上野公園にでかけよう!:基礎講座2回目「あさっての美術館を考える」

2013.04.27

2回目の基礎講座のテーマは「あさっての美術館を考える」でした。講師はアーティストの日比野克彦さんです。
^
講座がはじまると日比野さんからとびラーに課題がだされました。
【課題】:東京都美術館と上野公園内にある他の文化施設が連携することで出来る新しいアイディアをグループで考えなさい。
^
東京都美術館(以下:都美)の中で考えていてもはじまりません。そこで、早速とびラーは10グループに分かれて、都美を基点に、東京国立博物館、国立科学博物館、国立西洋美術館、上野動物園、国際こども図書館、東京藝術大学美術館へとリサーチに向かうことになりました。

こちらのグループは上野動物園へ。久々の動物園!というとびラーもいたようです。

 

こちらのグループは、国立科学博物館へと向かいました。上野公園には多くの文化施設が集積しています。どの文化施設も日本を代表する素晴らしい文化施設ばかりです。そうした文化施設の持つ可能性を、これまでとは違った視点で確認する。そして、上野公園を自分のホームグラウンドにして行く。アート・コミュニケータとしての経験値を高める大事なステップです。

 

外の文化施設だけでなく、基点となる都美も合わせてじっくりとリサーチした後は、基礎講座の教室(都美のアートスタディルーム)に戻り、文化施設を連携させることでできる新しいアイディアについて各グループ毎に話合いが行なわれました。

 

今回の基礎講座は、新たに入ったとびラー2期生と1期生の混合チームで進められて行きました。じっくりと話し合ってアイディアをまとめてゆきます。

 

日比野さんが見てまわります。

 

知り合って間もないとびラーも講座を通して徐々に打ち解けてきたようです。

 

最後は、各ブループ毎に考えたアイディアを発表しました。

 

個性的なアイディアがいくつも発表されました。例えば、動物園で「迷子にならないための迷子札」が発行されているというリサーチから、美術館では「迷子になるための迷子札」をつくってはどうかなど、非常に興味深いアイディアが生まれていました。作品を通してイメージの世界へ迷い込む、そんな美術館の持つ不思議な場所の印象を上手に捉えたアイディアでした。とびラーがファシリテータになって、都美だけではなく東京国立博物館や西洋美術館に迷い込む「金曜夜のナイトツアー」なんあったら楽しそうですね(勝手な妄想です)。こうした一つ一つのアイディアに日比野さんか適切なコメントを入れて行きます。「んーー25点(笑)」という厳しい突っ込みもありましたが、和やかな雰囲気で講座が進められて行きました。

 

講座が終わったあとは、カフェ「SAVORIYA リアル」が開店。お茶やお菓子は持ち寄りで、ミーティングの続きをしたり、何気ない話をしたりと、気ままなコミュニケーションの場となりました。2年目を迎えた「とびらプロジェクト」も徐々にあたたまってきました!
(とびらプロジェクト・マネージャ 伊藤達矢)

新規とびラー55名が新たに加わりました!!:基礎講座1回目

2013.04.13

4月に入り「とびらプロジェクト」も新年度を迎えました。新たに55名のとびラー(アート・コミュニケータ)が加わり、昨年度からの継続とびラー71名と合わせると、「とびらプロジェクト」は126名もの大所帯となりました。そして、126名のとびラーを対象とした全6回に渡る基礎講座が昨年度同様にスタートしました。
昨年末に募集したH25年度とびラーの募集状況は、定員40名に対して199名の応募があり、倍率は凡そ5倍となりました。応募して頂いた方々の高い熱意をひしひしと感じ、選考は難航を極めました。一次選考(書類選考)、ニ次選考(面接)の経過の中で、出来る限りご応募頂いた方々の気持ちに答えようと定員を15名増やしました。選考の基準は、幅広い年齢層の参加、男女のバランス、様々な仕事や経験・価値観のバランス、活動できる曜日のバランス、アート・コミュニケータへの感心の高さなど、様々な視点から総合的に判断させて頂きました。そのため個々人の能力というよりは、全体のバランスが重視され、結果的に「ご縁あった皆様」という印象となっております。改めてお応募頂いた全ての皆様に感謝を申し上げます。

H25年度第一回目の基礎講座は「とびらプロジェクト」で活動を行なうためのガイダンスとなりました。スタッフの紹介をさせて頂いた後に、東京都美術館アート・コミュニケーション係長の稲庭学芸員より東京都美術館(以下:都美)の歴史やアート・コミュニケーション事業の目指すものなどのお話がありました。続いて僕、伊藤達矢(東京藝術大学特任助教/とびプロジェクトマネージャ)から、東京藝術大学の歴史と「とびらプロジェクト」の概要についてお話をさせて頂きました。

 

午前の部の最後は、東京藝術大学特任助手でとびらプロジェクトコーディネータの近藤美智子さんより今後の具体的なスケジュールや活動する上でのルールなどについてお話がありました。

 

午後は継続して活動しているとびラーがH24年10月~H25年3月までの活動の報告をしました。イベントとして公表されている「紙芝居プロジェクト」や「スケッチボードでGO!!」、また都美内にて活動を展開する「建築マッププロジェクト」館内情報紙「とびリア」、美術情報室の書籍を特別展と合わせて紹介する「ライぶらり」の発行経過などなど、たくさんの「とびラボ」から生まれた活動の報告がありました。

 

熱のこもったプレゼンで、新しく入ってきた55名のとびラーにも分かり易くこれまでの活動を紹介できたのではないかと思います。

 

とびラーが昨年度つくったさまざま印刷物も配布されました。

 

新規とびラーのみなさんは初回にもかかわらず、相当量の情報に少しびっくりされたかもしれません。。。でも、まずは基礎講座からゆっくりと入って行って頂ければと思います。

 

とびラーの活動紹介の後は、新しいとびラーも継続したとびラーも自己紹介を兼ねて前後左右の席4~5人でとびラーのプレゼンについての感想を共有する時間となりました。

 

最後は僕から新年度の新しい取り組みについてお話をさせて頂きました。今年度は活動の範囲を広げて、いよいよ本格的に「コミュニティーの形成を目指すプロジェクト」の本丸に向かおうと考えています。126名のとびラーとともに、「とびらプロジェクト」まだまだ成長し続けます。
(とびらプロジェクト マネージャ 伊藤達矢)

基礎講座の打ち上げ

2012.06.23

基礎講座最終回が終わった後、夕方6時から、東京都美術館内にあるレストランIVORYにて、基礎講座の打ち上げを兼ねた懇親会が催されました。全6回に渡る基礎講座も全て終了し、とびらー候補生(以下:とびコー)同士もかなり仲良くなりました。なかなか厳しい基礎講座だったと思います。みなさん大変お疲れさまでした。

 

以前、このブログでも紹介した「とびら楽団」のみなさんも登場しました。演奏して頂いた曲はNHKみんなのうたでおなじみの「メトロポリタン美術館」です。東京都美術館も東京メトロポリタンミュージアムなので。とびコーの時田さんがつくってくれた衣装とお揃いの青いターバンを身につけたとびら楽団の演奏は、とびらプロジェクトがはじまってからこの2ヶ月間の充実した活動を象徴しているかの様でした。

 

こちらの「真珠の耳飾りの少女」はマウリッツハイス美術館展の担当学芸員の大橋さん。かなり似合ってます!また、タイミングをみてとびコーさんが全員揃う会を是非開催したいですね。これからは実践講座です。みなさん頑張りましょう。(伊藤)

基礎講座6回目「実践の計画を立てる」(最終回)

2012.06.23

全6回の基礎講座もついに最終回を迎えました。今回の講師は学芸員の稲庭彩和子さん、河野佑美さん、大橋菜都子さん、それと僕、伊藤達矢です。はじめに、稲庭さんと僕からもう一度東京都美術館(以下:都美)の目指すアートコミュニケーション概要についておさらいさせて頂きました。

 

最終回だけあり、みなさん何時にも増して真剣に受講されていました。

 

この4月から6月にかけて行われた基礎講座の期間中に、とびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんには、「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」、「建築ツアー」、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会サポート)」のプログラムの中から必ず1つ以上選択して頂き、今後の活動の大きな方向性を決めて頂きました。選択したプログラムについては、該当するプログラムの実践講座を8割以上出席し、次年度からはそのプログラムのリーダー的存在になって頂くことを強く推奨しています。

 

そこで、それぞれのプログラムの特色を共有するために、それぞれの担当学芸員さんにプログラムの詳細を説明をして頂きました。はじめは「建築ツアー」担当学芸員の河野さんから。建築ツアーは既に実践講座がスタートしており、このブログでも紹介済ですが、コルビュジェに師事した日本を代表する建築家前川國男の作品である東京都美術館を紹介するツアー企画です。ステレオタイプの建築ガイドではなく、とびラーひとりひとりがつくるオリジナリティー溢れる建築ツアーを目指しています。

 

続いて、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会のサポート)」については大橋さんからご説明を頂きました。都美では「障害のある方のための特別鑑賞会」を年に3回予定しています。休館日を使い、障害のある方にも安全に安心して作品を鑑賞してもらえる日をとびラーがつくります。初回の「障害のある方のための特別鑑賞会」はフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」が展示されるマウリッツハイス美術館展です。

 

最後は「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」担当の稲庭さん。小中学校と連携した鑑賞教育の実践の場として都美を開くプログラムです。普段は来館者が多いため、鑑賞教育の実践が難しい特別展を、休館日を活かして特別開館し、VTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)を中心とした対話型鑑賞教育を実施します。

 

「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」、「建築ツアー」、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会サポート)」はとびらプロジェクトの活動を支える3本柱となるプログラムです。そして、自分が選択したプログラム以外の活動であっても、人手が足りないときや、力を合わせなくてはならないとき、凄く興味のある内容のときなどは、プログラムの枠を超えて参加することをお勧めしています。

 

午前中の基礎講座は、この3本の主要プログラムの説明に加え、メーリングリストや「とびらプロジェクト掲示板」「本日のホワイトボード」などの専用情報共有システムについて確認したところで終了しました。とびらプロジェクト関係者以外の方でこのブログをご愛読頂いている方がいれば、きっとホームページ上のバナー「とびラー専用掲示板」にお気づきになった方もおられるかと思います。クリックすると「とびらプロジェクト掲示板」「本日のホワイトボード」の2つのバナーがでてきますが、残念ながら、ここから先はとびコーさんでないと見ることができません。実はこの先のシステムはとびコーさん同士のミーティングの記録がホワイトボードの写真ごとアップされていたり、ミーティング後の感想などや追加事項などがアップされていたりします。既に想像を超えて活発な活用が展開されています。

 

午後は、僕のファシリテートのもと、現在進行中の数々の新規プロジェクトのプレゼンテーションを担当のとびコーさん自身からして頂きました。楽器が出来るとびコーさんが集まり演奏を行う「とびら楽団」、新聞やブログなどを通して都美と芸大の情報共有と発信を目指す「とびら情報部」、とびラーの活動を支える為の都美のマップ作成と知識の共有を考える「マップ&マニュアル」などなど、とびコーさんの目線ならではの企画が既に10個以上立ち上がっています。一つ一つの企画を丁寧に発表して行くと、思わず助け合える企画同士を発見できたり、質問に答えているうちに新しいアイディアが生まれたりと、非常に実のあるプレゼンテーションの時間でした。

 

一つ一つの企画はまだ芽を出したばかりで、実現できるか否かはとびコーさんらの頑張り次第なところもありますが、とびらスタッフ一同、出来る限りとびコーさんたちをサポートして行きたいと思います。

 

また、そういった思いもある一方で、僕はプロジェクトマネージャとして、とびコーさんたちが自分たちの視点から生まれた活動をきっかけに、思いや理想をお互いに語り合うこと(共有すること)の方が、とびらプロジェクトの成長過程にとって非常に重要なプロセスであり財産だと考えています。(それを可能にするのが「きく力」なのです。)

 

年齢も職業もバラバラな凡そ90人のとびコーさんたちを繋いでいるのは、アートというプラットホームです。もちろんアートでなくとも、多様な人々の価値観を乗せるプラットホームは存在すると思います。しかし、性別や年齢、職業や価値観を軽やかに越境し、広くフラットに包み込むことの出来る類希なフレームはアートをおいて他に見当たらず、比類ない可能性を持ったフレームだからこそ、アートはコミュニティーに変換可能な媒体として機能できるのだと思います。(時代を超えた普遍的な魅力や価値がアートには内在しているからこそ、きっとこれだけの大きなフレームになりえるのでしょう。)

 

そして、アートをプラットホームとすることで、多種多様なとびコーさんたちが協調し合い、信頼関係を積み上げることこそ、とびらプロジェクトの”背骨”をつくることに繋がると思っています。

 

よく「芸術(アート)は社会の背骨である」とか、「芸術(アート)は社会にとって漢方薬のようにじんわり効能を発揮する」といった例えられ方をします。それは、芸術(アート)が人々の多種多様な価値観を抱える大きなプラットホームになることよって、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本:多様な人々が関わり合い、関係性を築くこと自体が社会の資本となり得るという概念)が、高い水準で社会(コミュニティー)に蓄えられた状態を指し示したものに他なりません。

 

とびらプロジェクトにとっても、このソーシャル・キャピタルの蓄積は至上命題です。異なった価値観に対して理解を示し、年齢や立場を超えた信頼を築くこと、そしてなによりも問題やリスク、困難や失敗をも共有することのできる関係を構築して行くことができなければ、本当の意味でとびらプロジェクトにソーシャル・キャピタルが蓄えられたとは言えません。

 

そして、これはとびコーさん同士で終わる話ではなく、都美で働く様々な業種の方々との間にも是非とも蓄えて行きたい資本であると思っています。つまり都美の中にソーシャル・キャピタルを蓄えて行きたいと考えています。むしろ、今年のとびらプロジェクトの活動の本質はそこにあると思っています。ソーシャル・キャピタルを蓄え、都美というコミュニティーに強靭な背骨をつくってゆかなければ、「美術館を拠点に、アートを介したコミュニケーションを促進し、オープンで実践的なコミュニティーを形成」する社会装置としての美術館の姿など到底夢のまた夢。。。とびコーさんにかかる期待はますます大きくなるばかりですが、大丈夫、このメンバーなら成し得てくれることでしょう。なぜなら「対話をすることの粘り強さと、誠意をもって接する力」を持つ方々をとびラー候補生として選出したつもりだからです。(休館前に障害のある方々の特別鑑賞会のボランティアを長らくされていた方々にも、そうした資質は共通していると感じて、ひとまとまりのとびら候補生となって頂きました。)

 

最後はこれからとびコーさんたちが企画を進行させて行く上での、テクニカルなアドバイスをさせて頂きました。はじめは、講師の西村さんが「とびらプロジェクト掲示版」に書き込みした内容のおさらい。その後は僕からのアドバイスです。意気込みをしっかりと推進力に変えて行くために必要な幾つかのポイントです。ちょっと気を付けておくだけで、結果は大きく変わるかと思います。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■西村さんからの3つの言葉
1)どんなプロジェクトも、最初の時点で終わり方というか、解散イメージを共有しておくと良いです。

「××××が達成できたら解散」
あるいは時限制で「いついつで自動解散」とか。
解散のときを迎えても「まだやろう!」という感じがあったら、あらたに「その2」を始めれば良いです。
2)底の見えないかかわり合いがつづいてしまって、
なんとなく自然解散というか蒸発? みたいな経験は、
その後のかかわり合いにあまりいい影響を与えないので、
終わり方や解散イメージは、
最初に共有しておくと良いと思います。解散はその都度、楽しくやるといいと思います!
3)「提案や投げかけをして、あとは反応待ち」という形に、なるべくしない。
自分たちで出来るところまでやる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■伊藤からのミーティングを行う上での3つの注意事項+1
1)イメージを数量化する(スケジュールや金額を具体的にする)
2)ミーティングはタスク(仕事)に変えて終わる
3)仕事の量と成果の回収のバランスを考える(とびらプロジェクトの場合は必ずしもそうではないですが、
その書類つくらなくても結果は一緒だったよね、なんてことよくあります。つくったことに満足しても仕方ないのです。。。)
+1)そして最も大事なこと
抱えきれない! とつらくなるまえに仕事をシェアする。
黄色信号を「出す」「受け止める」ことが最も大事です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後の基礎講座が終了した後は、各自が進行する幾つもの企画のグループに別れ、夕方までミーティングが自主的に行われていました。素晴らしい! 写真は、障害のある方向けのアクセサビリティーの確認のために、車椅子に乗って館内を視察している様子です。
全6回に渡る基礎講座もこれで終了しました。これから実践講座へと進んで行きます。
さー!これからが本番です。(伊藤)

 

 

基礎講座5回目「とびラーの働き方研究」

2012.06.09

5回目の基礎講座のテーマは「とびラーの働き方研究」です。講師は西村佳哲さん(働き方研究家/リビングワールド代表)と森司さん(東京都歴史文化財団 文化発信プロジェクト室 地域文化交流推進担当課長)です。基礎講座も大詰めとなる中、これからとびラー候補生(以下:とびコー)が具体的に東京都美術館(以下:都美)を舞台にどの様に働くことができるのか、その可能性と心構えについて講座が開かれました。

はじめに、西村さんから出されたテーマは「とびらプロジェクトと自分の今日この頃」。とびコーさんとなって、都美にもだいぶ馴染み、同期のとびコーさんとも仲良くなってきた今日この頃。いろいろな企画の芽も出はじめ、周囲から寄せられるとびコーさんへの期待の大きさと、振る舞いの難しさにも気付きはじめ今日この頃。少し今を振り返るために、ペアになって近況を話し合いました。もちろん大事なのは「きく力」です。西村さんからは改めて、「きく力」とは「本気でその人に興味や感心を持つこと」とのアドバイスもありました。

 

その後、西村さんから「自分の仕事を考える3日間」(2009年)という講演会であった豊島秀樹さん(元グラフ)のお話を例に、「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」について、お話しして頂きました。奈良美智さんの作品のインストールデザインなどを手がけ、世界を舞台に活動を展開するデザイン会社グラフは、そもそも、大阪の中之島公会堂の石段に、缶コーヒーを持って集まった6人の友人たちによってつくられた会社だったとのこと。当時、いずれの面子も半人前の職人や料理人で、仕事が終わった後に集まっては、お互いの夢や仕事の近況などを語りあっていたそうです。そんな中、一人のメンバーが椅子をつくってきたところから、グラフの活動は動きだします。椅子をつくれるなら俺が売りに行ってやるよ、売れたら量産が必要だから工房いるよね、ならばビル借りようか、ならショールームつくれるね、だったら俺がカフェをやろうと、そんな具合にグラフはアイディアの連鎖で急成長を遂げていったそうです。ミッションやゴールを決めて必要な力を持つ人材を探し集めるのではなく、その場に居合わせたメンバーから可能性が芽生える。お互いの夢や可能性を共有し、ぼんやりとした、こんな感じかなと思う未来の形を探り当てて行く方法が「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」です。
この「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」はとびらプロジェクトの考える「あさって性」に実に共通するところがあります。(「あさって性」の詳細は、6月6日:Educe cafe:アートが引き出すコミュニティ(東京大学にて)をご参照ください。)都美に集う多様な顔ぶれと、そこでしか生まれない出来事を積み上げ行くことでできるぼんやりとした未来像を、とびらプロジェクトも大事にして行きたいと思っています。
 ^
実を言えば、とびらプロジェクトの活動イメージは計画当初にキチンと固まっていたわけではなく、学芸員の稲庭さんも僕も(まさかプロジェクトマネージャしているとは夢にも思わなかった。。)、講師陣の誰一人すら去年の今頃はまだなにも想像できていませんでした。しかし、人と出会い、話し合い、共感し、考えて、暖めて、とびらプロジェクトの理念や方向性を一つ一つ積み上げてきました。まさに、このスタッフの顔ぶれだからこそ、今のとびらプロジェクトの形が生まれたといえます。そして、こうしたスタンスは変わることなく、とびラーの活動方針にもつなげて行きたいと思います。
きっとそんな思いも込められていたのか(定かでは有りませんが)、西村さんから出た次の指示は、ここに集まったメンバーで3人組をつくり、その3人だからこそ出来るアイディアを考えることでした。3人とは社会の最小単位をイメージしたグループとのこと。さっそく3人組をつくり、まずは、各々自分に「できること」「不得意でないこと」「いつかやってみたいこと」をノートに書き出すことからはじめます。ノートに書き出したら、配られた、ポストイットに、その中から一つだけ言葉を選び記入します。

各々選んだ言葉が書かれたポストイットを見せ合い、3つの言葉からイメージできる、3人ならではのアイディアを考えます。はじめは特に都美という場所に捕われず、アイディアを出し合いました。ここに来てはじめて、とびコーさん同士の意外な特技に気付く事も有り、今後の活動に役立つヒントが多く隠されていることが分かりました。

 

企画の簡単なアイディアを3人で一度つくってみたところで、さらにイメージを深めて行きます。今度は、この3人で都美でできることは何かを考えます。3人で3つの言葉を持ち寄って、都美を舞台に、ここにいるメンバーだからこそ出来ることはなにかを話し合いながら、午前中は終了。午後までに、グループごとにA4用紙1枚に企画をまとめて提出する宿題が出され、お昼休みも活発なミーティングが続きました。

 

お昼休みが終わり、午後の部がスタートしました。森さんも加わり、企画を一つ一つチェックして行きます。「スカイダイビングをしたい」塩見さん、「日本一周したい」小松さん、「悪いこと以外で新聞にでたい」平野さんが集まると「空からとびラー」(笑)。「日本各地をスカイダイビングでとびらーが訪れます。パラシュートには東京都美術館の文字。降り立った地で写真を撮り、都美で展示します。」ぜったい無理ですね。その他にも、「ナイトミュージアム」や「都美をうろうろ お掃除しよう」などなどかなりユニークなアイディアがたくさん出されました。
森さんからは、「企画をつくるということは、さまざまなアイディアをもとにイメージを膨らませながらも、よりシンプルなアクションプランに落とし込んでゆくこと」「みんなのアイディアを列挙しただけの列挙型プランは企画とは呼ばない。」などなど、現実的なアイディアも、そうでないアイディアもまとめて、シビアかつ的確なアドバイスを頂きました。

 

企画書についてのコメントが一通り済んだあと、森さんから「さまざまなアイディアがでましたが、ここから先の問題は、いったいこのアイディアを誰が実行するのかということです」と鋭いご指摘を頂きました。そして、とびラーへの期待を「新しい公共」という言葉で表現されていました。
 ^
この「新しい公共」について少し僕なりに補足すると、80年代、文化施設をつくればまちが文化的になるといった考えのもとに、多くの公民館やホールがつくられたハコ(建物)もの行政と呼ばれた時代がありました。ハコをつくれば市民が集い、文化的な活動が展開されるはず、文化的な活動が起これば、その施設周辺にもその効果は波及し、花があり、彫刻がありとなるはず、、、といった思惑はまったく叶いませんでした。誰でも使える多目的な施設は、何に使ってよいかいまいち掴みどころのない施設となってしまい、「閑古鳥が鳴く豪華シャンデリアの施設」などと揶揄されるほどでした。この失敗の原因は、ハードがあればソフトは自然に生まれるといった発想にありました。そして、活動のエネルギーは建物に宿るのではなく、人に宿ることが明らかになったころ、日本経済はバブル崩壊とともに大きく傾いて行きます。結局ハコをつくっても、中身を考えなければ意味がない、むしろ中身があれば、ハコは工夫次第ではないかという声のもと、時代は「ハコから人へ」(ハードからソフトへ)とシフトして行きます。(まちの中でアートプロジェクトが展開され出したのもこの頃からです。)これまで「ハコ」に付帯されていた公共への利益還元の役割を、「ハコ」ではなく「人」に託そうする考えが「新しい公共」という言葉に込められています。

 

ですが、この「新しい公共」の担い手として、「とびラーが、何を実行するのか。」この問いについては、プロジェクトマネージャとして深く考えさせられます。実質的にプロジェクトを行う現場視点で見たとき、非常に難しいことは、アクションとなる「プラン」と「思いつき」は明らかに違うという点です。あくまで僕なりの解釈ですが、「プラン」は「戦略」を意味することができると思っています。つまりは、期待する未来の全体像をイメージしながら、道筋をみつけて行くこと。そのイメージさえ(ぼんやりでも)あれば、途中途中にある失敗や、上手く行かない足踏みも、成果の一つとして積み重ねてゆくことができるはずです。しかし、その場その場の「思いつき」の失敗や足踏みは 、落胆や失望を生み易く、せっかく蓄えたエネルギーをいたずらに消費してしまいがちでいけません。なぜなら「思いつき」は目の前の現場を何とかしようとする「作戦」に留まってしまい、俯瞰した視点を持ち難いからです。よって、大きな「戦略」(プラン)のない「作戦」(思いつき)を繰り返すことは、プロジェクトを運営する上で非常に危険な行為に繋がって行きます。
 ^
恐らく、その一般的な回避方法としては、プロジェクトの進行段階にあわせて、全員に共通した「戦略」(プラン)を都度提示し、適切な役割分担で進行することだと思います。ですが、あえてとびらプロジェクトでは、それをしないようにしたいと思っています。これはとびらプロジェクトのひとつのチャレンジでもあります。「戦略」(プラン)に関しても、例えば僕なら、どの様なステップでとびらプロジェクトを成長させて行けるかを考えますが、とびコーのみなさんなら、とびらプロジェクトに参加することでどんな自己実現が可能か、その為に今何をやろうかなど、その思いは人それぞれでよく、必ずしも全員が一つに絞ったイメージを共有しなくてもよいと思います。一人一人が自分の動機にあった「道筋」(戦略)を見つけてゆくことが大事だと思います。組織立てるための恒常的な役割分担を決定せず、それぞれの「戦略」(プラン)を持ったとびラーによって随時構成される有機的なチームの集合体が、とびらプロジェクトの全体像を描いてゆける様にしたいと思っています。相当ハードルが高いことは承知の上ですが。。。
 ^
森さんと西村さんのお話のなかにも「とびラーは各々が個人事業主である」という言葉がありました。まさにその通りだと思います。とびラーは役割を与えられたボランティアさんではないのです。
 ^
「新しい公共」とは単にボランティアさんが働くことを意味してはいません。個々人の成熟した在り方が問われる、非常に高いレベルの振る舞いが期待されているのです。この「新しい公共」となりえる個々人と、それらがプロジェクトとなって織りなす活動の遠心力。それがとびらプロジェクトにかかる大きな期待であり、とびコーさんに実感してもらいたいことでもあります。
^
そして、この大きな期待を持って、「つぎ、なにをする?」という質問がとびコーのみなさんに、提示されました。

再度、気持ちを新たに3人組を再編成し、「つぎ、なにをする?」について話し合いをはじめました。「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」、「新しい公共」という概念、どちらもとびらーの働き方を考える上では、とても重要なテーマとなります。「つぎ、なにをする?」という課題にこめられたメッセージは思いのほか深いものがありました。
^
この課題については、基礎講座期の時間内に提出するのではなく、「とびラー専用掲示板」に書き込むことで提出となりました。(とびコーさん以外でブログを見て下さっている方には公開できませんことお詫び致します。。。)今後、実現できそうなものは実現に向けて進めることになる予定です。

 

とびらプロジェクトの理想は高く険しい道のりの先にあるのかもしれませんが、きっとこのとびコーさんたちとなら、実現できると信じています。そして、ちょいちょいブログに登場するスタッフの他にも、とびらプロジェクトをしっかりと支えてくれているスタッフがいます。左から順に、インターンの真砂さん、コーディネータの近藤さん、アルバイトの熊谷さん、学芸員(マウリッツ美術館展担当!)の大橋さん。(ちょっとピンぼけしていてすみません。。。) アシスタントの大谷さんが写ってないのが残念。今度登場しますね。「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」にしても、よくぞ集まったと思います。(伊藤)

基礎講座4回目「学びの環境づくりを考える」

2012.05.26

第四回目の基礎講座は「学びの環境づくりを考える」。午前中の講師は、東京都美術館学芸員でアートコミュニケーション事業担当係長の稲庭彩和子さんと、損保ジャパン東郷青児美術館顧問の小口弘史さん。まずは、稲庭さんから、美術館に訪れる人々と作品をつなげることについて、学芸員になる前のご自身の体験談や、学芸員としてこれまで取り組まれてきたことなどをレクチャーして頂きました。美術館を単なる文化を学び知る場と捉えるのではなく、自らと対話する空間とすることの提案と実践を目的として、神奈川県立近代美術館で実施された「鑑賞鎌倉のたてる像たち」(中学生が絵画の鑑賞を通して思考を巡らす短編ドキュメンタリー)の映像などもご紹介頂きました。

 

引き続いて午前中の後半は、小口さんによるレクチャー。東郷青児美術館を中心とした新宿区での鑑賞教育の実践経験をもとに、美術館を利用した鑑賞教育を学校教育の中に取り入れる運用面での難しさ(授業時間内で学校と美術館とを往来することや学外授業の安全管理など)をご指摘頂きながらも、学校連携のプログラムについてとびらプロジェクトに期待する効果などをお話頂きました。また、東郷青児美術館で実施されていた対話による鑑賞教育の内容にも触れ、一般的な鑑賞方法と対話による環境方法との比較などを伺うことが出来ました。

 

午後の基礎講座の講師は稲庭さんと、同じく東京都美術館学芸員の武内厚子さん。早速、対話型鑑賞教育の実践に入りました。まずは、本物の作品をじっくり一人で鑑賞するところからスタートです。全員が展示室に移動して、気になった作品をじっくり鑑賞し、各々感想をメモしてゆきました。

 

対話による鑑賞方は、まず、各自がじっくり作品を鑑賞するところからはじまります。各自が感想をまとめたら、特にお気に入りの1点を選んでアートスタディルームに戻ります。

 

アートスタディルームに戻ってからは、稲庭さんの指示のもと、各自特に気になった作品について作品カードを使いながら、他のとびラー候補生と作品の感想を共有しました。

 

自分がその作品をどの様に感じたのか、みえたのかを説明することで、周囲の理解も深まり、これまでとは違った絵の見え方に気付くことができました。また、こうした時、作品の感想を話す側だけでなく、感想を聞く側の「きき方」がお互いの理解を深める上でとても大切になりますが、さすがとびラー候補生、2回目の基礎講座「きく力」の成果が随所に現れている様に感じました。

 

最後は武内さんによるVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)の実践。実践講座にてとびラーがマスターしなければならない対話による鑑賞方のファシリテーションです。VTSでは、作品を鑑賞する際に、美術史の知識を必要としません。その代わりに、ファシリテータが複数の鑑賞者のそれぞれ違った感想や発見をいくつも引き出しながら、作品から紡ぎだされる鑑賞者の多様な声を丁寧に整理し、重ねてゆくことによって、作品への理解を統一的なものとせずに、個々人の中で深めて行く方向へと導きます。非常にファシリテータの経験値と力量が必要となりますが、きっととびラー候補生のみなさんなら大丈夫でしょう!とびラー候補生も日々成長しています。(伊藤)

基礎講座3回目「あさっての美術館を考える」

2012.05.12

基礎講座もついに3回目。午前中の講師は学芸員の佐々木秀彦さん。「都美はコレクションではなく、コネクションで勝負する」「欧米の美術館を手本にするだけでは通用しない、日本なりの美術館の在り方を考えなければならない」など、都美の学芸員の視点ならではの、熱く、率直なお話を伺うことができました。

 

レクチャーの後は、美術館のバックヤードツアー。ちょうど公募展の搬入が行われており、普段は見る事の出来ない舞台裏を見学させて頂きました。

 

午後は日比野克彦さんによる「アートプロジェクトの記録・調査・アーカイブ」と題した講座が行われました。前半は日比野さんが現在取り組まれている「種は船」プロジェクトに関連して行われるアーカイブプロジェクト「船は種」を題材に、アートプロジェクトを記録する上で、埋没しがちな参加者個々人の体験や記憶を浮かび上がらせることの重要性についてお話頂きました。

 

後半はレクチャーを踏まえて、個人的体験や記憶を掘り起こす手法を体験するワークショップが行われました。日比野さんからの出題は「他人と同じにならない、普通の風景」を携帯カメラを使って撮影し、一枚の写真をもとに、そこから思い起こされる体験や記憶を他者との対話によって言葉にしてゆくこと。さっそく外に出て、美術館のいたるところで撮影がはじめられました。

撮影を終了した後は再度アートスタディルームに戻り、日比野さんのファシリテートのもと、とびラー候補生が各自撮影した写真から想起される言葉を紡ぎだして行きました。写真は自身の体験や記憶に向き合うきっかけであり、なおかつ自分以外の人と体験や記憶を共有する入り口にもなりました。プロジェクトを進める上では、全体の足並みをそろえて歩むことが大事です。しかし、共通の体験をしたとしても、感じ方や考え方などその受け止め方は、人それぞれ。そのそれぞれ違った多様な受け止め方を声にして、価値あるものとするからこそ、プロジェクトにさらなる広がりが生まれるのだと感じました。(伊藤)

基礎講座2回目は「きく力」

2012.04.28

2回目の基礎講座の講師は西村佳哲さん。基礎講座のタイトルは「きく力」でした。
ご用意頂いたメニューは以下。
・話を〈きかない〉とはどういうことか?
・話を〈きく〉とは? また、それによって生まれるものは?
・これからの「とびらプロジェクト」にむけて(まとめ)
まずは、とびラー候補生が2人組のグループを編成し、Aさん役、Bさん役に分かれます。

次に、西村さんからAさんBさんそれぞれがに指示が出されますが、AさんBさんともにお互いに出された指示の内容は知りません。Aさんには「最近うれしかったことを、なるべく気持ちを込めてBさんに伝えて下さい。」と指示が出ます。そしてBさんにはAさんに内緒で画面に表示されている指示が出されました。

数分間、一生懸命話すAさん、うわのそらできくことに徹するBさん。すると、Aさんはどんどん話せなくなっていきます。聞いてくれていない人を前に一生懸命話をすることは、時間がこれほど長く感じるものなのかと実感します。いつも話をする側(情報を発信する側)にアドバンテージが有る様に感じていたことが、この体験を通して、実はきく側(情報をうけとめる側)の振る舞いが、話をする側に大きな影響を与えていることに気付かされます。

この体験について少人数グループで意見交換をしながら、感じたことや考えたことなどを共有しました。こうした小さなグループワークをメンバーを代えながらいくつも実践してゆきました。とびラー候補生同士、まだはじめて会話する相手も多い中での4時間に渡る基礎講座は、同期生を知るよい機会になったのではないでしょうか。コミュニケーションを深めることの出来る「きく力」はまさにアートコミュニケータにとって重要な力。相手の話をキチンと引き出し受け止め、共有して行ける関係がつくれれば、とびらプロジェクトはますますクリエイティブな場となることでしょう。(伊藤)

カレンダー

2024年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

アーカイブ

カテゴリー